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テーマに関する論文

トランプとファーウェイの「政治学」
――  「合法的逮捕」と「人質外交」の間

2019年3月号

シメーヌ・カイトナー カリフォルニア大学教授(国際法)

トランプ大統領が、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟がカナダで逮捕されて数日後のインタビューで、貿易に関して中国から合意を引き出す上で有効と考えられるなら、彼女のケースに「介入する」つもりだと語ったことは、「合法的な逮捕」と「人質外交」の線引きを曖昧にする問題発言だった。当初は、逮捕が政治的な動機に基づくものではないとみなす根拠があった。実際、米司法省は企業の不正行為を巡って個々の経営幹部の責任追及を優先的に行う方針をかねて表明していた。トランプの発言は、このような了解に水を差してしまった。こうして、北京は、逮捕は政治的な動機に基づくものだという見方を強め、これを中国の技術的な発展を妨げようとするアメリカの活動の一環とみなしている。

米中貿易戦争とファーウェイ
―― テクノロジー競争の政治学

2019年3月号

ロバート・ウィリアムズ イェール大学講師

「中国の民間企業に対する共産党の影響力が高まっていること」をワシントンは懸念し、米議会が指摘している通り、中国政府が悪辣な目的でシステムの使用やアクセスを要請した場合、ファーウェイにはこれに協力する義務があること」を問題にしている。ファーウェイがグローバル市場をリードする5Gネットワークが、スマートグリッドから自律走行車までのあらゆるものを支えるテクノロジーなだけに、懸念は高まっている。中国との貿易交渉をワシントンに有利に運ぶために孟晩舟が逮捕されたとは考えにくい。問題は、テクノロジー、経済政策、国家安全保障領域での欧米と中国間の緊張の高まりと不信感に派生しており、アメリカは、中国の経済政策、政府と民間企業の関係の構造的改革を求めている。

トランプ政権のいかさま経済学
―― 間違った予測と大言壮語

2019年3月号

N・グレゴリー・マンキュー ハーバード大学教授(経済学)

2017年12月、税制改革案を発表したトランプは「この措置で財政赤字が膨らむことはない」と主張し、その理由として経済成長率が3%、4%、5%、あるいは6%にさえ達するからだと主張した。たしかに、「税率が十分に高いレベルにあれば」、税率を引き下げ、成長率を高め、増大した歳入を恵まれない人々のために用いることができる。しかし、近年の税率がそのような高レベルにあったと考えるエコノミストはほとんどいない。トランプ政権は、包括的な政策を示すよりも、経済をもっと急速に成長させればあらゆる問題への解決策になると期待しているようだし、この経済成長は減税措置と規制緩和によって必然的に実現すると確信しているようだ。それが可能なら素晴らしいが、これは希望的観測である可能性が大きい。

米外交と政権内分裂の終わり
―― 予測可能な外交と不安定化する秩序

2019年3月号

トマス・ライト ブルッキングス研究所 米欧センター所長

トランプ政権が予測不能とみなされるのは、彼のビジョンではなく、「大統領」と「国家安全保障エリート」が政策をめぐって闘いを繰り広げてきたためだ。しかし、いまや外交チームは大統領の考えを中心にまとまりをみせ、「トランプ政権の外交政策」を特定できる環境にある。取引を重視する外国との限定的な関係、民主国家よりも権威主義国家を好ましくみなす態度、重商主義的な国際経済政策、人権と法の支配の軽視、多国間協調主義を犠牲にしたナショナリズムと単独行動主義路線。これらが、現在の米外交政策を規定している。皮肉にも、アメリカの外交政策がより一体化され、予測可能になったことで、アメリカの影響力は弱まり、国際秩序が不安定化する恐れがある。政策的に統一されたトランプ外交が世界に衝撃を与える時期が始まろうとしている。

福祉国家の崩壊とナショナリズムの台頭
―― ナショナリズムはいかに復活したか

2019年3月号

ジャック・スナイダー コロンビア大学教授(国際関係論)

1980年代以降、先進国のエリートたちは、かつて政府が資本主義を制御するのを可能にした(社会保障制度などの)政治的管理体制を新自由主義の名の下に段階的に解体し始め、国の民主的体制を国際市場のロジックに適合するように見直しただけでなく、政策決定を市民への説明責任を負わない官僚や超国家組織に委ねてしまった。これが、欧米で「ポピュリスト・ナショナリズム」を急激に台頭させる環境を作り出した。ナショナリズムジレンマを解くには、レッセフェール政策そして説明責任を負わない超国家主義を放棄し、国家レベルでの民主的説明責任、競合する優先課題をめぐる妥協、そして国際機関との経済的調整といった戦後リベラリズムの基本的やり方を復活させなければならない。

「われわれと彼ら」の生物学
―― ナショナリズムの脳メカニズム

2019年3月号

ロバート・サポルスキー スタンフォード大学教授 (生物学、神経外科学、神経学、神経科学)

