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テーマに関する論文

中国のロシア危機
―― 対ロ協調のバランスシート

2022年4月号

ジュード・ブランシェット  戦略国際問題研究所  中国研究担当チェア  ボニー・リン  戦略国際問題研究所  ディレクター(チャイナ・パワー・プロジェクト)

北京は、欧米の政策は冷戦メンタリティによって導かれていると嘆くが、欧米の専門家は、北京とモスクワの接近を前に1950年代初頭の中ソ同盟を思い出している。ロシアによるウクライナ攻撃は、ロシアとヨーロッパの対立を固定化し、重要なパワーを「ロシアと中国」、「アメリカとヨーロッパ」という二つのブロックに区分することで、結局は、中国が激しく反対している冷戦期の安全保障構造が再現されることになる。問題は、中国が(米欧ロという)三つのプレイヤーのなかでもっとも弱い国と同盟を結ぶことになることだ。実際、ウクライナに関する危険なゲームをいずれ中国は後悔することになるかもしれない。

ウクライナ侵攻というプーチンの大きな誤算
―― ウクライナ民衆の決意を支えよ

2022年4月号

チャールズ・A・クプチャン  米外交問題評議会シニアフェロー(ヨーロッパ担当)

プーチンの攻撃的で拡張主義的な野心を明らかにした今回の侵攻は、軍事的境界で分断されるヨーロッパへと時計の針を巻き戻すことになるかもしれない。ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スロバキアのNATO4カ国はウクライナと国境を接しており、新たな脆弱性に直面する危険がある。ロシアの侵攻が欧米と中ロブロックとの冷戦2.0を引き起こすことも考えられる。しかし、北京がモスクワと距離を置くようになる可能性もある。プーチンは物理的な意味でウクライナ支配を再び確立するかもしれないが、政治的、道徳的な意味での支配は実現できない。「誰がウクライナを失ったのか」というロシア人の質問への答えはプーチンということになるだろう。

北朝鮮危機と台湾有事
―― 半島危機と台湾有事のリンケージ

2022年3月号

ソンミン・チョ 米国防総省 アジア太平洋安全保障研究センター 教授 オリアナ・スカイラー・マストロ  スタンフォード大学 国際問題研究所センターフェロー

北朝鮮がアメリカとその同盟国をミサイル発射で挑発したタイミングで、中国が他の地域で行動に出る恐れがある。すでにそのリスクは高まっているのかもしれない。中国と競い合っているアメリカにとっては特に深刻なダメージになるだろう。戦略的競争の時代にある現在、朝鮮半島、東シナ海、台湾海峡は、良くも悪くも、ますます関連性とリンケージを高めている。こうした安全保障環境の変化に対応するには、日米韓の戦略家がこれらの問題をパッケージ化して捉え、対応策を考案しなければならない。金正恩や習近平を牽制するには、必要なら二つの戦争を同時に戦い、その双方に勝利できることを立証する必要がある。

変貌したサウジ経済
―― 脱石油の経済モデルと財政規律

2022年3月号

カレン・ヤング 中東研究所ディレクター(経済・エネルギー担当)

石油を財源とする福祉国家モデルはもはや維持できないことを理解したサウジの指導者たちは、社会的支出の拡大を求める圧力が高まっているにもかかわらず、規律あるオーソドックスな財政政策を模索している。消費によって牽引される経済を促し、支出を削減し、世界的な石油需要の低下を乗り切ることを重視し、無駄をそぎ落とした政府を構築しようとしている。新たな歳入源を探るとともに、原油価格の変動に応じた歳出をなくすことで、サウジ政府は湾岸諸国における財政保守の新たなモデル基盤を築こうとしている。

インド経済の復活はあるか
―― 成長を抑え込む政策的矛盾

2022年3月号

アルビン・サブラマニアン 前インド政府 チーフエコノミックアドバイザー
ジョシュ・フェルマン 元国際通貨基金 駐インド事務所代表

かつてはその経済的台頭が世界に注目されたインドも、パンデミックが広がるまでには、まるで、世界の経済地図から消え去ったかのように忘れ去られていた。だが2021年に流れは変わる。デジタルテクノロジー系スタートアップがブームに沸き返り、ユニコーンが毎月のように誕生した。こうして「インドは復活した」と考える人も出てきた。だが、そのポテンシャルを開花するには、政府はインドのビジネス・投資環境(ソフトウエア)を改革しなければならない。貿易障壁を引き下げ、世界のサプライチェーンへの統合拡大も目指すべきだ。安定した経済環境を構築・維持するために、政策立案過程そのものも改善する必要があるだろう。問題は、そのいずれも現実になる気配がないことだ。・・・

