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テーマに関する論文

CFR Briefing
ワクチンの夢とロシアの現実
―― なぜロシアはワクチン開発を急いだか

2020年9月号

ジュディ・トゥイッグ  バージニアコモンウェルス大学政治学教授

ロシア政府は、8月にCOVID19ワクチンの開発に成功し、規制当局がスプートニクVワクチンの使用許可を出したと発表した。欧米メディアは、ワクチン開発を急ぐあまり、ロシアは標準的承認プロセスの重要部分をバイパスしているのではないかと心配している。もっとも、ロシアのワクチン戦略の背後にある政治的インセンティブを理解するのは難しくない。30年前にソビエト崩壊の屈辱にまみれて以降、卓越した大国としての地位を回復するための道筋を模索してきたロシアにとって、100年に一度のパンデミックを克服するワクチンを、特にラテンアメリカやアフリカの低所得国や中所得国をウイルスが襲い始めた段階で提供できれば、1 年前には想像さえできなかった形でロシアの名声を高めることができる。しかし、そのワクチンが宣伝どおりに機能しなければ、内外で名声が失墜するし、その痛手は相当に大きなものになる。プーチンの「スプートニクの瞬間」が科学への信頼を侵食し、ロシア人の生命を奪う、広報上の勇み足であることが明らかになるとすれば、それは悲劇としか言いようがない。

迫り来るグローバル食糧危機
―― コロナウイルスと飢餓の脅威

2020年8月号

デビッド・M・ビーズリー 国連世界食糧計画 事務局長

COVID19が引き起こすパンデミックによって、飢餓状態に追い込まれる人が急増する事態を警戒しなければならない。もちろん、世界の飢餓人口を増大させる最大の要因は紛争であり、飢餓に苦しむ人々の60%が紛争地域に暮らしている。気候変動も人々を飢餓に追いやる大きな要因だ。だが、これらの危機にCOVID19が追い討ちをかけている。「突発的飢餓に陥る人は年末までにほぼ倍増し、2億6500万に達する」と、われわれ国連世界食糧計画(WFP)は予測している。決意に満ちた行動をとらない限り、飢餓や貧困が深刻化し、コストの嵩む、カオティックな時代に直面する危険がある。

解体する米韓同盟
―― 変化するアメリカの国防戦略

2020年8月号

スー・ミ・テリー  戦略国際問題研究所  シニアフェロー

北朝鮮との取引を無謀に模索する一方で、トランプはソウルとの関係に大きなダメージを与えた。北朝鮮の核兵器は手つかずのままだが、ボルトン回顧録が明らかにしている通り、長くアジアにおけるアメリカの防衛戦略の要だった米韓同盟は、トランプが再選されれば、もはや生き残れないかもしれない。米軍は「韓国を守るために」現地に駐留しており、この保護の代価として韓国はアメリカにより多くを支払うべきだとトランプは信じている。ボルトンによると、トランプは、アメリカ政府が部隊派遣からきちんとした利益を確保できるように、同盟国は「コストプラス50%」を支払うべきだと考えている。当然、韓国のアメリカへの信頼はひどく揺るがされており、かつてのような関係に戻ることは、おそらくないだろう。

何がアメリカを引き裂いているのか
―― 人種対立と階級闘争

2020年8月号

エイミー・チュア イェール大学法科大学院教授

アメリカにおける階級闘争と人種的分断がいかに相互作用をしているかを把握しない限り、パンデミックのアメリカにおける影響、それを取り巻く政治環境、破壊的な政治ダイナミクスを完全に理解することはできない。新型コロナウイルス感染症による死亡率が、白人よりも、マイノリティの間で際だって高いという事実から考えても、アメリカがシステミックな限界に達しつつあることは明らかだろう。カオスのなかで、アメリカは「暴力的な政治的報い」に遭遇する道のりにあるのかもしれない。米社会は機能不全に陥っており、その社会的断層線を乗り越えるためのツールを必要としている。

グローバルパンデミックとWHO
―― パンデミックと国際システムとナショナリズム

2020年8月号

スチュワート・パトリック  米外交問題評議会シニアフェロー (グローバルガバナンス)

パンデミックを前に、各国は国際協調ではなく、他の諸国とも世界保健機関(WHO)とも対立するナショナリスト路線をとった。WHOに対する批判もあるだろう。しかし、多国間システムが「必要なときに自律的に動き出すメカニズムではない」ことを認識する必要がある。どんなに専門知識や経験があって、いかに機構改革を実施しても、(メンバー国が)システムにおける政治的な方向性を示し、持続的なリーダーシップを発揮しない限り、多国間組織は効果的に動けない。現在の危機を前に、各国の指導者が、多国間組織はうまく機能しないと結論づけ、その解体を求めるようになれば、新たに大惨事が引き起こされ、人類はさらに大きな犠牲を強いられるだろう。

