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テーマに関する論文

日独の自主路線と対米協調のバランス
―― ポストアメリカの協調モデル

2022年8月号

マーク・レナード ヨーロッパ外交評議会 ディレクター

ロシアのウクライナ侵攻と米中対立の激化は、戦後秩序の現状とパックス・アメリカーナを根底から覆そうとしている。モスクワのウクライナ侵略を前に、ドイツは外交政策を抜本的に見直し、国防費の大幅増額を約束している。中国の覇権主義を警戒する日本も、同じような変貌を遂げようとしているようだ。短期的には、こうした変化は欧米世界の結束、あるいは復活さえも促すかもしれない。しかし、ドイツが新たに自主路線の道を歩み、日本も同様の道を歩めば、対米依存度は低下し、むしろ、近隣諸国との結びつきが大きくなるだろう。このようなシフトは、ヨーロッパとアジアにおける安全保障秩序だけでなく、欧米世界のダイナミクスを大きく変化させる。ベルリンと東京で進行している変化は、ワシントンが戦後に構築し維持してきたものとは異なる、よりバランスのとれた同盟関係が視野に入ってきていることを意味する。・・・

問題を解決できる新国際システムを
―― 新システムの目的をどこに定めるか

2022年8月号

フィリップ・ゼリコー バージニア大学教授(歴史学)

新しい国際システムが必要なのは明らかだが、重要なのは「現実に問題を解決すること」だ。求められているのは、地球上の多くの人が共有する少数の問題に対処できるプラクティカルな国際システムだろう。戦争、気候変動、経済および感染症のリスクから世界を守ることに焦点をあてた現実的国際秩序を考案していかなければならない。実際、指導者の多くは、第三次世界大戦の火種となりかねないウクライナでの戦争を止めさせ、新サプライチェーンが形作る「新経済秩序ビジョン」の構築を求めている。エネルギーショックをより低炭素の未来に向けた未来につないでいく機会にし、次の感染症パンデミックに適切に備えることを望んでいる。ここで問われているのは民主主義や独裁主義の価値観ではない。問題を解決するための連帯とプラグマティズムだ。・・・

ウクライナの再建を考える
―― 人口減、都市・経済インフラの破壊に対処する

2022年8月号

アナ・レイド 前エコノミスト誌キエフ特派員

先の見通しがたたない悲惨な状態のなかでも、一定の平和が戻ったときに、この国をどのように再建したいかを考え始めている人たちがいる。楽観的なシナリオでも、東部では戦闘が何年も続く可能性が高いことは理解されている。経済的喪失だけでなく、500万人以上が国外に難を逃れ、国内にいないこと、人口が大きく減少していることにも対処しなければならない。政治腐敗国家に戻らないようにする努力も必要だろう。もちろん、安全、繁栄する近代的経済、家族の帰還、うまく計画された新しい都市建設などの夢がすべて実現するわけではないだろう。だが、過酷な戦争が続くなかでも、再建計画が話し合われている。ウクライナ人の勝利への決意は固く、ロシアの脅威によって彼らの結束とアイデンティティは逆に高まっている。・・・

黒海と世界の食糧危機
―― ロシアに対する軍事・外交オプションを

2022年8月号

マーク・カンシアン 戦略国際問題研究所 国際安全保障プログラム上級顧問

これまでのところ、世界で飢餓が起きているという報道はないが、戦争が続けば、穀物の供給はさらに減少し、食糧不足だけでなく、暴動が起き、社会と体制の不安定化が誘発される恐れがある。欧米に行動を求める圧力が高まるのは避けられない。当然、食糧不足が危機として具体化する前に軍事作戦から外交までの計画を準備しておくべきだ。プーチンが示唆するような「ロシアの貨物船1隻が(経済制裁の例外措置として)国際貿易を認められれば、ウクライナの貨物船1隻も(ロシアの海上封鎖の例外として)国際貿易を許される」という合意も可能かもしれない。だが、この方法はロシアにかなりの金銭収入をもたらすとともに、制裁解除の前例を作り出すことになるため、ほとんど支持は得られていない。一方、欧米は衝突のリスクを冒すことには及び腰で、その間にも世界の食糧事情はますます厳しくなっている。・・・

安倍ビジョンと日本の安全保障
―― ナショナリズムと安全保障の間

2022年8月号

ジェニファー・リンド ダートマス大学准教授

リベラル派は、安倍首相(当時)に日本の過去の暗黒部を直視して償うことを求め、保守派は、彼の国の誇りを重視する姿勢、軍事力増強と国際的安全保障活動への参加を強化しようする試みを称賛した。多額の債務を抱え、人口減少によって長期的に不利な経済状況に直面するなかで、日本は今後防衛費を増額させていくことになるだろう。それでも、現状は安倍元首相が掲げたビジョンからはかけ離れているし、実際に彼のビジョンにたどり着けるかどうかも、わからない。現実には、市民も多くの政治家も、中国がますます支配力を強めるアジアで(具体的な対策をとるのではなく)漫然とよい方向に進むことを願っているにすぎない。安倍は、安全保障議論を進めて国を導くことのできる知的枠組みと政治的洞察力を備えた数少ない指導者だった。その死が日本にとって悲劇的な損失であることは誰もが認めている。・・・

