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テーマに関する論文

ヨルダン国家存続の危機
―― トランプが作り出した悪夢

2025年5月号

カーティス・R・ライアン アパラチアン州立大学 教授

ヨルダンの政府も野党も市民も、トランプが提案したパレスチナ人のヨルダン再定住計画に激しく反発している。しかも、トランプ政権は、対外援助を90日間停止し、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出をゼロにし、国際開発庁(USAID)を完全に廃止しようとしている。中東で、ヨルダンほどUSAIDやUNRWAに依存している国はない。基本的行政サービスを支えるこれらの援助・開発プロジェクトが打ち切られれば、ヨルダン社会は立ちゆかなくなる。トランプは、アメリカに依存する同盟国には何でも強制できると考えているのかもしれないが、中東の同盟国の強い訴えに配慮して、パレスチナとヨルダン、そして中東地域の大惨事を回避することに努めるべきだ。

東アジアと台湾を捉え直す
―― 中国のアジア覇権を阻むには

2025年5月号

ジェニファー・キャバナー ジョージタウン大学 安全保障研究センター教授
スティーブン・ワートハイム カーネギー国際平和財団 アメリカ政治プログラムシニアフェロー

台湾はアメリカにとって重要だが、中国との戦争を正当化するほどの価値はない。政治家は中国と戦争になればどのようなコストが生じるかを米市民に伝え、アメリカの生存と繁栄が台湾の政治的地位に左右されるという誤った考えを退けなければならない。米兵を戦闘に参加させずに、台湾の防衛を支援する新しい戦略を考案する必要があるし、アジアにおけるアメリカの利益を台湾の運命と切り離し、台湾が北京に支配されないようにすることの重要性を引き下げるべきだ。重要なのは、アジアの同盟国やパートナー諸国の自衛と防衛力強化を促し、中国が台湾侵攻を地域的覇権獲得につなげるのを阻むことだ。

米中貿易戦争の悪夢
―― アメリカの勝利はあり得ない

2025年5月号

アダム・S・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所所長

実際の戦争で、武装する前に敵を挑発するのは自殺行為だ。医薬品のストック、安価な半導体チップ、重要鉱物資源などの重要な物資を完全に中国の供給に依存していることを考えれば、貿易を遮断する前に代替の供給源や十分な国内生産を確保しないのは、無謀と言う他ない。トランプ政権にとって、これらのすべては交渉戦術のつもりなのかもしれない。しかし、そうだとしても、この戦略は有害だ。トランプ政権は経済版ベトナム戦争を始めようとしている。自ら選んだ戦争は程なく泥沼化し、アメリカの信頼性と能力に対する国内外の信頼は損なわれるだろう。その帰結がどうなるかは、誰もが知っている。

ヨーロッパの核のトリレンマ
―― アメリカ後の抑止力をいかに形成するか

2025年5月号

マーク・S・ベル ミネソタ大学 政治学准教授
ファビアン・R・ホフマン オスロ大学オスロ原子力プロジェクト 博士研究員

欧州安全保障のために、ヨーロッパは政治的意志を固め、防衛予算を増やし、調達プロセスを調整する必要があるが、これに加えて、核の選択肢に関する戦略的トリレンマを克服しなければならない。⑴ロシアに対する信頼できる、効果的な抑止力を形成し、⑵核の先制使用を抑えるような戦略的安定性を確保し、⑶新たな核拡散(核保有国の出現)を阻止しなければならないが、ヨーロッパがこれら三つのすべてを達成することはできない。実際、どれか二つを選択すれば、三つ目は不可能になる。「アメリカ後」のヨーロッパにとって、「もっともましな」対ロ抑止戦略はどうすれば実現できるのか。

「捕獲された国家」の経済的末路
―― 経済を蝕む壮大な政治腐敗

2025年5月号

エリザベス・デイビッド=バレット サセックス大学政治学教授

実業家の大統領が富豪と組んで連邦政府の管理権を乗っ取るという事態は、アメリカ近代史ではかつてない展開だ。だが、世界的にみれば、バングラデシュ、ハンガリー、南アフリカなど、政治家、ビジネスエリートの小集団が自己利益のために国と経済をねじ曲げてきたケースは数多くある。このプロセスを描写する「国家の捕獲(state capture)」という言葉もある。政治腐敗によって、そうした国は成長率の低下、雇用の減少、格差の拡大、高インフレに直面する。トランプとマスクが米経済の捕獲に成功すれば、市場をゆがめるだけでは済まない。世界経済にもダメージを与えることになる。アメリカは、世界をクリーンな統治へ向かわせる警察官としての歴史的役割を放棄しただけでなく、豹変してマフィアのボスになりつつある。

