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テーマに関する論文

氷床後退とグリーンランドの機会
―― 飲料水ビジネスとデンマークからの独立?

2019年9月号

マシュー・バークホールド オハイオ州立大学アシスタント・プロフェッサー

グリーンランドの氷床が溶け出し、後退しているのは、温暖化の驚くべきパワーとスピードを物語っているが、グリーンランド政府と起業家にとってこれは大きなチャンスでもある。ボトル飲料水は成長産業であり、グリーンランド政府にとって、これが、デンマークへの経済依存を脱し、独立を目指す機会を作り出すかもしれないからだ。住民の多くは20年以内にデンマークから独立することを望んでいる。石油や(ウランその他の)資源開発計画を含む、財政自立プロジェクトの多くがこれまでのところ実現していないだけに、グリーンランドはその豊かな水資源で財政を支えていくことを期待している。世界はスーパーマーケットの棚に近く、グリーンランドの一部を見出すことになるかもしれない。もちろん、それが独立への道を切り開くかどうかは、現状では分からない。

核をめぐるイランの立場
―― 問題を作り出したトランプは何をすべきか

2019年9月号

サイード・ホセイン・ムサビアン 元イラン核交渉チームメンバー

この2年にわたって、国連と国際原子力機関(IAEA)が、「イランが核合意で規定された条件を守っていること」を示す15の報告書を出してきたにもかかわらず、アメリカは経済制裁を再発動し、敵対的なレトリックでイランを攻撃している。イラン人は、合意を守らなかったのはアメリカで、イラン政府ではないと信じている。仮にテヘランが核合意や核不拡散条約(NPT)から離脱しても、最高指導者ハメネイのファトワ(宗教令)がイランの核開発を阻むことになる。2003年にハメネイは核兵器の所有と蓄積をファトワで公式に禁止している。イランとの交渉を望むと繰り返し発言しているトランプにその気があれば、最高指導者のファトワを基盤に包括的な合意をまとめる外交交渉の道は依然として残されている。

フェイスブックとテンプル騎士団
―― 暗号通貨リブラのポテンシャルとリスク

2019年9月号

ケビン・ワーバック ペンシルベニア大学  ウォートンスクール教授

今も昔も、国境を越えて資金を移動させるのは容易ではない。十字軍のメンバーたちが聖地への長旅の資金をどうするかという問題を解決したのは、ヨーロッパから中東にかけての遠大なネットワークをもつテンプル騎士団が発行した手形だった。現在も外国送金にはコストも時間もかかる。これを魔法のように解決してくれるのが、ブロックチェーンを基盤とするフェイスブックの暗号通貨・リブラだ。暗号通貨なら、ユーザーは、メッセージやビデオを送るのと同じスピードで送金できるし、銀行へのアクセスをもたない人にも恩恵をもたらせる。但し、この構想が実現すれば、既存の金融機関は追い込まれ、資金洗浄やテロ資金に悪用されるリスクもある。資本規制をしている国の中央銀行のパワーも低下させるかもしれない。驚異的な利便性の一方で、富の移転を規制し、監視する立場にある政府にとっては非常に厄介な事態が作り出される。

中国対外行動の源泉
―― 米中冷戦と米ソ対立の教訓

2019年9月号

オッド・アルネ・ウェスタッド イェール大学教授(歴史・国際関係)

中国はかつてのソビエト同様に、共産党が支配する独裁国家だが、違いは国際主義(共産主義インターナショナル)ではなく、ナショナリズムを標榜していることだ。ソビエト以上の軍事・経済的なポテンシャルをもち、同様に反米主義のルーツを国内にもっている。しかも、アジアにおけるアメリカの立場と地位を粉砕しようとする中国の路線は、スターリンのヨーロッパに対する試み以上に固い決意によって導かれているし、中ロ同盟出現の危険もある。何らかの(国家的、社会的)統合要因が作用しなければ、目的を見据えて行動するアメリカの能力の低下によって、多くの人が考える以上に早い段階で、恐れ、憎しみ、野望によって人間の本能が最大限に高まるような制御できない世界が出現する危険がある。

米中経済のディカップリングの意味合い
―― 解体するグローバル貿易システム

2019年9月号

チャッド・P・ボウン  ピーターソン国際経済研究所
ダグラス・A・アーウィン ダートマスカレッジ教授(経済学)

トランプ政権が永続的な中国との取引はもとより、北京が受け入れるかもしれない合意など望んでいないことはすでに明らかだ。表面的な合意が結ばれても、それは永続的な貿易戦争の一時的な休戦にすぎない。トランプ政権は、中国政府が「国が支配する経済」から「市場経済」へと一夜にしてシステムを作り替えることを望んでいる。中国経済のあらゆる側面への管理を維持することで、権力を堅持してきた共産党政府がこれを受け入れるはずはない。世界の2大経済大国のつながりが断ち切られ、分裂していけば、世界の貿易地図も書き換えられていく。各国はライバルの貿易ブロックのどちらかを選ばざるを得なくなり、これまでの「グローバル貿易システム」は解体へ向かう。

アメリカは同盟国を本当に守れるのか
―― 拡大抑止を再強化するには

2019年9月号

マイケル・オハンロン ブルッキングス研究所 シニアフェロー(外交政策プログラム)

