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テーマに関する論文

多様性を受け入れる秩序へ
―― リベラルな国際秩序という幻

2018年8月号

グレアム・アリソン ハーバード大学教授(政治学)

戦後のアメリカの世界関与を促したのは、自由を世界に拡大したい、あるいは国際秩序を構築したいという思いからではなく、国内でリベラルな民主主義を守るための必要性に駆られてのことだった。民主的な統治の価値を信じる現在のアメリカ人にとっての最大の課題も、まさに、国内で機能する民主主義を再建することに他ならない。必要なのは、アメリカは自らがイメージする通りに戦後世界を形作ったとする空想上の過去に戻ることではない。幸い、国内の民主主義を再建するために、中ロその他の国の人々にアメリカの自由主義思想を受け入れてもらう必要はないし、他国の政治制度を民主体制に変える必要もない。むしろ、1963年にケネディが語ったように、自由主義であれ、非自由主義であれ、「多様性を受け入れる」世界秩序を維持するだけで十分ではないか。

マルキスト・ワールド
―― 資本主義を制御できる政治形態の模索

2018年8月号

ロビン・バーギーズ オープンソサエティ財団・経済促進プログラム アソシエートディレクター

共産主義モデルを取り入れた国が倒れ、マルクスの政治的予測が間違っていたことがすでに明らかであるにも関わらず、その理論が、依然として鋭い資本主義批判の基盤とされているのは、「資本主義が大きな繁栄をもたらしつつも、格差と不安定化をもたらすメカニズムを内包していること」を彼が的確に予見していたからだ。欧米が20世紀半ばに社会民主的な再分配政策を通じて、資本主義を特徴づけたこれらの問題を一時的に制御することに成功して以降の展開、特に、70年代末以降の新自由主義が招き入れた現状は、まさにマルクスの予測を裏付けている。今日における最大の課題は、「人類が考案したもっともダイナミックな社会システムである」資本主義の弊害を制御できる新たな政治システムを特定することにある。しかし、そのためには先ず、社会民主的政策を含めて、過去に答が存在しないことを認識しなければならない。・・・

人工知能とデジタル権威主義
―― 民主主義は生き残れるか

2018年8月号

ニコラス・ライト インテリジェント・バイオロジー  コンサルタント(神経科学者)

各国にとっての政治・経済的選択肢は「民衆を抑圧し、貧困と停滞に甘んじるか」、それとも「民衆(の創造力)を解き放って経済的果実を手に入れるか」の二つに一つだと考えられてきた。だが、人工知能を利用すれば、権威主義国家は市民を豊かにする一方で、さらに厳格に市民を統制できるようになり、この二分法は突き崩される。人工知能を利用すれば、市場動向を細かに予測することで計画経済をこれまでになく洗練されたものにできる。一方で、すでに中国は、サーベイランスと機械学習ツールを利用した「社会信用システム」を導入して「デジタル権威主義国家」を構築し始めている。20世紀の多くが民主主義、ファシズム、共産主義の社会システム間の競争によって定義されたように、21世紀はリベラルな民主主義とデジタル権威主義間の抗争によってまさに規定されようとしている。

ワーミング・ワールド
―― 気候変動というシステミック・リスク

2018年8月号

ジョシュア・バズビー テキサス大学オースティン校 准教授(公共政策)

気候変動とは、地球温暖化だけではない。世界は、気候科学者のキャサリン・ヘイホーが、「グローバル・ウィアーディング(地球環境の異様な変化)」と呼ぶ時代に突入しつつある。考えられない気象パターンがあらゆる場所で起きている。気温が上昇すると、気候変動が引き起こす現象が変化する。かつて100年に1度だった大洪水が、50年あるいは20年おきに起きるようになる。想定外のテールリスクもますます極端になる。気候変動がひどく忌まわしいのは、地政学への影響をもつことだ。新しい気象パターンは、社会的にも経済的にも大混乱を引き起こす。海面が上昇し、農地が枯れ、より猛烈な嵐や洪水が起きるようになり、居住できなくなる国も出てくる。こうした変化は、国際システムに前代未聞の試練を与えることになる。

変化する貿易と経済地図
―― デジタルグローバル化にどう備えるか

2018年7月

スーザン・ルンド マッキンゼー・アンド・カンパニー  パートナー
ローラ・タイソン カリフォルニア大学 バークレー校経営大学院教授(経済学)

グローバル化は反グローバル化に道を譲ったのではなく、新しい段階に入ったにすぎない。モノのグローバル化から最大の恩恵を引き出した政治・経済エリートと、最大の余波にさらされた労働者コミュニティーが激しい論争を展開している間にも、デジタルテクノロジーが支える新しいグローバル化が急速に進展している。デジタルグローバル化は、イノベーションと生産性を高め、かつてない情報アクセスを提供することで、世界中の消費者とサプライヤーを直接結びつけることができる。だが、これも破壊的プロセスを伴う。特定の経済部門や雇用が消滅する一方で、新たな勝者が生まれるだろう。企業と政府は、新しいグローバル化に派生する迫り来る破壊に備える必要がある。

