1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。
ポピュリストの政治的エネルギーが高まる一方で、主流派メディア、外交エスタブリッシュメントに始まり、金融企業、一般企業の経営陣、そして政府にいたるまでの確立されたアメリカの組織への信頼が失墜しつつある。現在のポピュリスト運動の代名詞であるティーパーティー運動は、彼らが「憶測を間違え、腐敗している」とみなす各分野の専門家に対する反乱とみなせる。しかも、2010年3月にアメリカで実施された世論調査では、回答者の37%がティーパーティー派を支持すると答えており、これは、少なくとも1億1500万のアメリカ人がティーパーティー運動になんらかの共感を示していることを意味する。アメリカの政策決定者、そして外国政府の高官たちは、アメリカ政治における主要な勢力であるポピュリストを十分に理解せずして、もはや米外交に関する適切な判断を下すことができなくなっていることを認識する必要がある。
2011年5月号
ムバラク、ベンアリのような中東におけるスルタン主義の独裁者は、個人の権力と権限を維持していくことにしか関心はない。従順な支持者を主要ポストに据え、制度の頭越しに政治を行う。水面下で富を蓄え、この資金を用いて指導者への忠誠を買う。いかなる形で国に資金が流れ込もうと、そのほとんどは、スルタンとその仲間内の懐へと流れ込む。軍を分裂させて、軍事エリートを自分の管理下に置く。だが、スルタン主義独裁制の下で、経済が成長し、教育制度が整備されてくると、状況に不満を抱き、「こうあるべきだ」と考える人が増え、警察による監視体制や権力乱用に対する反発も大きくなる。民衆を手なずけることを目的に体制側が実施してきた補助金その他のプログラムのコストが上昇すれば、大衆を政治から遠ざけておくのは難しくなり、軍の一部も状況への不信感を強める。これが中東革命の背景だった。これからどうなるか。スルタン体制の歴史をひもとけば、今後の展開が、考えられているよりも明るくも暗くもないことがわかるだろう。
2011年5月号
フクシマ原発危機がいまも収束しないために、広く原発施設に対する不安と懸念が高まりつつある。実際、フクシマ原発がどのような状態にあるかは、いまもはっきりとしない。米原子力委員会のジョン・エイハーン前委員長によれば、フクシマ原発の「使用済み核燃料がどのような状態にあるかは依然として確認されていないし、ましてや、原子炉内の核燃料がどのような状況にあるかはわかっていない」。当然、「危機を管理できる状態にもっていくには、まだかなり長い時間がかかる」。チェルノブイリ原発事故、スリーマイル島原発事故以降、それぞれの事故を阻止するためにはどのような措置をとっておくべきだったかについて結論を出すには、数年の時間を要した。フクシマの原発事故についても、今後の対策に向けた結論が出るのはかなり先の話になる。だが、あらゆる設計上の規制を満たしているかどうかを検証する必要があるし、規制をいかに適切に進化させ維持していくかを考えることが絶対的に必要だ。
中国の台頭はたしかに危険をはらんでいるが、それが伴うパワーバランスの変化によって覇権競争が起きて米中の重要な国益が衝突することはおそらくない。核兵器、太平洋による隔絶、そして現在比較的良好な政治関係という三つの要因のおかげで、現在のアメリカと中国はともに高度な安全保障を手にしており、あえて関係を緊張させるような路線をとることはないだろう。米中間の緊張の高まりを抑えつつ、地域バランスを維持するには、事態をやや複雑にするとはいえ、ワシントンはアジアでもっとも重要なパートナーである日本と韓国に信頼できる拡大抑止を提供し、一方で、台湾防衛のような最重要とは言えないコミットメントについては従来の政策を見直し、アメリカは台湾から手を引くことも考えるべきだろう。何よりも、アメリカは中国の影響力と軍備増強によって生じるリスクを過大視し、過剰反応しないようにする必要がある。
