1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

テーマに関する論文

イランではなく、イスラエル に対するレッドラインを設定せよ
――アメリカのネタニヤフ問題

2012年10月号

マイケル・C・デッシュ ノートルダム大学教授

「イランに対してレッドラインを示せなかった国際社会(アメリカ)に、イスラエルの行動を縛る道義的権限はない」。イスラエルのネタニヤフ首相は、イランに対するレッドラインを示すことを拒絶したオバマ政権への怒りを露わにし、単独でのイラン攻撃を明確に示唆する発言を繰り返している。だが、怒りを感じるべきはアメリカ人のほうかもしれない。アメリカにイランに対するレッドラインを示すように求め、それが受け入れられなければイランの核施設への単独攻撃も辞さないと表明したネタニヤフは、これまであらゆる面でイスラエルを支援してきたアメリカを、イランとの戦争に巻き込もうとしている。現状でレッドラインを定義して、適用するとすれば、それはイランに対してではなく、イスラエルの指導者たちに対してだろう。イスラエルはアメリカの国内政治に干渉すべきではないし、アメリカを不必要な戦争に引きずり込むのをやめるべきだ。

CFR Interview
イランの核開発プログラム
――曖昧な意図と空爆の可能性

2012年10月号

デビッド・オルブライト 科学国際安全保障研究所(ISIS)会長

これまでイランは自国のウラン濃縮について「小規模な研究炉のための核燃料を生産している」という立場を示してきた。だが、すでに研究炉用の核燃料は十分すぎるほどに生産されている。つまり、民生部門用だけなら、もう核燃料(濃縮ウラン)をつくる必要はない。ここに矛盾がある・・・すでに、イランは相当量の兵器級ウランを生産できる状態にある。核兵器生産を決断すれば、すぐにでも兵器級ウランの生産(濃縮)に取りかかれる。だが、今のところテヘランは核兵器を作ると明確には決断していないようだ。・・・イランの立場は曖昧だ。可能であれば、核兵器を生産したいと考えている。だが、実際に核兵器の開発に乗り出せば、(武力行使を含めて)非常に大きな力がかかってくること、核兵器を手に入れる前に体制が崩壊してしまう危険があることをテヘランは理解している。

CFR Interview
2012年秋、イスラエルはイランを攻撃する?

2012年10月号

リチャード・ハース 米外交問題評議会会長

イスラエルは、イランの核開発によって危機にさらされるものは非常に大きいと考えている。このため、アメリカの説得によってイスラエルに攻撃を思いとどまらせることができるかどうかはわからない。重要なのは、米大統領選挙前の秋にイスラエルがイランに対する予防攻撃を実施する可能性をもはや誰も否定できない状況にあることだ。このシナリオが現実にならないとしても、イスラエル、あるいはアメリカが2013年に行動を起こす可能性は十分にある。問題はイスラエル、あるいはアメリカが軍事力を行使すれば、不可知の連鎖が生じ、どのような事態になるかわからないことだ。だからこそ、多くの人は経済制裁と外交を組み合わせた強硬策が成功することを期待している。だが、これまでのところ、楽観を許すような状況にはない。

統合の危機とヨーロッパの衰退

2012年10月号

ティモシー・ガートン・アッシュ
オックスフォード大学歴史学教授

戦後のドイツにとって、ヨーロッパ諸国の信頼を取り戻すことが、ドイツ統一という長期的目的を実現する唯一の道筋だった。財政同盟という支えを持たない通貨同盟が構造的な問題と崩壊の火種をはらんでいることを理解した上で、西ドイツはドイツ統一のためにあえてユーロを受け入れた。そしていまやヨーロッパはユーロ危機に覆い尽くされ、漂流している。かつてこの大陸を統合へと向かわせた戦争の記憶もソビエトの脅威も希薄化するか、消失している。瓦礫のなかから統合を目指し繁栄を手にした戦後世代とは違って、現代の若者たちは繁栄から失業へ、希望から恐れへと、まったく逆の変化を経験している。統合の維持に向けた新しい源流、エリートと市民たちを統合の維持へと駆り立てる新たな流れが生じない限り、ヨーロッパは、かつての神聖ローマ帝国同様に、ゆっくりとその効率と価値を失い、衰退していくことになるだろう。

慎重なミャンマー投資を
―― 急成長の弊害に目を向けよ

2012年9月号

ブライアン・P・クレイン 前米通商代表部東南アジア担当ディレクター

コカコーラ、GE、石油企業、天然ガス企業はすでにミャンマーへの進出に強い関心を示し、すでに2011年には、中国、香港、タイを中心とする諸国が、約200億ドル規模のミャンマー投資を行っている。大きな人口と豊かな資源、そして資本流入の増大によって、いまやミャンマーは、経済ルネッサンスに必要な環境を手にしつつある。だが、急速な開放政策は大きな富をもたらすだけでなく、社会を不安定化させる。ミャンマーは「急成長」と「バランスのとれた成長」の岐路にさしかかっている。指導者たちは短期的な富を模索するのではなく、力強い中間層を育んでいくやり方を選択すべきだろう。必要なのは、国全体の必要性をバランス良く満たし、広範な経済成長を実現するのに不可欠な司法、徴税、国境管理、情報公開をささえる制度を構築することだ。制度を構築して民主的な体制を整備していかない限り、これまで同様に、恩恵のすべてを権力者が横取りし、民衆は放置されることになる。

