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テーマに関する論文

アメリカ政治の分裂と民主体制の危機
―― ドナルド・トランプと競争的権威主義

2017年6月号

ロバート・ミッキー ミシガン大学准教授(政治学)
スティーブン・レヴィツキー ハーバード大学教授(政治学)
ルキャン・アハマド・ウェイ トロント大学教授(政治学)

トランプのアメリカがファシズムに陥っていくと考えるのは行き過ぎだが、彼が大統領になったことで、この国が「競争的権威主義」、つまり、有意義な民主的制度は存在するが、政府が反対派の不利になるように国家権力を乱用する政治システムへ変化していく恐れがある。政府機関を政治化すれば、大統領は調査、告訴、刑事責任の対象から逃れられるようになる。政党間の分裂が激しければ、議会の監視委員会が、行政府に対して超党派の集団的な立場をまとめるのも難しい。しかも、政党だけでなく、アメリカの社会、そしてメディアさえもが分裂している。いまや民主党員と共和党員は全く異なるソースのニュースを利用し、その結果、有権者はフェイクニュースを真に受け、政党のスポークスパーソンの言葉をより信じるようになった。現在の環境では、仮に深刻な権力乱用が暴かれても、それを深刻に受け止めるのは民主党支持者だけで、トランプの支持者たちはこれを党派的攻撃として相手にしないだろう。・・・

北朝鮮に対する強硬策を
―― 外交やエンゲージメントでは問題を解決できない

2017年6月号

ジョシュア・スタントン 弁護士
サン=ヨン・リー タフツ大学フレッチャースクール 教授
ブルース・クリングナー ヘリテージ財団 シニアリサーチフェロー

金正恩は「父親と祖父が数十億の資金と数多くの人命をつぎ込んできた核の兵器庫を完成させることで、自分の政治的正統性が確立される」と考えている。仮に核の解体に応じるとすれば、体制の存続そのものを脅かすような極端な圧力のもとで、それに応じざるを得ないと考えた場合だけだろう。外交やエンゲージメントがことごとく失敗してきたのは、平壌が核の兵器庫を拡大していくことを決意しているからに他ならない。あと少しで核戦力をうまく完成できるタイミングにあるだけに、平壌が核・ミサイル開発プログラムを断念するはずはなく、交渉を再開しても何も得られない。北朝鮮の非核化を平和的に実現する上で残された唯一の道筋は「核を解体し、改革を実施しない限り、滅亡が待っている」と平壌に認識させることだ。ワシントンは「平壌が核兵器以上に重視していること」を脅かす必要がある。それは北朝鮮体制の存続に他ならない・・・

蔡英文総統の対中ジレンマ
―― 「一つの中国」と92年コンセンサス

2017年6月号

チャールズ・I・チェン ロンドン大学台湾研究センター リサーチアソシエート

台湾の国際会議への参加は、通例オブザーバー資格での参加だが、それでも台湾にとって大きな意味をもつ。なんらかの形で台湾という領域の国際的認知につながるからだ。特に2009年から毎年続く世界保健機関(WHO)総会への出席は、そうした国際的認知の強化につながるだけでなく、中台関係の前進とみなされてきた。だが、今年は様相が違う。2017年にWHOからの招待状を受けとれるとしても、ふたたび国連決議・WHO総会決議の順守、つまり、「一つの中国」へのコミットメントを求められることになるだろう。一方、「一つの中国」を受け入れないと主張してきた蔡英文総統にとってこれは大きなジレンマとなる。もちろん、中国政府の圧力しだいでは招待そのものの中止もあり得るが、それではあまりに強硬姿勢とみなされ、台湾海峡の軍事的緊張につながる可能性もある。そうなれば蔡英文は、支持者をなだめるために中国に厳しい態度で臨まねばならなくなる。・・・

対北朝鮮政策における韓国ファクター
―― 韓国政治の流動化と対北朝鮮戦略

2017年6月号

サン=ヨン・リー タフト大学フレッチャースクール教授(朝鮮半島研究)

北朝鮮が好戦性を高める一方で、国内政治の流動化によって韓国の危機対応能力が損なわれている。この現状が続けば、金正恩の攻撃性に対処し、北朝鮮の抑圧状況を緩和するように圧力をかける主な役割をアメリカが担わなければならなくなる。ワシントンが強制的な措置と外交・抑止政策、さらには、北朝鮮社会に外の世界の情報を拡散するキャンペーンを組み合わせれば、韓国の新大統領が対北朝鮮圧力を緩和するのを牽制することにもなる。韓国政府が北朝鮮宥和策に傾斜した場合に生じる「空白」をワシントンが埋めなければ、平壌の抑圧政権はさらに基盤を固め、すでに長く困難な状況におかれている北朝鮮民衆をさらに苦しめることになる。

ナレンドラ・モディの二つの顔
―― 経済成長とヒンドゥー至上主義の間

2017年5月号

カンチャン・チャンドラ ニューヨーク大学教授(政治学)

