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テーマに関する論文

いつものリセッションではない
―― 世界経済は質的に変化している

2023年1月号

モハメド・A・エラリアン ケンブリッジ大学 クイーンズ・カレッジ学長

なぜ世界のほとんどの地域で経済成長率が鈍化しているのか。インフレが高止まりし、金融市場が不安定化しているのはなぜか。ドル高や高金利がなぜ多くの国で頭痛の種となっているか。大きな構造的変化が、これらの理由を説明する助けになる。世界はリセッションの瀬戸際に立たされているだけではない。経済・金融の奥深い転換期を迎えている。成長を抑え込む主要な要因が需要不足から供給不足へシフトし、中央銀行による量的緩和の時代が終わり、金融市場の脆弱性が高まっている。これらの変化が、個人、企業、政府に経済的、社会的、政治的影響を与えることになる。世界をより良い方向に向かわせるには、この変化を認識し、適切な舵取りを学んでいかなければならない。・・・

習近平の世界
―― イデオローグは何を考えているか

2023年1月号

ケビン・ラッド アジア・ソサエティ会長

習近平は、中国の政治をレーニン主義的な左寄りに、経済をマルクス主義的な左寄りに、そして外交をナショナリスト的な右寄りにシフトさせている。政策と民衆の生活のあらゆる領域で党の影響力を高め、国有企業を強化し、民間部門に新たな制約を加えている。そして、より強硬な外交姿勢をとることで、ナショナリズムを煽り立てている。アメリカとパートナー諸国は、現行の対中戦略を慎重に見直すべきだ。アメリカの戦略立案者は、(相手も自分と同じように考えるだろうとみなす)「ミラー・イメージング」を避け、北京は、ワシントンが考えるように合理的にあるいは国益のために行動すると思い込んではならない。

インフレの時代へ
―― 金融緩和策と供給ショック

2023年1月号

ケネス・S・ロゴフ ハーバード大学教授(経済学)

脱グローバル化、(貿易や経済への)政治圧力の高まり、(重要鉱物を必要とする)グリーンエネルギーへの移行などが引き起こす供給ショックを含む、数多くの要因によって、世界は、2桁代ではなくても、(かつての目標値である)2%を大きく超えてインフレが持続する時代に突入する危険がきわめて高い。2021―22年の異常な物価上昇の直接的要因の多くはいずれ解消するだろうが、低インフレの時代がすぐに戻ってくることはおそらくない。大恐慌以降、最悪の二つのリセッション(2008年と2020年)を経て、中央銀行が引き起こす深刻な経済停滞の社会的・政治的影響は非常に大きなものになるだろう。

レッドチャイナの復活
―― 習近平のマルクス主義

2022年12月号

ケビン・ラッド アジア・ソサエティ会長

習近平の中国は、鄧小平路線に象徴される改革開放路線、プラグマティズム路線と完全に決別した。改革時代の終わりの儀式を司ったのが第20回党大会だった。マルクス・レーニン主義の信奉者である習の台頭はイデオロギー的指導者の世界舞台における復活を意味する。共産党による政治・社会の統制時代へ回帰し、中国における少数意見や個人の自由のための空間は小さくなっていくだろう。経済政策も市場経済路線から国家主義的アプローチへ戻され、国際的現状を変化させることを目的とする、ますます強硬な外交・安全保障政策が模索されるようになる。考えるべきは、この計画が成功するのか、それとも、このビジョンに抵抗する政治的反動が内外で引き起こされるかだろう。

サウジの新しい世界ビジョン
―― 対米パートナーシップの終わり

2022年12月号

カレン・ヤング コロンビア大学 グローバル・エネルギーセンター 上級研究員

もはやサウジはかつてのようなアメリカのパートナーではない。むしろロシアと組んで、石油市場への影響力とサウジの未来ビジョンを守ろうとしている。リヤドとワシントンは、市場においても、経済発展モデルでも、お互いがパートナーではなく、競争相手であることに今後気づくことになるだろう。サウジは国際政治と貿易の双方において、新興国がより大きな役割を果たす、アメリカとは異なる経済ビジョンを思い描いている。世界はエネルギー不安の時代に入りつつあるが、化石燃料需要は少なくともあと20年は続く。国際システムがますます流動化するなか、サウジは国際関係でこれまで以上に大きな役割を果たすことになるのかもしれない。

