1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

テーマに関する論文

プーチンの戦争からロシアの戦争へ
―― プーチンと一体化するエリートと民衆の心理

2023年7月号

ユージン・ルーマー カーネギー国際平和財団 ロシア・ユーラシアプログラム ディレクター

ウクライナに戦争を仕掛け、モスクワが敵視する個人を神経ガスで攻撃する。イランや北朝鮮などのならず者国家に先端技術を売り込み、サイバー兵器を無差別に利用する。しかも、核兵器と国連安保理常任理事国の地位に守られているため、国際的な非難や制裁を受けることもない。プーチンの後継者が抜本的な軌道修正を行い、罪を償い始めるとも考えにくい。結局、プーチンは、ロシアのエリートと社会を戦争の共犯に仕立て上げることで、この国が彼の体制から劇的に離れていく可能性を抑え込んでいる。こうして、アメリカとその同盟国にとって、中国といかに戦うかという問題に勝るとも劣らない、厄介な問題が作り出されている。

勝利なき戦争と外交
―― いかにウクライナでの戦闘を終わらせるか

2023年7月号

サミュエル・チャラップ ランド研究所 シニア・ポリティカルサイエンティスト

いまこそ、ウクライナ戦争をどのように終わらせるかについてのビジョンを描くべきだろう。15カ月に及ぶ戦闘で明らかになったのは、たとえ外部からの支援があったとしても、双方には相手に決定的な軍事的勝利を収める能力がないということだ。このままでは、はっきりとした結果を得られぬまま、数年にわたって壊滅的な紛争が続く恐れがある。休戦を前提とする戦闘の終結では、ウクライナは、一時的に全ての領土を回復できない状況に直面するが、経済的に回復するチャンスを手にし、死と破壊の日々と決別できる。少なくともこの1世代でもっとも重大な国際的危機となったこの紛争に対する効果的な戦略は、アメリカと同盟国が紛争の終わりを働きかけることだ。

アフリカ経済に注目せよ
―― アフリカが左右するグローバル経済の未来

2023年7月号

ジャック・A・ゴールドストーン ジョージ・メイソン大学 教授(公共政策)
ジョン・F・メイ ジョージ・メイソン大学 リサーチプロフェッサー(公共政策)

今後20年間で、世界の大半の諸国は、若年人口や労働力の減少に直面するだけでなく、爆発的に増加する高齢者の介護を余儀なくされる。この近未来において、中国経済がこの40年にわたって世界経済で果たしてきた役割を今後担っていくのはどの国や地域なのか。意外にも、それがインドになる可能性は低い。世界が目を向けるべきは、むしろ、アフリカ大陸だ。国連の最新統計では、アフリカの人口は、死亡率の低下と出生率の上昇を背景に、現在の14億から2050年には25億に増加すると予測されている。中国、日本、韓国、ヨーロッパで若年労働力が激減していくなか、今後、グローバル経済の未来を左右するのは、豊かな労働力をもつアフリカ大陸になるだろう。

プーチンの心理と世界観
―― ロシアの核使用リスクを考える

2023年7月号

ローズ・マクダーモット ブラウン大学 教授(国際関係論)
リード・ポーリー ブラウン大学 アシスタントプロフェッサー(政治学)
ポール・スロビック オレゴン大学 教授(心理学)

戦場での大敗も経済制裁も、プーチンに迷いを生じさせることはない。ウクライナの降伏を手に入れない限り、彼が和平に応じることはないだろう。「流れは自分の側にあり、現在の消耗戦が長引けば、ウクライナ軍とウクライナ支援国が疲弊してくる」という読みに賭けているのかもしれない。だが、権力を維持することを重視する彼のナルシズムゆえに、時間枠が限られてくるかもしれない。軍の将軍や傭兵の指導者が内紛を続けるなか、彼は戦争を早く終わらせるためにもっと大きなリスクを引き受けるかもしれない。認知バイアスとプーチンに特徴的ないくつかの心理的傾向からみて、追い込まれたと感じれば、彼は非常に危険な事態を作り出すかもしれない。戦争の歴史で裏付けられた心理学の理論とエビデンスは、欧米諸国が核攻撃の高いリスクを想定して備えるべきことを示唆している。

中国とウクライナ戦争
―― 対ロシア支援の論理と結末

2023年6月号

リアナ・フィクス 米外交問題評議会 フェロー(ヨーロッパ担当)
マイケル・キマージ カトリック大学 教授(歴史学)

ウクライナ戦争の傍観者として振る舞うことで、これまで中国は恩恵を確保してきたが、今後はそうはいかないだろう。ロシアの敗北は中国の利益にならないからだ。ロシアが敗北すれば、アメリカは中国とのライバル競争にエネルギーと資源を集中できる環境を手にする。このような事態を防ぐために、中国はロシアに対して、経済的、精神的支援だけでなく、殺傷能力のある兵器を提供することもできる。戦争を長引かせ、ロシアの敗北を食い止めるため、あるいは何らかのロシアの勝利を早めるために、これらの支援を提供できる。中国の参戦は国際関係の新たなページを開くことになる。ウクライナ紛争を世界規模の紛争に変え、中国と欧米間の敵対関係はさらに深刻になるだろう。・・・

