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テーマに関する論文

次期米政権の外交レバレッジ
―― 交渉上の優位を生かす現実主義を

2020年11月号

リチャード・フォンテーヌ 新アメリカ安全保障センター 最高経営責任者(CEO)

ジョー・バイデンは、トランプ時代の混乱に不満をもつ人々に「われわれが戻ってきた(もう大丈夫だ)」とすぐに伝えると述べており、今後、米市民と世界に対して、トランプのアメリカとは違うことを示すように求める大きな圧力にさらされるだろう。しかし、何から何までトランプの逆路線をとるのも賢明ではない。中国との競争、米中産階級により焦点を当てた政策などを含めて、トランプが残した政策の一部を継承していくつもりであることはすでにバイデンも明らかにしている。だが、前政権が極端な強硬路線をとってきただけに、新政権が相手に対する一連の手立て、交渉材料を手にしていることを認識する必要がある。ユニークながらもいずれは消失していく外交交渉上の優位をレバレッジとしてうまく利用していくべきだろう。

ベーシックインカムの台頭
―― パンデミックが呼び起こした構想

2020年11月号

エブリン・L・フォーゲット マニトバ大学教授(経済学)

パンデミックは、多くの人が長く気づいていた真実に政治家を目覚めさせた。「既存の社会的セーフティネットは穴だらけで、 いまや新しい何かを試すべきタイミングにある」。ベーシックインカムに反対するもっとも一般的な議論は、どんなに有益であっても、それにはコストがかかりすぎるというものだろう。だが、このプログラムがより累進的な課税システムとリンクして進められれば、そうした支出の一部は課税を通じて政府に戻される。低所得者を対象とするタイプのベーシックインカムなら、それほど大きな負担にはならない。実際、そのコストは、子どもの給付金など、多くの政府がすでに行っている社会支出と変わらず、年金については、はるかに少なくて済む。ベーシックインカムは人々が望む社会への投資であり、健康、教育、安全を重視する人がそれぞれ自分に投資する。その配当として、人々はより良い生活を手にし、一方で資金も節約され、社会も進化する。・・・。

米台湾戦略の明確化を
―― 有事介入策の表明で対中抑止力を

2020年11月号

リチャード・ハース  米外交問題評議会会長
デビッド・サックス  米外交問題評議会リサーチフェロー

台湾有事にアメリカの介入があるかないか。これを曖昧にするこれまでの戦略では抑止力は形作れない。むしろ、「台湾に対する中国のいかなる武力行使に対しても、ワシントンは対抗措置をとる」と明言すべきだ。「一つの中国政策」から逸脱せず、米中関係へのリスクを最小限に抑えつつ、この戦略見直しを遂行できる。むしろ、有事介入策の表明は、抑止力を高め、米中衝突の危険がもっとも高い台湾海峡での戦争リスクを低下させることで、長期的には米中関係を強化することになる。アメリカが台湾の防衛に駆けつける必要がないようにする最善の方法は、中国にそうする準備ができていると伝えることだ。

気候変動で故郷を追われる人々
―― 温暖化と環境難民の増大

2020年11月号

ソニア・シャー  ジャーナリスト

気候変動が、人が生活できる地域を少しずつ削り取りつつある。すでに、気候変動によって住み慣れた土地から離れざるを得なくなった環境難民が発生しているにもかかわらず、政府も国際機関もこの問題にうまく対処できずにいる。国連の国際移住機関によると、2050年までには2億人が気候変動関連の理由で故郷を後にせざるを得なくなる恐れがある。問題は、気候変動によって追い込まれた人々を助けるメカニズムはもとより、避難民が移住するのを助ける法的枠組みが存在しないことだ。むしろ、各国政府は、「気候変動難民、環境難民」という新集団を無視し、気候変動ショックに彼らをさらしたままにし、その後、人権を無視した態度をとることも多い。・・・

温暖化で世界は大混乱に
―― ティッピング・ポイントが引き起こす連鎖

2020年11月号

マイケル・オッペンハイマー プリンストン大学教授 (地球科学・国際問題)

近い将来、一生に一度のはずの大災害に、われわれは毎年のように見舞われるようになる。特に、沿岸地域では、2050年までに、かつてなら100年に一度のレベルだった洪水が毎年のイベントになるだろう。専門家は長く(気候変動が急減に悪化し始める)ティッピング・ポイント(決壊点)のことを心配してきたが、これが他の災害との連鎖反応を起こす恐れがある。例えば、グリーンランドと南極の氷床の多くが融解すれば、世界の海面が上昇するだけでなく、北極圏とユーラシア大陸の永久凍土層が融けだし、大量のメタンガスと二酸化炭素が放出されて温暖化のペースは一段と加速する。すでに温室効果ガスの排出削減努力だけでなく、「劇的な変化に人間をいかに適応させていくか」を考えなければならない時期に入っている。向こう30年間に排出量がどう変わろうと、地球の気温が大幅に上昇するのはもはや避けられないからだ。