私がウクライナ侵攻で思い知ったことの一つは、それまでの20年間に目撃してきたことに大いに関係していた。ゆっくりとだが、政府が自らのプロパガンダにとらわれ、歪められてしまっていた。ロシアの外交官は長年、ワシントンに対決路線をとり、嘘とつじつまの合わない言葉を並べて、ロシアの対外的干渉を正当化するように強いられてきた。私たちは仰々しいレトリックを使って、モスクワに命じられたことをそのまま繰り返すように教育されていた。だが、最終的に、外国だけでなく、ロシアの指導部もこのプロパガンダに感化されるようになった。・・・この戦争は、エコーチェンバーで下された決定がいかに裏目に出るかを明確に示している。

穏健化した欧州の右派ポピュリズム
―― 民主主義が勝利する歴史的理由

2022年12月号

シェリ・バーマン バーナードカレッジ教授(政治学)

「過激主義の政治集団が民主主義の大きな脅威になるかどうかは、それが登場した社会の本質に左右される」。民主主義の規範と制度が社会に力強く定着している社会では、反民主主義や過激主義をいくらアピールしても支持者はほとんど得られないために、急進派は穏健化せざるを得なくなる。効率的に民意を汲み取れる民主的社会において、反民主主義や急進主義が受け入れられる余地がほとんどないことは歴史が裏付けている。この状況下では、急進派は周辺化を受け入れるか、穏健化するかどちらかを選ばざるを得なくなる。戦後、共産党がたどった軌道、穏健化を選んで台頭した「イタリアの同胞」、「スウェーデン民主党」などの右派ポピュリスト政党の軌道は、まさにこの歴史的流れを裏付けている。問題は、アメリカ政治が逆方向に向かっていることだ。

ロシアの衰退という危険
―― 脅威がなくならない理由

2022年12月号

アンドレア・ケンドール・テイラー 新アメリカ安全保障センター 大西洋安全保障プログラム・ディレクター
マイケル・カフマン 米海軍分析センター ロシア研究プログラム・ディレクター

ロシアのパワーと影響力が衰退しているとしても、その脅威が今後大きく後退していくわけではない。プーチンが敗れても、ロシアの問題は解決されないし、むしろますます大きくなっていく。欧米は、この現実を認識し、ロシアがおとなしくなることへの期待を捨て、モスクワの標的にされているウクライナへの支援を続けなければならない。ロシアは往々にして再生、停滞、衰退のサイクルを繰り返す。ウクライナ戦争でそのパワーと世界的地位が低下しても、ロシアの行動は、今後も反発、国境沿いの勢力圏の模索、そして世界的地位への渇望によって規定されていくだろう。ヨーロッパが単独でこの問題を処理できると考えてはならない。ロシアの脅威は変化するとしても、今後もなくならない。

気候変動と感染症
―― 温暖化と感染症リスクの拡大

2022年12月号

クレア・クロブシスタ Deputy Editor for cfr.org
リンゼー・メイズランド Editor for cfr.org

多くの研究が、気候変動と人獣共通感染症の脅威拡大との関連を指摘している。温暖化によってウイルスの宿主の生息域と数が拡大し、ヒトとの接触、感染経路が増えているからだ。世界の平均気温の上昇に伴い、アメリカ疾病対策予防センター(CDC)に報告される新規ライム病の患者数は、1990年代初頭からほぼ倍増し、いまや年約3万人に達している。このような状況を受けて、近年では、人間、動物、自然環境のつながりを重視した公衆衛生の考え方、「ワンヘルス」という概念が広がりをみせている。この概念の下、農業・畜産、獣医学、環境汚染などの分野や研究領域を統合することが、将来のグローバルな健康脅威に備えるために必要だと提唱されている。だが、専門家たちは、世界は気候変動に起因する感染症拡大リスクに対する備えが依然としてできていないとみている。

対中露二正面作戦に備えよ
―― 新しい世界戦争の本質

2022年12月号

トーマス・G・マンケン 戦略予算評価センター会長

アメリカが東欧と太平洋で二つの戦争に直面すれば、米軍は長期的なコミットメントを強いられる。北京の影響圏が広がっているだけに、対中戦争の舞台が台湾と西太平洋に限定されることはなく、それは、インド洋から米本土までの複数の地域に広がっていくだろう。そのような戦闘で勝利を収めるには、アメリカの国防産業基盤を直ちに拡大・深化させなければならない。部隊をどのように動かすかなど、新しい統合作戦概念も必要になる。(第二次世界大戦期同様に)多数の戦域における戦争という戦略環境のなかで、アメリカの軍事的焦点を、どのタイミングでどこに向かわせるかも考えなければならない。そして、世界レベルでの軍事紛争を勝利に導くには、アメリカにとってその存在が不可欠な同盟諸国との調整と計画をもっと洗練していく必要がある。

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