中東における宗派対立の再燃
―― カギを握るイラン核合意の再建

2022年3月号

ヴァリ・ナスル ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院 教授(中東研究)

中ロが中東への関心を高め、イランが頑迷な路線を崩さず、スンニ派アラブ諸国がアメリカの安全保障コミットメントをかつてなく疑いだしたタイミングで、ワシントンは中東における活動を手控えようとしている。シーア派イランの優位を覆そうとするスンニ派の動きが地域的に広がりをみせている。しかも、混乱のなかで各国の社会契約が破綻し、国が機能不全に陥るなか、過激派の動きが勢いづいている。より安定した地域秩序への道を切り開かない限り、アメリカは遠ざかろうと試みても、結局、中東の地域紛争に引きずり込まれるだろう。大きな鍵を握るのが、イランとの核合意を再建できるかどうかだ。交渉が決裂すれば、イランとアメリカは危険な対立の道を再び歩み始め、アラブ世界を巻き込んで、宗派対立もさらに激化することになるだろう。

アメリカは台湾をめぐる戦争で敗北する軌道にある。だが今からでも路線を見直せる。既存のすぐに手に入る軍事資源の分配を見直し、より効率的な計画を立て、重要な同盟関係をうまく生かせば、アメリカは早ければ2020年代の半ばまでには、台湾をめぐる戦争を阻止し、必要であれば相手に勝利する能力を手に入れているはずだ。中国共産党の自制心や10年以上先にならなければ利用できない技術に賭けるのではなく、アメリカの議会と政府は、新たな太平洋防衛戦略を遂行しなければならない。「バトルフォース2025」を新たに構築すれば、アメリカとその同盟国は、中国の侵攻を短期的に抑止し、必要に応じて撃退できるようになる。

機密情報公開のリスクと恩恵
―― 情報公開と抑止の微妙なバランス

2022年3月号

ダグラス・ロンドン 元CIA秘密情報部上級作戦担当官

米英は、ロシアのウクライナ攻撃の可能性を示唆する機密情報を次々と世界に公表してきた。機密情報を公開すれば、相手の行動をある程度抑止できるかもしれないし、情報を利用してイベントを形作ることもできるかもしれない。だがこのやり方は、アメリカの情報活動についての洞察を敵に与え、相手が機密保持態勢を強化する恐れもある。ワシントンがロシアの行動と意図を明らかにすればするほど、プーチンが逃げ口上を使って面目を保つのは難しくなるのは事実だろう。だが、それにも限度がある。バイデン政権は、大きな暴露が強いインパクトを与えるだけでなく、自らの手を縛ることにならないように注意すべきだろう。

サイバー攻撃と地政学対立
―― 攻撃のインセンティブを低下させるには

2022年3月号

ドミトリ・アルペロビッチ シルバラード・ポリシー・アクセラレータ 共同設立者兼会長

アメリカのサイバー戦略の大半は、攻撃の原因を取り除くのではなく、その余波を管理することに重点を置き、攻撃からの防衛そして抑止を試みてきた。だが結局のところ、サイバー攻撃は「地政学的緊張の結果」であり、その根底にある相手国との問題を解決しない限り、その現象は抑え込めない。貿易戦争の手を緩めることを条件にすれば、北京は知的財産のサイバー窃盗を抑えることに同意するかもしれない。同様に、ロシアの不正なサイバー活動を阻止したければ、ロシアの内政問題と地域問題にアメリカが介入するのではないかという、モスクワの懸念を緩和しなければならない。問うべきは、アメリカと同盟国に、サイバー空間の問題を他の地政学的課題よりも優先して対処する意思があるかどうかだ。

環境・社会・ガバナンスと政府の役割
―― 企業の社会的責任のポテンシャルと限界

2022年3月号

ダイアン・コイル  ケンブリッジ大学教授(公共政策)

「環境、社会、ガバナンス(ESG)」に関する活動報告を企業が導入しようと試みるのは歓迎すべき流れだが、こうした切実な問題を企業が解決できると考えるのは大きな間違いだろう。純粋に世界をよくすることに関心があるわけではなく、多くの企業は、ESG基準やその他の持続可能性の指標を主に自社の評判を上向かせるために利用していることも多い。社会変革に向けて行動を起こすべきはやはり政府で、経済に新たな規制を導入すべきだろう。市場をうまく機能させ、環境の持続可能性や低所得労働者の賃金向上など、社会的価値を映し出す法律も必要になる。世界が必要としているスピードと規模で社会の変化を実現するには、政府は、企業が決して同意しないような措置を規制で強制しなければならない。

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