1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

テーマに関する論文

CFR Interview
シリア和平への困難な道筋
――米ロの役割とイラン、ヒズボラの存在

2013年6月号

フレデリック・ホフ
大西洋評議会シニアフェロー

アメリカはシリアの反体制派を、ロシアはアサド政権を説得して、紛争の終結に向けた交渉テーブルに着かせようとしている。だが、交渉の目的が、「平和的でうまく管理された完全な体制移行を実現すること」だとすれば、国際会議が成功する見込みはほとんどない。・・・現状では、コミュニティ、都市、町ごとにさまざまな武装集団が存在し、これらのすべてが自由シリア軍を自称している。ワシントンは反体制派、自由シリア軍を一つにまとめようと試み、シリア最高軍事評議会に指揮系統を集中させ、支援とコンタクトの一元的な窓口にしたいと考えている。・・・一方、アサド政権を交渉テーブルにつくように説得するというロシアの任務の難易度は非常に高い。しかも、この数週間という単位でみると、アサド政権の部隊は、反体制派から一部の地域を奪回している。これはイランとヒズボラの戦士が戦術を考案し、攻撃を実施した上で、攻略した地域をシリア軍に明け渡したからだと報道されている。・・・・

ウラジーミル・プーチンはシリア紛争とチェチェン紛争を同列にとらえ、シリア紛争のことを「国家を標的にし(国家解体を狙う)スンニ派の過激主義勢力の、数十年におよぶ抗争の最近の戦場にすぎない」とみている。アフガン、チェチェン、数多くのアラブ国家を引き裂いてきたスンニ派の過激主義勢力と国家の戦いがシリアで起きているにすぎない、とプーチンは考えている。だからこそ、彼は「自分がチェチェンで成し遂げたことをアサドがシリアで再現し、反体制派の背骨を折ること」を期待し、シリアに対する国際介入に反対してきた。仮にプーチンがアサドを見限るとしても、その前に、「体制崩壊に伴う混乱の責任を誰がとるのか」という問いへの答を知りたいと考えるはずだ。誰がスンニ派の強大化を抑え込むのか、誰が北カフカスその他のロシア地域に過激派が入り込まないようにするのか。そして、誰が、シリアの化学兵器の安全を確保するのか。プーチンは、アメリカや国際コミュニティがアサド後のシリアに安定を提供できるとはみていない。だからこそ、シリアという破綻途上国を支援し続けている。

モンゴルにとって史上最大の資本が投下されているオユトルゴイ鉱山の開発が危機にさらされている。モンゴル政府がプロフィットシェア(利益分配率)をめぐる再交渉を求めたことで、欧米資本による開発プロジェクトの先行きに暗雲が立ちこめている。だが、過度に悲観的になる必要はない。モンゴルは、中ロ以外のパートナーを切実に求めているからだ。ロシアはモンゴルに対する石油輸出を政治ツールとして用い、北京も鉱物資源の輸出先が中国に限定されていることにつけ込んできた。こうしてモンゴルは、中ロ以外のパートナーを求める「第3の隣国政策」を制度化し、外資誘致策もこの枠組みのなかに位置づけられている。モンゴルは社会問題を解決し、経済開発を進めるために外資、とくに中ロ以外の外資を望んでいる。必要とされるのは、より明確な投資に関わる法環境の整備だ。これを実現できれば、モンゴルは資源開発の最後のフロンティアとしてのポテンシャルを十分に生かせるようになる。

