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テーマに関する論文

習近平とコロナウイルス
―― トップダウン型危機管理の弊害

2020年3月号

エリザベス・エコノミー 米外交問題評議会 シニアフェロー(中国担当)

コロナウイルスのアウトブレイクは、習近平政権にとって最悪の人道・経済危機に向かっている。もちろん、国家主席が辞任するはずはない。習近平は、まさにこうした危機に持ちこたえられる政治システムの構築に就任後の7年を費やしてきた。国営メディアは国家主席の役割を、背後からリードする、最終権限をもつ最高指揮官であると強調し、武漢の病院を視察し、患者をいたわる役目は李克強首相や孫春蘭国務院副総理が担っている。要するに、現地で起きている危機と習近平の間には、党の官僚制度内のステータスを分ける階層の数だけバッファーが存在する。だが、ウイルスを封じ込めるのに時間がかかれば、その分、今回の危機で生じた(政治的・社会的)亀裂は大きくなり、それが引き起こす問題も深刻になる。多くの中国人が望んでいるのは、他の国の市民が望むのと同じことだ。なぜ今回のようなことが起き、二度と起きないようにするには何が必要なのか、そして誠実な政治家が「責任は自分がとる」と語ることだ。・・・。

アメリカのリーダーシップと同盟関係
―― トランプ後の米外交に向けて

2020年3月号

ジョセフ・バイデン  前米副大統領

気候変動にはじまり、大規模な人の移動、テクノロジーが引き起こす混乱から感染症にいたるまで、アメリカが直面するグローバルな課題はさらに複雑化し、より切実な対応を要する問題と化している。しかし、権威主義、ナショナリズム、非自由主義の台頭によって、これらの課題にわれわれが結束して対処していく能力は損なわれている。地に落ちたアメリカの名声とリーダーシップへの信頼を再建し、新しい課題に迅速に対処していくために同盟諸国を動員しなければならない。アメリカの民主主義と同盟関係を刷新し、アメリカの経済的未来を守り、もう一度、アメリカが主導する世界を再現する必要がある。恐れにとらわれるのではなく、いまはわれわれの強さと大胆さを発揮すべきタイミングだ。

CFR Updates
コロナウイルスと中国のハイテク企業

2020年3月号

ローレン・ダドリー CFRリサーチアソシエーツ 、アダム・シーガル CFRシニアフェロー

数多くの中国のハイテク企業は、医師や看護婦などの感染症対策の最前線で働く人々にテクノロジーと財的支援を提供している。チャイナ・モバイル、チャイナテレコム、チャイナ・ユニコム、ファーウェイはすべて5Gの機器とサービスを武漢に新設された火神山医院に提供している。アリババも政府系の研究所に、ワクチンや新薬の開発に役立つAI(人工知能)能力への無償アクセスを提供すると発表している。感染症を北京がなんとか制御しようと試みるなか、テクノロジー企業も感染症対策をめぐって重要な役割を果たしている。しかし、そうした努力の目的は、おもに政府の対応を助け、「自分たちが大衆の反動の標的とされるのを避けること」にある。北京の官僚たちは、感染した個人の行動を追うために民間のビッグデータをさらに統合することを求めている。ウォールストリート・ジャーナルが伝えたように、北京は、すでにそのサーベイランス(監視)能力と、航空会社、電話会社、公共交通システムを含む国有企業のデータを利用して、ウイルスの動きを追い、感染者を隔離している。感染症対策が作り出す流れのなかで、中国のテクノロジー企業と国家・政府との関係はさらに緊密なものになっていくと考えられる。

最悪の事態に備えるべき理由
―― 新型コロナウイルスにどう対処するか

2020年3月号

トム・イングルスビー  ジョンズ・ホプキンス 公衆衛生大学院 ヘルス・セキュリティセンター 所長

ウイルスが人類社会に与える衝撃の規模は、その感染力がどの程度で、感染した人の致死率がどの程度になるかに左右されるが、これらを的確に判断できる状況にはない。封じこめがうまくいかず、グローバルなアウトブレイク(パンデミック)になる可能性もある。これまでのところ、中国の管理措置ではウイルスを抑え込めていないようだし、ウイルスはいずれ変異し、致死率と拡散能力を変化させていく。効果的なワクチンがあれば、感染ペースを鈍化させ、感染症のインパクトを大幅に緩和できるようになるが、ワクチン開発にはかなり時間がかかる。政府と公衆衛生当局は、分かっていることと分かっていないことを区別し、正確に情報を伝え、良い知らせであれ、悪い知らせであれ、情報提供を控えてはならない。各国政府は、新型ウイルスを封じ込められず、深刻で致死性の高い感染症として世界で猛威を振るうかもしれないリスクを認識し、最悪の事態に備えた行動をとる必要がある。

