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テーマに関する論文

日本の新しい防衛戦略
―― 前方防衛から「積極的拒否戦略」へのシフトを

2018年9月号

エリック・ヘジンボサム
マサチューセッツ工科大学国際研究センター 首席リサーチサイエンティスト
リチャード・サミュエルズ マサチューセッツ工科大学教授(政治学)

日本本土が攻撃されても、日米の部隊は中国の攻撃を間違いなく押し返すことができる。しかし、中国軍が(尖閣諸島を含む東シナ海の)沖合の島に深刻な軍事問題を作り出す能力をもっているだけに、東京は事態を警戒している。実際、中国軍との東シナ海における衝突は瞬く間にエスカレートしていく危険がある。最大のリスクは、尖閣諸島や琉球諸島南部で日本が迅速な反撃策をとれば、壊滅的な敗北を喫し、政府が中国との戦闘を続ける意思と能力を失う恐れがあることだ。日本は東シナ海における戦力と戦略を見直す必要がある。紛争初期段階の急変する戦況での戦闘に集中するのではなく、最初の攻撃を生き残り、敵の部隊を悩ませ、抵抗することで、最終的に敵の軍事攻撃のリスクとコストを高めるような「積極的拒否戦略」をとるべきだろう。ポイントはこの戦略で抑止力を高めることにある。

温暖化と異常気象が人類を脅かす
―― ダメージ管理から環境浄化への道を

2018年9月号

ビーラバドラン・ラマナタン
マルチェロ・サンチェス・ソロンド
パーサ・ダスグプタ
ヨアヒム・フォン・ブラウン
デビッド・ビクター

二酸化炭素の排出量は増え続けており、今後1世紀で、世界の気温は最低でも4度上昇する軌道にある。2050年を過ぎると、世界の人口の半数以上が、経験したことのない暑い夏に苦しめられるようになり、それ以降、地球の陸地の44%は乾燥し始める。温暖化した地球ではより極端な現象が起きるようになる。熱波、大暴風雨、干ばつなど(の異常気象)が気候変動によって引き起こされていることはいまや立証されている。熱波と干ばつが世界の穀倉地帯の多くを脅かし、市場はボラタイルになり、農産品価格も上昇する。異常気象が引き起こす災害は人間のメンタルヘルスにも悪影響を与える。実際、摂氏54度を上回れば、社会全体が冷静さを失う。もはや排出量をゼロに抑え込むだけでは十分ではない。すでに大気中にある約1兆トンの二酸化炭素を取り除かなければならない。

中国の未来と韓国の現在
―― なぜ政治的自由化が必然なのか

2018年9月号

ハーム・チャイボン 韓国・峨山政策研究院 会長

中国は政治的自由化をせずに、経済成長を持続し、社会を満足させられるだろうか。韓国の経験はそうはならないことを示している。戦後における韓国経済の成長を上から主導した朴正煕は、輸出主導型成長モデルをとる一方、欧米の価値が伝統的社会に入り込むのを阻止しようと孝行、忠誠、権威の尊重を重視する儒教復興策をとった。ここまでは完全に中国の今と重なり合う。だが、上からの産業政策ゆえに、韓国は1970年代末までに過剰生産能力を抱え込むようになり、企業倒産や労働争議が続き、大規模なストが起きた。結局、労働者と学生が連帯した社会騒乱のなかで、朴は側近の手で暗殺され、その後、韓国は民主化された。朴の韓国流民主主義は独裁主義だったし、「中国的特質をもつ社会主義」も同様だ。朴が最終的に直面したように、経済を自由化すれば、権威主義の指導者でさえ押さえ込めないような流れが作り出される。

「新冷戦」では現状を説明できない
―― 多極化と大国間競争の時代

2018年5月号

オッド・アルネ・ウェスタッド ハーバード大学教授(米・アジア関係)

今日の国際情勢は概して先が見通せず、課題も多い。しかし、21世紀の緊張した大国間関係を新たな冷戦と呼ぶことで、その本質は明らかになるよりも、むしろわかりにくくなる。冷戦の名残はまだ残されているが、国際政治を形作る要因と行動原理はすでに変化している。今日の国際政治に何らかの流れがあるとすれば、それは多極化だろう。アメリカの影響力は次第に低下し、一方で、中国の影響力が高まっている。ヨーロッパは停滞し、ロシアは、現在の秩序の周辺に追いやられたことを根にもつハゲタカと化している。そこにトレンドがあるとすれば、それは、いまやあらゆる大国が、イデオロギーではなく、自国のアイデンティティーと利益を重視する路線をとっていることだろう。

米ロ関係の真実
―― 何も期待できない理由

2018年8月号

マイケル・マクフォール スタンフォード大学 フリーマン・スポグリ国際研究所 ディレクター

2011年までには、2期目にプーチンがロシア市民と交わした暗黙の社会契約、つまり、「政府が経済成長を提供する代わりに、民衆は政治に口出しをしない」という契約の前提は崩れ始めていた。こうしてプーチンは外に敵を定める戦術を採り始めた。悪意に満ちた欧米から祖国を防衛することを訴え、反プーチンデモの指導者たちを「アメリカのエージェント」と批判するようになった。いまや彼は、「退廃した欧米」と闘う新しいナショナリズムのリーダーを自認し、この立場が彼を政治的に支えている。プーチンが権力の座にある限り、ロシアを変化させるのはほぼ不可能だろう。ワシントンが望み得る最善は、選択的協調路線をとりつつも、基本的には、モスクワの外国での行動を牽制し、ロシアが内側から変化するのを待つ、辛抱強い封じ込め政策をとることだろう。

