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テーマに関する論文

国家主権を考える
――リアリスト批判の立場から

1999年11月号

ジョセフ・ジョッフェ  南ドイツ新聞・論説ページ編集者

主権には様々な意味があり、定義も一律ではない。事実、「国内主権」がある程度確立されているといっても、国の対外的主権となると、そう話は簡単ではない。国は資源、支援、あるいは安全を他国に依存しており、たとえ強制されなくても条約、合意、(国際)機関への参加という形で、自らの権限をそれこそ数限りなく妥協させているからである。当然、国家の主権を絶対視して、各国をビリヤードの玉に見立てた国際関係理論では世界で何が起きているかを的確に説明できないし、一方で、グローバリズムなどの、昨今流行の通説でうまく説明できるわけでもない。グローバリズムと国の活動がともに増大しているのが現実だからだ。われわれは、主権をめぐって、概念的に「本来そうあるべきことと現実が違いながらも共存する」世界で暮らしているわけだ。これを認識した上で、主権という概念を再び考えなおし、世界の実像を捉えるべきだし、そのための理論を考えて行くべきだろう。

台湾は主権国家だ

1999年11月号

李 登輝/中華民国総統

「中国という国は、中華人民共和国が自らの存在を宣言した一九四九年に分裂している」。したがって、「台湾の動きが国の分裂を引き起こすことはあり得ず、台湾が独立宣言をすることに中国側が警告を発する必要などない」。そもそも中華民国は一九一二年の建国以来、主権を持つ独立国家だからである。海峡間関係は、いまや「特別な国家間関係」にほかならない。必要とされているのは、台湾は国ではなく、「反抗的な一省」にすぎないとする、中国がふりかざす「虚構」を捨て去り、民主国家としての台湾の「現実」を踏まえた、海峡を隔てた国と国の「平等な立場」に立つ話し合いである。そのためにも、国際コミュニティーと海外のメディアは、これまでの「虚構」に振り回されるのではなく、台湾の「現実」を直視すべきであろう。

地域・文化対立が米外交を引き裂く

1999年11月号

マイケル・リンド 「ハーパーズ・マガジン」ワシントン・エディター

反介入主義と反軍部を旨とするリベラルな北部と、介入主義的で軍に好意的な保守派の南部という対立構図は、米国が誕生して以来のものだ。「南部は、それが何をめぐって、どの国を相手とする戦争であるかなどお構いなく、アメリカの戦争のすべてを支持してきた」。これに対して、北部は一貫して非介入、反軍事路線を崩さなかった。これは、アメリカの内的な地域文化対立である。問題なのは、そうした北部と南部の地域的な下位文化が融合しないどころか、むしろ、民主党、共和党という対立構図と重なり合いつつあることだ。経済ブームがこうした南北間の価値観や利益をめぐる対立を覆い隠す役割を果たしてきたが、ひとたびリセッションが起きたり、新たな安全保障上の脅威が登場すれば、「軍事路線と自由貿易を支持する南部と南西部、そして、反介入主義的で保護主義的な北東部の間」のやっかいな政治対立が先鋭化するに違いなく、その衝撃は同盟関係さえも揺るがしかねない。政党やメディアに、こうした二つの地域文化がバランスよく反映されるシステムを導入しない限り、南北戦争まがいの対立がなくなることは決してありえない。

イギリスの選択

1999年10月号

デヴィッド・フロムキン  ボストン大学教授

「大陸ヨーロッパ」と「アメリカ」のいずれをパートナーに選ぶかという、古くからの命題にイギリスはどのような答えを出しつつあるのだろうか。「イギリスは欧州共同体、英連邦および大英帝国、そしてアメリカ(英米関係)という三つの輪の中で中心的役割を果たすべきである」。このチャーチルの遠大な戦後ビジョンは、半世紀の歴史を経て、どのような現実に遭遇しているのだろうか。ブレアの登場とともにイギリスは純然たるヨーロッパの一部になってしまうのか、それとも大陸ヨーロッパの統合運動に参加しつつ、英米関係を温存していくのだろうか。

