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テーマに関する論文

排出量削減にクリスパーを生かせ
―― 農業部門の排出量削減をいかに実現するか

2022年1月号

エマ・コバック  ブレイクスルー・インスティテュート  シニアアナリスト(食品・農業問題担当) ロバート・パールバーグ  ウェルズリー大学名誉教授(政治学)

世界の温室効果ガス排出量の約3分の1は食糧生産に由来している。有機肥料から発生するメタン同様、亜酸化窒素も地球温暖化を引き起こしている。農業拡大のための森林伐採も森林が蓄えていた二酸化炭素を放出し、これだけでも温室効果ガス総排出量の10%以上に達する。「環境に優しい農業」だけでは十分に問題を解決できない。各国政府は、CRISPR(クリスパー)技術などの最新科学を対策に取り入れていく必要がある。問題は、多くの政府が、遺伝子組み換え技術やクリスパー技術を作物に使用することに強く反対しているために、気候変動に対処するための手段が制約されていることだ。気候変動と闘い、農業のレジリエンスを高めるには、考え方を改めなければならない。企業や規制当局は、クリスパーに対する根拠のない不安が根付かないよう迅速に対処していく必要がある。

フォロー・ザ・マネー
―― 気候変動対策と国際貿易・金融ルール

2022年1月号

ジェシカ・F・グリーン  トロント大学准教授 (政治学、グローバル・アフェアーズ)

気候変動対策をめぐる現在の国際アプローチは危機の深刻さに見合うものではない。正面からの対策をとるには、パリ協定のような段階主義ではなく、国際貿易・金融のルールそのものを書き換える必要がある。環境悪化を引き起こすことも多い多国籍企業に不当な投資保護を与えている古いISDS規制を撤廃することも必要だ。各国が脱炭素化の目的から(環境を重視しない国に対する)国境炭素税を導入できるように、貿易規制を緩和する必要もある。世界貿易機関(WTO)やG20などの金融フォーラムに気候変動アジェンダを持ち込めば、政策立案者が利用できる手段は増え、気候変動対策を妨害する石油企業、鉱山会社、重工業産業など、気候変動対策によってダメージを受ける大規模な排出主体の活動を抑制できるようになる。


国際最低税率合意の意味合い
―― 合意は改革への序章にすぎない

2022年1月号

ラス・メイソン バージニア大学法科大学院 栄誉教授(法律と課税)

多国籍企業の世界最低税率に関する国際合意の狙いは、課税逃れへの防波堤を築き、(底辺への競争とも呼ばれる)法人税率の世界的な引き下げ競争を抑えることにある。コロナ対策への財源確保や格差是正に向けた各国の思惑もある。これまで、税率を設定する権限は、国が手放してはならない主権の中核要素だと長く考えられてきた。しかし、世界の国内総生産(GDP)の90%以上、人口のおよそ75%を占める136の国・地域による1年近くにわたる交渉の末、国際法人税制における前提としての物理的プレゼンスの重要性を抑え、グローバルな法人最低税率を導入することが合意された。国際最低税率合意は画期的なものと評価されているが、その価値はすべて今後の展開にかかっている。真っ先に直面する障害が各国の国内政治だ。・・・

ロシアの衰退という虚構
―― そのパワーは衰えていない

2022年1月号

マイケル・コフマン  新アメリカ安全保障センター ディレクター(ロシア研究プログラム) アンドレア・ケンダル・テイラー  新アメリカ安全保障センター ディレクター (トランスアトランティック安全保障プログラム)

人口減少や資源依存型経済など、ロシア衰退の証拠として指摘される要因の多くは、ワシントンの専門家が考えるほどモスクワにとって重要ではない。プーチン大統領が退任すれば、ロシアが自動的に対米対立路線を放棄すると考えるべきではない。プーチンの外交政策は、ロシアの支配層に広く支持されており、クリミア編入をはじめとする未解決の紛争も彼の遺産とみなされている。アメリカとの対立は今後も続くだろう。つまり、ワシントンには中国に焦点を合わせ、ロシアの衰退を待つという選択肢はない。アメリカのリーダーは、ロシアを衰退途上にある国とみなすのではなく、永続的なパワーをもつ大国とみなし、ロシアの本当の能力と脆弱性を過不足なく捉えて議論しなければならない。

インフレは今後も続くのか
―― マジックマネーの時代の終わり?