ルワンダの目的は何か
―― コンゴ侵略とアフリカ秩序の崩壊

2025年5月号

ミケラ・ロング ジャーナリスト、作家

ルワンダとその支援を受けた反政府勢力M23が、コンゴ民主共和国(DRC)東部を短期間で制圧したことで、東アフリカの地域秩序は根底から揺るがされている。ルワンダ政府は、コンゴ東部はルワンダの「歴史的領土」の一部と公然と主張している。実際、この動きは、ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻に似ている。だが、国際社会の対応は鈍く、国連も欧米諸国も、アフリカの主要な国際機関も有効な対策をとっていない。いまやルワンダは、アフリカ大湖地域の地図をどこまで塗り替えるのかを決めようとしている。コンゴ東部の「バルカン化」、「保護国化」、あるいは、「コンゴの政権転覆」など、さまざまシナリオが取り沙汰されている。

ナショナリズムと強権者の時代
―― 覆された国際システムとトランプの世界

2025年5月号

マイケル・キマージュ ウィルソン・センター ケナン・インスティチュート 所長

いまや世界のアジェンダを設定しているのは、自国の偉大さを強調するナショナリストの指導者たちだ。トランプは、プーチン、習近平、モディ、エルドアンと同じタイプの指導者だ。強権的なナショナリストを自任する彼らは、ルールに基づく国際システムや同盟関係、多国籍フォーラムなどほとんど気にしていない。当然、グローバル秩序に関するいつもの描写はもう役に立たない。国際システムは一極支配でも二極体制でも多極体制でもない。現在のような地政学的環境では、すでに曖昧化している「欧米」という概念はさらに後退していく。

領土侵略時代の復活
―― 形骸化する規範の意味合い

2025年5月号

タニシャ・ファザル ミネソタ大学 政治学教授

2022年にロシアが試みた大規模で大胆な領土侵略の試みは、少なくとも今のところ、例外的なケースにとどまっている。しかし、侵略者が厳格に罪を問われなければ、各国は、国際的な反応を引き起こす危険の低い、法域が曖昧な地域で領有権を主張するようになるかもしれない。このような小規模な攻撃が、領土征服を禁じる規範に大きなダメージを与える危険がある。武力行動が増えるにつれて、国際システムを構成するルールや制度の大きなネットワークが解体し始めるかもしれない。領土征服を禁じる規範が解体すれば、世界は大きな危険にさらされる。

中国とヨーロッパの地政学
―― 米欧対立を中国は生かせるか

2025年5月号

ジュード・ブランシェット ランド研究所 中国研究センター長

「トランプはプーチンとの関係改善に熱心で、アメリカの伝統的な同盟国に反感を抱き、貿易戦争が国内政治に及ぼす影響を軽視している」。北京は現状をこのようにみている。事実、米欧関係が大きな圧力にさらされているために、習近平は、ヨーロッパ各地に外交官を派遣して、中国を信頼できる代替パートナーとして売り込み、安定した経済協力の機会を提供できると強調している。実際、ウクライナの戦後開発を支援する上で、中国ほど有利な立場にある国はないだろう。各国がアメリカの後退の可能性に備えてリスクヘッジを試みるなか、北京は頼れるパートナーとして自らを位置づけたいと考えている。

経済モデルの破綻から再生へ
―― 人と地球に貢献できるシステムを

2025年5月号

マリアナ・マッツカート ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン 経済学教授

いまや、少数の主要プレーヤーによる重商主義への転換が、世界経済を報復的な貿易政策の応酬という事態に陥れつつある。現在の経済モデルは破綻しつつある。トランプ政権が解決策を示しているわけではない。減税、関税、金融規制緩和の提案が詰め込まれた福袋を与えているに過ぎない。公共の価値の創造よりも企業利益を優遇している破綻した経済モデルを退け、持続可能で公平なシステムに置き換えていかなければならない。政府、企業、労働組合の関係をリセットし、地球全体の改革を実現可能なものにするために内外で連携を形成しなければならない。世界は人と地球に貢献できるシステムを必要としている。そのためにも、経済がどのように機能し、誰に恩恵をもたらすのかを根本的に再編しなければならない。

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