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テーマに関する論文

新アラブ秩序を規定する恐れと野望
―― 安全保障のジレンマに支配された中東

2018年10月号

マーク・リンチ ジョージ・ワシントン大学教授(政治学)

アラブの春の余波のなか、中東は大きく変化している。カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)という豊かな湾岸諸国が繁栄を維持する一方で、エジプト、イラク、シリアという伝統的な地域大国はいまや国家としてほとんど機能していない。リビアを含む破綻国家、そして国家基盤が揺らいで弱体化した国も増えている。いまやほぼすべてのアラブ国家は「恐れ」と「野望」をもっている。国内での民衆蜂起、イランパワーの拡大、アメリカの中東からのディスエンゲージメント(で引き起こされる事態)に対する「恐れ」をもつ一方で、弱体化した国と国際的な混乱につけ込みたいという各国の「野望」が、破壊的な紛争への関与へと走らせ、地域全体をカオスに巻き込みかねない状況にある。

米欧関係に生じた大きな亀裂
―― 金融自立と新同盟を模索するヨーロッパ

2018年10月号

ソーステン・ベナー 独グローバル公共政策研究所 ディレクター

アメリカの金融システムは、もはや公共財ではなく、ワシントンが他国を従わせるために一方的に振り回す地政学的ツールにされていると各国が考えるようになれば、それに翻弄されるのを防ぐ措置をとるようになる。既に、ヨーロッパはアメリカの金融覇権に挑戦することを決断している。外交領域も例外ではない。ドイツ外相は「既存のルールを守り、必要な場合には新ルールを導入し、各国の目の前で国際法が踏みにじられる事態に対しては連帯を示す有志同盟」の形成を明確にイメージし、既にカナダや日本に接触している。現状では、失敗を運命づけられている試みなのかもしれない。しかし、敵意あふれる世界で自分たちの立場を守っていくつもりなら、「自立」と「新しい同盟」が、ヨーロッパが取り得る唯一の賢明な方策かもしれない。

次なるサイバー超大国 中国
―― 主導権はアメリカから中国へ

2018年10月号

アダム・シーガル 米外交問題評議会 新興技術・国家安全保障研究 プログラム ディレクター

いずれ中国はサイバースペースを思いどおりに作り直し、インターネットの大部分は、中国製ハードウエアを利用して中国製アプリで動くようになるかもしれない。「難攻不落のサイバー防衛システム」を構築し、インターネット統治についての中国モデルの影響力を強化するだけでなく、人工知能(AI)や量子コンピュータ部門でも世界のリーダーになることを目指し、大がかりな投資をしている。途上国では、中国の「サイバー主権」統治モデルが大きな支持を集めているし、中国は、第5世代モバイル通信システム(5G)の技術標準を確立したいと考えている。もはやワシントンがいかに手を尽くそうと、今後、サイバースペースの主導権がアメリカから中国へシフトしていくのは避けられない。

金融危機の忘れ去られた歴史
―― そして、いかに米欧の絆は失われたか

2018年10月号

アダム・トゥーズ コロンビア大学教授(歴史学)

アメリカでは、2008年の金融危機を引き起こした政府の無謀さと民間の犯罪的行動ばかりが強調され、ヨーロッパの指導者たちは「すべてをアメリカのせい」にしている。実際には、世界的な銀行の取り付け騒ぎを防ぐために流動性を供給した米連邦準備制度の即断がなければ、金融危機はアメリカとヨーロッパの経済をいとも簡単に崩壊に追い込んでいたはずだ。だが、この事実は忘れ去られ、アメリカとヨーロッパの金融上の密接なつながりはいまや解体されつつある。ヨーロッパを救うために2008年に連邦準備制度は守護天使の役割を果たした。アメリカの政治状況の変化、次の金融危機が新興市場、特に中国で起きる可能性が高いことを考えると、次の危機からグローバル経済を救うには守護天使以上の何かが必要になるだろう。

デジタル企業の市場独占と消費者の利益
―― 市場の多様性とレジリエンスをともに高めるには

2018年10月号

ビクター・メイヤー=ションバーガー  オックスフォード大学教授 (インターネット・ガバナンス・規制)
トーマス・ランゲ  独ブランドアインズ誌テクノロジー担当記者

グーグル、フェイスブック、アマゾンなどの「デジタルスーパースター企業」は、企業であるとともに、膨大な顧客データを占有する市場でもある。消費者の好みや取引について、運営会社がすべての情報を管理し、そのデータを使って独自の意思決定アシスタントに機械学習をさせている。買い手は「おすすめ」と選択肢の示され方に大きな影響を受ける。こうした市場は、レジリエントで分散化された伝統的市場よりも、計画経済に近い。しかも、状況を放置すれば、このデジタル市場は、外からの意図的な攻撃や偶発的な障害によってシステムダウンを起こしやすくなる。だが、必要なのは企業分割ではない。むしろ、スーパースター企業が集めたデータを匿名化した上で、他社と共有するように義務づけるべきだろう。データが共有されれば、複数のデジタル企業が同一データから最善の洞察(インサイト)を得ようと競い合うようになり、デジタル市場は分散化され、イノベーションも刺激されるはずだ。

