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テーマに関する論文

Vol.30 学問とビジネスの出逢い
――シンクタンクはいかに社会と政策に貢献できるか
/ ピーター・グローズ

2010年5月発売 / ピーター・グローズ (フォーリン・アフェアーズ誌副編集長/1983-94)

ベルサイユ講和会議に参加したアメリカの学者チームは、帰国後、アメリカに国際問題研究所を立ち上げようと試みる。だが、彼らは、外交経験を語り、外国の指導者との接触を実現することはできても、なにせ資金を欠いていた。一方、法曹界、銀行界のメンバーたちは、学問的な知性、ダイナミズム、そして外国の指導者との接触を必要としていた。このビジネスと学問の必要性の出逢いこそが、現在の外交問題評議会の成長を促し、その後何十年にもわたってこの組織を傑出した存在とした「シナジー」、つまり、共働作用を生み出した。学問的、政治的専門意見が、現実的なビジネス利益と出逢い、このプロセスによって、概念的思索家たちが、「岩の上にたっているのか、あるいは、流砂の上にたっているのか」を見極める機会が提供されることになる。

アジア諸国の指導者たちは、科学、産業、政府、市民社会へと送り込む優れた人材を育成する場として、世界でトップクラスの大学がもっとも適切な訓練機関であることをすでに理解している。そうした教育機関は、問題を解決し、技術革新を促し、社会をリードしていくのに必要な、思想的な奥行きと建設的・客観的な批判的思考(クリティカル・シンキング)を持つ人材を生み出すことができるからだ。これまでのように、専門知識を与えることばかりを重視し続ければ、広い視野を身につけさせぬまま学校から社会へと学生を送り出してしまう。伝統的な暗記中心の教育法では、社会的創造力を生徒たちに与えられないことをアジア諸国は明確に認識しだした。自分のために考え、議論を体系的に行い、新しい情報や正当な批判に直面した場合には、自分の立場を擁護するか、見直すことを学んでいかせなければならない。これが、21世紀の社会で成功していくための大学教育の基本であることをアジア諸国は強く認識し始めている。

核武装後のイランにどう対処するか

2010年4月号

ジェームズ・M・リンゼー 米外交問題評議会研究部長
レイ・タキー 米外交問題評議会シニア・フェロー

核開発プログラムは、今ではイランの国家アイデンティティを規定する重要な要素になりつつあり、テヘランは核兵器の開発をすでに決意している。イランが核武装して以降の悪夢のシナリオを描くのは簡単だ。「イスラエルは直ちに核兵器を発射できるように核の臨戦態勢に入り、イラン、イスラエルの双方が、数分間で破壊されるような状況に置かれる。エジプト、サウジアラビア、トルコが一気に核武装を試み、核不拡散条約は破綻し、世界中で核拡散潮流が起きる」。こうした悪夢のシナリオが現実になる可能性もある。だが、そうなるかどうかは、アメリカとイスラエルを始めとする他の諸国が、イランの核武装にどのように反応するかで左右される。

外交交渉や働きかけに応じることにイランの指導者が無関心であることを考えると、イランが核武装した場合にどうすべきかを考えておく必要がある。核武装したイランに対しては、封じ込め政策を取る必要がある。だが、イラン封じ込めは、軍事力行使の代替策ではない。それどころか、封じ込めの成功は、アメリカがイランに軍事力を用いるつもりがあるか、ワシントンが定義するレッドラインを越えた場合に、軍事力をバックにして恫喝策を取るつもりがあるかどうかで左右される。レッドラインを越えた場合に懲罰策をとるというコミットメントなしで圧力をかけても、失敗するのは目に見えているし、この場合、中東はさらに暴力に満ちた危険な場所になる。

複雑系の崩壊は突然、急速に起きる
―― グローバル経済とアメリカという複雑系の将来

2010年4月号

ニーアル・ファーガソン ハーバード大学歴史学教授

歴史は循環的で、その流れはゆっくりとしか変化しないという考えがもし間違っていたら。周期性がなく、静的であるとともに、スポーツカーのように、急発進するとしたら。崩壊プロセスが数世紀という時間枠で進むのではなく、夜の泥棒のように、突然にやってくるとしたら。複雑系には一定の特徴がある。小さな刺激で非常に大きな、そして、しばしば予期せぬ変化が急激に起きることだ。グローバル経済はまさしく複雑系だ。格付け会社による米債券の格付けの引き下げといった、突然の悪い知らせが、緊急ニュースとしてヘッドラインを飾る日がやってくるかもしれない。今後を考える上で、非常に重要な鍵を握るのは、こうした突然の変化だ。過去の帝国や現在のグローバル経済のような複雑適応系では、それを構成する一部の有効性に対する信頼がなくなっただけでも、システム全体が非常に大きな問題に直面する。

善意に根ざしているにも関わらず、援助が適切に用いられる条件が整っていなければ、援助は世界の貧困国を助けるのではなく、ますます追い込んでしまう。歴史が何らかの指針になるのなら、貧困に対する戦争を闘う主要な武器は先進国からの援助ではなく、途上国における政策路線のリベラルな改革だ。その理由を知りたければ、最近における中国やインドの成長と、一方で停滞に苦しむアフリカの途上国のコントラストに目を向ければよい。援助を被援助国の健全な開発政策とうまくリンクさせ、援助を適切に使う意思をもつ国に対してだけ供与するのなら、開発援助も貧困国の助けになる。重要なのは、援助を注ぎ込むにために世界的なキャンペーンを行うことではない。途上国の市民や指導者が、自分たちの運命を形づくるような経済政策の改革とその実施という選択を、襟を正して下すかどうかだ。

