1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

テーマに関する論文

グローバル化の失速と世界経済の未来
―― グローバル経済をポピュリズムから救い出すには

2017年7月号

フレッド・フー プリマベーラ・キャピタル 設立者
マイケル・スペンス ニューヨーク大学ビジネススクール教授

グローバル化は大きな繁栄をもたらす一方で、格差を増大させ、いまや多くの人がグローバル化を特徴づけてきたヒト、モノ、情報の拡散に懐疑的な立場をとるようになった。こうして、反グローバル化とナショナリズムが趨勢となり、イギリスは欧州連合(EU)からの離脱を国民投票で決め、トランプ大統領は「アメリカファースト」ドクトリンに固執している。しかも一方で、雇用懸念を高めるオートメーション化が進んでいる。グローバル化が失速し、急速な技術変化が混乱を引き起こす時代にあって、世界の政治家と政策決定者はこれまでの成果を守るための改革を進め、手遅れになる前に、その欠陥を是正していかなければならない。そうしない限り、保護主義とナショナリズムによって世界の平和と繁栄が脅かされることになる。

スマート化するエネルギー・電力産業
―― 技術革新がもたらす機会とリスク

2017年7月号

デビッド・ビクター カリフォルニア大学サンディエゴ校教授 カッシア・ヤノセック マッキンゼー&カンパニー アソシエートパートナー

水圧破砕、水平掘削という技術革新によってシェール資源の開発が可能になったことは広く知られているし、これらのテクノロジーが、2008年7月の1バレル145ドルというかつてない高値から、いまやその約3分の1へと原油価格を引き下げることに一役買ったのは間違いない。だが、これは始まりに過ぎなかった。現在では、「複雑なシステムのよりスマートな管理」や「データ分析」、そして「オートメーション」によってエネルギー産業は再び変貌し始め、エネルギー企業の生産性と柔軟性はさらに高まっている。しかもこれらの変化は資源開発企業だけでなく、電力を生産・供給するセクターも変貌させ始めている。より分権化され、消費者にフレンドリーで、さまざまな資源で生産した電力をきわめて信頼性の高い送電ネットワークに統合する力をもつ、新しい電力産業が誕生しつつある。・・・

ビジョンが支える米戦略への転換を
―― アメリカファーストと責任ある外交の間

2017年7月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

ドナルド・トランプ大統領の「アメリカファースト」スローガンは、これまでもそして現在も、現実の必要性にフィットしていない。このスローガンは米外交を狭義にとらえるだけで、そこには、より大きな目的とビジョンが欠落している。いまやこのスローガンゆえに、世界では、ワシントンにとって同盟国や友好国の利益は二次的要因に過ぎないと考えられている。時と共に、「アメリカファースト」スローガンを前に、他国も自国第1主義をとるようになり、各国はアメリカの利益、ワシントンが好ましいと考える路線に同調しなくなるだろう。必要なのは、アメリカが責任ある利害共有者として振る舞うことだ。国益と理念の双方に適切な関心を向け、より規律のある一貫した戦略をもつ必要がある。

ドイツのソーシャルメディア規制
―― ヘイトスピーチVS.言論の自由

2017年7月号

ハイジ・ツーレック ジャーマン・マーシャル・ファンド 環大西洋アカデミー フェロー

2017年4月、ドイツ政府はオンライン上のヘイトスピーチに関する新たな法案を閣議決定し、夏までには連邦会議で法制化されると考えられている。これは、本質的に民主国家がどこまで言論の自由を認めるかをめぐる闘いだ。「民主主義を守るには、法律によってヘイトスピーチを取り締まるしかない」というのがドイツ政府の立場だ。これに対して、ドイツジャーナリスト協会は人権活動家や研究者、そして弁護士と共に、同法案は「表現の自由の中核をなす原則を脅かす」と警告する共同声明に署名し、抗議している。だが、ドイツが、民主的な規範を守るためには言論の自由の制限もやむを得ないとする「戦う民主主義」を標榜してきたことにも配慮すべきだ。憲法第18条には、自由で民主的な秩序を攻撃するために言論の自由などの権利を乱用する者は、基本的権利を奪われることもあると明記されている。・・・

インドネシアを切り裂く民族・宗教政治
―― 脅かされる多元主義と社会的調和

2017年7月号

シドニー・ジョーンズ 紛争政治分析研究所 ディレクター

多元主義や民主主義をめぐる世界の模範と言われたインドネシアで、いまやこの国の寛容さ、多元主義、民主主義のすべてが試練にさらされている。現職の知事としてジャカルタ州知事選に出馬したキリスト教徒の中国系インドネシア人、バスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)は、(イスラム教を冒涜したと)イスラム主義強硬派に攻撃され、選挙に敗れただけでなく、5月初旬に宗教冒涜罪で起訴され、投獄される事態となった。2016年9月、アホックが遊説の中で、良心に従って投票をするようにと促し、コーランの一節を引いて、「非イスラム教徒の人物がイスラム教徒を統治することはできないと示唆するような人物に惑わされてはなからない」と発言したことが事の発端だった。2019年の大統領選に向けて、イスラム主義者たちは今回よりもさらに大規模な反動を巻き起こそうと、反中感情、反共産主義感情、そして格差に対する不満のすべてを利用しようと試みるだろう。

