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テーマに関する論文

バイデンと北朝鮮の核兵器
―― 核を放棄しない平壌への対策はあるか

2021年9月号

スー・ミ・テリー  戦略国際問題研究所シニアフェロー

北朝鮮の核ミサイルが米本土を射程に収めるにつれて、その脅威は質的に大きく変化している。変化が長い時間をかけて起きたために、分析者や政策決定者は脅威に慣れきってその深刻さを過小評価している。だが、軍事オプションはもはやとれない。外交では、妥協をするだけで結局何も得られない。むしろ、バイデンは二つの基本的な事実を認識する必要がある。現在の全体主義政権が続く限り、平壌は核兵器を放棄しないこと。もう一つは、米主導の体制変革(レジームチェンジ)は、少なくとも短期的にはオプションにはならないことだ。したがってバイデンが望み得る最善は、脅威を封じ込め、平壌の権力掌握をボトムアップで切り崩していくことだ。いまや、かつてなく多くの北朝鮮人が、政府が植え付けた神話と現実間のギャップを認識している。

グローバルな独占の弊害
―― 反独占の戦略ビジョンを示す

2021年9月号

バリー・C・リン オープン・マーケッツ・インスティテュート ディレクター

ワクチンをどう確保し、半導体の生産をどのように分担するか。フェイスブックやグーグルのような技術と情報の独占企業をいかに管理し、電気自動車のバッテリーを製造するのに必要なレアメタルをどう共有していくか。こうした問題のほとんどは「(重要製品の)生産や通信の管理がごく少数の企業や国家に国際的に集中している」という、たった一つの現象によって引き起こされている。現在の独占企業は、かつての独占企業同様に、利益を得るために重複をなくし、独占状況に派生する影響力を利用する戦略をとっている。だが国際的独占が作り出す問題をめぐる衝突、それに対する政府の保護主義的対応は、いまや国際的な産業・金融システムを脅かす以上の脅威を作り出している。各国は法の支配への信頼を失い、長年の同盟関係の価値さえ疑問視するようになり、米欧における民主的な議論や規範さえも混乱させている。・・・

法人最低税率とタックスヘイブン
―― 「どこかで必ず課税される」

2021年9月号

アンシュウ・シリプラプ  エディター(経済担当)CFR.org

多国籍企業の利益の40%が毎年タックスヘイブン(租税回避地)に移転されることで、世界の法人税収2000億ドル相当が失われている。しかも、アマゾン、フェイスブック、グーグルなどのハイテク巨大企業の台頭が、「(工場などの)国内における物理的なプレゼンスを前提に課税権を認める伝統的なモデル」を揺るがしている。ハイテク企業は、ユーザーはいるが工場や店舗をもたない国で、広告その他から数十億ドルを稼ぎつつも、現在のルール下で税金を払っていないからだ。一方、提案されている世界共通の最低法人税率(15%)が導入されれば、例えばバミューダのドイツ企業子会社が税金をほとんど支払っていない場合、ドイツ政府は差額を最大15%まで課税できるようになる。そうなれば、「タックスヘイブンを含む低税率の地域に利益を移転しようとする企業のインセンティブ」は小さくなるかもしれない。・・・

(世界共通の)法人税率を「最低でも」15%以上とすることが7月のG20財務相・中央銀行総裁会議で大枠合意された。多国籍企業がどこかの国で15%を下回る税率での負担しかしていない場合、その企業の本社がある国の政府は最低税率に達するまで上乗せして課税できる。これによって、今後、タックスヘイブンの出番はなくなり、「底辺への競争」も回避されるかもしれない。だが、米議会共和党はこの合意に「反競争的で反アメリカ的、しかも有害だ」と反発し、アイルランドやルクセンブルグなどのタックスヘイブンも合意を嫌悪している。だが、流れを止めるのはほぼ不可能だろう。多国籍企業は、あまりにも長い間、あまりにも少ない支出で他の人々が負担する公共財にただ乗りしてきた。いずれにしても今後数年のうちに、多国籍企業はより多くの公共財への貢献をすることになるだろう。

アジア主義からナショナリズムへ
―― アジアにおける革命運動の変遷

2021年9月号

アドム・ゲタチュー シカゴ大学  アシスタントプロフェッサー(政治学)

第一次世界大戦期、アジアでは別の戦争が起きていた。ジャワ島では、中心部でもプランテーションでも労働者のストライキが起き、マレー半島のクランタン州では新税に対する反乱が発生した。サイゴンからスマトラ、シンガポールからラホールまで、抵抗思想が野火のような広がりをみせていた。反乱にはそれぞれの火種があり、抵抗運動の政治的イデオロギーは様々だったが、アジア主義という共通するグローバルなビジョンがあった。こうして「帝国主義の絶頂期にあった欧州列強に対抗するラディカル勢力「アジアン・アンダーグラウンド」が形成された。「欧米の主人たちと、支配されている自分たちの立場は逆転する」と確信するアジア主義思想は、最初に日本に拠点を見出すが、その後、共産主義の国際主義と重なりあい、最終的にはナショナリズムへ向かっていった。・・・。

