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テーマに関する論文

パリとベルリンの経済官僚たちは、「この10年にわたって、周辺国は生産性が伸びていないにも関わらず、賃金レベルを引き上げたのが間違いだった」と批判するが、考えるべきは、周辺国がその資金をどこから調達したかだ。資金の出所はフランスとドイツの銀行だ。つまり、(ギリシャ、アイルランド、ポルトガル)などの周辺国の一つでも債務を履行できなくなれば、危機はEUの主要国へと瞬く間に広がりをみせていく。そして、ヨーロッパの危機はMMFとCDSのエクスポージャーによって、アメリカの銀行にも非常に深刻なダメージを与え、ヨーロッパとアメリカのリセッションはますます深刻になる。ここで、中国は何をするだろうか。のどから手が出るほど欲しがっているあらゆる技術、宇宙工学技術、金融資産をヨーロッパから非常に安い価格で入手するかもしれない。中国が台頭し支配的な影響力を持つようになるのが間近なのか、遠い将来なのかはともかく、欧米はグローバルな金融システムを、自分たちにダメージを与え、中国を大きく利することになる装置へと変貌させてしまっている。

CFRミーティング
アジアの米軍基地再編と沖縄
―― 普天間移設問題に関する米議会の立場

2011年8月号

ジム・ウェッブ 米上院外交委員会東アジア・太平洋小委員会 委員長、元米海軍省長官

何年もかけてまとめた外交合意を変更するには、具体的な代替策が必要になる。そこで、私とレビン上院議員が(普天間の移設問題に)介入した。われわれはグアム、沖縄、東京で、米軍及び相手国・現地の関係者から意見を聞いた。その後、まとめた提言では、普天間の海兵航空隊機能を嘉手納空軍基地に移して統合すれば、手詰まり状況を打開し、よりタイムリーにコスト面でもより効率的に問題に対応できると指摘した。われわれは嘉手納空軍基地の規模の削減も提言したが、この点は日本のメディアではほとんど報道されなかったようだ。嘉手納基地から削減される戦力を、日本における他の空軍基地、現状では機能の半分も使用されていないグアムのアンダーソン空軍基地に移すこともできる。(ジム・ウェッブ)

中国の意図は何か

2011年8月号

アンドリュー・ネーサン コロンビア大学政治学教授

「悲劇的な紛争を回避するには、アメリカは中国の台頭を悠然と受け入れるべきだ」。こう主張するヘンリー・キッシンジャーは、中国外交を高く評価している。アメリカが外交を取引とみなしているのに対して、中国は外交を心理学でとらえ、外国からのゲストを恐れさせ、不快にするか、あるいは、中国側の富、寛大さ、冷静さを見せつけることで、相手がすり寄ってくるように仕向けるとキッシンジャーは指摘する。一方、フリードバーグは、中国の意図は、「東アジアにおける支配的なパワーとしてのアメリカに取って代わり、おそらくは、アメリカを東アジア地域から締め出す」ことにあるとみなし、アメリカに好ましいパワーバランスを維持することで、中国の台頭に対する一定の境界線を引くべきだと主張している。二人の立場は、共和党主流派内における対中戦略の亀裂を見事に浮き彫りにしている。だが、いずれにしても、中国にはアメリカをアジアから締め出せるような力はない。そうなるとすれば、アメリカがアジアからの全面撤退を決意した場合だけだろう。・・・

3.11は日本の何を変え、何を変えなかったのか。高齢社会と社会保障の財源不足、債務、財政赤字という大きな問題はいまもそこに存在する。変化したのは、原発危機によってエネルギー供給の先行きが不透明化し、産業の空洞化が進み、観光産業の促進も専門職の外国人の招致も難しくなっていることだ。過去のやり方ではもはや未来は切り開けない。だからこそ、復興プロジェクトを新しい日本の将来に向けた土台を築くための触媒にしなければならない。電力不足を将来のクリーンエネルギー大国の布石にし、債務と赤字を削減するような経済成長路線へと向かわせるには、現状を的確に把握した上での大胆な戦略が必要になる。

クリーンエネルギーの不都合な真実
―― 補助金を脱した真のクリーンエネルギー革命に向けて

2011年7月号

デビッド・ビクター カリフォルニア大学教授
カッシア・ヤノセック タナ・エナジーキャピタルLLC プリンシパル

世界のクリーンエネルギー・プロジェクトへの投資の8分の7は、政府の補助金がなければ、在来エネルギーとは競合できない既存技術を対象としており、真の技術革新への投資は、全体からみれば、ほんの一部でしかない。問題は、政府によるクリーンエネルギー促進策が景気刺激策の一環として実施されてきたことだ。その結果、投資家は、在来型のエネルギー資源と競合できるようになるポテンシャルを秘めた技術革新レベルの高い技術ではなく、(補助金が期待でき)早く簡単に実施できる既存のプロジェクトへと資金をつぎ込んでしまった。クリーンエネルギー産業の先行きは憂うつと言わざるを得ない。地球温暖化を引き起こさずに大規模な電力を生産できるのは現状では原子力だけだ。貴重な公的資金を、バイオ燃料、あるいは、ソーラーエネルギーや風力エネルギーにつきまとう断続問題を克服できるエネルギー貯蔵技術を含む、電力生産領域における画期的な技術革新の実証実験と配備へとシフトさせる必要がある。