CFRアップデート
東アジア安全保障の進化を阻む日韓の歴史問題
―― 竹島訪問前、韓国で何が起きていたか

2012年9月号

ラルフ・A・コッサ
CSIS・パシフィックフォーラム会長

日韓関係の緊張と言っても、それが、関係の本質を脅かすことのないたんなる政治ショーにすぎないこともある。だが、最近の展開は違う。韓国政府は6月29日に、世論、野党勢力、メディアの反対に屈し、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の調印を先送りし、さらに、物品役務相互提供協定(ACSA)の締結の検討も棚上げすると表明した(その後も、韓国大統領が竹島を訪問し、日韓関係は紛糾している)。結局、(北朝鮮の脅威を含む)「安全保障課題を共有する(日韓という)二つの民主国家の関係強化に向けた前向きで現実主義的な試み」が、またしても「政治と歴史の複雑な遺産の犠牲にされてしまった」。・・・過去を克服するために、日本と韓国は切実に(未来志向で現実主義的な)政治家のリーダーシップを必要としている。ワシントンも日韓の歴史問題を解決するか、少なくとも非政治化できるような「日韓がともに受け入れられるような宣言」をまとめる公正な仲介者の役目を引き受けるべきだろう。

プーチン主義というシステム
―― ロシア社会の変化にプーチンは適応できるか

2012年9月号

ジョシュア・ヨッファ エコノミスト誌モスクワ特派員

現在のロシア市民には一連の自由が与えられている。イケアで安い家具を買ったり、外国で休暇を過ごしたりと、いまやロシア市民はヨーロッパ中間層と生活の特質の多くを共有している。野心と才能のある者にとっては、モスクワはキャリアを築く大きな舞台だ。政治に関わらないかぎり、ありとあらゆる場所で選択肢が用意されている。この仕組みゆえに、プーチンのロシアには国を否定する者がいなかった。不満があるならいつでもロシアを離れることができた。プーチン主義は、ソビエト時代の硬直した管理システムよりもずっと狡猾で現代的なのだ。だがプーチン体制は共産主義とは違って、一貫した世界観を示しているわけではなく、安定と権力を維持するためにつくられている。逆に言えば、現状に不満を持つ新しい政治家や政治運動は、「根深いイデオロギーの壁を乗り越える」必要がない。これが、今後プーチン体制を脅かす最大の問題を作り出すことになるだろう。

CFR Interview
投資バブルの崩壊で中国経済は長期停滞へ

2012年9月号

パトリック・チョバネック
清華大学経済・マネジメント大学院准教授

この数年来の中国経済の成長は、グローバル経済危機対策として北京が実施した景気刺激策が作り出した投資ブームによって牽引されてきた。当然、これは持続可能な成長ではなかった。今や投資バブルははじけ、不良債権が増大し、中国経済の成長率は、2009年以降、最低のレベルへと抑え込まれている。・・・すでに、中国の地方政府が不動産開発業者を、そして中央政府が国有企業や地方政府をベイルアウトし始めている。・・・中国政府は成長戦略の見直し、つまり、輸出・投資主導型モデルから内需主導型モデルに向けた調整を迫られている。中国経済をリバランスするには、為替政策、金利政策、課税策を見直して、資金が家計(預金者と消費者)へと流れるようにしなければならない。・・・有意義な調整プロセスによって中国経済がよりバランスのとれたものへと進化していけば、中国により多くの輸出をしたい国や企業、中国との貿易バランスを均衡させたい国に大きな恩恵がもたらされる。問題は、この調整が痛みを伴うために、成長戦略の見直しに対する政治的抵抗が避けられないことだ。

資源と環境は本当に脅かされているのか
―― 環境・資源保護か、経済成長か

2012年7月号

ビョルン・ロンボルグ コペンハーゲン・ビジネススクール准教授

「人類のあくなき欲求と世界の限られた資源は衝突コースにあり、そう遠くない将来に人類社会は運命の時を迎える」。経済成長を模索するのを止める以外に破滅を回避する方法はない。1970年代初頭にこう警鐘をならした『成長の限界』は、世界的大ベストセラーとなり、その後長期にわたって、この報告で示された議論と未来シナリオに人々は呪縛された。その結果、「貴重な時間と努力が、価値あるものではなく、根拠が疑わしく、時に有害な目的のために投入されてきた」。周辺的な問題に過剰反応し、より大きな問題への慎重な対応を妨げてしまった。この報告が示した未来シナリオはどうみても間違っていた。それでもその思想が今も生き続けていることは、(貿易促進のための)ドーハラウンドよりも、(環境問題を重視する)京都議定書が重視されていることからも明らかだ。だが、結局のところ、人を死に追い込む最大の要因が何であるかを考えるべきだ。それは貧困であり、経済成長がそれを阻止する最大の防衛策だ。

北朝鮮、中国、イランに対する毅然たる対応を
―― キューバミサイル危機の教訓

2012年8月号

グレアム・アリソン
ハーバード大学ケネディスクール教授

ケネディは、ソビエトがキューバに核ミサイルを配備しているという事実を前に、「長期的な戦争のリスクを低下させるには、短期的に戦争リスクを高める必要がある」と考えた。キューバ危機の教訓の一つは、戦争、そして核戦争のリスクでさえも引き受ける覚悟がなければ、巧妙な敵に対立局面において何度も裏をかかれてしまうということだ。イラン、中国、北朝鮮と相手が誰であれ、その一線を越えれば戦争も辞さないという「レッドライン」を設定しているのなら、その事実を敵対勢力に認識させ、実際に行動する決意をみせるべきだ。そうしない限り、警告は相手にされなくなる。

Page Top