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テーマに関する論文

社会の信頼をいかに再構築するか
―― サイバー攻撃が切り崩す信頼

2022年2月号

ジャクリーン・シュナイダー  スタンフォード大学フーバー研究所 フーバー・フェロー

ソーシャルメディアの偽アカウントを使った偽情報で何千人もの有権者の政治的立場を変化させられるのなら、サイバー攻撃を独裁者が躊躇する理由はない。よりパワフルなレジリエンスを構築できなければ、サイバー攻撃の連鎖とそれが生む不信感が、民主主義社会の基盤を脅かし続けることになる。しかも、デジタルへの依存が高まり、テクノロジー、人間、組織のつながりが希薄になればなるほど、「人と人との信頼を揺るがすサイバー空間の脅威」はより大きく、深刻になる。経済、重要インフラ、軍事力の基盤となるネットワークとデータ構造のレジリエンス強化を優先し、人と人との直接的なつながりと信頼を取り戻す必要がある。より強力なレジリエンスを構築できなければ、サイバー攻撃の連鎖とそれが生む不信感が、民主社会の基盤を脅かし続けることになる。


台湾有事と日米同盟
―― 事前協議で解決しておくべき課題

2022年2月号

デビッド・サックス  米外交問題評議会リサーチフェロー

中国は尖閣諸島を「台湾省」の一部とみなしているため、台湾をめぐって紛争になれば、尖閣諸島も攻略しようとするかもしれない。米軍の介入にもかかわらず、中国が目的を達成すれば、日本は、同盟国のアメリカはひどく弱体化したとみなし、外交政策や防衛態勢を根本的に見直さざるを得なくなるだろう。中国による台湾編入が成功すれば、日本の経済的安全保障も損なわれる。だが、市民の平和主義が根強いために、アメリカを支援することに伴う潜在的なコストやリスクが、日本による支援を制約することになるかもしれない。アメリカにとって重要なのは、中国が挑発もされないのに台湾を攻撃した場合に日本がどのように反応するか、東京がどのようなタイプの支援をどの程度提供する用意があるかについての理解を深めておくことだろう。

ウクライナ危機の本質
―― モスクワの本当の狙い

2022年2月号

アンジェラ・ステント ブルッキングス研究所 シニアフェロー

ロシアによる国境地帯への戦力増強は、ワシントンの関心を引くことだけが目的ではない。キエフへの圧力を高めることで、ウクライナ近隣のヨーロッパ諸国を不安にさせ、ロシアの真の目的がどこにあるのかをアメリカに憶測させることも狙いのはずだ。実際、モスクワの意図を曖昧にすることが、実は目的なのかもしれない。ロシアの高官たちはこれまでも、その動機を隠し、敵やライバルに絶えずその意図を憶測させる「戦略的曖昧性」を創り出そうと試みてきた。だが、こうした曖昧さゆえに、ロシアの意図を読み違え、米欧が対応を誤るリスクは高まる。・・・

中東への新しいエンゲージメントを
―― 軍事援助から社会経済支援へ

2022年1月号

ダリア・ダッサ・ケイ カリフォルニア大学ロサンゼルス校 バークル国際関係センター シニアフェロー

アメリカが中東との関係を終わりにしたいと考えているとしても、アラブ諸国が同様に考えているわけではない。アメリカの中東からの撤退は現実的でないだけでなく、地域の人々の生活を向上させ、より公正な政治秩序の構築に貢献するためにアメリカはどのように政策を調整できるかという重要な議論を妨げてしまう。戦略的流動性のなかで、アメリカはこれまでとは違ったやり方で、経済開発と公平性のための戦略を考案し、遂行する機会を手にしている。巨大な軍事投資ではなく、現地の人々がより健全な生活を手に入れるのを妨げている社会経済問題や統治問題を解決するための投資を試みるべきだろう。


権威主義の黄昏
―― 民主主義は復活する

2022年1月号

マデレーン・オルブライト 元米国務長官

近年、中ロを含む権威主義国家の指導者の一部が力をもつようになったのは事実だが、その多くは、自らの約束をすでに実現できなくなっている。透明性の欠如や弱いものいじめ的なやり方ゆえに、中国を友好国とみなす国はもはや存在しない。ロシアの現政権も腐敗し、信頼できず、終演に近づくワンマンショーとみなされている。一方、民主主義の優れた財産とは、あらゆる人々に最善を尽くすことを求め、人権、個人の自由、そして社会的責任を尊重することを基盤にしていることだ。これに対して、独裁者が民衆に求めるのは服従だけだし、それが人々を鼓舞することはない。しかも、独裁者の多くはいまや自らの約束を実現できなくなり、民衆の不満は高まっている、民主主義の大義が死滅しつつあるわけではない。カムバックしつつある。

エネルギーの新地政学
―― エネルギー転換プロセスが引き起こす混乱

2022年1月号

ジェイソン・ボルドフ コロンビア大学クライメートスクール 学院長 メーガン・L・オサリバン  ハーバード大学ケネディスクール 教授(国際関係)

