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テーマに関する論文

アメリカは東南アジアを失うのか
―― 中国へなびくアセアン諸国

2024年10月号

リン・クオック ブルッキングス研究所 フェロー(アジア政策)

東南アジアを対象とする2024年の調査で、この地域の連携パートナーとして中国がアメリカよりも支持されるという初めての結果がでた。アメリカがイスラエルを強く支持していることが、中国に有利な方向に流れを変えた大きな要因と考えられる。イスラム教徒が多数派を占める東南アジアの3カ国すべてで、台湾ではなく、イスラエルとハマスの紛争が地政学上の最大の懸案に選ばれている。米外交にはダブルスタンダードがあり、中国に関する利己的な目標をもっているというイメージも、アメリカの立場への支持拡大を妨げている。失った地域的支持をワシントンが取り戻していくのは容易ではない。

インド資本主義の構造的危機
―― 自由化、縁故主義、改革

2024年10月号

ヤミニ・アイヤール 政策研究センター 前会長

1991年以降のインドには、「経済自由化の促進」という大きな方向性については社会的・政治的コンセンサスがある。それでも、失業や格差など、民衆の経済に対する不満は大きく、2024年の総選挙は、インド経済の欠陥と30年にわたる経済自由化の果てに、この国の資本主義が人々に信頼されず、危機に直面していることを際立たせた。インド政治における縁故主義や汚職のまん延がなくならないだけに、政治家が資本主義のダイナミックな姿を示すのは難しいのかもしれない。フォーマル経済と企業集中が一定の成長をもたらすとしても、このまま民衆の多くが取り残され、格差が拡大する現状が続けば、インドは、大きな混乱に直面することになるかもしれない。

気候変動と民主主義
―― 異常気象と選挙

2024年10月号

カレン・フロリーニ クライメート・セントラル 副会長(ストラテジック・インパクト担当)
アリス・C・ヒル 米外交問題評議会 シニアフェロー(エネルギー・環境担当)

いまや選挙の障害を作り出しているのは、偽情報、外国政府による干渉、選挙結果の改ざんだけではない。気候変動が引き起こす異常気象もそうだ。ハリケーン、洪水、山火事、熱波などさまざまな災害によって、有権者は選挙権をますます行使しにくい環境に直面している。カナダは、2023年の森林火災で地方選挙の実施に手間取り、パキスタンは2022年の国政選挙前に、国土の3分の1が洪水で覆われる事態に陥った。投票所、IDカード、通信ネットワークが被害を受け、破壊されても、投票という民主主義の基本的権利を市民が行使できるような対策をとる必要がある。

高技能外国人材と経済成長
―― 技術系人材を確保するには

2024年10月号

デベシュ・カプール ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学院 教授(南アジア研究)
ミラン・ヴァイシュナヴ カーネギー国際平和財団 シニアフェロー

この数十年にわたって、ワシントンの政治家たちは不法移民の管理とコントロールに執着してきたが、いまや、合法的な移民、それも高度技能をもつ外国人材に同じ程度の関心を払う必要があるだろう。世界的な人材獲得競争で成功したいのなら、時間的猶予はほとんどない。ワシントンは、サプライチェーンのレジリエンスを高め、新興技術部門で中国を打ち負かすという野心的な計画をもっている。だが、これらの目標を有意義な時間枠で達成するには、現在の米労働力に不足している、高度なスキルをもつ人材プールが必要になる。より柔軟で適応性のある移民政策なしでは、うまく考案された計画も結果にたどり着けない。

途上国を債務危機から救うために
―― アフリカのポテンシャルを開花させるには

2024年10月号

マーク・スズマン ビル&メリンダ・ゲイツ財団 最高経営責任者

2022年3月、米連邦準備制度理事会(FRB)が米国債の金利を引き上げると、低所得国の通貨は下落し、資本市場へのアクセスを失った。サハラ以南のアフリカでは、19カ国がデフォルトに陥るか、そのリスクに直面している。しかも、低所得国が直面している問題は、無分別な借金の結果ではなく、気候変動が引き起こしたショック、パンデミック、そして戦争の結果なのだ。低所得国を債務危機から救い出し、世界的な成長を回復させるために、先進諸国政府は、世界銀行への資金拠出を増やし、債務救済を強化していく必要がある。