人間の脳は、帰属する集団メンバーとアウトサイダーを瞬時に区別して、メンバーには親切に、アウトサイダーには敵対的に接するように仕向ける。集団への帰属に関する限り、人類はウガンダの森で殺し合いをしているチンパンジーと大差ない。だが、最初のネガティブな感情を克服した後の二次的な修正的段階で、他者への攻撃性を抑えるようになり、今日の「彼ら」が明日には「われわれの一部」になることもある。しかし、これは大した慰めにはならない。人が自分の忠誠を国家、肌の色、髪、スポーツチームに求めるのが、硬貨の裏表で勝敗を決めるやり方のように「偶発性」に左右されることを頭で理解しても、集団意識を形作る心理的ベースは変化しないからだ。心のなかで、新しいチームメートが翌日には再び敵になってしまうこともある。

国家を支えるナショナリズム
――  必要とされる社会契約の再定義

2019年3月号

アンドレアス・ウィマー コロンビア大学教授(政治哲学)

国家への忠誠が、外国人、反抗的とみなされている国内の少数派などの他者を悪魔視することにつながるのは事実だ。だがナショナリズムとは、啓蒙的な教育を通じて現代政治から消し去れるような不合理な感情ではない。ナショナリズムは近代世界における基本原則であり、評論家が認める以上に広く受け入れられている。実際、民主主義、福祉国家、公的教育のような制度にイデオロギー的基盤を提供してきたのはナショナリズムだ。これらのすべてが、目的と相互義務を共有する統合された民衆の名の下に正当化されてきた。新旧の国民国家にとっての課題は、網羅的な連帯を構築、あるいは再構築することで、社会的盟約を刷新することだろう。政治的参加が拡大すれば、より穏やかなナショナリズムが育まれる。

デジタル世界に即した統治システムを
―― 社会・経済のデジタル化を恩恵とするには

2019年3月号

クラウス・シュワブ 世界経済フォーラム創設者兼会長

保護主義は解決策にはならない。本当の課題は、物理的な製品の生産と取引の重要性が年を追う毎に低下し、今後のグローバル経済で重視される競争上の優位が、低コスト生産ではなく、イノベーション、ロボット化、デジタル化の能力に左右されるようになることだ。そして、今後のグローバルな統合は国家間のデジタル及び仮想システムの接続、これに関連するアイデアとサービスの流れに依存するようになる。これがグローバル化4・0の中核だ。しかし一方で、デジタル化は問題も伴っている。格差を拡大しているだけでなく、いまや人間ではなくアルゴリズムが、われわれが(ネットで)見るものと読むものを決めている。現状の課題への対応に成功するか、失敗するかが、次世代の生活の質を左右することになる。

三つの核危機シナリオ
―― 北朝鮮、ロシア、イランに対する間違った戦略

2019年3月号

ニコラス・J・ミラー ダートマスカレッジ アシスタント・プロフェサー(政治学)
ビピン・ナラン マサチューセッツ工科大学准教授(政治学)

北朝鮮による一方的核放棄というフィクションを維持し、北朝鮮の核・ミサイル実験の再開を阻止するために、トランプは金に譲歩して、一部の制裁緩和、あるいは和平合意に向けたプレリュードとしての米軍の地域的プレゼンスの再編に応じるかもしれない。これによって現状は続き、問題は先送りされる。だが、北朝鮮の核開発という現実を否定することに依存する戦略は、いずれ内側あるいは外側から破綻して暴走し始め、これが北朝鮮との新たな核危機につながっていくリスクがある。一方、INF条約からの離脱でロシアとの軍拡競争が過熱していくのも、アメリカの核合意から離脱によって、イランが核開発に立ち返り、緊張が高まるのもおそらく避けられないだろう。下手をすると、世界は三つの核危機に直面する恐れがある。

北京の宗教政策の意図
―― 宗教・政治・社会のハイブリッドイデオロギー

2019年2月号

イアン・ジョンソン ピューリツアー賞受賞作家(在中国)

教会の十字架は取り外されて閉鎖され、モスクも解体され、イスラム教徒は収容施設に送られている。しかし、現在の中国は、毛沢東期のように、競合する集団や信仰システムをすべて周辺化するのではなく、むしろ、政府にとって都合のよい民間宗教、仏教、道教などの宗教集団やシステムを取り込もうとしている。要するに、帝国時代と同様に、信仰を許容しつつも、何が正統で何が異端であるかを政府が定義している。人々の信仰にまで立ち入るのは、中国社会が漂流し、シニカルになり、価値を喪失していることを政府も理解しているからだ。宗教と政治が重なり合って社会抗争と暴力を引きおこしているアジアの国と言えば、多くの人はインド、インドネシア、パキスタンを思い浮かべる。だが近い将来に、このリストに中国の国名を見出すことになるかもしれない。

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