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テーマに関する論文

中国のスペース・オデッセイ
――衛星破壊実験と北京の政策決定

2007年6月号

ベーツ・ジル 戦略国際問題研究所(CSIS)中国研究員
マーチン・クレイバー CSISリサーチ・アナリスト

「平和的台頭」を心がけて「責任ある行動をとり」、「調和のとれた世界」を模索する国家としてイメージ創りにあれだけ腐心してきた北京が、なぜ衛星攻撃兵器(ASAT)実験という挑発的行動に出たのか。その意図については、アメリカの宇宙空間での軍事的優位を牽制するため、あるいは、宇宙空間への兵器配備禁止の誘い水とするためなど、さまざまな憶測が流れている。だが、実際には、中国の外交・安全保障担当省庁と協議せずに、人民解放軍が独断で実験を強行した可能性が高い。とすれば、中国の軍事的意図、現在宇宙空間の軌道を漂泊している破片や残骸という問題を別にしても、ASAT実験は、より厄介な問題を浮上させていることになる。それは、政策決定プロセスが不透明な中国を信頼できるパートナーとみなせるかどうかという戦略問題にほかならない。

「2050年までに温室効果ガス排出量を少なくとも半減させることを含む、欧州連合(EU)、カナダ及び日本の決定を真剣に検討する」という最終文書を発表した地球温暖化をテーマとするハイリゲンダム・サミットは一定の成果を上げたと考えられている。だが、本当にそうだろうか。EUや日本と、アメリカの立場には依然として大きな開きがあるし、途上世界における「主要排出国」である中国とインドは、独自の対策は講じるとしても、成長を抑え込むようないかなる多国間排出削減目標にもコミットしないという立場を崩していない。さらに、「持続可能な発展」という文脈からみれば、途上国の貧困対策を押しつぶす形で、「先進国のアジェンダである環境保護政策」を優先すべき理由はないと批判する専門家もいる。排出量削減の数値目標というトップダウン方式を維持していくのか、それとも、普遍的な数値目標を追求するのはやめて、地域に即したボトムアップ方式のアプローチをとるべきなのか。バランスのとれた温暖化対策をとるために克服すべきハードルは数多く残されている。

アルカイダ・ストライクスバック

2007年6月号

ブルース・リーデル ブルッキングス研究所 セバン中東研究センターシニア・フェロー

現在のアルカイダは、パキスタンに非常にすぐれたプロパガンダチームを擁し、グローバルな活動能力を持つテロネットワークである。二次的な独立拠点をイラクに持ち、ヨーロッパへの影響力も強めている。指導層はほぼ手つかずのままで存続している。指揮統制系統を分散化し、意見決定を下位委譲しているために、ザルカウィのような主要なプレーヤーが死亡しても、生き残り、活動を継続できる。同盟勢力であるタリバーンもアフガニスタンで再び影響力を強めている。一方、混沌とした状況をつくりだしてしまったアメリカのイラク占領はビンラディンの計画を先に進めるのに手を貸してしまっている。ビンラディンはかねて、「イラク」をアメリカを陥れる罠にしようと試みてきたが、いまや戦略を拡大し、アメリカとイランを戦争へと向かわせようと画策しているようだ。

この数年来、アメリカとロシアは、事あるごとに衝突してきた。最近も、チェコとポーランドにミサイル防衛網を配備しようとするワシントンの計画に、ロシアは激しく反発した。プーチン大統領は4月末の年次教書演説でも、北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を批判した上で、欧州通常戦力(CFE)条約の履行義務を停止すると表明し、イワノフ第一副首相も5月3日に、ロシア軍は今後、「部隊の移動をNATOに通報しない」と発言した。だが、CFE条約の凍結を含むプーチンの攻撃的路線は、全般的な米ロ関係の悪化という問題が引き起こした現象にすぎず、CFE条約そのものが問題ではないとする見方もある。「米ロ関係が緊張しているのは、原油価格の高騰と経済成長をバックに、ロシアが主要な地政学的プレイヤーとしての地位を取り戻しつつあること、プーチン政権が、ロシアが弱体化していた時期に弱者の立場から結んだ条約や契約を改訂するか、反故にしていく戦略をとっていることに関係がある」とみる専門家は多い。

