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テーマに関する論文

北朝鮮危機と韓国のトリレンマ
―― 経済と安全保障のバランスをどうとるか

2017年10月号

キャサリン・H・S・ムーン ウェルズリー大学 教授(政治学)

韓国は追い込まれている。北朝鮮はミサイル発射を繰り返し、核実験も強行した。米戦略への同調を求めるトランプ政権ともうまくいっていない。文在寅は北朝鮮とアメリカ、双方の戦略に巻き込まれるのを回避しようと、両国に対して今後さらに自国の立場を明確に主張していくつもりかもしれない。韓国の安全を守るためのTHAAD配備に反発する中国には、実質的な経済制裁の対象にさえされている。そして、韓国の大統領にとって現状における最大の課題は、アメリカの戦術核の再配備、あるいは独自の核開発をつうじて国を核兵器で守ることを求める国内の声にどのように対処していくかだろう。実際、2016年9月のギャラップ社の調査では、韓国人の58%が国内での核開発を支持すると回答し、反対派はわずか34%だった。・・・

北朝鮮のもう一つの脅威
―― 日韓の原発施設に対する攻撃に備えよ

2017年10月号

ベネット・ランバーグ 元国務省分析官

北朝鮮が日韓の原子力施設を攻撃すれば、何が起きるか。両国の政府はそれに備え、態勢を整えておかなければならない。これは想定外のシナリオではない。中東では建設中の原子炉をターゲットとする攻撃が起きているし、ボスニア紛争でも、インド・パキスタンの対立状況のなかでも、原子炉攻撃のリスクは意識されていた。原子力施設に対する北朝鮮のミサイル攻撃の帰結よりも、数十万人が犠牲になるかもしれない(人口密集地帯への)通常ミサイル攻撃による脅威の方が深刻だと考える者もいるだろう。しかし、原子炉が攻撃され、炉心や使用済み核燃料のプールにダメージが及べば、原子炉は、殺戮兵器ではないにしても、実質的にテロ攻撃や大量破壊兵器と同じ作用をする。日韓はアメリカとともに防衛計画をまとめていく上で、原子力発電施設の脆弱性を無視してはならない。・・・

エネルギーの歴史と原子力オプション
―― 再生可能エネルギーでは地球を救えない

2017年9月号

マイケル・シェレンバーガー エンバイロンメンタル・プログレス 設立者

「薪や動物糞から石炭」、「石炭から石油」、そして「石油から天然ガス」へと、人類はこれまで3度にわたって大きなエネルギーシフトを経験し、いまや「化石燃料から再生可能エネルギーへの第4のシフト」が起きつつある。しかし、環境へのダメージを少なくするには、より信頼できるエネルギー密度の高い資源へとシフトしていく必要があるにも関わらず、これまでとは違って、現在のエネルギーシフトではエネルギー密度が低い再生可能エネルギーへの移行が起きている。現実には、再生可能エネルギーでは超高層ビル、地下鉄、そして都市でひしめき合うように生活する数多く市民の物質的需要を満たすことはできない。環境へのダメージを少なくし、より信頼できるエネルギー密度の高い資源へシフトしていくには原子力というオプションしか残されていない。・・・

自由なデータフローを守るには
――国際的データフロールールの確立を

2017年9月号

スーザン・ランド マッキンゼー パートナー
ジェームズ・マニュイカ マッキンゼー シニア・パートナー

世界が(第二次世界大戦後に)財とサービスに関する世界貿易の条件に関する合意をまとめてきたように、いまや各国は、トランスナショナルな電子商取引とデータフローを管理するための詳細な枠組みを定め、デジタル保護主義に対抗していく必要がある。データの自由な移動を保証する国際的な規範とプロトコル、そして紛争が発生した場合にその紛争を解決するフォーラムが必要とされている。すでに、デジタル部門でもオンライン検閲、デジタルコンテンツ・プロバイダーに対する規制、プライバシーとデータ保護に関する(各国間の)重複し、矛盾したルールなど、数多くの障壁と保護主義的措置が出現している。

バルカンに対するロシアの野望
――クロアチアはロシアの攻勢を阻めるか

2017年9月号

ダグマール・スキルペック 南東ヨーロッパ分析者

プーチン大統領はバルカンを再びロシアの勢力圏にしようと、この地域における分裂や社会・経済的な弱点につけ込んでいる。モスクワは、バルカンを北大西洋条約機構や欧州連合から遠ざけ、その地域的エネルギー供給を支配することでバルカンを完全にロシアに依存させたいと考えている。すでにボスニアでは、プーチンの財政支援によって勢いづいたスルプスカ共和国のミロラド・ドディク大統領が分離独立を強く求めている。これが実現すれば、1990年代のバルカン紛争のような事態が再現されかねない。救いは、クロアチアがハンガリーやポーランドで勢力を拡大しつつあるナショナリズムを寄せ付けていないことだ。クロアチアは今やヨーロッパ南東部のリーダーであり、この国の政治状況が地域のダイナミクスに大きな影響を与えている。欧米はクロアチアの穏健派政府が、ロシアの影響力拡大に対抗していく上でのもっとも力強い(防波堤、そして)同盟相手であることを認識する必要がある。

