「文明の衝突」批判に応える
1993年12月号
混迷する現在の世界を説明できるパラダイムが、文明のパラダイムでないというのなら、いったいそれは何なのだろうか。普遍主義や、国家パラダイムで現状を説明できるはずはない。冷戦の終結とともに、「歴史が終わった」わけではなく、世界が一つに統合されたわけでもない。そこにあるのは、異なる文明に属する国家や集団間で繰り返される衝突ではないか。「人々が自らのアイデンティティを確認する際に重視し、そのために戦い、命をかけることも厭わないのは、(イデオロギーや経済利益ではなく)信仰、家族、血のつながり、信条といった(文明的)要素」だからだ。この文明衝突の力学を封じ込めるには、その力学の本質を見極めない限り不可能だ。西洋人は、近代化を遂げた他の人々も「われわれのように」なるべきだと考えているが、これはむしろ西洋の奢りであり、こうした考え自体、文明の衝突を引き起こす要因になる。切実に必要とされるのは、異なる文明の本質を見極め、「他の文明と共存していくすべを学んでいくこと」にほかならない。