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テーマに関する論文

アメリカはアラブ世界を失いつつある
―― アラブストリートの信頼を勝ち取るには

2024年7月号

マイケル・ロビンス アラブ・バロメーター社 ディレクター兼共同研究員
マニー・ジャマル プリンストン大学 公共・国際問題大学院 学院長
マーク・テスラー ミシガン大学 教授(政治学)

アラブ世界で反米感情が急激に高まっている。イスラエルがガザで軍事作戦を始めて以降、ヨルダンでは、アメリカを好意的にみなす人の割合が、2022年の51%から、最近実施された調査では28%に激減している。国内での反米感情の高まりゆえに、アラブの指導者で、ワシントンに協力しているとみなされたいと考える者はほとんどいない。アメリカのアナリストは、アラブ民衆の声は、米外交政策にはあまり関係してこないと軽くみているが、「アラブの指導者は世論に左右されない」という考えは神話にすぎない。アラブ市民のアメリカへの信頼を取り戻さない限り、アラブの指導者たちは対米協調を避け、アラブとイスラエルの国交正常化もイラン封じ込めも遠のき、中国を含むアクターがこの地域で台頭してくることになるだろう。

地政学と国家規模
―― 超国家と小国の立場と役割

2024年7月号

シブシャンカール・メノン 元インド外務次官

2050年には、世界の人口の40%が、中国、インド、アメリカ、欧州連合(EU)という「超国家」のいずれかで暮らしているはずだ。現代の超国家は、広大な領域で暮らす、多様な人々を、どのように一つの政体の枠組みで管理するかという、かつての帝国と同じ問題に直面している。一方、小国はテクノクラートが結果を出しやすいだけでなく、「安定を求める」ために、国際システムで道徳的な役割を果たせるとする見方もある。小国でも主体性をもって大国と取引できるし、一方で、国内の緊張と圧力によって大国の偉大さが損なわれることもある。もちろん、超国家は小国よりも国際情勢に大きな影響を与える。しかし、大国間の対立激化は、世界の平和と繁栄を脅かすと同時に、中小国が影響力を高めて、活躍できる空間も生み出している。

同盟諸国との連携強化を
―― 相互運用性を強化するには

2024年7月号

トーマス・G・マンケン 戦略予算評価センター 所長

アメリカは現在、ヨーロッパでウクライナ戦争、中東でイスラエルの戦争に関わっており、今後、東アジアで台湾や韓国をめぐって三つ目の戦争に直面する可能性もある。たとえ世界最強の国であっても、主要な戦争を単独で戦うことはできない。ワシントンは、より多くの軍事物資、兵器を生産して、基地を確保し、それらを同盟諸国と共有していく必要がある。パートナーとともに戦うためのより良い軍事戦略を策定する必要もある。そうしない限り、ますます能力を高め、連携を深める敵に圧倒される危険がある。

プーチンと一体化したロシア社会
―― 反欧米路線が促したロシアの統合

2024年7月号

タチアナ・スタノバヤ カーネギー国際平和財団 ロシアユーラシア・センター シニアフェロー

プーチンは、ウクライナ戦争へのコミットメントと反欧米の敵対路線については驚くほど均質な政治環境をロシアで作り上げることに成功している。エリートたちも、戦争を支持し、プーチン信奉者の仲間入りを果たすしかない環境にある。「欧米に対抗し、米主導の国際秩序を突き崩す必要がある」というモスクワの主張はロシア社会で広く受け入れられている。財政基盤、ウクライナでの軍事的優位、そして完全な国内統制が維持される限り、ロシア社会が揺らぐことはないだろう。欧米は、「より自信を高め、大胆で過激になったロシア」にどのように関わっていくかという厄介な課題に直面している。

ヨーロッパの社会分裂
―― 都市と農村の格差と政治

2024年7月号

マリー・ハイランド 欧州生活労働条件改善財団 リサーチ・オフィサー
マッシミリアーノ・マスケリーニ 欧州生活労働条件改善財団 社会政策ユニット長
ミシェル・ラモン ハーバード大学教授

農村住民は、政策立案はトップダウンで「政府は自分たちのニーズを認識していない」と不満を強めている。この10年で農村と都市部の所得・雇用格差が拡大したこと、さらには、食料品や燃料など多くの必需品価格を上昇させている最近の生活コスト危機も農村部の不満を助長している。これがヨーロッパ各国の社会的結束を弱め、極右ポピュリズムが支持される肥沃な土壌を提供している。農村部住民の要求や必要性に配慮し、意思決定プロセスにこうした住民を参加させる必要がある。農村と都市の分裂を有意義な形で埋めれば、欧米の多くの社会が現在抱えている社会的緊張を和らげる助けになる。