アベノミクスと日本経済
――過激なケインズ主義のリスクとベネフィット

2013年05月

ベイナ・シュウ オンラインライター・エディター

日本政府は、短期的には機動的な財政政策、中央銀行による大胆な金融緩和を通じたインフレターゲット政策、そして(中・長期的には)国内の労働市場を活性化させる構造改革(成長戦略)という3本の矢、そしてTPPを含む貿易パートナーシップを強化することで経済成長を実現しようと考えている。・・・安倍首相は金融緩和政策によって為替レートが円安に振れ、これによって日本の輸出産業が活気づくことを期待している。・・・企業収益が上昇すれば、賃金も引き上げられ、民間消費が拡大して株価も上昇すると考えられている。これまでのところ、市場は活況を呈している。・・・もちろん、ハイパーインフレが起き、下手をすると円が崩壊する恐れがあるだけでなく、この政策ではデフレからの脱却がほとんど進まない恐れもある。量的緩和による円安が通貨戦争を誘発しないか、金利上昇がさらに債務と財政赤字を膨らませるのではないか、選挙区への利益誘導型でない公共投資が適切に実施されるか、本当に構造改革が実施されるかといったさまざまな懸念もある。だが、日本が流動性の罠から脱出する道筋を示せば、先進国は大いに勇気づけられるとアベノミクスに期待する声もある。ほぼすべての先進諸国は、金利ゼロでも資金が動かない流動性の罠にはまり、だれもがここから抜け出せないのではないかと心配しているからだ。・・・

資本主義の危機と社会保障
―― どこに均衡を見いだすか

2013年4月号

ジェリー・Z・ミューラー 米カトリック大学歴史学教授

資本主義は人々に恩恵をもたらすだけでなく、不安も生み出すために、これまでも資本主義の進展は常に人々の抵抗を伴ってきた。実際、資本主義社会の政治と制度の歴史は、この不安を和らげるクッションを作り出す歴史だった。資本主義と民主主義が調和して共存できるようになったのは、20世紀半ばに近代的な福祉国家が誕生してからだ。認識すべきは、現状における格差は、機会の不平等よりも、むしろ、機会を生かす能力、人的資本の違いに派生していることだ。この能力の格差は、生まれもつ人的ポテンシャルの違い、そして人的ポテンシャルを育む家族やコミュニティの違いに根ざしている。このために、格差と不安は今後もなくならないだろう。この帰結から市民を守る方法を見出す一方で、これまで大きな経済的、文化的な恩恵をもたらしてきた資本主義のダイナミズムを維持する方法を見つけなければならない。そうしない限り、格差の増大と経済不安が社会秩序を蝕み、資本主義システム全般に対するポピュリストの反動を生み出すことになりかねない。

スタンリー・マクリスタルが語る
イラク、アフガニスタンの教訓

2013年4月号

スタンリー・マクリスタル
前アフガン駐留軍・国際治安支援部隊司令官

イラクという戦場は複雑だった。テロだけでなく、社会問題にもわれわれは直面していた。武装勢力がいただけでなく、宗派間抗争も起きていた。ネットワーク化された敵に対して、われわれもネットワーク化する必要があった。・・・「敵はどこにいるか」、「誰が敵なのか」、「敵は何をし、何をしようとしているか」を考えた挙げ句、結局「なぜ彼らはわれわれの敵なのか」を考えた。・・・アメリカにとっては、ドローン攻撃はリスクも痛みも少ないかもしれないが、攻撃される側にとっては、戦争であることに変わりはない。アメリカ人はこの点を理解する必要がある。現状で、そうした軍事技術をわれわれが無節操に用いているとは思わないが、そうなる危険は常に存在する。・・・武装勢力との戦争の重要なポイントは、たんに敵勢力を殺害することではなく、現地の民衆の面倒をみることだ。現地の民衆を守る積極的な理由があるし、そうしないのは間違っている」。(S・マクリスタル)