CFRインタビュー
アメリカの財政赤字とドルの運命

2010年3月号

ライアン・アベント Economist.com エディター

アメリカの経常赤字がかつてない規模に達しつつあるといっても、経済が回復すれば、税収基盤も拡大し、失業保険などの支出も低下し、対GDP比経常赤字は5%規模へと圧縮されていくと思う。しかし、より大きな問題は、2015年以降に、社会保障、医療保険(メディケアー、メディケイド)の負担増でアメリカの経常赤字が再び増大していくと考えられることだ。問題は、「医療と社会保障コストの問題に取り組まなければ、米国債の格付けが引き下げられ、高金利によって経済成長が抑え込まれてしまう」というぎりぎりの状況に直面しなければ、政治的決断をするのが難しいかもしれないことだ。この段階まで状況を放置すれば、外国の投資家は、ドルを保有し続けるのをそれほどいい選択肢だとは思わなくなるだろう。

CFRミーティング
ジョセフ・スティグリッツが語る
金融危機と規制、経済の不均衡、中国、ドルの将来

2010年3月号

スピーカー ジョセフ・E・スティグリッツ  コロンビア大学教授 司会  スティーブン・R・ウェイズマン  ピーター・ピーターソン国際経済研究所公共政策フェロー

私の考えでは、今回の経済危機は金融システムが社会的な機能を果たしていなかったことを示す何よりの証拠だ。大きすぎて潰(つぶ)せない銀行が何をするか。リスクをとって成功すれば利益を独占し、リスクをとって失敗すれば納税者がその損失を埋め合わせる。これが現実に起きたことだ。貧困に苦しむ世界の人々を助けるためにも、地球温暖化の問題に取り組んでいくためにも巨大な投資が必要となる。重要なポイントは、資金を生産的な投資へと向かわせる方法を模索することだ。今回の経済危機は、金融システムがそのような機能を果たせなかったことを意味する。金融システムが果たすべき機能は、貯蓄をもっとも高いリターンをもたらす領域への投資へと向かわせることだ。世界でもっとも豊かな国の住宅部門に返済能力を超える水準になるまで資金を注ぎ込むのは、どうみても効率的ではなかった。(J・スティグリッツ)

ワシントンは、鳩山政権が普天間問題をめぐる結論を出すのに、もっと時間を与えるべきだ。より全般的には、民主党が選挙で勝利を収めたことを、アメリカが手助けをして蒔いた民主主義の種が日本で根を張ったことの証しとして、もっとも祝福して評価すべきだ。この点での認識ができれば、日本がペンタゴンの要請に対してこれまでのようにおとなしく従うと期待すべきではないこと、そして、日本の政党が安全保障問題をめぐって独自の見解をもつ権利を持っていることを理解できるようになるはずだ。・・・日本における米軍部隊と基地のプレゼンスを小さくしていく代わりに、日本政府は相互安全保障と世界の平和のためにより大きな貢献をしなければならないし、集団的自衛のための活動に参加する権利を持っているとはっきりと表明すべきだろう。

核不拡散と原子力の平和利用を両立させる道はあるか

2010年3月号

チャールズ・ファーガソン 米科学者連盟会長

非核保有国が原子力発電用の原子炉を調達すれば、その分、核不拡散のリスクは高まっていく。原子力発電に切り替えるだけでは、有効な地球温暖化対策とはなり得ないが、原子力発電を新たに試みるに適した国が、厳格な安全基準、管理体制、核不拡散のガイドラインを受け入れるのであれば、核拡散のリスクを伴うとしても、原子力の平和利用を認めざるを得ない。また、核拡散を防ぐには、核能力を獲得することが自国の安全保障問題への解決策だと考えている国の安全保障上の不安を取り除き、核兵器を保有すれば国際関係において大国と同等の立場を手に入れられるとする間違った認識を正していく必要もある。この観点から、国連安保理の常任理事国に日本のような核を保有していない地域大国を迎え入れることも考えるべきだ。国際コミュニティは地域大国が抱く不安を取り除き、核を保有することで得られる過大な名声を剥ぎ取り、原子力エネルギーに非核保有国が抱く不合理な期待を引き下げていくように努力すべきだろう。そうすることで、核廃絶のビジョンを支えていくことができる。

世界は再び食糧不足の時代へ
――結局、マルサスは正しかったのか

2010年3月号

チャーリスル・フォード・ランゲ ミネソタ大学教授
チャーリスル・ピエール・ランゲ イエール大学学生

2009年の穀物生産がかつてないレベルへと増大したことで、価格の高騰は一時的に抑えられているが、今後数年間のうちに再び世界は食糧不足に陥り、市場価格が高騰し始めるようになる。緑の革命を経て、多くの人が、これで食糧の安定供給は確保されたと考えるようになったが、実際にはそうではなかったことはすでに最近の食糧価格高騰によって実証されている。ますます多くの穀物がバイオ燃料の原料として用いられ始め、中国や南アジアでの人口や所得が上昇するにつれて食糧需要はさらに高まっている。途上国、とくに最貧国は絶望的な状態に追い込まれている。すでに食料価格を高騰させるメカニズムは動き出している。

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