貿易財部門の空洞化は避けられない
―― 雇用なき成長への対策はあるか

2011年7月号

マイケル・スペンス 米外交問題評議会特別客員フェロー

新興市場国が付加価値連鎖の階段を上っていくにつれて、先進諸国の貿易財部門が国内で必要とする労働力は小さくなり、この部門の労働集約型雇用は新興国へと流出していく。事実、米国内での貿易財部門の雇用はほとんど伸びていない。貿易財部門の高付加価値領域における雇用機会と所得レベルは高いが、ローアーエンドへと向かうにつれて、雇用機会も所得レベルも低下している。しかも、アメリカの場合、新規雇用のほとんどが、賃金がほとんど上昇していない非貿易財部門でしか創出されていないために、所得分配の不均衡(所得格差)はさらに顕著になっている。「経済が成長すれば雇用も増大する」と考えられてきたし、実際、これまではその通りだったが、いまや、グローバル経済の構造的進化とそれが国民経済に与える影響によって、経済成長と雇用創出は連動しなくなった。将来に向けた技術・インフラ投資、教育や税制の改革を含む政策の見直しなど、経済の競争力と成長を回復するための長期的で多層的な政策を導入する必要がある。

ブラックスワンの政治・経済学
―― ボラティリティを抑え込めば、世界はより先の読めない危険な状態に直面する

2011年7月号

ナシーム・ニコラス・タレブ
ニューヨーク大学教授(リスクエンジニアリング)
マーク・ブリス
ブラウン大学教授(国際政治経済学)

小規模な山火事を阻止しようと対策をとれば、より大規模な火事が起きる危険を高めてしまう。山という自然の一部は、より大きな複雑系の一部だからだ。人間は本能的に、自分たちの世界を改革し、それが作り出す結末を変化させようと現実に介入するが、政府による介入は、特にその介入対象が複雑系である場合、想定外の事態につきまとわれることになる。誤解が生じるのは、人類が直線系の領域において歴史的に洗練度を高めてきた分析を、複雑系にもそのまま当てはめて考えようとするからだ。2007―2008年の金融危機、最近の中東における革命はその具体例だ。したがって、状況を変化させようとするよりも、人間が不完全な存在であることを織り込んだ、柔軟なシステムで、自然に対応していくべきだ。変動や衝撃を抑えようと政策的に模索するのはよいことのようにも思えるが、結果的に非常に大きな事態急変のリスク、つまり、テールリスクを高めてしまう。

「カダフィを権力ポストから追放するというアメリカの政策目的」と「それを実現するために進んで何をするか」の間に大きなギャップが存在する。このため、アメリカ政府は大きな混乱に直面している。短期的には目的を引き下げて、状況を安定化させるしかない。停戦を強く求めるべきだし、これ以上多くの人命が失われないように手をつくす必要がある。このためなら、当面、カダフィが権力ポストに居座り続けるのを認め、この間、リビアが短期的に二つに分断されることになっても仕方がないだろう」(R・ハース)

中国の現状と米中関係
―― 外交強硬路線と国内での人権弾圧

2011年6月号

ジョン・ポムフレット
米外交問題評議会
中国担当非常勤シニアフェロー

新指導層への権力移行プロセスがすでに始まっていることと、おそらく関係があるかもしれないが、中国はなぜ2年ほど前から対外的な強硬路線に転じたのか、その理由はいまもはっきりしない。だが、その悪影響が北東アジアのパワーバランスを微妙に変化させている。北朝鮮がチョンアン号を撃沈したときも、ヨンピョン島を砲撃したときも、中国が北朝鮮の行動を批判しなかったために、中韓関係は大きく冷え込んでいるし、日本との関係、ベトナムとの関係も依然として緊張している。一方で、クリントン長官が批判したように、中国は国内での人権弾圧を強めている。次期国家主席と広くみなされている習近平は、年内にワシントンを訪問する予定だが、ナショナリズム志向が強いと警戒されている部分もある。米中の軍事関係も経済関係もスムーズとは言えない。・・・「米中関係はすばらしく良好になることは決してあり得ないが、崩壊することもない」という朱鎔基の発言は、いまも現実を言い当てている。

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