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テーマに関する論文

変貌したメディアと民主主義
―― ネットと商業主義と真のジャーナリズム

2019年10月号

ジェイコブ・ワイズバーグ スレートグループ 前エディター

2008年から2017年までに、新聞ジャーナリストの数はほぼ半分に落ち込んだ。報道機関に残れた者も、「社会的地位と信頼性が失われた」と感じている。2018年の調査によれば、アメリカ人の69%が、2008年以降の10年間でニュースメディアへの信頼を失っている。しかも、ジャーナリストたちは、フォックス・ニュースや米大統領の言うことを信じ、ソーシャルメディアで挑発的なメッセージを流す人々の攻撃にさらされている。世界的にみても前向きなトレンドはほとんど見当たらない。それが何処であれ、未来の報道については同じ疑問がもたれている。それは、「民主社会を機能させるために必要なジャーナリズムをどうすれば再建できるか」という問いに他ならない。

ヨーロッパが直面する中国の脅威
―― 欧州に対抗策はあるか

2019年10月号

ジュリアン・スミス 前米副大統領副補佐官(国家安全保障担当) トーリー・タウシッグ ブルッキング研究所 米欧センター フェロー(非常勤)

EUは、中国を「代替統治モデルを促進するシステミックなライバル」とみなし、域内の産業基盤を強化することを求め、中国の投資に対するスクリーニングを強化している。問題は、ベルリン、パリ、ブリュッセルで対中政策上の戦略シフトが起きているのに対して、小国の指導者たちが中国との関係強化によって得られる利益だけを依然として重視しているために、ヨーロッパ内に分裂が存在することだ。しかも、対中国の米欧協調も容易ではない環境にある。ワシントンのような対中強硬策をとる必要はないが、ヨーロッパにおける政治・経済領域での影響力を拡大しようとする中国の試みを受け入れるべきではない。リベラルな秩序の開放的で民主的な体質を中国の影響から守らなければならない。・・・

日韓対立と中国の立場
―― 東アジア秩序の流動化の始まり?

2019年10月号

ボニー・S・グレーサー  戦略国際問題研究所 ディレクター(中国パワープロジェクト) オリアナ・スカイラー・マストロ   アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所 レジデントスカラー

日韓関係の亀裂を利用しようとする中国の最終目的が何かは明確ではない。韓国にアメリカとの同盟関係を破棄するように公然と促してはいないし、第二次世界大戦期の残虐行為にペナルティを課す対日キャンペーンを展開するようにけしかけてもいない。むしろ、日韓関係の緊張をアメリカのリーダーシップの衰退として認識させようとしている。アジアにおける米同盟システムが十分に傷つくほどに緊張が高まることを望みつつも、日韓関係が完全に破たんしてしまうほど悪化することは望んでいない。とはいえ、北京は、近隣諸国が中国のことを「アメリカよりも信頼できるパートナー」と位置づけることを望んでいる。もちろん、その結果、東アジアの優先順位とパワーが大きく変化すれば、アメリカの地域的立場は形骸化し、アジアの戦後秩序は再編へ向かうことになる。

ドゥテルテの強権主義の秘密
―― ダバオモデルとフィリピンの社会契約

2019年10月号

シーラ・S・コロネル コロンビア大学 ジャーナリズム・スクール 教授

「面倒はみる。だが質問はするな」。これが、ドゥテルテがかつてはダバオ住民に、現在はフィリピン民衆に示している社会契約だ。彼はドラッグユーザーや犯罪者対策のために「殺人部隊」を使用していると言われる。法の支配と人権は明らかに無視されている。だが、その乱暴な権力行使にもかかわらず、ドゥテルテは民衆に支持されている。任期6年の半分終えた時点で、支持率は80%近い。彼の中核的支持基盤は中間層で、これには、マニラその他の都市のコールセンターで働く人々、世界各地で働くフィリピン人の子守、看護婦、船舶乗組員、建設労働者も含まれる。ドゥテルテの支持基盤はこうした勤勉で向上心をもつ人々で構成されている。この構図のなかで、彼は麻薬との戦争、そして貧困層への戦争を試みる強権者として君臨する一方、施策をミクロレベルでとらえる「フィリピン市長」として振る舞っている。・・・

習近平と中国共産党
―― 党による中国支配の模索

2019年10月号

リチャード・マクレガー  豪ローリー・インスティチュート シニアフェロー

胡錦濤の後継者として習を指名した2007年当時、共産党幹部たちも「自分たちが何をしたのか分かっていなかった」ようだ。国家を激しくかき回すであろう強権者を、彼らが意図的に次期指導者に選んだとは考えられない。「妥協の産物だった候補者が妥協を許さぬ指導者となってしまった」というのが真実だろう。最高指導者となって以降の最初の200日間で、彼は驚くべきペースで変化をもたらした。共産党への批判も封じ込めた。対外的には「一帯一路」を発表し、台湾問題を「次世代に託すわけにはいかない政治課題」と呼んだ。しかも、2017年に彼は国家主席の任期ルールを撤廃し、実質的に終身指導者への道を開いた。毛沢東でさえも政治的ライバルがいたが、習は一時的ながらもライバルがいない状況を作り出している。だが、中国経済が停滞すれば、どうなるだろうか。2022年後半の次期党大会前に、習による行き過ぎた権力集中は彼自身を悩ませることになるはずだ。・・・