北朝鮮に原子力の平和利用を認めよ
―― 平和と原子力のバーターを

2017年7月号

リチャード・ローズ ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト、マイケル・シェレンバーガー エンバイロンメンタルプログレス 会長

平壌が本当に望んでいるのは、攻撃されないという保証、そして、経済開発のための電力生産能力を手に入れることだ。この意味では、核問題の軍事的解決策を望むタカ派だけでなく、原子力エネルギーに反対するハト派も間違っている。衛星写真をみると、電力の3分の1が原子力発電所によって供給されている韓国が明るく輝いているのに対して、北朝鮮はほぼ全域が暗闇に覆われている。核・ミサイル開発への制限を受け入れることを条件に、原子力による電力生産へのアクセスを認めれば、平壌は近隣諸国を脅かすのを止め、ミサイルその他の軍事物資の密輸を止める経済的インセンティブをもつようになるはずだ。われわれは北朝鮮において、アイゼンハワー大統領が1953年に国連で提唱した「平和のための原子力」構想を実現する機会を手にしている。

女性と経済活動
―― 有給出産休暇の大いなるポテンシャル

2017年7月号

アレクシス・クロー PwC地政学投資チーム アメリカアドバイザリー・リード

OECD諸国のなかで唯一、アメリカには普遍的な(連邦レベルでの)有給出産休暇制度がない。データが存在する世界170カ国のなかで、出産休暇中の女性に対する金銭的保証をまったく与えていないのは、アメリカとニューギニアの2カ国だけだ。問題の解決策が有給出産休暇制度の導入であることはすでに分かっている。女性たちは、出産休暇をとる段階ではすでにある程度のキャリアを積んでいる可能性が高く、組織の内外で価値ある関係を築き、専門知識を身に付けている。出産休暇中にも報酬を受け取っていれば、その女性が同じ企業に戻ってくる可能性は高くなり、企業パフォーマンスにも好ましい影響を与える。アメリカ女性の労働参加率が、手厚い有給休暇制度や家族にやさしい制度をもつカナダやドイツと同程度の参加率へ上昇すれば、少なくとも500万人の女性が労働力に参加し、アメリカ国内で年間5千億ドル以上の新たな経済活動が生み出されることになる。

ブレグジット後の連合王国
―― 先進小国のケースから何を学べるか

2017年7月号

マイケル・オサリバン クレディスイス チーフ・インベストメントオフィサー、デビッド・スキリング ランドフォール・ストラテジーグループ ディレクター

連合王国を構成するイングランド、北アイルランド、スコットランド、ウェールズそして隣接する独立国家アイルランドが、ブレグジットの混乱に翻弄されるのは避けられないだろう。特に、スコットランドや北アイルランドがイギリスからの独立を目指した場合、さらに大きな混乱に直面する。幸い、ブレグジット後に備える上で、これら連合王国の構成国や近隣国が参考にできるモデルがある。スウェーデンからニュージーランドまでの小規模な先進諸国(先進小国)だ。これらの国は教育を通じた人材育成、良質なインフラへの投資、危機に備えた規律ある財政政策の実施を心がけてきた。独立を目指すスコットランド、北アイルランドだけでなく、ブレグジットの大きな余波にさらされるアイルランドも、これら先進小国の叡知に学ぶべきだろう。

「中国の偉大な復興」と栄光の記憶
―― 偉大な過去の神話と屈辱の世紀

2017年7月号

エリザベス・エコノミー 米外交問題評議会 アジア研究部長

習近平の「中華民族の偉大な復興」というスローガンは中国民衆の共鳴を呼んだ。これは「屈辱の世紀」に耐えた中国を「正しい地位」に復帰させ、国際秩序の中心を超えたその上に位置づけるというストーリーだ。しかし、朝貢外交の時代を下敷きにするこの歴史認識は正しいとは言えない。現実には、周辺国は中国を怒らせずにわが道を行くために、さまざまな口実を駆使し、場合によっては真っ向から中国の意向を無視してきた。正確でない歴史認識を基に未来を語る中国に、われわれはどう対処していけばよいのか。実際、習近平政権は、外国のアイデアと資本が入ってくるのを制限する一方で、中国の対外的な政治的、経済的、軍事的影響力の強化を模索している。・・・

サウジはなぜカタールに強硬策をとったか
―― カタールの独自外交とアルジャジーラ

2017年7月号

デビッド・B・ロバーツ キングスカレッジ・ロンドン 助教授

国営のカタール・ニュースエージェンシー(QNA)は、タミル首長の一連の挑発的な発言を紹介した後、「カタールを陥れるバーレーン、エジプト、クウェート、サウジ、アラブ首長国連邦による陰謀を突き止めた」とするツイートを流している。その後ドーハは「カタールのニュースエージェンシーは、周到に計画されたハッキング被害に遭った」と主張し、米FBIもこの事実を事後的に確認したが、断交という抜いた刀をサウジが鞘に収める気配はない。サウジを含む湾岸の君主諸国が今回なぜカタールに圧力をかけているのか、その理由ははっきりしない。だが、アルジャジーラでアラブの独裁体制を揺るがし、ムスリム同胞団を支援してエジプト政府と敵対し、イランとも接触してきたカタールにサウジがこれまで同様に手を焼いているのは事実だろう。米軍基地を受け入れ、天然ガス資源を世界に供給しているとしても、時間が経過するにつれてカタールはさらに追い込まれていく。・・・

Page Top