人的資本投資と経済成長
―― 教育・医療への投資がなぜ必要か

2018年8月号

ジム・ヨン・キム 世界銀行総裁

教育と医療への人的資本投資を怠れば、労働生産性と国の競争力は大きく損なわれる。学校教育を1年多く受けると、平均して約10%収入が増加する。教育の質も関係してくる。例えば、アメリカでは、小学校のクラス担任を質の低い教員から平均的教員に替えると、生徒たちの生涯収入の合計は25万ドル増加する。重要なのは客観的基準をもつことだ。現状を客観的に測定する人的投資の指標を世界銀行が提供すれば、必要とされる改革が何であるかについての思いを共有できるようになる。優先順位もはっきりしてくるし、様々な政策に関する有益な議論が起き、透明性も強化される。人的資本に適切に投資できなければ、人類の進化と連帯にとって、あまりにも大きなコストが生じることになる。

分離独立運動の未来
―― なぜ暴力路線へ向かう危険が高いか

2018年8月号

タニシャ・M・ファザル ミネソタ大学准教授(政治学)

分離独立運動が直面するジレンマは深い。国家の仲間入りを果たしたい以上、分離独立運動も主権概念を尊重している。だがそのためには、分離独立しようとする国の主権を犯すことになる。しかも、非暴力主義が独立して国家をもつための最善の道なのかどうか、はっきりしなくなってきている。国際社会と国際機関が、国家として機能できそうなクルディスタンやカタルーニャの分離独立の承認を拒絶し続ければ、これらの運動は、これまでの自制をかなぐり捨てて、いずれ、暴力路線や一方的独立宣言に踏み切るかもしれない。分離独立勢力が「(国際社会が求めるルールを守って目的の実現を目指しても、ほとんど何も得られない」と判断すれば、その帰結は忌まわしいものになる。

中国モデルとは何か
―― 権威主義による繁栄という幻想

2018年8月号

ユエン・ユエン・アン ミシガン大学准教授(政治学)

途上国は「リベラルな民主主義」よりも「中国モデル」に魅力を感じ始め、習近平自ら、「他の諸国は人類が直面する問題への対策として、中国のやり方に学ぶべきだろう」と発言している。当然、中国モデルが注目を集めているが、それがどのようなものかという質問への答は出ていない。その経済的成功が何によって実現したかも定かではない。現実には、鄧小平期の北京が、官僚制度の改革を通じて、地方の下級官僚たちが、現地の資源を用いて経済開発を急速に進めるのに適した環境を提供したことが、中国モデルの基盤を提供している。だが、こうした特質は民主国家にとっては、おなじみのものだ。懸念すべきは、中国モデルが欧米や途上世界で広く誤解されていること、そして中国のエリートたちでさえ、中国モデルを誤解していることだろう。

都市外交の台頭
―― グローバルな課題に対処する新アクター

2018年8月号

アリッサ・アイレス 米外交問題評議会シニアフェロー(南アジア担当)

各国の都市がグローバルレベルで直接交流するケースが増えている。都市の指導者たちは、他国の都市と連携し、災害からの復旧やリスク緩和について意見交換し、持続可能な開発、インフラ、治安、気候変動などの問題に取り組んでいる。まるで国際機関のようなネットワークを通じた都市の協調ネットワークもある。都市多国間主義(city multilaterals)と呼べるこのネットワークを通じて、都市が自分たちにとって無縁ではない地球規模の切実な課題に協調して取り組むようになり、国際社会で都市がリーダーシップを発揮する機会が作り出されている。国際条約に署名するのは今も国家の役割だが、都市は迅速に行動できるし、集積された知識を行動に生かし、グローバルな問題に協調して取り組むことができる。

多様性を受け入れる秩序へ
―― リベラルな国際秩序という幻

2018年8月号

グレアム・アリソン ハーバード大学教授(政治学)

戦後のアメリカの世界関与を促したのは、自由を世界に拡大したい、あるいは国際秩序を構築したいという思いからではなく、国内でリベラルな民主主義を守るための必要性に駆られてのことだった。民主的な統治の価値を信じる現在のアメリカ人にとっての最大の課題も、まさに、国内で機能する民主主義を再建することに他ならない。必要なのは、アメリカは自らがイメージする通りに戦後世界を形作ったとする空想上の過去に戻ることではない。幸い、国内の民主主義を再建するために、中ロその他の国の人々にアメリカの自由主義思想を受け入れてもらう必要はないし、他国の政治制度を民主体制に変える必要もない。むしろ、1963年にケネディが語ったように、自由主義であれ、非自由主義であれ、「多様性を受け入れる」世界秩序を維持するだけで十分ではないか。

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