1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

テーマに関する論文

外交的経済パワー乱用の果てに
―― 米単独行動主義で揺らぐ同盟関係

2018年11月号

ジェイコブ・ルー 前米財務長官
リチャード・ネフュー 前国務省次席コーディネーター(経済制裁政策担当)

経済制裁が機能するのは、制裁対象国が行動を変えることで、(制裁を緩和・解除させ)経済的窮状を切り抜けられると確信した場合だけだ。アメリカの要求を受け入れ、合意を順守しているにもかかわらず、解除された制裁の再発動という事態に直面するのなら、合意を順守しようとするインセンティブはなくなる。それだけでない。トランプ政権の関税引き上げ策や対イラン制裁に象徴される単独行動主義は、同盟関係を揺るがし始めている。仏独英などのワシントンの緊密な同盟諸国は、イラン政府と直接接触して、アメリカの制裁を回避し、核合意を維持していくために、ドルを基盤とする金融システムから決済を迂回させる方法を特定しようと試みている。仮に他の諸国が連帯してアメリカの制裁を拒絶するようになれば、ワシントンはすべての国に制裁を課すか、制裁を断念するかしかなくなる。・・・

中ロによる民主国家切り崩し策
―― 台頭する権威主義モデルと追い込まれた欧米

2018年11月号

アンドレア・ケンドール=テイラー  新アメリカ安全保障センター シニアフェロー
デビッド・シュルマン  国際リパブリカン研究所 シニアアドバイザー

民主主義を切り崩していけば、欧米の影響力低下というトレンドを加速し、ロシアと中国の地政学的目標を促進できる。これが、中ロが共有している中核ビジョンだ。自国のパワーをアメリカのそれと比較して相対的に捉えるモスクワと北京は、欧米民主国家を衰退させれば、自国の国際的な地位向上につながると考えている。ロシアが民主体制を様々な方法で混乱させ、切り崩す一方で、中国が欧米民主主義の代替モデルを示し、困難な状況にある国に援助や投資を提供することで、弱体な民主国家が欧米から離れていく環境が作り出されている。これが侮りがたい権威主義モデル台頭の潮流を作り出しつつある。

変化する中国人の対米イメージ
―― 米中関係の好転が期待できぬ理由

2018年11月号

チェン・リー ブルッキングス研究所シニアフェロー

中国経済の健全性と政治の軌道を左右する重大な社会集団である中間層の不安と不満が高まっている。株式市場も人民元も下落し、不動産バブルの崩壊リスクの地理的広がりが拡大している。経済成長率の鈍化に加えて、政治腐敗、環境悪化、政治および思想領域での統制強化などを前に、中間層は政府批判を強めている。しかし、ワシントンの対中強硬策がこの流れを変えるかもしれない。米大統領就任1年目にはトランプに好意的だった中国メディアも、いまや貿易摩擦の責任の大部分を「クレージーで強欲な」米大統領のせいだと批判し、アメリカを「丘の上の輝ける町」として捉える中国人は少なくなっている。北京の指導者と中間層の複雑な関係を的確に理解しない限り、アメリカの政策立案者と専門家は対中貿易強硬策の効果を正確に評価できないだろう。

トランプが思うままに行動できる理由
―― 形骸化した抑制と均衡

2018年11月号

ジェームズ・ゴールドガイアー アメリカン大学教授(国際関係論)
エリザベス・N・サンダース ジョージタウン大学外交大学院准教授

なぜドナルド・トランプ米大統領は好き勝手に振る舞えるのか。実際には、これは、トランプ個人に留まる問題ではなく、アメリカ政治を支えてきた抑制と均衡のシステムが形骸化していることで引き起こされている。米議会の外交専門家が少なくなり、国務省は虐げられ、国家安全保障会議が肥大化している。同盟国の立場も公然と無視されるようになった。トランプは、かねて進行してきたこのシステムの劣化を前に、暴走しているに過ぎない。大統領権限の拡大を阻止したいのなら、トランプが引き起こしたダメージだけでなく、そのダメージが明らかにしたより根深い問題、つまり、大統領権限の抑制を担うべき組織が、その意欲と能力の双方を着実に失っているという現実に対処していかなければならない。

トランプ・ドクトリン
―― 対イラン経済制裁への参加がなぜ必要か

2018年11月号

マイク・R・ポンペオ 米国務長官

トランプ大統領が引き継いだのは、第一次世界大戦や第二次世界大戦前夜、あるいは冷戦のピーク時に匹敵する危険な世界だ。しかし、先ず北朝鮮に、そして現在はイランに対して大統領がみせている破壊的なまでの大胆さは、明確で強い信念と、核不拡散と強力な同盟関係を重視する姿勢を組み合わせれば、いかに多くのことを成し遂げられるかを示している。・・・率直な態度は交渉を妨げるという、古臭い思い込みにとらわれている人々も、ターゲットを絞り込んだレトリック、現実的な圧力行使策が、アウトロー国家を変化させ、現在も変化させつつあることを認めるべきだ。・・・われわれは、(イランとの)戦争は望んでない。しかし事態をエスカレートさせれば、イランの敗北に終わることを、われわれは明白にしておく必要がある。