次のパンデミックに備えるには
―― COVID19の教訓とは何か

2020年8月号

マイケル・T・オスタホルム  ミネソタ大学感染症研究政策センター  ディレクター  マーク・オルシェイカー  ドキュメンタリー・フィルムメーカー  作家

ワクチンが開発されて利用できるようになるか、多くの人が感染して集団免疫が達成されれば、現在の危機は終わる。しかし、ワクチンであれ、集団免疫であれ、それが短期間で実現することはなく、そこに至るまでの人的・経済的コストはかなりのものになる。しかも、将来における感染症アウトブレイクはより大規模で、致死性も高いはずだ。言い換えれば、現在のパンデミックは、世界のあらゆる疫学者や公衆衛生当局者が悪夢とみなす深刻な感染症(ビッグワン)ではおそらくない。次のパンデミックは、1918年のスペインかぜと同様に壊滅的な「新型インフルエンザウイルス」になる可能性が高い。COVID19を次のパンデミックがどれほど深刻なものになるかの警告とみなすべきだし、再び手遅れになる前に、アウトブレイクを封じ込めるために必要な行動を促す必要がある。

揺らぎ始めたアジアの世紀
―― 米中対立とアジア諸国の選択

2020年8月号

リー・シェンロン  シンガポール共和国首相

アメリカはアジア地域に死活的に重要な利害を有する「レジデントパワー」だが、中国はわれわれの目の前に位置する大国だ。当然、われわれアジア諸国は、米中のいずれか一つを選ぶという選択を迫られることは望んでいない。ワシントンが中国の台頭を封じ込めようとするか、北京がアジアにおける排他的な勢力圏を構築しようとすれば、米中は何十年も続く対立の道を歩み始め、待望久しい「アジアの世紀」の実現は脅かされる。アジアの成功とアジアの世紀の実現は、米中が互いの相違点を克服し、相互信頼を築き、平和的で安定した国際秩序に向けて建設的に取り組めるかどうかに左右される。しかしいまや、米中関係はギクシャクし、アジアの将来と新秩序の行く手には大きな暗雲が立ち込めている。両大国は、特定分野では競争しつつも、ライバル関係で他の分野での協調が抑え込まれないような行動様式を見出す必要がある。

外交的自制をかなぐり捨てた中国
―― 覇権の時を待つ北京

2020年8月号

カート・M・キャンベル  元米国務次官補(東アジア・太平洋担当) ミラ・ラップ=フーパー  外交問題評議会 シニアフェロー(アジア研究)

北京は事実上すべての外交領域で前例のない外交攻勢に出ている。香港(の民主派)を締め上げ、南シナ海の緊張を高める行動をとり、オーストラリアに対する圧力路線をとっているだけではない。インドとの国境紛争で軍事力を行使し、欧米のリベラルな民主主義への批判をさらに強めている。そこに、かつてのような慎重さはない。もちろん、北京は「外交に熱心でない米政権が残したパワーの空白」を利用しているだけかもしれない。しかし、より永続的な外交政策上のシフトが進行中であると信じる理由がある。世界は、中国の自信に満ちた外交政策がどのようなものか、おそらく、その第1幕を目にしつつある。北京はいまや自国がどう受け止められるか、そのイメージのことをかつてのようには気にしていない。おそらく、力の路線をとることで、ソフトパワーの一部を失うとしても、より多くを得られると計算している。・・・

香港の次は台湾か
―― アメリカは北京の思惑にどう対処すべきか

2020年8月号

マイケル・グリーン  ジョージタウン大学外交大学院 教授(アジア研究) エヴァン・メデイロス  ジョージタウン大学外交大学院 教授(アジア研究)

北京が「アジアの将来における・・・自国の立ち位置を新たに定めようとしているときに」、ワシントンは、香港問題を現地情勢だけでとらえる狭いゲームに自らを押し込んではならない。習近平がリスクテイカーで、紛争も辞さず、領有権の主張にこだわりをもっていることは明らかだし、ワシントンは、台湾への余波を考慮した上で、十分に考え抜いた香港問題への対策をとる必要がある。アメリカは(ヨーロッパ同様に)アジア太平洋地域においても地域的覇権国が支配的優位を確立するのを阻止することをこれまで長く目的に掲げてきた。香港の状況は、この目的を維持していくのが急速に難しくなりつつあることを示している。ワシントンは外交的圧力を通じて、そこに中国に反対する国際的連帯が存在することを知らせる必要があるが、過度に危機意識を植え付けるのを避け、北京がアメリカとその同盟諸国の分断作戦に出ないように配慮する必要がある。

経済活動再開の恩恵とリスク
―― 感染率拡大の国家間格差はなぜ生じたか

2020年8月号

ジョシュ・ミックハウド  カイザーファミリー財団  アソシエイト・ディレクター (グローバルヘルス政策担当) ジェン・ケーツ  カイザーファミリー財団  シニアバイスプレジデント (グローバルヘルス&HIV政策担当)

都市封鎖、行動規制解除後の感染率の推移は国ごとにばらつきがある。感染を封じ込めるほど十分長期にわたって封鎖や行動規制を続け、公衆衛生システムを強化し、レジリエンスを高め、社会にメッセージを適切に伝えた国は、日常生活への復帰後も壊滅的な事態には陥っていない。しかし、大した準備もせずに、経済・社会活動の再開に踏み切り、いまや大きなコストを支払わされているブラジルやアメリカのような国もある。経済・社会活動再開のための最善の計画も、予期せぬ事態に遭遇することもある。各国で、ステイホームの指令やソーシャルディスタンシングのガイドラインがデモ行動で覆されたことはその具体例だ。社会・経済活動再開に向けたロードマップが存在することは安心材料だが、数週間から数カ月先にはそれを書き換える必要が出てくるだろう。

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