プーチンとロシア帝国
―― なぜ帝国的独裁者を目指すのか

2019年10月号

スーザン・B・グラッサー ニューヨーカー誌 スタッフライター

青年期のプーチンが信じたのは、学校で強制されるマルクス・レーニンのイデオロギーではなかった。それは、英雄的な超大国のイメージ、廃れてはいても依然として野心を捨てていないホームタウン、サンクトペテルブルクの帝国的な壮大さだった。力こそが彼の信じるドグマであり、幼少期に暗記させられた「労働者の英雄主義」よりも、皇帝たちのモットーだったロシアの「正統性、独裁制、民族性」の方が、プーチンにはなじみがよかった。若手のKGBエージェントだった当時から、そうした帝国思考をもっていたとすれば、その多くが「永続的な不安」によって規定されている長期支配のパラドックスに直面しているいまや、彼の帝国への思いと志向はますます大きくなっているはずだ。

人口減少と資本主義の終焉
―― われわれの未来をどうとらえるか

2019年10月号

ザチャリー・カラベル 作家、コラムニスト、投資家

ゼロ成長やマイナス成長の社会ではいかなる資本主義システムも機能しない。その具体例が、高齢化し、人口が減少している日本だ。人口の成長がゼロかマイナスの世界では、おそらく経済成長もゼロかマイナスになる。人口規模の小さな高齢社会では消費レベルも低下するからだ。既存の金融・経済システムが覆されることを別にすれば、これに関して、本質的な問題はない。今後、人口比でみれば、十分な食糧が供給され、潤沢に商品が出回るようになるかもしれない。気候変動への余波も緩和されるだろう。だが、資本主義はうまくいってもぼろぼろになり、悪くすると、完全に破綻するかもしれない。今後、世界の人口が減少してゆけば、経済成長は起きるだろうか。この設問にどう応えるかの準備ができていないだけでなく、どう答えるかさえ考え始めていない。これが世界の現実だ。

中国ミサイル戦力の脅威
―― INF条約後の米アジア戦略

2019年10月号

アンドリュー・S・エリクソン 米海軍大学教授(戦略学)

ヨーロッパの安全保障に配慮して)米ロが締結したINF条約は、これまでもワシントンのアジア戦略に対する拘束を作り出してきた。この間に、中国は世界有数の通常ミサイル戦力を整備し、(米ロ間では)生産が禁止されてきたタイプの地上配備型の射程500―5500キロのクルーズミサイル、弾道ミサイルを十分過ぎるほどに開発している。実際、サイバー空間のディスラプティブテクノロジー(破壊的技術)を別にすれば、中国のミサイル戦力を中心とする軍備増強が、アジアにおけるアメリカのパワーと影響力を形骸化させる最大の要因になるかもしれない。ワシントンはこれに対抗して地上配備型ミサイルを基盤とする抑止をアジアで構築すべきかもしれない。幸い、INF条約の死滅によって、ワシントンは、自国に有利な形へ軍事バランスをリセットするために必要な機会を手にいれている。

香港と天安門の影
―― 繰り返されるエスカレーションの連鎖

2019年10月号

オービル・シェル  アジアソサエティ 米中関係センター ディレクター

香港での抗議行動が続き、住民の行動がさらに怒りに満ちたものへ変化していけば、介入の前提とされる大義と正当化の理屈を北京に与えることになる。1989年の天安門でのデモ活動は、中国共産党に対抗する力強い運動はつねに抜き差しならぬ対立に終わることを教えている。実際、民主的理想主義に突き動かされた抗議行動への対処策については、北京は抑圧以外に頼るべきツールをもっていない。中国という祖国が拒絶され、批判され、その名誉が傷つけられていると感じれば、習近平が介入を躊躇うことはない。1989年6月4日、鄧小平はついに抑制をかなぐり捨て、天安門のデモ隊を虐殺した部隊の投入を命じた。当時と現在の状況が驚くほど似てきているだけに、香港が同じような結末にならないか、いまや憂慮せざるを得ない状況にある。

中国共産党とフェミニスト
―― 国と社会と女性運動

2019年9月号

スーザン・グリーンハル ハーバード大学研究教授(中国研究)
王曦影 北京師範大学教授

中国の若いフェミニストたちは、家庭内暴力を取り締まる法制定を求め、メディアと文化における女性に対するハラスメント、攻撃、蔑視を批判し、大学入学・雇用・職場おける性差別に対する不服を唱えてきた。だが、この国では、許されることと許されないことの境目は常に動いている。新たな人物を逮捕するたびに、党と国家はこのみえない線を動かしている。フェミニスト運動を展開した5人の中国人女性、「フェミニスト・ファイブ」は、自分たちの活動が境界線の安全な側にあると思っていたが、治安当局はそれが許容できない側にあると判断した。こうして「フェミニズム」という言葉は軽蔑語にさえなった。中国のマスメディアは、フェミニストを社会でもっとも魅力のない女性として描き、フェミニストの書いたものはネット上で日常的に攻撃され、検閲されている。現在の中国は、毛沢東期のスローガン、「女性は天の半分を支えている」からは程遠い状況にある。

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