2022年1月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー

短期的には半導体、住宅スペース、エネルギーなどのファンダメンタルズが世界的に不足しているため、物価上昇圧力はしばらく続くかもしれない。パンデミックの影響であらゆるものがデジタル化されているだけに、半導体チップの不足は特に深刻だ。それでも、いずれ落ち着いてくる。中期的に考えれば、価格を押し上げる供給不足は、永続的なものではなく、一時的なものに終わると考えられる。供給が安定し、需要が落ち着けば、適度な引き締め策で十分に対処できるようになる。2023年初頭までには、インフレ率は目標の2%を少し上回る程度で安定しているだろう。・・・

ロシアとウクライナの紛争リスク
―― キエフの親欧米路線とロシアの立場

2022年1月号

マイケル・キメージ  アメリカ・カトリック大学 歴史学教授 マイケル・コフマン  新アメリカ安全保障センター シニアフェロー

かつてはロシアとの対話に前向きな姿勢を示していたウクライナのゼレンスキー大統領も、いまや対ロ妥協路線を放棄し、欧米との協調を模索している。ウクライナとの国境線に部隊を動員しているモスクワはもはや外交の機会は失われたとみているのかもしれない。しかも、ワシントンが中国との競争に関心と資源をシフトさせているために、プーチンは「ウクライナはアメリカにとって周辺的な関心事にすぎない」と確信しているかもしれない。これまでウクライナのNATO加盟をレッドラインとみなしてきたロシアは、いまや欧米とウクライナの防衛協力の強化を看過できないとみなし始めている。モスクワが武力によって現在の均衡をリセットする環境が整いつつある。

世界は石炭使用量を削減できるか

2021年12月号

リンジー・メイズランド アジア担当シニアライター@CFR.org

G20のすべての国が、2021年末までに外国での新規石炭火力発電所建設への融資を停止すると約束した。しかし、専門家によれば、今世紀半ばまでにネットゼロを達成するには、各国は石炭のエネルギー使用を廃止し、再生可能エネルギーに置き換えるためにもっと努力する必要がある。・・・外国における石炭火力発電所に最大の公的資金を提供している中国は、そうした発電所が生産する電力の10倍近くを国内で石炭を燃焼させることで生産している。融資にしてもダブルスタンダードがある。・・・外国の石炭プロジェクトの大部分に資金を提供しているのは公的部門ではなく、(銀行、ヘッジファンド、ペンションファンドなど)民間セクターだ。研究者たちは、公的融資という側面では中国を最大の融資国としつつも、日本や欧米諸国の民間投資家や商業銀行も多額の資金を拠出していることを明らかにしている。


米中対立と大国間政治の悲劇
―― 対中エンゲージメントという大失態

2021年12月号

ジョン・J・ミアシャイマー シカゴ大学政治学教授

ヨーロッパやアジアを含む他の地域に覇権国家が誕生することを長く脅威とみなして阻止してきたワシントンは、中国の野心は自国を直接的に脅かすとみなし、いまやその台頭を阻止することを決意している。だが、これこそ大国間政治の悲劇に他ならない。中国が豊かになり、米中冷戦は避けられなくなった。対中エンゲージメント政策は、近代史上、最悪の戦略的失策だった。超大国が自らと肩を並べるライバルの台頭を、これほど積極的に推進した先例はない。いまや、大がかりな対抗策をとろうにも手遅れだ。

米中新冷戦とハイブリッドな覇権
―― 米ソ冷戦と歴史の教訓

2021年12月号

ハル・ブランズ  ジョンズ・ホプキンス大学 教授(グローバルアフェアーズ)   ジョン・ルイス・ギャディス  イェール大学 教授(陸軍・海軍史)

時は流れ続け、重力の法則は変わらない。同様に変わらない法則が新たに出現しつつある中国との冷戦も規定しているのだろうか。そうだとしても、その背後にどのような「不可知の要因」が潜んでいるのか。冷戦の歴史が不確実性を生き抜き、成功を収めるための枠組みを提供しているとすれば、アメリカは自らの最高の伝統を具現し、偉大な国家として存続していく価値があることを証明しなければならない。民主主義に対する内なる脅威を辛抱強く管理し、世界の多様性を守るために道徳的・地政学的な矛盾を許容する必要がある。未来が、私たちが予想するものではなく、ほとんどの点で私たちが過去に経験したことのないものになるとしても、歴史の研究によって、未来をナビゲートする最良の羅針盤が提供されるはずだ。

イラン新政権と核合意
―― 対米強硬路線を貫く理由

2021年12月号

モハマド・アヤトラヒ・タバァー テキサスA&M大学 ブッシュ行政公共サービス大学院 准教授(国際関係論)

エブラヒム・ライシ大統領率いるイランの新政権は、今後の核合意への復帰に向けた交渉で強硬姿勢を崩すつもりはない。むしろ、アジア経済に焦点を合わせ、自立的経済を模索することで、イラン経済の命運を核合意から切り離したいと考えている。イランの前大統領は、巨大国内市場を欧米企業に開放する手段として核合意を利用しようと試みたが、ライシ政権は、むしろ中国、ロシア、近隣諸国との経済関係を強化することで、イランを制裁の余波から切り離したいと考えている。テヘランの戦略は、アメリカの影響力に抵抗し、強制力には強制力をもって対抗することだ。核交渉の再開に向けて準備をしている間にも、テヘランはあらゆる事態に備えようと試みている。

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