キャンペーン2008
大統領選挙の争点としてのイラク

2007年5月号

ジェームズ・リンゼー テキサス大学ロバート・ストラウスセンター・ディレクター

ヒラリー・クリントン上院議員やジョセフ・バイデン上院議員のような中道派の候補者たちも、しだいに現政権の路線を敵視する民主党左派の立場に歩み寄りつつある。その理由を、前米外交問題評議会(CFR)研究部長で現在テキサス大学のロバート・ストラウスセンターのディレクターを務めるジェームズ・リンゼーは、「民主党指導層がイラクからの米軍撤退をはっきりと求め、イラク情勢が改善していないどころか、悪化しつつある以上、党内左派の立場に中道派の候補もすり寄っていくしかない」と説明する。しかし、本質的には「民主党指導層の共感を勝ち取りつつも、より広範な市民層にアピールするようなメッセージをいかに考案するか、つまり、予備選で党内の支持を取り付けつつも、指名を受けた後の本選挙で不利にならないようなバランスのあるメッセージをどのように考案するかという課題に直面している」と同氏は言う。誰が大統領になろうと、イラクからの米軍の大幅な撤退はもはや既定路線であり、「今後18カ月間のうちに、これまでにわれわれがイラクで犯した間違いの余波を封じ込めるために軍事的、外交的、経済的に何をすべきか、何を準備しておくかを考えなければならない」と指摘し、イラクを中心とするペルシャ湾岸地域の地政学的安定をどう確保するのか、石油資源へのアクセス、人権問題をどうするかを考えておく必要がある」と語った。聞き手は、バーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。

CFRインタビュー
流動化するパキスタン情勢
――国内暴動で追い込まれたムシャラフ大統領の選択

2007年5月号

ダニエル・マーキー 米外交問題評議会シニア・フェロー (インド、パキスタン、南アジア担当)

「大統領と軍参謀長を兼務したままで再選を目指しているムシャラフの行く手を、チョードリ最高裁長官が法的に遮ろうとするのではないかとムシャラフ政権が懸念したことが、彼を停職処分にした本当の理由ではないか」。3月にチョードリ長官を停職処分としたことに端を発するパキスタン国内の暴動の背景をこう説明する米外交問題評議会(CFR)の中央アジア専門家、ダニエル・マーキーは、「ムシャラフが軍参謀長、大統領ポストのいずれかを辞するか、憲法の改正、修正を目指すかのいずれかしか道はなくなってきている」と指摘する。もっとも好ましいのは、「軍参謀長ポストを辞することだが、パキスタンの場合、むしろ、権力の中枢を担ってきたのは、大統領よりも軍の参謀長だった」とこの問題が極めて複雑であることをマーキーは示唆する。心配なのは、カラチで40人を超える人々が犠牲になった今回の暴動が、今後制御できない状況へと陥っていくことで、「私はこの点での懸念を、パキスタンに行ってますます強めた」と同氏は語っている。聞き手は、バーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター

CFRディベート
パキスタンは国境地帯の
安定確保に手を尽くしているのか

2007年5月号

◆混乱の責任はパキスタンにある◆
ビル・ロッジョ ジャーナリスト
◇混乱の責任はパキスタン、アフガンの双方にある◇
キャシー・ギャノン 元AP通信アフガニスタン・ パキスタン支局長

アフガニスタンが混迷から抜け出せずにいる理由は何か。アフガニスタンと国境を接するパキスタンの国境地帯(部族地域)にタリバーンやアルカイダが聖域を持つことをパキスタンが事実上認めているからなのか、それとも、アフガン政府が統治体制を確立できていないことが、この国が無法地帯と化している根本の原因なのか。専門家の間でも意見は分かれている。アフガンに展開する北大西洋条約機構(NATO)軍がいくらアフガン国内でタリバーンやアルカイダをたたいても、武装勢力はパキスタン国内に一時的に撤退し、態勢を整えて、再度国境線を越えて攻撃してくることが問題だとみる専門家もいれば、アフガン政府が事実上軍閥たちに支配されていることを問題視する専門家もいる。「アフガンを失わないため」には何が必要か、タリバーンが攻勢を強めるなか、国際社会は大きな決断を迫られている。

