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テーマに関する論文

イラクにおけるイスラム国(ISIS)の台頭と攻勢が、イランとアメリカに連帯の機会をもたらしている。イラクの領土保全を回復し、中東全域に広がりかねない宗派間紛争を阻止し、イスラム国を打倒するという目的をワシントンとテヘランが共有しているからだ。すでにハッサン・ロウハニ大統領を始めとするイラン政府高官の多くが、イスラム国を打倒するためにアメリカと協調することに前向きであることを示唆している。勿論、アメリカとイランは、両国が協調関係に入ることに対してイデオロギー的に反対する国内勢力をともに抱えている。しかしそれでも、両国が今後協力関係を深化させていく可能性はある。イスラム国が国境線を問わぬトランスナショナルな脅威である以上、同様にトランスナショナルな対応が必要になるからだ。

同性愛者に優しく、労働者に冷たい社会
―― アメリカの左派運動の成功と挫折

2014年10月号

マイケル・カジン ジョージタウン大学教授(歴史学)

著名人が同性愛者に差別的な発言をしたニュースが瞬く間にインターネットで広がることからも明らかなように、現代のアメリカ社会は同性愛者の権利については敏感に反応する。一方、労働組合が衰退していることもあって、経済的平等の実現に向けた意識は低い。文化活動を通じた社会変革活動は、多くのアメリカ人にアピールし、いまやレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)の権利を認めることを求めてきた左派の運動は、次々と大きな勝利を収めている。一方、労働組合は目的を実現できず、経済格差の是正を求めた、最近の「ウォール街を占拠せよ」運動も勢いを失った。結局、現代のアメリカはリバタリアン(自由至上主義)の時代にあり、「一人の痛みを皆で連帯して分かち合う」という昔ながらのスローガンは、ユートピア的とは言わないまでも、時代遅れなのかもしれない。・・・

エボラ感染者を救うには
―― アメリカの対応は間違っている

2014年10月号

キム・イ・ディオン スミスカレッジ 助教

西アフリカのエボラ出血熱の感染拡大によって、感染者をケアしていた医師、看護婦その他の医療関係者を含む2800人以上がすでに犠牲になっている。しかも、感染率は劇的に上昇しており、状況が管理されるまでにはさらに多くの人々が犠牲になると考えられる。一方、エボラウイルスに感染したアメリカ人を担当した主治医たちは、注意深い観察、失われた水分とミネラルの投与を含む「積極的な支持療法」が回復の決め手だったと考えている。西アフリカの人々が必要としているのもまさにこの「積極的な支持療法」だろう。問題は、こうしたケアを提供するには、より優れた医療施設が必要であるにも関わらず、ギニア、リベリア、シエラレオネでこれらの医療施設が不足していることだ。国際的支援の焦点をこうした医療施設不足対策に合わせる必要がある。

ヨーロッパにおける首都と地方の対立
―― 首都を頼るか、それともEUか

2014年10月号

フィオナ・ヒル ブルッキングス研究所米欧関係センター ディレクター
ジェレミー・シャピロ  ブルッキングス研究所フェロー

スコットランドのイングランドに対する不満とは、実際にはイギリス政府の政治家たちに対する不満、経済的にも文化的にも大きなウェイトをもち、とにかく派手で、他の地域からみれば別世界の「ロンドンとイングランド南部」に対する不満だった。そして多くの意味で、スコットランドの独立運動は欧州連合(EU)の存在なしでは起こり得なかった。実際、NATOが外からの攻撃に対する盾を提供し、EUがその世界最大の市場へのアクセスを保証すれば、いかなる小国であっても、力強い国家になれる。スコットランドの独立運動は、地域的アイデンティティと野心的な政治家が存在し、独立を模索するか、あるいは、より大きな自治を求めるほどに首都に反感を抱き、しかもEUに参加できる見込みのある地域なら、独立を模索できることを示した。力強いアイデンティティをもつスペインのカタルーニャもいずれ独立を模索するかもしれない。・・・

物質主義と社会的価値の崩壊
―― なぜ中国で宗教が急速に台頭しているか

2014年9月号

ジョン・オズバーグ  ロチェスター大学助教

1976年に毛沢東が死亡し、文化大革命が終わると、共産党は階級闘争と集団主義のイデオロギーを放棄し、その結果、中国社会に巨大なイデオロギー的空白が出現した。政府が反体制派を弾圧し、宗教団体を抑圧したこともあって、その後の急速な経済成長という環境のなかで、人々は信仰やイデオロギーよりも、現実主義、そして物質主義に浸りきった。だが豊かにはなったが、人々はどこか薄っぺらな時代のなかで絶え間ない不安にさらされている。いまや中国人の多くは自らの人生に意義や価値を見いだそうとし、キリスト教やチベット仏教に帰依する人も多い。問題は、共産党が物質的に快適な生活だけでなく意義のある生活を求める声に対応する準備ができていないことだ。環境危機や経済危機によって安定と成長を維持できなくなれば、共産党は、民衆を管理するのはもちろん、民衆にアピールする手段がほとんどないことに気付くことになる。

エボラ・アウトブレイク
――感染の封じ込めを阻むアフリカの政治と文化

2014年9月号

ジョン・キャンベル 米外交問題評議会シニアフェロー(アフリカ政策担当)
ローリー・ギャレット 米外交問題評議会シニアフェロー(グローバルヘルス担当)
ロバート・マクマホン Editor, CFR.org