プーチンがワグネルを必要とする理由
―― 戦争とモスクワの権力抗争

2023年6月号

アンドレイ・ソルダトフ Agentura.ruの共同創設者
アイリナ・ボローガン Agentura.ruの共同創設者

なぜプリゴジンは公然とロシア軍の高官を罵倒できるのか。これは、「有事にあっては軍が国家内でより大きな力を得る傾向があること」をプーチンが理解していることに関係がある。戦争が長引けば長引くほど、軍の影響力は拡大し、管理するのが難しくなる。内外の脅威という視点で状況を捉えるプーチンにとって、軍の相対的な力の増大は、戦場でのパフォーマンス以上に気になるところだ。要するに、プーチンにとって、ワグネルは、長く自分の支配を脅かす潜在的な脅威とみなしてきたロシア軍を抑制するための重要な手段でもある。欧米諸国とは違って、ワグネルがこの戦争で果たす役割は、ウクライナの戦場で起きていること同様に、モスクワにおける権力ダイナミクスに密接に関係している。

欧米の戦争疲れとロシアの偽情報
―― ウクライナ支援を維持するには

2023年6月号

ニーナ・ヤンコヴィッチ 情報レジリエンス・センター アメリカ担当副社長
トム・サザン 情報レジリエンス・センター 特別プロジェクト ディレクター

欧米の市民は、これまで「同情疲れ」することなく、ウクライナがロシアの侵略を撃退するのを支援してきたが、このコミットメントは永遠に続くものではないだろう。ウクライナに近い中東欧においてさえ、戦争への資金援助への社会的支持はやや低下している。米市民の4分の1も「アメリカはキーウに過剰な支援を与えている」と考えている。しかも、ロシアは、ウクライナへの援助が不正または違法な目的のために(現地で)乱用されているというストーリーを拡散している。各国政府は、戦争が市民に課しているコストを認めつつ、ウクライナにおける闘いで何が問われているのかを改めて人々に認識させる必要がある。・・・

新しいウクライナ戦略を
―― 戦場から交渉テーブルへの道筋

2023年6月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長
チャールズ・クプチャン 米外交問題評議会シニアフェロー

欧米は、まずウクライナの軍事力を強化し、その後、戦闘が下火になったタイミングで、モスクワとキーウを戦場から交渉テーブルへと向かわせる必要がある。次の戦略は、今年後半に停戦を仲介し、それを、戦争を終結させることを目的とする和平プロセスでフォローアップすることでなければならない。この外交的駆け引きは失敗する危険が高いものの、戦費がかさみ、軍事的に膠着状態に陥るリスクがある以上、戦闘の再発を防ぎ、永続的和平を実現するための、安定した停戦を迫る価値はあるだろう。すでに、ウクライナの目標は欧米の利益と食い違いをみせはじめている。これまでのスタイルを続けるのは賢明でも持続可能でもない。

リベラルな国際主義の再生を
―― 貿易の自由化と経済安全保障

2023年6月号

ピーター・トルボウィッツ ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 教授(国際関係論)
ブライアン・ブルグーン アムステルダム大学教授(国際政治経済)

冷戦が終わると、共産主義の膨張主義や核戦争に対する懸念が後退し、欧米の有権者は、かつては論外とされてきた政党や候補、政策に賭けることも厭わなくなった。反グローバリズム感情が台頭し、貿易自由化や多国間協調を支持する政党への欧米有権者の支持率は50%近くも低下した。その結果が、ブレグジットであり、ドナルド・トランプだった。しかも冷戦後には、極右、極左勢力が、反グローバリズムと社会的保護政策を支持し、労働者階級の有権者を取り込もうと試み、これに成功した。欧米社会の反グローバリズム感情を抑えるには、国際政策が国内における労働者階級の家庭に恩恵をもたらすことを実感できるようにしなければならない。世界に国を開くことと国内の経済安全保障を守ることの間のバランスを取り戻す必要がある。

アメリカは中東をいかに失ったか
―― 米中東戦略の妄想

2023年6月号

リサ・アンダーソン コロンビア大学 名誉教授(国際関係)

ワシントンの中東戦略は「妄想」に過ぎなかった。それは、高潔な意図を抱いた政治家たちが、実際には知識も関心もほとんどない地域に「壮大なアイデアを押し付ける」ことで作り上げられてきた。ワシントンは長年、促進すべき何かではなく、「阻止すべき何か」で、中東をネガティブに定義してきた。現在のアメリカは中東で何を促進したいのか。ワシントンが中東におけるアメリカの国益を定義しない限り、間違ったエンゲージメント政策をとり、再び、何かを阻止することに終始するだけだろう。中国の最近の外交的勝利が示唆するように、そのような阻止戦略で失敗するケースは今後ますます増えていくだろう。

Page Top