CFRインタビュー
パレスチナ危機のなか、
なぜ中東和平への機運が高まっているのか

2007年5月号

マーチン・インディク ブルックングス研究所 セバン中東研究センター・ディレクター

国際社会の支援をバックに治安能力の整備を進めていたファタハに危機感を募らせたハマスは、「ファタハが力をつける前に相手を粉砕しておく必要があると考え、その結果、ガザでハマスとファタハ間の内戦が起きてしまった。ハマスは、ファタハを攻撃するとともに、ガザ地区からのロケット弾によるイスラエル攻撃を激化させ、一方ではガザの民衆にイスラエルという敵対勢力に対して団結することを呼びかけている」。現在のイスラエルとガザの間で起きていることをこう分析する中東問題の専門家、マーチン・インディクは、ハマスによるイスラエル攻撃は、「本当の問題に目がいかないようにするためのハマスの陽動作戦だった」と指摘する。だが、こうした危機のさなかに、中東和平の機運が高まっている。「イラクの混迷が続いているためにイランが強大化することへの懸念が高まり、その結果、中東和平への機運が高まっている部分がある」。サウジアラビア、エジプト、ヨルダン、その他のスンニ派国家は、イランの強大化に対抗するためにも、イスラエルとの関係を修復していくのは、自分たちの利益になると考えだしたからだ。インディクは、中東和平に向けたすぐれた戦略環境が存在すると指摘しつつも、「パレスチナ側に、信頼でき、力を持つパートナーが誕生しない限り、こうした戦略的好機を生かすこともできない」と語った。聞き手は、バーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。

CFRインタビュー
サルコジはフランスをどう変化させるのか

2007年5月号

セルジュ・シュメマン インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙 論説ページエディター

「今回のフランスでの大統領選挙の投票率が、85%という西洋民主国家では異例の高さとなり、候補者の論戦に有権者が熱くなったこと自体、フランスが大きな岐路にさしかかっていると有権者が強く感じていたことを意味する」。サルコジがうまく政治を運営し、移民問題や労働組合との対立に足を取られなければ、大きな変化をもたらせるとみるシュメマンは、サルコジは、「より積極的に働くことにフランス人がもっと価値を見いだせるようにしたい」と考えていると指摘する。一方対米関係については、「サルコジが親米派であり、アメリカを尊重し、アメリカ流のやり方を好んでいるのは事実としても」、これまでのフランスの外交路線を踏み外すようなことはないと同氏はみる。「外交のスタイルやトーンは変化してくるとしても、フランスの対外政策路線の変化につながるとは思わない。ただし、これまでのようなアメリカとの大きな摩擦は起きなくなるかもしれない」と語った。聞き手は、バーナード・ガーズマン(www.cfr.orgのコンサルティング・エディター)。

エタノール燃料は本当に人と地球に優しいのか

2007年5月号

C・フォード・ランゲ ミネソタ大学応用経済学・法学教授
ベンジャミン・セナウアー ミネソタ大学応用経済学教授

原油価格が高いレベルで推移し、一方で環境問題への関心が高まるなか、世界的に代替燃料としてのエタノールが注目を集めている。しかし、トウモロコシや大豆を原料とするエタノール生産は世界の穀物供給を逼迫させ、価格を高騰させている。メキシコのトルティーヤ粉だけでなく、サハラ砂漠以南、その他のアフリカ、アジア、ラテンアメリカの貧困地域の主食であるキャッサバの価格も2010年までに33%、2020年までに135%上昇すると考えられている。バイオ燃料の需要増によって主要産品の実勢価格が1%上昇するごとに、世界で食糧難に苦しむ人々の数は1600万人ずつ増えていく。しかも、栽培・生産のために多くのエネルギーを必要とするトウモロコシや大豆は、環境を汚染する作物だ。エタノールを真にグリーンで持続可能な代替燃料とするには、木や草のセルロースからの生産の実用化を期待するしかない。

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