イスラム国後のイラク
――解放地域をめぐる攻防とイラク軍

2017年9月号

ベラ・ミロノバ  ハーバード大学ベルファーセンター 国際安全保障フェロー
ムハンマド・フセイン  イラク・オイルリポート クルド支局 副支局長

イスラム国勢力の支配から解放されたイラク地域で台頭している集団が二つある。イスラム国勢力に対抗するために2014年に組織され、約30のシーア派武装組織を傘下に収める人民動員隊、そしてクルディスタン民主党だ。意外にも、この二つの集団は、自らの武装集団に戦闘員をリクルートしようと民族・宗派ラインを越えた動きをみせている。支配地域を維持・拡大していくには、シーア派やクルド人からのリクルートだけでは限界があり、民族・宗派を越えたリクルートを進めるしかないからだ。この二つの勢力が台頭するなかで、選挙が実施されれば、イラクの代議政治はさらにバランスを欠いたものへ変化していく恐れがある。希望は、民族・宗派を問わず、イラク軍への参加を考える若者たちが増えていることだ。・・・

イスラエルと日本
――関係強化に向けた期待と不安

2017年9月号

マシュー・ブルーマ 法政大学講師(国際政治)
エイタン・オレン 国際政治研究者

これまでとかく疎遠だった日本とイスラエルも、いまや、グローバルエネルギー市場と日本国内の政治・経済情勢の変化、そして世界の地政学的パワーバランスの構造的シフトを前に、緊密な協力関係を模索している。安全保障とテクノロジーの最前線にあるイスラエルとの戦略的関係を強化していく路線は、国際社会におけるより独立した影響力あるパワーとしてのプレゼンス確立を目指す日本の新戦略によって導かれている。中国が中東でのプレゼンスを強化していることへの焦りも関係しているかもしれない。もちろん、課題は残されている。日本企業は依然として対イスラエル投資への不安を払拭できずにいるし、政府も、イスラエルとの関係強化によって中東の複雑な宗派間紛争に巻き込まれる恐れがあることを懸念している。・・・

ハイテク起業でパレスチナを支える
―― 西岸とテクノロジーブームと中東和平

2017年9月号

ヤディン・カーフマン ベリタス・ベンチャーパートナーズ  パートナー

私がテクノロジーセクターのパレスチナ人と交流し始めた10年前、イスラエルの友人や同僚たちは「一体全体、ラマラで何を探している」と、私の行動を正気の沙汰ではないと考えていたようだ。だが、パレスチナのテクノロジーセクターで何が起きているかを知ると、彼らも交流プログラムがもたらす希望を理解するようになった。「大丈夫か」と聞くのではなく、「何かできることはないか」と言うようになった。たしかに、パレスチナの希望とイスラエルの安全に対する懸念に対処できるのは、政治的解決策だけだ。しかし、手堅い経済基盤と境界線を越えたビジネスパートナーシップがあれば、政治家が合意をまとめ、パレスチナ国家が間違いなく持ち堪えていくための大きな助けになる。・・・

金正恩のもう一つの顔
――北朝鮮CEOとしての金正恩の成功

2017年9月号

デビッド・カン 南カリフォルニア大学教授(国際関係論)

金正恩は道化師ではないし、そのような見方にとらわれれば、北朝鮮とその指導者が突きつけている脅威を誤解することになる。特に、平壌とワシントンの緊張が高まりをみせているだけに、深刻な間違いを犯すことになりかねない。道化師の独裁者としてではなく、むしろ、金正恩を「北朝鮮株式会社を引き継いだ新しい最高経営責任者(CEO)」と考えるべきだろう。金正恩はすでに組織(国家)を束ねるビジョンを示し、組織の手続きを再確立し、人材編成も見直している。実際、彼はすでに権力基盤を固めているようだし、外からの圧力に動じる気配もない。欧米では、金正恩は権力にしがみついているだけの弱い独裁者で、その体制は崩壊の瀬戸際にあるとみなす憶測が絶えない。しかし、CEOとしてみれば、彼も彼の政府も脅かされてはいない。むしろ、安定度を高めている。・・・

米中とツキジデスの罠
―― 次なる文明の衝突を管理するには

2017年9月号

グレアム・アリソン ハーバード大学教授(政治学)

台頭する国家は自国の権利を強く意識するようになり、より大きな影響力と敬意を求めるようになる。かたや、チャレンジャーに直面した既存の大国は状況を恐れ、守りを固める。この環境で、誤算のリスクが高まり、相手の心を読めなくなる。米中にはこの「ツキジデスの罠」が待ち受けている。それだけではない。米中間には相手国の理解を阻む文明的な障壁が存在する。政治や経済制度への考え方の違いだけではない。国内の政治制度を下敷きとする国際ビジョンも、物事をとらえる時間枠も違う。必要なのは、相手への理解を深めることだ。対中アプローチを立案しているトランプ政権の高官たちは、古代中国の軍事思想家、孫武の著作に目を通すべきだろう。「敵を知り己を知れば百戦危うからず。己を知るも、敵を知らなければ勝ち負けを繰り返し、敵も己も知らなければ、一度も勝てぬままに終わる」

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