現在の原油価格高騰がいわゆる「ノーマルな状態」へ戻っていくと考えるのは正確ではない。「現在は一時的なショック状態にあるだけで、かつての状況に戻っていく」と考えるのは間違っている。危機前の状況へと戻っていくことはあり得ない。・・・さらに、マクロ経済の分析ではとかく景気循環が前提にされる傾向があるが、世界経済の構造と性格が着実に変化していることに目を向けるべきだ。・・・(今後、先進国は)貿易財部門、雇用に関して長期的に大がかりな変化を経験していく。いずれ経済成長路線に立ち返るだろうが、雇用(失業)問題が残存する。教育、・・・税制度、投資インセンティブ、公的資源を用いた投資と技術開発を見直していく必要があるし、所得再分配モデルも見直していくべきだ。
2011年4月号
「石油の呪縛」として知られる社会・政治構造が引き起こす産油国の絶望的な経済・社会的な停滞が、現在中東各地で起きている政治的混乱の背景にある。人々は、高い失業率、極端な所得格差、(食糧価格など)高い生活コスト、そして老人支配政治と泥棒政治などに対して怒りを表明している。つまり、産油国が「石油の呪縛」を断ち切るために、経済を多角化していかない限り、政治的争乱の原因である社会不満は解消しない。さらに、産油国国内における石油の消費も増大している。その結果、中東石油に依存する消費国は厄介な先行き見込みに直面している。現在の政治的混乱による供給の乱れだけでなく、産油国の国内消費の増大による供給の乱れを織り込まざるを得なくなっている。2011年は1971年同様に、石油をめぐる地政学の分水嶺の年になるかもしれない。
2011年4月号
19世紀に大国が領土と天然資源をめぐって競い合ったように、現代の大国はブレインパワー、つまり国際経済のエンジンとなる科学者や技術者、起業家、有能な経営者を求めて競い合っている。先進国は高度な知識とスキルを持つ外国の人材を必要としているが、各国の市民は外国人が持ち込む異質な文化を受け止められるかどうかを確信できずにいる。ドイツは、今後先鋭化してくる労働力不足問題を認識していながらも、変化を受け入れる準備ができていない。移民の社会的同化を促進する制度もうまく整備されているとはいえない。それでも、ドイツが他の国々よりも早く問題に気づいて対策を検討していることは事実だし、この点を、外国の有能な人材も考慮することになるだろう。
2008―2009年の金融危機の結末とは、「うまく規制されていない国内市場と資本の自由化という組み合わせは、壊滅的な事態を招き入れる」という東アジア諸国が10年前に学んだ教訓を、ついにアメリカ人とイギリス人も学んだということにほかならない。危機によって、アメリカ流資本主義への信用が完全に失墜したとは言えない。だが、少なくとも支配的なモデルではなくなりつつある。「その他の台頭」と呼ばれる現象は、経済、政治領域における新興国のパワー拡大を意味するだけではない。思想とモデルをめぐるグローバルな競争にも、その影響が出ている。欧米世界、特にアメリカは、もはや社会政策上の革新的な思想をめぐる唯一の拠点とはみなされてはいない。アメリカ、ヨーロッパ、日本は今後も豊かな経済的資源とアイディアの集積地であり続けるだろうが、すでに新興市場国もこの領域でのライバルとして台頭してきており、今後その存在感をますます高めていくことになるだろう。
2011年4月号
1930年代の教訓からみて、失業率が高止まりし、通貨供給、為替、財政政策上の選択肢が失敗するか、選択肢にならない場合、国は貿易障壁を作り出す可能性が非常に高い。・・・しかも、20世紀の初頭同様に、いまや世界はグローバル経済のリーダーシップをめぐる大きな移行期にある。アメリカのパワーは大きく弱体化し、ワシントンには、もはや単独でグローバル経済のリーダーシップを担う力はない。一方で、中国がリーダーシップを果たすとも考えにくい。輸出ばかりを重視する重商主義的な貿易アプローチをとっている限り、北京が困難な状況にある諸国からの輸出を受け入れる開放的市場の役目を果たすことはないだろう。G20もまとまりを欠いている。1930年代と現在の類似性が表面化しつつある。経済は回復しているが、失業率が高止まりし、多くの製造部門は過剰生産能力を抱え込み、通貨問題をめぐる緊張が高まりつつある。1930年代のような深刻で大規模な経済停滞に陥るリスクを回避できたと言うのに、現在の指導者が、1930年代の近隣窮乏化政策を今に繰り返すとすれば、悲劇としか言いようがない。