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テーマに関する論文

「中国の台頭」の終わり
―― 投資主導型モデルの崩壊と中国の未来

2016年2月号

ダニエル・C・リンチ 南カリフォルニア大学国際関係大学院准教授 (国際関係論)

いまや中国はリセッションに直面し、中国共産党の幹部たちはパニックに陥っている。今後、この厄介な経済トレンドは労働人口の減少と高齢化によってさらに悪化していく。しかも、中国は投資主導型経済モデルから消費主導型モデルへの移行を試みている。中国の台頭が終わらないように手を打つべきタイミングで、そうした経済モデルの戦略的移行がスムーズに進むはずはない。でたらめな投資が債務を膨らませているだけでなく、財政出動の効果さえも低下させている。近い将来に中国共産党は政治的正統性の危機に直面し、この流れは、経済的台頭の終わりによって間違いなく加速する。抗議行動、ストライキ、暴動などの大衆騒乱の発生件数はすでに2000年代に3倍に増え、その後も増え続けている。経済の現実を理解しているとは思えない習近平や軍高官たちも、いずれ、中国経済が大きく不安定化し、その台頭が終わりつつあるという現実に向き合わざるを得なくなる。・・・

CFR Interview
民進党政権で中台関係はどう変化するか

2016年2月号

ジェローム・コーエン 米外交問題評議会シニアフェロー(非常勤)

国民党の馬英九政権は中国との協力関係を大きく進化させたが、交渉に関する十分な情報公開をせず、合意を市民による評価と監督に委ねることを怠った。これが間違ったやり方であることを立証したのが「ひまわり学生運動」だった。・・・台湾と大陸を一体化させていくことについて、民進党は今後も慎重な姿勢を崩さないだろうが、少なくとも、蔡英文は、これまでの協調路線を覆すのではなく、維持していくと表明している。・・・台湾と大陸との関係を進展させるかどうか、進展させるとして、それをどのように実現するか。これが次期政権の課題になるだろう。考えるべきは蔡英文が、台湾と中華人民共和国が「一つの中国」であるとする「92年コンセンサス」を受け入れるかどうかだ。・・・アジアでもっともパワフルな国である中国に近く、北東アジアと東南アジアの間に位置する「不沈空母」として、台湾はかなりの軍事戦略上の価値を持っている。しかし、可能性は低いとは言え、中国との統合を、台湾住民がリファレンダムを通じて明確に支持した場合には、アメリカがそれに反対することはないだろう。・・・(聞き手はエレノア・アルバート、オンラインライター・エディター)

CFR Interview
追い込まれたサウジアラビア

2016年2月号

トビー・マティーセン オックスフォード大学シニアリサーチフェロー

サウジ政府がエネルギー補助金の大幅な削減などの緊縮財政策を発表した後、ニムル師の処刑が実施されたのは偶然ではないし、同じタイミングでイエメンでの停戦合意をキャンセルして空爆を再開したのも偶然ではない。リヤドは宗派主義を政治ツールとして用いている。サウジにとって、イエメン、シリアでの紛争も思うようには展開していない。しかも、国内では経済問題を抱え、政治改革も行われていない。サウジが宗派対立や反イラン感情を煽るのは、こうした問題から民衆の関心をそらすためでもある。一方、地域的な反シーア派感情を煽り立て、ニムル師を処刑し、イランとの関係を遮断することで、ロウハニなどのサウジとの和解を求めるイランの穏健派の影響力は抑え込まれ、テヘランでは強硬派を勢いづかせている。一方で、サウジの新しい指導層もかなりの強硬派で、反イランの地域的グレートゲームの図式を、外交政策の基盤に据えている。・・・(聞き手はザチャリー・ローブ、オンラインライター・エディター)

サウジとイランの終わりなき抗争
―― 対立が終わらない四つの理由

2016年2月号

アーロン・デビッド・ミラー ウッドロー・ウィルソンセンター 副会長 (ニュー・イニシアティブ担当)、ジェイソン・ブロッドスキー  ウッドロー・ウィルソンセンター (リサーチアソシエーツ)

スンニ派の盟主、サウジは追い込まれていると感じている。原油価格は低下し、財政赤字が急激に増えている。イエメンのフーシ派に対する空爆コストも肥大化し、イランが地域的に台頭している。サウジは、複数の嵐に同時に襲われる「パーフェクトストーム」に直面している。一方、シーア派のイランは核合意によって経済制裁が解除された結果、今後、数十億ドル規模の利益を確保し、新たに国際社会での正統性も手に入れることになる。しかもテヘランは、シリアのアサド政権、イラク内のイラン寄りのシーア派勢力、レバノンのヒズボラを支援することで、地域的影響力とパワーを拡大している。シリア、イラクという中東紛争の舞台で、サウジとイランは代理戦争を展開し、いまや宗派対立の様相がますます鮮明になっている。このライバル抗争は当面終わることはない。その理由は四つある。・・・