イラン制裁が同盟関係を揺るがす
―― 同盟関係の動揺と米中関係の行方

2018年10月号

ピーター・ハレル 新アメリカ安全保障センター シニアフェロー(非常勤)

イランに対するトランプの強硬なアプローチは、経済制裁を求めるアメリカの圧力から自国の企業をどのようにして守るかについて、欧州連合(EU)内、そして世界での長期的議論を喚起することになるかもしれない。すでにヨーロッパは具体的な動きをみせている。最大のイラン石油の輸入国である中国はこの問題をより広範な米中貿易関係の緊張の高まりという枠組みに位置づけて判断することを決めている。北朝鮮の核の脅威や中国の強硬路線に対処していくためにアメリカの支援を必要とする日本と韓国は、イラン制裁への参加を回避したいと望みつつも、トランプとの間で大きな対立を抱え込むことを望んでいない。イラン制裁が実現しても、その後、ワシントンは同盟関係の修復に取り組まざるを得なくなるだろう。

ナイル川の水争奪戦と中東地政学
―― 地域を超えた重層的課題にどう対処するか

2018年10月号

マイケル・ワヒッド・ハンナ センチュリー財団 シニアフェロー
ダニエル・ベナイム アメリカ進歩センター シニアフェロー

グランド・エチオピア・ルネサンス・ダムは多層的な課題を抱えている。ダムが完成すればエチオピアは近隣諸国に相当規模の電力を輸出できる電力生産ができるようになる。隣国スーダンも、ダムが自国の農業に恩恵をもたらすことを期待している。一方、水資源に乏しいエジプトは、上流でのダム稼働によって深刻な事態に直面する恐れがある。しかも、中東での影響力の確立を求めて競い合うトルコ、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)はアフリカ北東部に陸海軍の基地を確保し、耕作可能な土地を手に入れているだけでなく、ライバルに圧力をかけようと現地で傀儡勢力を育成しているようだ。このハイブリッド化した多層的な課題に取り組んでいくには、縦割りの官僚組織に囚われず、問題を横断的に捉える必要がある。地域問題、政治・軍事問題の専門家だけでなく、水文学や工学の専門家の知識も動員しなければならない。

引き裂かれたヨーロッパ
―― 多数派のアイデンティティ危機

2018年10月号

エリック・カウフマン ロンドン大学・バークベックカレッジ 教授(政治学)

ヨーロッパの政治的主流派が移民受け入れを支持し、嫌がる市民にこの不人気な政策を押し付けようとしたことが、右派ポピュリストに力を与えた。しかし、本当の問題は、欧米の民族的多数派である白人が、移民流入による大きな社会的変化を前に、国と自分たちの共同体のつながりが希薄化していると感じ、割り切れぬ思いを抱いていることにある。移民を受け入れる国家の建設を目指し、民族的多数派の立場を控えたがゆえに、皮肉にも、保守派にとって多数派の民族的アイデンティティがより重要になった。すでに主流派の政治家も立場を見直し、メルケル独首相さえも、多文化主義は「完全に失敗した」と表明している。イスラム教徒を固定観念で捉えるのは間違っている。一方で、白人層の割り切れぬ思いにも耳を傾けなければならない。ここからどのように未来を描くかが問われている。

トランプ流外交の悪夢
―― 外交と「取引」の間

2018年10月号

フィリップ・ゴードン 米外交問題評議会 シニアフェロー(アメリカ外交担当)

貿易問題、関税、イラン核合意、北朝鮮問題やパレスチナ和平へのアプローチ、そして中国やヨーロッパとの関係など、トランプ政権のこれまでの外交記録は、彼のアプローチが根本的に間違っていることを示している。同時にすべての人を批判しようとする彼の本能とは逆に、外交交渉を成功させるには、どの問題を交渉するかを選び、同盟関係を維持し、慎重に決定した優先課題の実現に向けて連帯を組織しなければならない。貿易問題をめぐって容赦なく攻撃している中国やヨーロッパから、イラン問題をめぐって支持を引き出すのは難しい。どうみてもトランプは、うまく交渉ができるタイプではない。基本的事実に習熟しておらず、何を重視するかについての一貫性がない。しかも、彼は合意形成を根本的に誤解している。

人工知能(AI)は人間の生活を進化させ、利便性を大きく高める一方で、単純な作業を繰り返すような仕事だけでなく、高度な判断を必要とする雇用も人間から奪うようになるかもしれない。AIを所有するほんの一握りの人々が社会の富を排他的に独占し、かつてない格差が生まれるかもしれない。当然、社会も経済も、そして政治形態も変化していく。最高のAIを所有する国が世界でもっとも大きな力をもつようになり、地政学も変化する。権威主義国家がAIを用いて計画経済を洗練してゆけば、市場経済国家の経済は輝きを失い、民主主義がさらに力を失っていく恐れもある。下手をすると、「高度に社会的なロボット」に人間が操られるようになる危険もある。AIは人間の生活をバラ色に変えるのか、それとも、暗黒時代へと引きずり戻すのか。論争は続いている。

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