経済改革を主張するインドのモディ首相の「スローガン、演説、ツイートを通して絶え間なく流れてくる経済成長のかけ声も、本当はヒンドゥー国家としてのインドを重視するイデオロギーの隠れ蓑なのか」。ヒンドゥー教指導者を州首相に指名したモディの動きを前に、この国の民衆は大きな疑問を持ち始めている。だが、そこにはモディの政治的思惑があった。ナショナリズムと改革主義を同時に掲げれば政治的保険になるからだ。改革がうまく進まない場合にはヒンドゥー至上主義というアイデンティティ政治に軸足を移し、アイデンティティ政治でうまくいかなければ改革と経済成長を主張する。モディは改革者であると同時にヒンドゥーナショナリストでもあり続けている。この二つの顔を併せ持っていることが、モディがもつ最大のセールスポイントなのだ。

トランプとサウジアラビア
―― リヤドとの関係を見直すには

2017年5月号

マダウィ・アル=ラシード ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス  客員教授

イランに対してどのような路線をとるにせよ、トランプ米大統領は、「サウジとの特別な関係」の重要な側面の一部を見直す必要がある。依然としてサウジは国内で抑圧を続け、女性の権利も十分に認めていない。イエメン、シリアその他への対外軍事介入は、すべてライバルであるイランを意識したものだ。実際、ワシントンはサウジへの無条件の支援は控えるべきだろう。そうした路線は、リヤドの行き過ぎた行動の正当化に力を貸し、「ワシントンは独裁体制を支援している」という批判を招き入れることになる。無論、リヤドとの関係を断ち切るべきではない。それでも、アメリカの利益を守る形で関係の再定義を試みる必要がある。

インターネット統治の政治学
―― 誰がインターネットを管理すべきなのか

2017年5月号

カル・ロースティアラ カリフォルニア大学ロサンゼルス校 バークル国際関係センター所長

2016年、オバマ政権が、商務省とインターネットのドメインネームシステム(DNS)を管理するICANNとの長年にわたる契約を期間満了で終了させると、「政府はインターネットの自由を見捨てた」と非難する声が相次いだ。しかし批判派は、アメリカ政府とICANNとの関係が世界で批判されてきたことを見落としている。中ロを含む外国政府は、アメリカはドメインネームシステムの監督役を降りて、なんらかの多国間組織がインターネットを管理するより大きな権限を担うべきだと主張してきた。だが、こうした外国政府の主張の背後には「サイバー主権」を主張して、インターネットを規制しようとする政治上の思惑がある。ICANNとの契約終了は、民間にインターネットの管理権限を委ねることで、国際的批判を封じ、オープンかつグローバル、しかも自由なインターネットを守ることが目的だった。・・・

EUのもう一つの移民問題
―― 東中欧の人口流出危機

2017年5月号

テジ・パリク ノバヨーロッパ・アナリスト

優れた人材が欧州連合(EU)内のより裕福な加盟国に定住しようと西ヨーロッパに吸い寄せられた結果、東ヨーロッパは経済停滞と人口減そして高齢化という問題に直面している。1990年代初頭以降、約2000万人の優秀な労働者が中央・東ヨーロッパから流出している。人口が流出している大きな理由はEU内部に大きな賃金格差が存在するからだ。現状でも東ヨーロッパの労働者の平均月給は、フランスやドイツ、イギリスの半分に満たないレベルにある。そして、国外移住者の殆どは母国に戻ることはない。問題は、EUが拡大を続け、そして西ヨーロッパの暮らし向きの方が東ヨーロッパのそれよりもよく思える限り、移民の流出を阻止するのが難しいことだ。

目的地 ヨーロッパ
―― 難民危機を管理するには

2017年5月号

エリザベス・コレット 移住政策研究所ヨーロッパ所長

政策決定者が対応に奔走したにも関わらず、冬季を含め、現在も毎月数千人が地中海を渡ってヨーロッパを目指している。2年前と状況は変わっていない。中東や南アジアの破綻国家を逃れてくる人々には、ヨーロッパを目指す以外に長期的な代替策はないに等しい。とはいえ、ギリシャとイタリアにたどり着いた人々も、相変わらず悲惨な状況に置かれている。一時的な受入センターに数千人が押し込まれている。EUとトルコとの合意が破綻すれば、ギリシャは再びその対応能力を超える人の洪水に飲み込まれるだろう。フランス、ドイツでの重要な国政選挙が近づくにつれて、難民危機の捉え方は変化していく。今後、欧州統合の中核理念である人の移動の自由、そして難民保護制度に対するEUのコミットメントが試されることになる。・・・

トランプ時代のアジア
―― アジアを犠牲にした米中合意はあり得ない

2017年5月号

ビラハリ・コーシカン シンガポール外務省無任所大使

北京の高官の一部は、中国を頂点とする地域的ヒエラルヒーを再建して伝統的な中華秩序を再現することを望んでいるようだ。そのためには、アジアからワシントンの影響力を取り除き、その空白を中国自身が埋めなくてはならない。だがこの場合、アメリカとの同盟関係が頼りにならないと判断した日本が核武装する可能性は十分にある。日本が核兵器を獲得すれば、韓国、そして台湾もそれに続く強いインセンティブをもつようになる。中国はそのような事態は何としても避けたいはずだ。こう考えると、アジア秩序が中華秩序に置き換えられていくことも、アジアを互いの影響圏に二分するような大掛かりな米中合意が結ばれる可能性も低い。最終的に、アジアはかつて変化に直面したのと同じように「適応」を通じてトランプ政権に対応していくことになるだろう。

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