感染者が大量に出血しているときには、内部だけでなく、体外にも出血する。目、鼻、口、肛門、性器などのあらゆる部分から出血し、体液が出てくる。これらにウイルスが含まれている。この意味で、感染者の隔離、遺族たちが死体と接触しないようにすること、土葬ではなく火葬にすること、そして土葬せざるを得ない場合も地中深くに死体を埋めて、いかなる人物もウイルスに感染しないようにすることが重要だ。・・・だが現地の文化的伝統、風習がこれを阻んでいる。・・・医療関係者たちは、社会的に孤立し、現地の人々から軽蔑され、嫌われていると感じている。(L・ギャレット)

ギニア、シエラレオネ、リベリアは非常に弱い国家であることを認識する必要がある。いずれも長く続いた内戦を経験している。これらの地域の一部は、政府の指令を徹底できない状態にある。これら3カ国が急速な都市化を経験していることにも目を向ける必要がある。ますます多くの人が・・・都市部のスラムでひしめき合うように暮らしている。この環境では、エボラ出血熱に限らず、あらゆる病気が蔓延しやすい。(J・キャンベル)

キリスト教民主主義の衰退とヨーロッパ統合の未来

2014年9月号

ヤン・ベルナー・ミューラー
プリンストン大学教授(政治学)

ヨーロッパのキリスト教民主主義者は、本質的に超国家主義的なカトリック教会同様に、国際主義志向が強く、国民国家を重視しなかった。欧州連合(EU)に象徴される戦後ヨーロッパでの超国家主義構造の形成を主導し、統合を目指すヨーロッパ政治におけるキープレイヤーとして活動したのも、こうした理由からだ。だが、ここにきて、キリスト教民主主義は力を失ってしまったようだ。その理由はヨーロッパ社会の世俗化が進んでいるからだけではない。イデオロギー的にキリスト教民主主義の最大の敵の一つであるナショナリズムが台頭し、その中核的な支持基盤である中間層と農村部の有権者が縮小していることも衰退を説明する要因だろう。欧州統合というヨーロッパの大プロジェクトが新たな危機に直面しているというのに、キリスト教民主主義は、その擁護者としての役目をもう果たせないかもしれない。

対ロ経済制裁と日本のジレンマ
――制裁で変化するアジアのパワーバランス

2014年9月号

イーライ・ラトナー /ニューアメリカンセキュリティ研究所シニアフェロー
エリザベス・ローゼンバーグ/ニューアメリカンセキュリティ研究所シニアフェロー

ウクライナ危機がさらに深刻化すれば、ワシントンはモスクワに対する制裁措置をさらに強化するかもしれない。しかし、ロシアを孤立させるための経済制裁は、必要以上に大きなコストをヨーロッパだけでなく、アジアの同盟国にも強いることになる。そうした対ロシア関係のバランスの崩壊にもっとも苦しんでいるのが日本だ。ワシントンは、ウクライナ危機をきっかけにロシアと中国が関係を深めていくことを懸念している。しかし、そのような事態を避けたいのなら、インド、日本、ベトナムなどの中国を潜在的敵対国とみなしている諸国が、ロシアと良好な関係を育んでいけるように配慮すべきだ。いかなる尺度でみても、「弱体化した日本」と「強固な中ロ関係」という組み合わせが、アメリカにとって好ましいものになることはあり得ないのだから。

レバノン化する中東
―― 重なり合う宗派主義と地政学の脅威

2014年9月号

バッサル・F・サルーク レバノン・アメリカ大学准教授(政治学)

2014年は中東におけるリアリストの地政学抗争に感情的な宗派対立が重なり合う新しい地域秩序が誕生した時代としていずれ記憶されることになるかもしれない。宗派対立へと中東の流れを変化させるきっかけを作り出したのは、2003年のアメリカのイラク戦争だった。その後、地政学抗争と宗派アイデンティティの重なり合いはシリア内戦によってさらに固定化され、これが紛争の破壊性と衝撃を高めている。最近のイラクにおける「イスラム国」(ISIS)の軍事攻勢と勝利も、「排他的で視野の狭い宗派、民族、宗教、部族主義の政治化」という2003年以降のトレンドを映し出している。いまや中東全域がレバノン化しつつある。

漂流するロシアの自画像
―― プーチンとソビエトの遺産

2014年8月号

キース・ゲッセン n+1誌共同編集長

「何が普通の国なのか」について、ロシアにはいまもコンセンサスが存在しない。ゴルバチョフはロシアを普通の国にすることを目標に掲げ、反ゴルバチョフクーデターを試みたゲンナジー・ヤナーエフもロシアを「普通の国に戻すこと」を主張した。ヤナーエフは過去に回帰することを普通の生活を取り戻す道筋と考え、ボリス・エリツィンは「西ヨーロッパの規範」を普通とみなした。しかしエリツィンがその構想の詳細を明らかにすることはなかった。結局のところ、多くのロシア人はスターリン時代に郷愁を感じている。だが、大多数のロシア人がプーチンを支持しているとはいえ、支持者の半分はスターリンを嫌い、残りの約半分はスターリンに心酔している。これはスターリンとは違うからプーチンを支持する人もいれば、スターリンと似ているからプーチンを支持する人もいることを意味する。・・・

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