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テーマに関する論文

再生可能エネルギーの新地政学
―― シーレーンから多国籍グリッドへ

2021年8月号

エイミー・マイヤーズ・ジャッフェ   タフツ大学 フレッチャー・スクール 研究教授

ランサムウェア攻撃でアメリカ最大のパイプラインの一つが2021年5月に閉鎖に追い込まれる事件が起きた。遠く離れた場所の得体のしれぬ勢力が遂行した(重要な国内インフラを対象とする)複雑なデジタル攻撃は今後の脅威を予兆している。(再生可能エネルギーによる)電力が世界のエネルギーシステムでのプレゼンスを拡大していくにつれて、より多くのインフラがサイバー攻撃にさらされるようになるだろう。グリッドが大きくなると、保護を必要とするインフラが巨大になり、ハッカーが侵入する機会が増えるからだ。例えば、(電力インフラをターゲットにする)サイバー空間での活動を規制する国際ルールの確立を主導するのは、冷戦期における核軍備管理合意と同じくらい重要な試みになる。「デジタル化された世界の地政学」に向けて、ワシントンは現状を大きく見直す必要がある。

W・フルブライトの二つの顔
―― 国際主義者とレイシスト

2021年8月号

チャールズ・キング ジョージタウン大学教授 (国際関係論、政治学)

優れた外交ビジョンの持ち主だったフルブライトは、一方で「レイシスト」だった。2021年4月、彼の母校であるアーカンソー大学は学部名称からフルブライトの名前を外し、彼の銅像をキャンパスからなくすことを決めた。国際主義者でレイシストというスタイル上の矛盾は、実際にはアメリカ人にとっての盲点だった。「外国にはオープンマインドで接し、国内的には偏見をもつ」という組み合わせは、彼特有のものではなかった。逆に言えば、アメリカの国際主義を再生するには、国際主義路線と国内問題を誠実に解決していく立場を一体化させる必要がある。「人種的に秩序化された国内政治がその国の世界的な役割にどのようなコストを強いるか」を、アメリカ人は先ず認識する必要がある。

マジックマネーの時代は続く
―― われわれが信頼するFRB

2021年8月号

セバスチャン・マラビー  米外交問題評議会 シニアフェロー(国際経済担当)

アメリカ市場における「復活した需要と限られた供給」は予想可能な結果をもたらした。連邦準備制度理事会のPCEコアデフレーターは、3・4%と、1990年代初頭以来の高水準で推移している。マジックマネーの時代におけるこのようなインフレは何を意味するのか。インフレの時代が本当に戻ってきたのか。エコノミストや金融アナリストの答えは、現在のインフレがどうなるかについての三つの予測として大別できる。但し、マジックマネーの時代が色あせていくと示唆するのはこのうちの一つの予測、それも、もっとも現実性に乏しい予測だ。連邦準備制度理事会が40年にわたって信頼を築いてきたからこそ、マジックマネーの時代は私たちの目の前にある。世界の人々は、自国の中央銀行が極端な規模の紙幣を刷り増しても、インフレによって自国通貨の価値が破壊されることはないと信頼している。うまくいくとは信じがたいかもしれないが、それでもうまくいっている。・・・

アメリカの少子高齢化の意味合い
―― EU、中ロ、日本との比較

2021年8月号

ニコラス・エバースタット アメリカンエンタープライズ公共政策研究所 議長(政治経済担当)

日本やヨーロッパそして中ロ同様に、アメリカも人口成長率の鈍化と出生率の着実な低下という厳しい現実に直面している。出生率の低下は将来に対する人々の自信も低下させるだけに懸念すべき事態だ。だが、こうした人口動態の変化から、アメリカの国際的地位の低下を直ちに心配する必要はない。アメリカの出生率が人口置換水準を維持できた最後の年は2008年だが、日本とEU諸国は1970年代に、中国とロシアは90年代初頭にすでに出生率が人口置換水準以下に落ち込んでいる。さらに、10年以上前からアメリカでも出生数と死亡数のギャップが縮まり続けているが、EU諸国は2012年頃から、日本では2007年以降、出生数よりも死亡数の方が多い状態が続いている。アメリカは今後数十年にわたって、相対的にはライバル諸国に対する人口動態上の優位を維持していくだろう。

半導体は何処へいった
―― グローバルサプライチェーンをいかに守るか

2021年8月号

チャド・P・ボウン ピーターソン国際経済研究所  シニアフェロー

なぜ半導体チップは不足しているのか。コロナ危機のなかで、リモートワークシステムの投資が進み、多くの人がホームオフィスディバイスを新たにアップグレードしたことで、チップ需要が急増したのは事実だ。しかし、最大の問題は、トランプ政権が国家安全保障上の懸念を理由に2018年に中国との貿易・技術戦争に入り、これによって、グローバルな半導体のサプライチェーンと市場が揺るがされたことだ。特にファーウェイへの制裁措置へのパートナー国の同調を求めたことで、市場の歪みは大きくなった。すでにバイデン新政権は、日本、韓国、欧州連合(EU)との首脳会談で新たな半導体戦略に向けた基本合意をまとめている。必要なのは多国間協調の詳細を詰めて、それを具体化し、履行していくことだ。