ジェネレーション・ストレス
―― いまアメリカの大学で何が起きているか

2018年11月号

シルビア・マシューズ・バーウェル アメリカン大学学長

2007年以降の10年間で、心理療法を受けているアメリカの大学生の割合は13%から24%へ上昇している。高等教育の中核ミッションの一つが、学生たちを試し、答をみつけさせることにあるだけに、メンタルヘルスの課題に対処していくのは複雑な課題になる。端的に言えば、大学は学生たちにとって本来容易な場所ではない。大学教育の特徴である、学習面での困難さとストレス間のバランスをどのようにとらせ、一方で学生のメンタルヘルスをどのように支えていくかは、次第に綱渡り並みの難しさを伴うようになった。大学での経験から、課題から逃げることを身につけさせてはならない。結局のところ、人生は課題にあふれている。課題が引き起こすストレスに対処していく方法を学ばせなければならない。

気候変動で慢性化した異常気象
―― そのダメージとコストに対処するには

2018年11月号

ケイト・ゴードン リッジ・レーン パートナー
ジュリオ・フリードマン コロンビア大学 グローバルエネルギー政策センター シニアリサーチフェロー

気候変動に派生する異常気象が引き起こす災害への対応コストは膨れあがり、いまや短期的な緊急対応能力だけでなく、長期的な投資や経済成長も脅かされつつある。しかも、異常気象は1度きりの出来事ではなく、いまや慢性化しており、これを管理していくには、現在の政策決定者の気候変動に対する捉え方とはまったく異なるアプローチが必要になる。すでに気候変動のインパクトを前に、企業は工場を移動させ、ビジネスモデルを見直し、国防総省は、海面水位の上昇が慢性化していることのリスクを認め、今後10年間で海軍基地に対するリスク管理と適応のための計画をまとめている。異常気象が、一過性の風邪ではなく、慢性疾患化していることを認識した上で、それに即した計画で備える必要がある。

接近するイスラエルと中国
―― 何が両国を結びつけているのか

2018年11月号

エリオット・エーブラムス 米外交問題評議会シニアフェロー

もちろん、中国とイスラエルは自然のパートナーではない。面積、人口構成、地政学的志向からみても、大きな違いがある。しかもイスラエルは、中国と世界規模でライバル関係にあるアメリカと密接な関係にある。それでも、中国とイスラエルの関係はさまざまな領域で急速に進化している。過去数年間で著しい拡大をみせているのが、貿易、投資、教育交流、観光の分野だ。中国は、イスラエルに投資チャンスと最先端技術を提供してくれる拠点を新たに見出している。イスラエルにとっても、中国との関係は、アメリカと欧州連合(EU)を越えた世界との関係を構築するというネタニヤフ首相の戦略の最近の成功例とみなせる。・・・

長期化する金融危機の政治的余波
―― 極右政党の勢いが止まらない理由

2018年11月号

マヌエル・フンケ 独キール世界経済研究所 リサーチャー
モリッツ・シュラリック ボン大学 教授(経済学)
クリストフ・トレベック 独キール世界経済研究所 教授(経済学)

なぜ金融危機は大きな政治的混乱を伴うのか。それは、危機に人が介在しているからだ。民衆は、危機を回避できなかったエリートたちを糾弾する。実際、富と権力をもつ者たちが政策上の失敗を犯し、縁故主義に走ることは多く、この場合には、既存の政治システムへの信頼が損なわれ、極右のポピュリストが台頭する。もっとも、危機から5年もすれば、議会における政党の乱立と分裂現象は影を潜め、極右勢力は勢いを失う。だが2008年の金融危機は違う。10年を経ても、政治勢力の細分化や分裂、極右勢力の台頭が続き、確立されていた政治システムが一連の衝撃によって波状的に揺るがされている。その理由は・・・

ドイツにおける「ポスト真実」の政治
―― 民主主義と憲法の危機

2018年11月号

ゲオルク・ディーツ デア・シュピーゲル誌エディター

問題が起きたことが社会で広く認識されなければ、それを事件とみなし、解決策を考えることもできない。ケムニッツでドイツ人が難民に殺害された後、レイシストたちが移民や見た目の違う人々を口汚く罵り、追い回して「奴らを殺したい」と叫んでいたことについては目撃者がいるだけでなく、ビデオにも収められている。それでも、一部の右派政治家たちは、「そのようなことは起きなかった」と発言し、しかも、こうした政治家たちが責任を問われることもなかった。これまでなら、異なる見解は認められたが、明らかな嘘や間違いが許容されることはなかった。だが、アメリカ同様にドイツでも、そうして真実の時代と政治が終わりつつある。

Page Top