同盟諸国とのトラブル
―― 気難しいパートナーといかに付き合うか

2024年10月号

リチャード・ハース 外交問題評議会 名誉会長

「友好国や同盟国との立場の違いをいかに管理するか」。この問題へのワシントンの考えはあまり整理されていない。例えば、イスラエルやウクライナのように、ワシントンに依存しながらも、その助言に抵抗することも多い相手に、どのように対処するのが最善なのか。説得、インセンティブ供与、制裁、見て見ぬふり、そして単独行動と、そこにはさまざまなアプローチがある。これらをどう使い分けるか、体系的なアプローチをとる必要があるし、「自国の利益を守りつつ、貴重な同盟関係の断絶を避ける」ために、ときには、相手を批判し、単独行動をとる覚悟をもつ必要がある。

フィッシュ・ウォーズ
―― 水産資源をめぐる紛争

2024年9月号

サラ・グレーザー 世界自然保護基金(WWF) シニア・ディレクター
ティム・ギャローデット 元米商務次官

水産資源は世界に食料を提供し、漁業は何億人もの雇用を生み出し、各国の経済を支えている。だが、気候変動などの要因によって重要な水産資源の漁場が変化しつつあり、これが、漁業セクターにおける違法操業や強制労働の原因となっている。水産資源はますます希少化し、今後が予測できなくなっている。この状況で、水産資源をめぐる争いが負のスパイラルに陥れば、影響は紛争にとどまらなくなる。基幹産業の混乱、エコシステムの破壊、食糧安全保障の劣化、雇用問題の悪化など、より広範な問題を引き起こす恐れがある。いま、政策決定者に求められているのは、チャンスがあるうちに紛争予防のためのアクションをとることだ。

カマラ・ハリスとドナルド・トランプ
―― 中国にとってどちらが好ましいか

2024年9月号

王緝思 北京大学国際戦略研究院 院長
胡然 北京大学国際戦略研究院 研究員
趙建偉 北京大学国際戦略研究院 研究員

中国の戦略家たちは、アメリカの対中政策が今後10年間で変わるという幻想は抱いていない。世論調査結果や中国に関する超党派のコンセンサスがワシントンに存在することから考えても、2024年11月に誰が米大統領に選出されようとも、その対中政策は戦略的競争と封じ込めに重点が置かれ、協力と交流は後回しにされるはずだ。トランプ、ハリス、どちらが大統領になっても、中国にとって厄介で不利益をもたらす相手になる。一方で、大規模な軍事衝突や経済的・社会的な交流の全面的断絶を求めてくることもないだろう。ただ、ワシントンにおける現在の思想のどの部分が最終的に支配的になるのかを、われわれは理解しようとしている。

政治暴力の連鎖を防ぐには
―― トランプ銃撃事件と政治暴力リスク

2024年9月号

リリアナ・メイソン ジョンズ・ホプキンス大学 准教授(政治学)
ネイサン・カルモー ウィスコンシン大学マディソン校 コミュニケーション・市民再生センター 事務局長

トランプは日常的に特定集団を侮辱し、政敵を「害虫」と呼び、移民をアメリカの「血を汚す」動物とさえ呼んだ。政治暴力そして大衆の暴力支持を煽り立てているのは、(政治指導者の)レトリックだけではない。文化、そして攻撃的な共和党系集団もそれを助長している。政治暴力を低下させる上で重要なのは、共和党が多元的で多民族の民主主義を受け入れる方向へ路線を見直すことだ。政治暴力への世論の許容度は党派を超えて高まっているが、右派はこの感情を現実に暴力行動に移す可能性がはるかに高い。実際、共和党が立場を見直さなければ、アメリカの政治的未来はこれまで以上に暴力的になる危険がある。

中国経済危機の本質
―― 過剰生産能力の悪夢

2024年9月号

ゾンユアン・ゾー・リュー 外交問題評議会 シニアフェロー(中国研究)

中国経済の停滞を説明する最大の要因は、巨大な過剰生産能力が構造的に作り出されていることだ。北京の産業政策は長年にわたって、生産設備への過剰投資を促し、その過程で中国の都市(地方政府)や企業は膨大な債務を抱え込んできた。最近でもロボット、電気自動車用バッテリー、その他で過剰生産能力を抱え込み、ソーラーパネルにいたっては、年間に世界が設置して利用できるソーラーパネルの2倍規模の生産能力をもっている。国内市場や外国市場が持続的に吸収できるレベルをはるかに上回る規模の商品を生産しているために、中国は、外国との摩擦を抱え込んでいるだけでなく、価格低下、債務超過、工場閉鎖、雇用喪失という破滅のループに陥っていく危険がある。

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