自由貿易でインフレを抑え込め
―― 関税を下げれば、物価も下がる

2022年8月号

ゲリー・ハウバウアー ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー(非常勤) ミーガン・ホーガン 同研究所 リサーチアナリスト エイリン・ワン 同研究所 リサーチアナリスト

関税を引き下げ、輸入割当を撤廃すれば、アメリカの企業や家計が購入する輸入品のコストは下がる。安価な輸入品は、競合する国内製品の価格を押し下げる圧力を作り出す。関税引き下げはアメリカの貧困層にはかなりの恩恵をもたらす。手始めに2%の関税引き下げを実施すれば、今後1年間で約1・3%程度インフレを抑え込める。地政学的利益も期待できる。バイ・アメリカ規則を緩和すれば、貿易パートナーの政府調達市場へのアクセスを拡大できるし、乳製品や衣料品の関税を引き下げれば、パートナー国に具体的な恩恵を提供できる。こうして政治的な好意を示せば、アメリカのイニシアティブへの外国での支持を高めることにもなる。インフレ対策がバイデン政権の最優先課題なのであれば、それに貢献できる貿易保護主義を撤廃していくことの価値は自明だろう。

強大化する中国の核戦力
―― 変化するパワーバランスと抑止

2022年7月号

アンドリュー・F・クレピネビッチ ハドソン研究所 シニアフェロー

既存の2大核保有国と肩を並べることで、中国は核の三極体制という、きわめて不安定な核システムへのパラダイムシフトを起こしつつある。冷戦期とは違って、核軍拡競争のリスクが高まり、国家が危機に際して核兵器を利用するインセンティブも大きくなる。三つの核大国が競合すれば、二極体制の安定性を高めていた特質の多くが不安定化し、信頼性も低下する。中国がロシア同様に核大国の仲間入りすることをアメリカは阻止できないが、その帰結を緩和するためにできることはある。先ずアメリカは核抑止力を近代化しなければならない。同時に、核のパワーバランスに関する考え方を刷新し、はるかに複雑な戦略環境において抑止力を維持し、核の平和を維持する方法を新たに検証する必要がある。・・・

プーチンの歴史との闘い
―― ウクライナをめぐる葛藤

2022年7月号

アナ・レイド 元エコノミスト誌ウクライナ特派員

国家の地位を勝ち取ったのは31年前だとしても、ウクライナには何世紀にもわたる豊かな歴史がある。「あまりにも弱く、あまりにも分断しているため、ウクライナはひとり立ちできない」という主張も、戦場で見事に打ち砕かれている。ネオナチだという侮辱が言いがかりであることは、ゼレンスキー大統領がユダヤ系であることで立証されている。プーチンが語る架空のウクライナと、現実のウクライナのギャップが大きくなるにつれて、その嘘を維持するのは難しくなり、その矛盾はひどく深刻になっている。ウクライナの親ロシア派市民の声が聞こえてこないのは、「地下に追いやられ」「その信念のために迫害され」、場合によっては「殺されて」いるからだとプーチンは言う。だが、歴史が手がかりになるのは、それが本物の歴史の場合だけであることを、今頃プーチンは学んでいるのかもしれない。・・・

ポスト・アメリカ世界の基本へ
―― 大戦略から国家戦略へのシフトを

2022年7月号

エリオット・A・コーエン ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院 教授(政治学)

数十年にわたって、ワシントンは複雑で困難な官僚的プロセスを通じて政策化される「大戦略」に依存してきたが、いまやシンプルな「国家戦略」に立ち返る必要がある。これは、世界をきめ細かに理解し、課題を素早く察知して対応する能力、機会に出会ったときにそれを利用する姿勢、そしてこれらすべてを支える機敏な外交政策の立案と遂行のための効果的なシステムを実現するようなアプローチをとらなければならないことを意味する。アメリカが主導権をとることが難しくなった現在、われわれが直面している問題が必要としているのは難解な大戦略ではない。もっと素朴なもの、つまり、外交上の繊細なスキルが必要とされている。

あらゆる都市に猛暑対策担当官を
―― 熱波に備える最高猛暑責任者の任命を

2022年7月号

キャシー・ボーマン・マクラウド アトランティック・カウンシル シニア・バイスプレジデント

2022年は暑い年になるだろうが、少なくとも今後100年間でみればもっとも涼しい年の一つになるはずだ。熱波は人命を奪うだけでなく、道路の陥没や線路の歪みなど、インフラにもダメージを与える。ほとんどの飛行機は気温が49度を超えると離陸できなくなるし、携帯電話は気温が40度に達すると機能しなくなる。ハリケーンや竜巻とは違って、熱波はドラマチックなニュース映像になりにくいが、暴風雨と同じように、熱波は対策をとり、備えることができる。熱波に名前をつけたり、カテゴリーを示したりすれば、大衆の注意を引きやすくなる。実際、この措置はアテネ(ギリシャ)やセビリア(スペイン)など世界6都市で実験されている。だが、気温上昇への対応計画を立案し、実行する担当者を置いている都市は、世界にも数えるほどしかない。人命を救うために、各国の自治体指導者は、最高猛暑責任者(CHO)のポストを設けるべきだろう。

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