こう着状態が長期化するにつれて、ミャンマー経済は崩壊へ向かい、貧困化する人が急増している。医療システムはすでに破綻し、武力衝突が激化するなか、大規模な難民が中国、インド、タイなどの近隣諸国へ流出することになるだろう。破綻国家への道をたどるミャンマーの混乱につけ込もうとする勢力が台頭するかもしれない。課題は国家的破綻の期間を短くし、弱者を守り、新しい国家を作り、より自由・公平で豊かな社会の建設を始めることだ。今後、平和なミャンマーが出現するとすれば、民族ナショナリズムのストーリーに支配されない、新しい国家アイデンティティが共有され、改革を経た政治経済体制が根付いた場合だけだろう。2月のクーデターだけでは危機を説明できない。現状は数十年にわたって国家破綻プロセスが続き、国家建設に失敗し、あまりに長期にわたってあまりに多くの人にとって社会と経済が不公正だったことによって引き起こされている。

ワクチン革命への課題
―― そのポテンシャルを開花させるには

2021年7月号

ニコル・ルリエ  感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)  戦略アドバイザー ヤコブ・P・クレイマー  CEPI臨床統括者 リチャード・J・ハチェット  CEPI最高経営責任者

ウイルスの遺伝子配列の特定からmRNAを利用したワクチンが臨床試験に入るまでに要した期間は3カ月足らず。この技術があれば、致命的なパンデミックを引き起こすかもしれない未知の病原体「疾病X」に備えることもできる。だが課題も多い。「免疫がどの程度持続するのか」が分かっていない。生産能力が依然として限られ、保管の問題があるために、大規模な接種キャンペーンを実施するにはロジスティック面での問題を伴う。さらに、感染力が強い変異株が世界で急速に拡散しており、それが従来の株よりも致死的なのか、ワクチンの効果が弱まるかが依然としてはっきりしない。より基本的には、迅速かつ適切に機能するアウトブレイクの監視システムと国際的なデータ共有が必要になる。・・・。

「帰ってきたアメリカ」は本物か
―― クレディビリティを粉砕した政治分裂

2021年7月号

レイチェル・マイリック   デューク大学研究助教授(政治学)

「本当にアメリカは帰ってきたのか」。トランプだけではない。同盟国はアメリカの国内政治、特に今後の外交政策に大きな不確実性をもたらしかねない党派対立を気にしている。これまでは、外交が政治的二極化の余波にさらされることは多くなかったが、もはやそうではなくなっている。議会での政治対立ゆえに条約の批准が期待できないため、米大統領は議会の承認を必要としない行政協定の締結を多用している。だがこのやり方は、次の政権に合意を簡単に覆されるリスクとコストを伴う。国内の政治的二極化が続き、ワシントンが複雑な交渉に見切りをつけ、新政権が誕生するたびに既存のコミットメントが放棄されるようなら、「敵にとっては侮れない大国、友人にとっては信頼できる同盟相手としてのワシントンの評判」は深刻な危機にさらされることになる。

パンデミックによる「学校閉鎖」と格差拡大
―― 途上国の学校再開への投資を

2021年7月号

エミリアナ・ベガス  ブルッキングス研究所 シニアフェロー

富裕国に比べて低所得国や中所得国でより長期にわたって学校が閉鎖され、そもそも恵まれない生活環境にあるか、クラスについていけずにいた子供たちがリモートによる学習でさらに取り残されている。こうした学習機会の損失が世界の貧困国で集中的に起きている。質の高い学校教育を受けた子供たちは、そうできなかった子供よりも将来多くの所得を得るようになり、国レベルでみても質の高い教育を与える国は、より高い経済成長率を達成する傾向がある。このトレンドからみれば、現状は今後問題がさらに深刻化していくことを示唆している。低所得国と中所得国の学校をこのままの状態で放置すれば、貧困と格差はますます深刻になる。コミュニティ、政府、国際機関は公立学校、特に貧しく、疎外された地域で暮らす子供たちが通う学校の再開と改善に投資する必要がある。

米同盟国が核武装するとき
―― クレディビリティの失墜と核拡散の脅威

2021年7月号

チャック・ヘーゲル 元米国防長官(2013―15) マルコム・リフキンド 元英外務大臣(1995―97) ケビン・ラッド アジア・ソサエティ会長 アイボ・ダールダー シカゴ外交問題評議会会長

中国とロシアが核戦力を近代化し、強硬路線に転じるにつれて、アジアとヨーロッパ双方の米同盟諸国は軍事的脅威の高まりにさらされている。一方で「アメリカは長年の軍備管理合意から距離を置き、米市民も、もはやグローバルなエンゲージメントに前向きではない」と同盟諸国はみている。このために「自国の防衛と安全保障をワシントンに頼れるのか、それとも、核武装を考える時期がきたのか」と考え始めている。脅かされているのは、アメリカへの信頼そして地球上で最大の破壊力をもつ兵器の拡散を阻止してきた数十年にわたる成功にほかならない。うまく対処しない限り、アメリカの同盟諸国は核武装を選択することになるかもしれない。

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