社会保障改革を考える
―― アメリカの制度を他の先進国と比較すると

2015年3月号

キンバリー・J・モーガン ジョージ・ワシントン大学准教授

アメリカの社会保障制度は、政府がすべての市民を対象とするのではなく、企業が従業員に提供する社会サービスに大きく依存している。このために、一部の所得レベルの高い人々は全般的に手厚い社会保障の対象とされるが、所得レベルが低いか、失業している人々はそうではない。他の豊かな民主主義国と比べて、アメリカの社会保障政策による貧困と格差緩和への貢献度が低いのは、このためだ。他の多くの先進国では、官民の社会保障プログラム、減税策を組み合わせて、社会保障がより平等かつ効率的に提供されている。アメリカとの最大の違いは、他の先進国のシステムは平等と効率を目的にし、広く市民が社会保障にアクセスできるように設計されていることだ。当然、アメリカの社会保障制度の改革に向けて、こうした他の先進国のモデルを真剣に検証する必要がある。

CFR Interview
シリア、イランのヒズボラ・コネクション

2013年3月号

マシュー・レビット
ワシントン近東政策研究所 シニアフェロー

シリアでアサド政権が追い込まれていくにつれて、ヒズボラは、シリアにある自分たちの兵器を、レバノン山岳地帯の洞窟に設けた兵器庫など、安全な場所に移したいと考えている。イスラエルが空爆で攻撃したのは、そうした兵器を積んでレバノンに運びだそうとしていたトラック車列だった。スンニ派の過激派、シーア派の過激派は、アサド体制の崩壊に備えて、それぞれ自分たちに忠実な武装勢力の組織化を進めている。われわれが目にしているのは、紛争の第2局面に向けた兵器の備蓄・調達に他ならない。さらに、イランがヒズボラへの武器提供をシリア経由で行うことが多いことも、今回の空爆の構図に関係している。現状ではヒズボラとイランは非常に緊密な関係にあり、アメリカの情報コミュニティは、両者の関係を「戦略的パートナーシップ」と描写している。

先進民主国家体制の危機
―― 改革と投資を阻む硬直化した政治

2013年2月号

ファリード・ザカリア  国際政治分析者

先進民主世界を悲観主義が覆い尽くしている。ヨーロッパでは、ユーロ圏だけでなく、欧州連合(EU)そのものが解体するのではないかという声も聞かれる。日本の経済も停滞したままだ。だが、もっとも危機的な状況にあるのはアメリカだろう。停滞する先進国が本当に必要としているのは、競争力を高めるための構造改革、そして、将来の成長のための投資に他ならない。問題は政治領域にある。政治が、効率的な改革と投資を阻んでいる。その結果、われわれが直面しているのが民主主義体制の危機だ。予算圧力、政治的膠着、そして人口動態が作り出す圧力という、気の萎えるほどに大きな課題が指し示す未来は低成長と停滞に他ならない。相対的な豊かさは維持できるかもしれないが、先進国はゆっくりとそして着実に世界の周辺へと追いやられていくだろう。今回ばかりは、民主主義の危機を唱える悲観論者が未来を言い当てることになるのかもしれない。

米軍撤退論にメリットはない
―― アメリカの対外エンゲージメントを維持せよ

2013年2月号

スティーブン・G・ブルックス ダートマス・カレッジ准教授 G・ジョン・アイケンベリー   プリンストン大学教授 ウィリアム・C・ウォールフォース ダートマス・カレッジ教授

米軍はヨーロッパと東アジアから撤退し、本国へと帰還すべきなのか? 国際関係の著名な研究者の多くがこの問いにイエスと答えている。イラクでの壊滅的な失敗とグレートリセッションを経験しているだけに、この立場も賢明に思えるかもしれない。だが、より控えめなグローバル戦略で資金を節約できるわけでも、現状で対米対抗バランス形成の動きがあるわけでもない。現在の戦略によってアメリカが経済的衰退に追い込まれたわけでも、将来、この戦略が無謀な戦争へとアメリカを駆り立てるわけでもない。現在の戦略は世界の重要地域における紛争の発生を防ぎ、グローバル経済をうまく先に進め、国際協調をまとめやすくしている。グローバルなリーダーシップのための対外関与から手を引けば、これら立証されている恩恵は消失し、世界はかつてない不安定化に翻弄されることになる。

Page Top