東と西におけるポストリベラル思想
―― 宗教と国家の存在理由

2018年7月号

シャディ・ハミッド ブルッキングス研究所 シニアフェロー

ポピュリズムが台頭する欧米では、アイデンティティや帰属に関する非自由主義的で排他的なエスノナショナリズムが復活している。いまや「純然たる(リベラルの)道徳的コンセンサス」を否定する批評家も多く、リベラリズムは「真の思想的代替策を拒絶する野心的なイデオロギーと化している」と批判されることもある。一方、中東では、民主化が模索された「アラブの春」以降、社会における宗教の役割、国家の本質についての力強い論争が起きた。そこで支持されたのはリベラリズムではなく、イスラム主義だった。そしていまや政治的イスラム主義と宗教的イスラム主義の対立が起きている。ポストリベラル思想として、中東では宗教的イスラムコミュニティが、欧米では目的共同体が注目され始めている。・・・

フランシスコ法王とカトリックの分裂
―― 変化する社会と宗教

2018年7月号

マリア・クララ・ビンゲメル リオデジャネイロ・カトリック大学教授(神学)

フランシスコ法王は、史上もっとも評価の分かれるローマ教皇の一人かもしれない。その発言と解釈は超保守派を激怒させ、伝統主義者を不安にしている。テレビ、ラジオ、ソーシャルメディアで、フランシスコの教えを公然と非難する著名なカトリック教徒もいる。もちろん、進歩派は喜んでいる。世界が急速に世俗化しているにも関わらず、ヨハネ・パウロ2世とベネディクト16世が宗教保守の立場を貫いた時代についに終止符が打たれたとみなし、フランシスコを歓迎している。一方で、「法王は結婚や同性愛を含めて、特定の解釈を明確に選択することを拒否したため、すべて(の解釈)が受け入れられてしまった」と考える人もいる。これによって教会が二極化し、カトリック教会が過去数十年経験してこなかったような内紛に陥る危険があるという声も上がっている。だが果たしてそうだろうか。・・・

イランの孤立と米シリア戦略
―― なぜ親アサド同盟は分裂したか

2018年7月号

イラン・ゴールドバーグ センター・フォー・アメリカン・センチュリー シニアフェロー(中東安全保障プログラム)
ニコラス・A・ヘラス センター・フォー・アメリカン・センチュリー  フェロー

ロシアはアサドが権力を維持できるように支えてきたが、アサド政権にとってもっとも重要な同盟相手のイランは介入を利用して、シリアでの永続的な軍事的プレゼンスを確保するのが狙いだった。イランが大がかりに介入したことで、シリアの戦況は大きく塗り替えられたが、現在のイランはシリア国内に展開する軍事力をテコに、イスラエルに軍事的圧力をかけようと試みている。こうしたイスラエルとの対決路線を重視するイランの路線が、アサドを支える他の国際プレイヤーとの軋轢を生み出している。シリアの統治体制を固めていくにつれて、アサドそしてロシアを含むアサドを支援する勢力は、大統領としてのアサドのプレゼンスを正常化し、再建に向けた資金を確保しようと試みており、イスラエルとの戦争は望んでいないからだ。

一帯一路戦略の挫折
―― 拡大する融資と影響力の不均衡

2018年7月号

ブッシュラ・バタイネ スタンフォード大学博士候補生
マイケル・ベノン 同大学グローバルプロジェクトセンター マネージング・ディレクター
フランシス・フクヤマ 同大学シニアフェロー

中国はグローバルな開発金融部門で支配的な地位をすでに確立している。だがこれは、欧米の開発融資機関が、融資を基に進められるプロジェクトが経済・社会・環境に与えるダメージについての厳格な安全基準の受け入れを相手国に求める一方で、中国が外交的影響力を拡大しようと、その間隙を縫って開発融資を増大させた結果に過ぎない。しかも、中国が融資したプロジェクトの多くは、まともな結果を残せてない。すでに一帯一路構想に基づく最大規模の融資の受け手であるアジア諸国の多くは、戦略的にインド、日本、アメリカと再び手を組む路線へシフトしつつある。・・・

破綻したプーチンの統治モデル
―― 情報機関の没落と恐怖政治の復活

2018年7月号

アンドレイ・ソルダトフ 調査ジャーナリスト

ごく最近まで、ロシアの情報機関は「新しい貴族」としてのステータスを手にしてきた。潤沢な活動予算を与えられ、監督対象にされることもなく、クレムリンの敵に対して自由に行動を起こす権限をもっていた。高官たちには、国有企業、政府系企業の重要ポストも用意されていた。しかし、情報機関の多くは、本来なら監視の対象とすべきオリガークの傭兵と化し、ライバル抗争を繰り広げるばかりで、機能不全に陥ってしまった。いまやプーチンは、これまでのやり方を見直し、情報機関の権限と自主裁定権を縮小し始め、むしろ、大統領府に権限を集中させている。プーチンのロシアは急速にソビエトモデルへ回帰しつつある。但し、その帰結が何であるかを、プーチンはおそらく正確に理解していない。・・・

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