メリトクラシーと新エリート
―― 中間層の崩壊とエリートの呪縛

2020年2月号

ニコラス・レマン  コロンビア大学ジャーナリズム大学院 名誉学長

法学者ダニエル・マルコビッチは、ここで取り上げる新著『メリトクラシーの罠』で、メリトクラシー(能力主義)の勝者たちは、エリート校を卒業するや、金融や法律などの領域で莫大な給料を得る「上位労働者」になると指摘している。「自分たちだけが実行できる仕事に大きな報酬が与えられるように経済的価値を定義し直し、あらゆる経済活動を自分たちの管轄にたぐりよせる」。こうして、中間層にとっては「停滞・枯渇し、縮小する世界」が作り出された。機会の平等のためのツールとしてメリトクラシーを正当化し、その結果、格差がこれまでにないレベルに拡大し、特権を覆すどころか、メリトクラシーの勝者には効率的な相続メカニズムの基盤が提供された。・・・但し、このマルコビッチの見方に説得力はない。・・・

欧州連合の未来
―― ヨーロッパの理念に何が起きたのか

2020年2月号

アンドリュー・モラフチーク プリンストン大学教授(政治学・公共問題)

欧州連合に対する批判は「ブリュッセルはもっと活動を縮小しろ、いや、もっと拡大しろ」という二つの批判に大別できる。ともに、EUは国民国家に取って代わろうとしているとみなし、前者はそれに反対し、後者はそれに賛成している。反対派には、イギリスのEU離脱(ブレグジット)派や右派ポピュリストを支える欧州懐疑派、そしてフランス、ハンガリー、イタリア、ポーランドのナショナリスト同盟などが含まれる。これら統合反対派は、われわれは「国民国家を守る」と主張する。「もっと拡大しろ」と考える左派は、右派ほど注目されていないが、ヨーロッパ全体、特にブリュッセルでは右派よりも多数派だ。問題は左派の立場があまりに理念的、夢想的でリアリズムに欠けることだ。・・・

さらなる中東紛争を回避するには
―― 安定化には何が必要か

2020年2月号

ケリー・マグサメン アメリカ進歩センター 副会長(国家安全保障、国際政策担当)

「不必要な戦争」にこだわると大統領としての歴史的評価にどのような影響がでるか、トランプはジョージ・W・ブッシュに話を聞くべきだろうし、泥沼からいかに足を抜くかについては、オバマに電話をすべきだろう。イランにさらにペナルティを課すことを求める有志連合は存在せず、最大限の圧力も望ましい結果につながっていない。しかも、(思うままに行動してきた)トランプは国際コミュニティの潤沢な善意をうまく利用できるような立場にはない。多くの諸国は、トランプ政権のイラン政策を、イラン核合意からの離脱以降の一連のプロセスに派生する「身からでたさび」とみなしている。

ネオリベラリズムの崩壊と新社会契約
―― 社会民主主義では十分ではない

2020年2月号

ミアタ・ファーンブレー ニューエコノミクス財団 チーフエグゼクティブ

格差はつねに資本主義社会の特徴の一つだったが、人々は自分たちの生活の質が改善し、機会が拡大していると感じ、子供たちは自分たちよりも良い生活を送れると期待できる限り、そうした格差に目くじらを立てることはなかった。だが、この数十年でそうした機会が消失し始めると、システムそのものが不公正で、多くの人にとって利益にならないのではないかという見方が勢いを持ち始めた。新しい経済モデルを導入して人々をエンパワーし、公共財やインフラの所有を広げることで経済における市民の発言権を高めるべきだ。コミュニティレベルに権限を委譲し、生活を改善するための人々の集団行動を受け入れる、アクティブで分権化された国家が必要になる。

CFR Updates
オーストラリアの森林火災
―― 次なる猛威に政府はどう備えるか

2020年2月号

アリス・C・ヒル 米外交問題評議会シニアフェロー(気候変動問題担当)

2019年9月以降続いているオーストラリアの山火事は、依然として、収束する気配がない。すでに1000万ヘクタール以上が消失し、20人以上が犠牲になり、死亡した野生動物は10億匹に達すると言われる。オーストラリアはこれまでも森林火災に悩まされてきた。だが、多くの人が火災の余波を受けやすい地域で生活するようになったことが、そのダメージを大きくしている。気候変動も衝撃を大きくしている。気温が上昇しているだけでなく、オーストラリアはこの3年にわたって干ばつに見舞われている。この環境のなかで、火事が急速な広がりをみせ、極端に高温の森林火災と化し、特有の気象状況を作り出し、さらなる森林火災を引き起こす稲妻を誘発している。・・・

「新社会主義運動」の幻想と脅威
―― 富は問題ではない

2020年2月号

ジェリー・Z・ミュラー 米カトリック大学歴史学教授

資本主義には強さと弱さがある。実際、自由市場を基盤とする資本主義が18世紀に定着して以降、このシステムは長く批判にさらされてきた。一連の改革運動が刺激され、これが19世紀型のレッセフェール(夜警)国家を今日の先進民主国家が導入する混合経済・福祉国家(mixed welfare States)へ変貌させた。かつて「社会民主主義」と呼ばれたシステムを現状で模索する左派勢力も、おおむね似たものを追いかけている。だが、「新社会主義運動」はこれらとは違う。そのルーツは社会民主主義ではない。資本主義を改革するのではなく、むしろそれを終わらせようとする民主社会主義にある。彼らは、金の卵を産むガチョウの健康など気にかけていない。これを当然視した上で、不公正な状況を超富裕層の資産の突出を削り取るという簡単かつ直接的な方法でなくそうとしている。

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