第三の道は権威主義への道

1999年10月号

ラルフ・ダーレンドルフ  英国貴族院議員・社会学者

グローバル経済、トランスナショナルな政治、情報化時代という環境下での福祉国家体制の破綻、思想パラダイムの混乱というヨーロッパの現実を前に、イギリスのトニー・ブレア首相は右派・左派を超えた「第三の道」を標榜している。ブレア首相によれば、第三の道とは「国がすべてを管理する社会主義でも、全てを放任する自由主義でもなく、現代的社会民主主義である」。このブレアの「第三の道」はドイツのゲハルト・シュレーダー首相の新路線とも共通基盤を見いだしつつあり、この六月には連名で、社会保障負担が経済競争力を妨げてはならないという趣旨の声明文書も発表された。「リスクと社会保障の間の新たなバランス」の形成を模索する第三の道はヨーロッパの政治理念と制度を変える起爆剤になるのだろうか。著者のダーレンドルフ卿は、第三の道が内包する権威主義的要素が伴う危険を排除するためにも、冷戦を経て世界が勝ち取った「自由」の概念を中核に据えた政治プログラムを開始すべきだと提案する。

オランダの麻薬対策の挫折

1999年10月号

ラリー・コリンズ  ジャーナリスト

麻薬問題は多くの国にとって悩みの種だが、麻薬を合法化しているオランダの現実も理想からはほど遠く、到底成功とは見なし得ない。オランダ議会は二十三年前、マリフアナやハシシュなどの「ソフト」ドラッグの「コーヒーショップ」での販売をあえて許可した。これによって社会の表舞台へと「ソフト」ドラッグを引きずりだし、ヘロイン、コカインなどの「ハード」ドラッグの利用へと中毒者がエスカレートしないようにと試みたのだ。これがオランダの「麻薬による害を減らす」アプローチである。だが、「ソフト」ドラッグが実質的に「ハード」ドラッグ化しているし、「ソフト」ドラッグの合法化が「ハード」ドラッグ使用の抑制に効果をあげたわけでもない。しかも、いまやオランダは海外において「西ヨーロッパの麻薬の中心地」、ドラッグディーラーの巣窟というありがたくない評判を得ている。オランダの政府高官自身、自国の麻薬政策が意図した効果を発揮していないことを認めているが、有効な対策を見いだしていないという点ではアメリカやイギリスも同じである。われわれは、オランダの経験からどのような教訓を引き出すべきなのだろうか。

次期大統領の外交課題

1999年10月号

リチャード・ハース  ブルッキングス研究所副会長

グローバリゼーションと分散化、平和と紛争、そして繁栄と貧困という具合に、世界は相反する力学に引っ張られており、今日の多極世界における協調が明日には対立へと転じる危険は十分ある。アメリカの軍事・経済上の優位が現在圧倒的なものだとしても、それが未来永劫続くことはあり得ないし、アメリカの覇権確立や単独主義が選択肢になることもない。必要とされているのは、現在の優位を利用して、アメリカが世界秩序の安定化を促すような建設的な秩序概念を提示し、他の国家だけでなく、NGOなどの非国家主体を含む、すべてのアクターにとっても、これを支持することが自己利益にかなうと納得させることである。「人道的介入」を含めて、「多極世界における大国間の協調」を間違いないものとするために、国内的、そして対外的に何をなすべきか、これこそ、次期アメリカ大統領の大きな課題となろう。

金融新秩序を構築する通貨同盟

1999年9月号

ザニー・ミントン・ベドーズ  エコノミスト誌記者

二十一世紀を目前にした今、安定した世界的金融新秩序の構築こそ、緊急に取り組むべき課題である。この課題に、ベドーズはドルとユーロを中心に二大通貨圏を構築するという明快なシナリオを描く。彼は、保護主義や固定為替制度の虚実だけでなく、金融統合時代における「リージョナリズム」の実利を現実的側面から再検証する。世界の通貨市場の安定と、金融グローバル統合の実現には何が最も賢明な方策なのだろうか?

完全な失敗としてのコソボ

1999年9月号

マイケル・マンデルバーム  外交問題評議会フェロー

コソボ紛争は奇妙な戦争であったし、戦争を周到な政策の延長とみれば、これは完全な失敗だった。コソボのアルバニア系住民は、「民族自決権」に基づく独立を求めて戦った。一方、セルビア人は「既存の国境線の不可侵」という原則を盾にコソボをユーゴスラビアの一部に留め置こうと戦ってきた。かたやNATOといえば、コソボには自治権が認められるべきだという立場をとりつつも、それでもコソボはユーゴの一部にとどまるべきだと主張した。当然、戦争が終わったときも、主権にまつわる中核的な政治問題は未解決のままだった。NATOは介入して紛争勢力の一方を打破しつつも、戦争目的をめぐっては、うち負かした側が掲げていた大義を共有していたからである。つまりコソボはNATOの軍事的成功ではあっても政治的には大失策だったのだ。

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