行き場を失った道徳的怒りと米社会の分裂
―― 熾烈なネガティブキャンペーンの果てに
The Moral Outrage over Trump ―― Too Much or Not Enough?
2017年1月号掲載論文
ヒラリー・クリントンとドナルド・トランプの対決はベトナム戦争以来かつてないほどの大きな分裂をアメリカ社会にもたらしている。「なぜ政治がかくも毒を帯びてしまったのか」。コメディアンのスティーブン・コルバートは大統領選の夜にこの問いに次のように答えている。「今年は特にみんながふらふらになっていた。毒気にあたりすぎた。少しばかり毒気にさらされても相手の嫌なところがみえる程度で、悪くはない。それでその感覚にはまって、相手を攻撃することで少しばかりハイになってしまった」。選挙戦でトランプが批判したイスラム教徒やメキシコ人たちに対して差別用語を使うことは、いまやトランプ・クリントン双方の支持者に受け入れられつつある。だがもう中傷合戦は止め、曖昧でつかみどころのない不平不満ではなく、具体的で現実に存在する問題に焦点をあわせるべきだ。バラバラになった市民をこれ以上分断させるのではなく、有益な政策を通して市民をまとめ、融和をはかる方向へ怒りの矛先を向かわせなければならない。
- 熾烈な選挙戦
- 分断した社会
- 高まる人種的不寛容
- 怒りの矛先を何処に向けるか
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