適切な中ロ離間戦略を
―― ロシアを不幸な結婚から救うには

2021年9月号

チャールズ・クプチャン  米外交問題評議会シニアフェロー ジョージタウン大学国際関係学教授

反欧米による強い絆で結ばれているかにみえる中ロも、水面下では亀裂を抱えている。中国がめざましい勢いで台頭し、自負心を高めているのに対して、ロシアは停滞し、不安を高めている。超大国としての地位を取り戻したいと願いつつも、中国のジュニアパートナーに甘んじている。このギャップと非対称性がバイデンにはチャンスとなる。中ロを離間させるには、中国との関係で明らかになったロシアの脆弱性を是正すること、つまりロシアが自国の問題に対応できるように助けることで、バイデンは、モスクワが北京から距離をおくように促せるだろう。中ロを離間させれば、両国の野心を牽制し、アメリカとその民主主義的なパートナー国家が、イデオロギーの多様化が進む多極化世界で、リベラルな価値観や制度を守り、平和的な国際システムを形作るのも容易になるはずだ。

北京の泥棒男爵たち
―― 中国の金ピカ時代

2021年9月号

ユエン・ユエン・アン ミシガン大学准教授(政治学)

この40年で、中国の政治腐敗は構造的に変化し、窃盗型から(特権を手に入れるための)アクセスマネー型へ変化した。資本家の利益に見合う動きをする政治家には報酬が与えられ、特権を買った資本家は私腹を肥やす。要するに、中国はいまや金ピカ時代のさなかにある。縁故資本主義の危険性に気づいている習近平は、政治腐敗が少なく、平等性が高い中国バージョンの革新主義時代を実現しようと、冷酷に強制力を用いている。だが、本当の改革とは、このような形では定着しない。むしろ、強制力を用いた上からの改革は、現在の問題を解決するカギとなる「下からのエネルギー」を抑え込んでしまい、結局は事態をさらに悪化させる。それにしても、なぜ「政治的に腐敗している国は貧しい」というトレンドを、中国は回避できているようにみえるのか。・・・

アメリカなき民主世界
―― 民主的後退の世界的帰結

2021年8月号

ラリー・ダイアモンド フーバー研究所 シニアフェロー

トランプは共和党を彼に忠実なだけでなく、民主主義に敵対する組織として再編している。この流れのなか、開票と投票結果の認定を含む独立した選挙管理体制を覆そうとする法律の制定が試みられている。この試みが成功すれば、アメリカは「自由で公正な選挙のための最低限の条件を満たせない」史上初の先進民主国家になる。民主主義の失敗による壊滅的ダメージの余波にさらされるのはアメリカだけではない。それは深刻なグローバルな帰結を伴う。パワフルな国家には、模範であれ、悪例であれ、影響力があるからだ。トランプ政権期に、民主的不況が民主的世界恐慌へ悪化したのも、まさにこのためだ。アメリカの民主主義に何が起きるかが、世界中の民主主義の運命を決めることになる。

生産性向上と繁栄の新時代へ
―― パンデミック後の経済ポテンシャル

2021年8月号

ジェームズ・マニュイカ  マッキンゼー・グローバル・インスティテュート 理事長 マイケル・スペンス  スタンフォード大学経営大学院教授(経済学) 2001年ノーベル経済学賞受賞者

パンデミックが引き起こした第二次世界大戦以降最大の経済危機は、驚くべきことに、「生産性の向上と繁栄の新時代」を招き入れるかもしれない。現実にそうなるかは、今後、対パンデミック体制からの離脱を準備していく政府や企業がどのような決定を下すかに左右される。各国が経済回復に多くの資金を投入し、企業がデジタル化から恩恵を引き出せば、少なくとも短・中期的には、生産性の向上と繁栄の見通しは高まる。一方、長期的にはあまり楽観的になれない。無期限に支出(救済措置や財政出動)はできないし、個人消費と民間投資ではそのギャップを埋められないかもしれないからだ。それだけに、テクノロジーや組織構造領域でのイノベーションの拡散を促進し、個人消費を喚起することで、持続的な生産性向上と繁栄のための環境作りを試みる必要がある。

北京では、中国の国家安全保障、主権、国内の安定に対する外からの最大の脅威はアメリカが作り出しているとみなされている。「アメリカは恐怖と羨望に駆られて、あらゆる方法で中国を封じ込めようとしている」。ワシントンの政策エリートは、このような考えが中国国内で定着していることを明確に認識しつつも、そうした敵対的環境を助長しているのは中国ではなく、「中国共産党の権力を弱体化させようと、長年にわたって介入し続けているアメリカの方だ」考えられていることを見落としている。これほどまでに異なる近年の歴史解釈が米中間に存在することを理解すれば、競争を管理し、誰も望んでいない壊滅的な紛争を回避する方法を両国が特定する助けになるはずだ。

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