アベノミクスと英米経済の教訓
2013年8月号
1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。
2013年8月号
2013年8月号
日本社会は急速に高齢化している。そして高齢者たちには、政治家が現行の社会保障システムに手をつけるのを認めるつもりはない。だが、高齢社会に派生する問題に向き合うのを先送りすればするほど、その経済コストは大きくなる。これが日本の現実だ。事実、政府の年金財源は2032―2038年の間に枯渇するという試算もある。だが、年齢層からみた多数派で、投票率も高い高齢者集団にアピールするようなキャンペーンを実施すれば、政治家はもっとも忠誠度の高い支持基盤を手に入れることができる。こうして、高齢社会が日本経済にどのようなコストを与えることになるとしても、「高齢者に優しい政策」が最優先とされている。高齢層の有権者の支持を失うことに対する恐怖が、政治家が長期的に国の未来を考えることを妨げ、これが若者に対する重荷をさらに大きくしている。1票の格差同様に、世代間の不均衡問題に目を向け、もっと若者の意見を政治に反映させる必要がある。そうしない限り、日本の経済未来は今後も暗いままだろう。
2013年8月号
ロシアへの一時亡命が認められたエドワード・スノーデンが、アメリカに送還されるかどうか。現在、彼が(アメリカが犯罪人引き渡し条約を結んでいない)ロシアにいるだけに、これは、法的プロセスというよりも、高度な政治プロセスになる。仮に告発の意図があったとしても、スノーデンは政府が所有する情報を盗んだだけでなく、告発手続きの相手であるNSA(国家安全保障局)の監察官ではなく、その情報を漏らすべきではない外国メディアに提供することで、手続きを踏み外している。したがって、彼が公開した情報で存在が確認された監視プログラム(プリズム)に仮に違法性があるとしても、スノーデンはアメリカの内部告発者保護法の適用対象にはならない。だが、アメリカで裁判にかけるとなると陪審制度という非常に大きな変数が絡んでくる。陪審制度の大きな機能の一つは、政府と検察の権力をチェックすることにある。仮に送還が実現して、裁判になるとして、スノーデンの運命を左右する12人の陪審員の一部は彼に同情しているかもしれない。・・・外国情報監視法(FISA)によって、政府による情報活動は適切な監督下におかれ、説明責任も果たされているという米政府の認識には問題がある。どのような結果になるにせよ、法律がテクノロジーの進化についていけていないのは間違いない。デジタル時代のプライバシーが何であるかについて、われわれはもう一度考える必要がある。
エネルギーは国益と国際関係を規定し、国の政策、経済開発、統治、安全保障、環境などの多くに影響を与える。米国内で豊かなエネルギー資源が十分に開発されるようになったことは、アメリカの経済、エネルギー安全保障、地政学的地位にプラスに作用している。だが、世界のエネルギー消費が引き起こす気候変動が、世界環境に桁外れに大きな問題を作りだしているだけでなく、すでに米国家安全保障にとっても脅威になっていることを見落とすべきではない。よりクリーンで持続可能なエネルギーソリューションを各国が模索していく必要があることは、はっきりしている。・・・オバマ政権が発足した当時であれば、アメリカのエネルギーの先行きはその弱点の一つとみなされていたかもしれない。だが、新たな資源が開発されただけでなく、二酸化炭素排出量の削減に成功している以上、いまやエネルギーは永続的なアメリカの強さ、アセットになったとみなせるだろう。
2013年7月号
キリスト教は11世紀に東方教会と西方カトリック教会に分裂し、16世紀の宗教改革(プロテスタント運動)でさらに分裂した。だが21世紀の現在、キリスト教はこうした過去の亀裂を修復しつつある。2013年に教皇を退任したベネディクト16世は「キリスト教の一致」を強く模索し、2012年の司教会議に招いたゲストの中にはロシア正教会のイラリオン渉外局長、トルコ正教会のバルトロメオ1世がいた。そして、ここで演説を行ったのは英国国教会のローワン・ウィリアムズ・カンタベリー大主教だった。この流れは、先進国における世俗化と物質主義の波によってキリスト教の存続が脅かされているという危機感を各派が共有していることによって形作られている。「キリストは神であり救い主であり、隣人を愛することは信仰上の義務である」という信念に比べれば、これまでキリスト教の一致を妨げてきた教理上の違いなど取るに足らないという認識が高まりつつある。
2013年7月号