レジリエンス強化の大戦略を
―― パンデミック、異常気象時代における復元力パワー

2020年11月号

ガネーシュ・シタラマン  バンダービルト大学法科大学 教授

2020年にはパンデミックが発生し、多くの米市民がステイホームを余儀なくされた。来年には、農業と食糧生産を破壊する千年に一度の大干ばつが起きるかもしれないし、その翌年には、サイバー攻撃によって電力網が破壊され、重要なサプライチェーンが遮断されるかもしれない。現在のパンデミックが(今後の不透明さを示す)何らかの兆候だとしても、各国はこうした混乱に対処するための準備が嘆かわしいほどにできていない。必要なのは、レジリエンス(柔軟性と復元力)を強化する大戦略でなければならない。アメリカを含むほとんどの国々は、単独では完全なレジリエンスをもつことはできない。重要な物資や製造能力のすべてを国内で調達できるわけではないからだ。解決策は、価値を共有する北米、西ヨーロッパ、北東アジアのリベラルな民主国家との絆と同盟を深めることだ。

パンデミック後の資本主義
―― 官民協調型の経済システムの模索

2020年11月号

マリアナ・マッツカート  ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン  経済学教授

多くの人が、民間部門がイノベーションと価値創造の主要な原動力だったと信じてきたために、利益は民間企業が手にする権利があると考えている。だがこれは真実ではない。医薬品、インターネット、ナノテク、原子力、再生可能エネルギーなど、これらのすべては政府の膨大な投資とリスクテイキングのおかげで実現してきた。イノベーションのために公的資金を投入しつつも、それから恩恵を引き出してきたのは、おもに企業とその投資家たちだった。COVID19危機は、この不均衡を正す機会を提供している。ベイルアウトする企業により公益のために行動するように求め、これまで民間(の企業)部門だけが手にしてきた成功を納税者が分かち合えるようにする新しい経済構造が必要だ。富の創造への公的資金の貢献を明確に理解すれば、公的投資の意味合いを変化させることができる。目の前にある課題は、よりすぐれた経済システム、よりインクルーシブで持続可能な経済を官民で形作ることであり、世界の誰もがCOVID19ワクチンを利用できるようにすることでなければならない。

日はまた昇る
―― 日本のパワーは過小評価されている

2020年11月号

ミレヤ・ソリス  ブルッキングス研究所  東アジア研究所ディレクター

「日本は、経済的繁栄を中国に、安全保障をアメリカに依存しすぎている」と悲観する見方が市民の間で大きくなっている。さらに、2020年9月の安倍首相の突然の辞任によって、国内の安定した指導体制や先を見据えた外交の時代が終わるかもしれないという懸念も浮上しつつある。地政学的ライバルが大きな流れを、そしてパンデミックが混乱を作り出すなか、ワシントンは、再び、日本のポテンシャルをまともに捉えず(この国を無視する)誘惑に駆られるかもしれない。しかし、日本の戦略的選択は、日本の将来だけでなく、米中間の激しい大国間競争の行方にも影響を与える。日本の時代は終わったとみなすこれまでの見方が、時期尚早だったことはすでに明らかだ。

安倍政権の遺産
―― なぜ長期政権が実現したのか

2020年11月号

トバイアス・ハリス テネオ・インテリジェンス  副会長

安倍晋三は、2012年12月に首相に再選された後の7年8カ月にわたって政治的に生き残っただけでなく、6回にわたって選挙で党を勝利に導き、最後の数カ月まで一貫して高い支持率を維持し、日本の政治システムをこれまで誰もなしえなかった形で統治してきた。彼は有権者の多くが望んでいた安定を提供した。他の民主国家の多くがポピュリズム政治の抵抗に遭い、政治基盤が不安定化し、民主主義そのものが後退していた時期に、安定を提供してみせた。後継者に選ばれた菅義偉は、安倍政治を変化させるのではなく、踏襲していくと約束している。しかし、彼は前任者ほど幸運ではないかもしれない。・・・

米覇権の解体
―― アメリカパワーの衰退と中ロの台頭

2020年10月号

アレクサンダー・クーリー  バーナード・カレッジ教授(政治学) ダニエル・H・ネクソン  ジョージタウン大学外交大学院准教授

中国とロシアの台頭に伴い、「独裁的で非自由主義的プロジェクト」が米主導の「リベラルな国際システム」に対する代替策として浮上している。途上国、さらには多くの先進国でさえ、欧米の援助や支援に依存し続けるのではなく、別のパトロンによる支援を頼ることができる。こうして、アメリカのグローバルリーダーシップは単に後退しているだけではなく、解体しつつある。アメリカの衰退は、循環的というよりも、むしろ、永続的なものだ。軍事費をいかにつぎ込んでも、アメリカの覇権解体を促している流れを止めることはできない。考えるべきは、米覇権の解体がどこまで進むかだ。

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