クリーンエネルギーへの転換がスムーズなものになると考えるのは幻想に過ぎない。グローバル経済と地政学秩序を支えるエネルギーシステム全体を再構築するプロセスが世界的に大きな混乱を伴うものになるのは避けられないからだ。予想外の展開も起きる。例えば、産油国は、転換プロセスの初期段階ではかなりのブームを経験するはずで、クリーンエネルギーの新しい地政学が石油やガスの古い地政学と絡み合いをみせるようになる。クリーンエネルギーは国力の新たな源泉となるが、それ自体が新たなリスクと不確実性をもたらす。途上国と先進国だけでなく、ロシアと欧米の対立も先鋭化する。クリーンエネルギーへの移行が引き起こす地政学リスクを軽減する措置を講じないかぎり、世界は今後数年のうちに、グローバル政治を再編へ向かわせるような新たな経済・安全保障上の脅威を含む、衝撃的な一連のショック(非継続性)に直面するだろう。

政治的兵器とされた移民たち
―― 拡大する戦闘空間と多様化する兵器

2022年1月号

マーク・ガレオッティ ライター、研究者(ロシア安全保障)

「欧州連合(EU)に簡単に入国できる」という嘘の約束にだまされて、移民たちは、ベラルーシやその周辺国ではなく、主にイラクやクルディスタンからやってきた。観光ビザでベラルーシに集まった彼らは、バスでポーランドとの国境沿いに送り込まれた。要するに、ベラルーシのルカシェンコ大統領はEU側から譲歩を引き出そうと、人道危機、移民危機を人為的に演出した。歴史的には、移民が政治的兵器として用いられるのは今回が初めてではない。だが、ルカシェンコ政権のシニカルな策略から学ぶべき教訓は、紛争が伝統的戦場からあらゆる生活空間に拡大するにつれて、戦略的な偽情報の拡散同様に、移民も新たな兵器とみなされる時代になったということだ。ルカシェンコは多くの点で古いタイプの独裁者だが、彼が行使した「移民戦争」は未来の闘いのあり方の一つを示している。


アフガンに迫る人道的悲劇
―― 制裁下の国の民衆をいかに救うか

2022年1月号

P・マイケル・マッキンリー  元駐アフガニスタン米大使

都市部でも地方でもアフガニスタン全土が食糧不足に陥っていく恐れがある。カブールなどの大都市や州都では、何十万もの公的部門の労働者、教師、医療従事者の給料が支払われておらず、その家族は最低限の収入さえ得られなくなっている。農村部では、干ばつ、現金や市場の不足、そして冬の到来が大きな災害を引き起こしかねない状況にある。タリバンに対する制裁を求めている安保理決議第1988号は依然として有効だが、国連は人道的活動には決議は適用されないと明確に示すこともできるだろう。われわれは直ちに危機的状況に対応すべきで、人道的悲劇が起きて行動を起こすのでは手遅れだ。現地での人道的緊急事態は日を追うごとに深刻化し、アフガン民衆を救うタイムリミットが近づきつつある。

排出量削減にクリスパーを生かせ
―― 農業部門の排出量削減をいかに実現するか

2022年1月号

エマ・コバック  ブレイクスルー・インスティテュート  シニアアナリスト(食品・農業問題担当) ロバート・パールバーグ  ウェルズリー大学名誉教授(政治学)

世界の温室効果ガス排出量の約3分の1は食糧生産に由来している。有機肥料から発生するメタン同様、亜酸化窒素も地球温暖化を引き起こしている。農業拡大のための森林伐採も森林が蓄えていた二酸化炭素を放出し、これだけでも温室効果ガス総排出量の10%以上に達する。「環境に優しい農業」だけでは十分に問題を解決できない。各国政府は、CRISPR(クリスパー)技術などの最新科学を対策に取り入れていく必要がある。問題は、多くの政府が、遺伝子組み換え技術やクリスパー技術を作物に使用することに強く反対しているために、気候変動に対処するための手段が制約されていることだ。気候変動と闘い、農業のレジリエンスを高めるには、考え方を改めなければならない。企業や規制当局は、クリスパーに対する根拠のない不安が根付かないよう迅速に対処していく必要がある。

フォロー・ザ・マネー
―― 気候変動対策と国際貿易・金融ルール

2022年1月号

ジェシカ・F・グリーン  トロント大学准教授 (政治学、グローバル・アフェアーズ)

気候変動対策をめぐる現在の国際アプローチは危機の深刻さに見合うものではない。正面からの対策をとるには、パリ協定のような段階主義ではなく、国際貿易・金融のルールそのものを書き換える必要がある。環境悪化を引き起こすことも多い多国籍企業に不当な投資保護を与えている古いISDS規制を撤廃することも必要だ。各国が脱炭素化の目的から(環境を重視しない国に対する)国境炭素税を導入できるように、貿易規制を緩和する必要もある。世界貿易機関(WTO)やG20などの金融フォーラムに気候変動アジェンダを持ち込めば、政策立案者が利用できる手段は増え、気候変動対策を妨害する石油企業、鉱山会社、重工業産業など、気候変動対策によってダメージを受ける大規模な排出主体の活動を抑制できるようになる。


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