アメリカで起きているのは天然ガス開発ブームだけではない。原油生産は史上最大規模の年間生産量の伸びを示し、風力、太陽光、地熱など、先端技術を用いた再生可能エネルギーによる電力生産も2倍に増え、生産コストも低下している。しかも車やトラックの燃費の向上によって、石油需要は低下しつつある。最大の問題は、そこには環境保護派と補助金を通じたエネルギー経済への政府の介入を嫌う人々の間に厄介な対立が存在することだ。重要なのは、特定のエネルギー資源を選ぶのではなく、こうした「新展開のすべてをうまく生かしていくことで、エネルギーにとって最善の未来を切り開けること」を双方が認識することだ。ワシントンの指導者たちは、クリーンエネルギーへの移行を進めつつも、伝統的なエネルギー資源にも依存する、あらゆるタイプのエネルギーの機会を慎重に生かしていく一方で、地球温暖化を加速させ、アメリカの石油依存を持続させるような危険なエネルギー消費にはペナルティを課す必要がある。このバランスこそが、アメリカにおけるエネルギーの未来を左右することになる。
2013年7月号
相対的に貧困な国で経済が急拡大した場合、インフレを警戒する必要がある。外国からの原材料輸入とともにインフレも輸入してしまうリスクがあるからだ。中国政府はこのリスクを回避しようと重工業を中心とする基幹産業のために人為的にエネルギー価格を抑え込む価格統制策をとってきた。低めに抑えられたエネルギー価格は、低く抑えられた為替レート同様に輸出競争力を支え、(インフレの抑制と)輸出主導型の経済成長モデルに貢献した。だがその結果、エネルギーの利用効率の改善や環境問題への配慮は二の次とされ、深刻な環境汚染と社会不満が広がりをみせ、いまや経済モデルを見直さざるを得なくなっている。すでに北京の新体制は中国の経済モデル移行に向けた重要な一部として、エネルギーの価格改革に高い優先順位を与えているようだ。現実にそうなれば、中央統制経済のもっとも頑迷な遺産を中国が取り払おうとしていることへの明確なメッセージになる。
2013年6月号
アイスランドの氷河はヨーロッパ最大の規模をもっているが、この氷河の後退は地球温暖化がたんなる理論ではなく、現実に起きていること、それが大きな変化をもたらしていることを物語っている。海面の上昇によって、世界の都市と経済はいずれ大きなダメージを受けると思われる。中国の研究者たちは、・・・グリーンランドや南極の氷床の溶解による海面上昇によって、上海を始めとする多くの都市が水没するというシナリオを想定している。・・・われわれは北極評議会を越えたより大きなプレイヤーを内包するフォーラム、北極圏サークルも立ち上げようと試みている。これは、北極圏諸国だけでなく、アジアやヨーロッパ諸国の科学者、活動家、企業、政治指導者たちが参加するフォーラムだ。
2013年6月号
保守派候補のなかでもっとも人気があるのはテヘラン市長のモハンマド・バゲル・ガリバフだと考えられている。保守系の候補者たちは、特定の段階になれば、もっとも人気のある候補を残して、他の二人は選挙戦から撤退することにすでに合意している。一方、かつて核問題の交渉を務めた中道派のハッサン・ロウハニも独立系候補として出馬している。ラフサンジャニが出馬を認められなかった以上、ロウハニは、自分を保守派候補に対する代替策として位置づけたいと考えている。だがロウハニはハタミ大統領の第1副大統領を務めたモハンマド・レザ・アレフとライバル関係にある。彼らは先ず候補者を、一人か二人に絞ってまとまることに合意できるかどうかを決める必要がある。・・・ハメネイが、保守派候補が好ましいと考えているのは明らかだが、最高指導者の意中の候補がはっきりしないために、誰が選挙で勝利するのか、ますます分からなくなっている。
アメリカはシリアの反体制派を、ロシアはアサド政権を説得して、紛争の終結に向けた交渉テーブルに着かせようとしている。だが、交渉の目的が、「平和的でうまく管理された完全な体制移行を実現すること」だとすれば、国際会議が成功する見込みはほとんどない。・・・現状では、コミュニティ、都市、町ごとにさまざまな武装集団が存在し、これらのすべてが自由シリア軍を自称している。ワシントンは反体制派、自由シリア軍を一つにまとめようと試み、シリア最高軍事評議会に指揮系統を集中させ、支援とコンタクトの一元的な窓口にしたいと考えている。・・・一方、アサド政権を交渉テーブルにつくように説得するというロシアの任務の難易度は非常に高い。しかも、この数週間という単位でみると、アサド政権の部隊は、反体制派から一部の地域を奪回している。これはイランとヒズボラの戦士が戦術を考案し、攻撃を実施した上で、攻略した地域をシリア軍に明け渡したからだと報道されている。・・・・