トランプが権力に返り咲けば
―― 「アメリカ・ファースト」が導く無秩序

2024年7月号

ハル・ブランズ ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院 特別教授

トランプは、ヨーロッパやアジアの小国を守るために、なぜアメリカが第三次世界大戦を引き起こす危険を冒さなければならないのかと問いかけている。アメリカの利益が危機にさらされているときには、積極策をとるべきだと考えているが、その利益にアメリカが長年維持してきたリベラルな秩序が含まれるとは彼は考えていない。リベラルな秩序が崩壊すれば、アメリカも最終的には、より無秩序な世界で苦しむことになる。だが、現在からその時がやってくるまでに、他のすべての国がより大きな代価を支払うことになるだろう。

米イスラエル関係の未来
―― 特別な関係の終わり?

2024年7月号

ダリア・シャインドリン ハーレツ紙コラムニスト

米イスラエル間の反目の高まりが、ガザ戦争をきっかけに生じたわけではない。両国の社会的・政治的軌道をみると、長く2カ国の関係を支えてきた「価値の共有」はすでに大きく揺るがされていた。この問題が、今回の戦争が引き起こした緊張そして党派政治によって、さらに大きな圧力にさらされている。両国が衝突コースにあるわけではない。だが、この状況は、今後の同盟関係について重要な問題を提起している。戦略的利害を共有することで、両国が同盟国であり続けることは可能でも、今後、これまで互いに信頼してきた「特別な関係」は失われるのかもしれない。

イスラエルの次なる戦線?
―― レバノンをめぐるイラン、ヒズボラとの戦争

2024年6月号

マハ・ヤヒヤ カーネギー中東センター所長

ガガザの破壊が中東民衆のイスラエルに対する反発を高めるなか、イスラエルがレバノン攻撃すれば、イランとその非国家的パートナー(武装集団)への民衆の支持はさらに強化されるだろう。それでも、政治的に負いこまれたネタニヤフ首相は、国内での立場を強化しようと、レバノンに紛争を拡大するかもしれない。実際、イスラエルは、ハマスとヒズボラをともに壊滅させることで、安全保障環境を変化させることを望んでいる。これまでのところ、アメリカの外交圧力もあって、ガザ紛争がレバノンとの全面戦争に拡大するのは回避されているが、それでも「イスラエルがレバノンを攻撃するかどうか」ではなく、「いつ攻撃するか」が問われている状況にある。

イギリスと世界
―― 労働党の世界へのアプローチ

2024年6月号

デービッド・ラミー 英労働党・影の内閣外相

英経済は低成長の泥沼にはまりこんでいる。陸軍の兵力規模は、ナポレオンと戦った時代以来の低水準だし、行政サービスの多くも崩壊寸前だ。保守党政権は、その後の明確な計画もないままに、欧州連合(EU)を強引に離脱し、北アイルランドに平和をもたらした「グッドフライデー合意」を危険にさらし、欧州人権条約を軽視する行動みせた。だが、次の選挙で、われわれ労働党が政権を手に入れば、国家再生の時代を「進歩主義的リアリズム」で切り開いていく。進歩主義を現実主義的に実施すれば、世界を変えられるだろう。進歩主義的リアリズムとは、何が達成できるかに関する誤った思い込みを排除した上で、理想を模索することを意味する。

東アジアの少子高齢化と地政学
―― 世界政治はどう変化するか

2024年6月号

ニコラス・エバースタット アメリカン・エンタープライズ研究所 政治経済チェア

東アジアのポテンシャルは、今後、人口減少によって大きく抑え込まれていくだろう。経済成長を実現することも、社会的セーフティーネットを財政的に支え、軍隊を動員することも難しくなり、日本、韓国、台湾は内向きになっていくはずだ。中国も、野心と能力の間の克服しがたいギャップの拡大に直面すると考えられる。一方で、高齢化も進む。中国に悪影響を与える東アジアの人口減少が、ワシントンの地政学的利益になるのは間違いないが、東アジアの民主主義国家にも足かせを作り出し、問題も引き起こす。これらの国家にとって、アメリカとのパートナーシップの必要性が高まる一方で、ワシントンにとって彼らは魅力的なパートナーではなくなっていくだろう。

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