尖閣諸島の防衛を約束しているとはいえ、中国は「価値のない岩の塊のためにアメリカが大国間戦争のリスクを冒すことはない」と考えているかもしれない。一方、ワシントンが信頼できる形で反撃すると約束しなければ、拡大抑止はその時点で崩壊し、尖閣の喪失以上に深刻な帰結に直面する。アメリカが何の反応も示さないことも許されない。これが「尖閣パラドックス」だ。今後の紛争は、大規模な報復攻撃を前提とする伝統的な抑止が限られた有効性しかもたない、こうしたグレーゾーンで起きる。中国とロシアの小規模な攻撃に対しては、むしろ、経済戦争、特に経済制裁を重視した対応を想定する必要がある。脅威の質が変化している以上、ワシントンは軍事力と経済制裁などの非軍事的制裁策を組み合わせた新しい抑止戦略の考案を迫られている。

ファーウェイのリスクと魅力
―― アメリカは競争環境を整備せよ

2019年9月号

アダム・シーガル 米外交問題評議会  シニアフェロー(新興技術・国家安全保障担当)

ファーウェイのシステムを導入すれば、情報や安全保障上の安全を確保することはできなくなるとワシントンは主張している。しかし、日本とオーストラリアを別にすれば、ヨーロッパや東南アジアの多くの国が、その経済性ゆえに、ファーウェイシステムの導入に前向きになっている。米中の科学技術領域のエコシステムを分断することを重視するワシントンの姿勢は、結局は、アメリカの技術革新のペースを鈍化させることになる。ファーウェイシステムの導入を止めるように大きな圧力をかけるよりも、アメリカは価格や効率面で競合できる代替策を各国にオファーできるように対策をとり、サイバーセキュリティを強化し、5Gテクノロジーおよびその後継テクノロジーをリードできるように研究開発に投資する必要がある。

CFR Briefing
香港はどこへ向かうのか
―― 軍事介入リスクは高まっている

2019年9月号

ジェローム・コーエン ニューヨーク大学ロースクール教授

香港のデモ隊は、1984年の中英共同宣言、香港基本法が定める「一国二制度」が保証していると彼らが考える政治的自由を行使したいと考えている。これまでのところ北京は、高まる危機への対応を香港政府に任せている。しかし、北京の忍耐が限界に近づきつつあることを示す重要なシグナルもあり、人民解放軍が香港に投入されるリスクは高まっている。北京の政府機関とプロパガンダ部門は、香港のデモを「テロ活動」と呼び、混乱は香港でカラー(民主化)革命を起こそうとするアメリカの「ブラックハンド」が引き起こしていると主張している。香港を軍事的に弾圧すれば、1989年の天安門事件以上に、中国の国際関係にダメージを与えることを北京は理解している。しかし、必要であれば軍事力の行使も辞さないだろう・・・2019年10月1日に中華人民共和国建国70周年を祝った後に、北京は人民解放軍を投入するかもしれない。そうなれば、香港と香港住民だけでなく、中国の世界における立場、国際安全保障にとっても悲劇的な展開となる。

北京の香港ジレンマ
―― 中国が軍を送り込まぬ理由

2019年9月号

ビクトリア・ティンボー・ホイ ノートルダム大学准教授(政治学)

最近の世論調査では、住民の73%が香港政府は逃亡犯条例を正式に撤回すべきだと答え、79%が警察の職権乱用に対する独立調査の実施を支持すると答えている。一方、北京は抑圧を強化していくことを示唆している。これまでのところ、(警察や犯罪組織による暴力と(北京による)威嚇策は、慣れ親しんできた自由を守ろうとする香港住民の決意を逆に高めている。第2の天安門を懸念する専門家もいる。実際、北京は香港の行政長官に軍事的支援を求めさせることもできる。しかし、中国軍が香港のデモ鎮圧に介入する可能性は低い。香港はアジアの主要な金融センターであり、中国とグローバル経済との重要なつながりを提供しているからだ。北京は香港の自治という「体裁」を維持していく強いインセンティブをもっている。

CCPと天安門事件の教訓
―― 中国を変えた政治局秘密会議

2019年9月号

アンドリュー・J・ネイサン コロンビア大学教授

天安門危機で学生たちへの和解的アプローチを提唱した趙紫陽はポストを解任された上、自宅監禁処分とされ、この処分は2005年に彼が死亡するまで続けられた。天安門の弾圧から約2週間後、共産党政治局は「拡大」会議を招集する。保守派が勝利したこの会議で、「中国共産党は内外の敵の共謀によって脅かされている」という認識が確認された。(国内・党内の敵とみなされた)趙紫陽は、報道の自由を認め、学生と対話の場をもち、市民団体の活動規制を緩和すべきだと考えていた。だが、中国政府は別の選択をし、結果的に「改革と統制」の間の永続的な矛盾を抱え込んでしまった。こうして引き起こされる社会的緊張は、習近平が人々の所得レベルを向上させ、高等教育を拡充し、民衆を都市に移住させ、消費を奨励するにつれて、ますます高まっていく。政府にとって、天安門事件はいまも忌まわしい前兆を示す教訓であり続けている。

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