2016年、世界は中東とヨーロッパを中心に半世紀に一度の大きな地政学的変化を経験することになるかもしれない。中東ではアラブの春に象徴される社会不満が噴出し、アメリカの覇権が形骸化したことによる政治的空白のなかで、「イスラム国」が台頭し、宗派間紛争が固定化しつつある。そこで起きているのは多層的な革命と秩序再編だ。ヨーロッパでは、ユーロ導入に伴う金融政策上の主権喪失がギリシャ危機として先鋭化し、その対応に必要なさらなる政治・経済統合にメンバー国は同意できずにいる。難民の流入に伴う各国の国家意識の覚醒によって多文化社会が揺らぎ、EUの根本理念である域内における「人の移動の自由」さえも脅かされている。EUがメンバー国に求める緊縮財政も、EUへの反発と国家意識を高め、右派政党を台頭させている。そして中国は自由化に伴う経済的混乱のなかにある。一定の余力を残しつつも、経済的対応ツールは今後ますます少なくなり、危機に対応できなくなる恐れもあり、中国発グローバルリセッションのリスクを指摘する専門家もいる。世界各地で政府と市民の社会契約が揺るがされるなか、地域秩序が解体していけば、全てが流動化し、地域大国間だけでなく、ロシア、中国を含む大国の地政学的思惑と行動が表面化していくリスクがある。・・・

欧米の分析者や政府関係者のなかには、ロシアが深く関与しているシリアとウクライナでの紛争が、北京とモスクワの関係を緊張させるか、破綻させると期待混じりに考える者もいる。だがそもそも中国はロシアとの公的な同盟関係を結ぶことにも、反米、反欧米ブロックを組織することにも関心はない。むしろ、北京は、中ロが開発目標を達成できるような安全な環境を維持し、互恵的な関係で支え合い、どうすれば国際システムを強化する方向で大国同士が立場の違いを管理できるかのモデルとされるような関係を形作っていくことを望んでいる。アメリカとその同盟諸国は、中国とロシアの緊密な絆を、米主導の世界秩序を脅かす疑似同盟関係の証拠とみなすかもしれない。だが中国は、米中ロの三国間関係は、二つのプレイヤーが連帯して残りの一つと対峙するパワーゲームとみてはいない。・・・

青い惑星の水不足
―― 高まる水資源需要にいかに応えるか

2016年1月号

韓昇洙 国連「水と衛生に関する諮問委員会」委員

水の惑星と言われる地球だが、人類が実際に摂取できる水の量は、地球上の水資源のわずか1%。現状でも、世界の8億人近くの人々が、クリーンな飲料水へのアクセスをもたず、国連の世界水資源開発報告書は、水資源需要が現在のペースで増え続ければ、2030年には需要が供給を40%上回ることになると予測している。このシナリオが現実と化せば、10億人以上の人々が水資源不足だけでなく、多くの国が(農業用水の不足による)食料不足や生活レベルの低下に苦しむことになる。十分な飲料水資源を人類に供給するには、既存の資源をいかに管理していくかが重要だ。幸い、三つのイノベーションが未来を切り開きつつある。・・・

原油安が好ましいとは限らない。例えば、原油価格が今後10年にわたって50ドル前後で推移した場合、中東産油国へのわれわれの依存度は高まっていく。北米、ブラジル、アフリカなどの原油は生産コストが高いために、生産量は削減され、生産コストの安い一部の中東産油国の石油への需要と依存が高まっていく。一方、中東は、誰もが知るとおり、大きな混乱のなかにある。つまり、石油安全保障の観点からみれば、長期的に原油が低価格で推移するのは、かなりのリスクがある。・・・さらに原油安によって、やっと勢いづいた再生可能エネルギーへの支援策を政府が見直す危険もある。だがそうならなければ、石炭から再生可能エネルギーへの大きなシフトが起きる。電力生産部門での石炭のシェアは低下し、近い将来、再生可能エネルギーが石炭を抑えて最大のシェアをもつようになる。例えば、3人のうち2人が電力へのアクセスをもっていないアフリカのサハラ砂漠以南の地域が、化石燃料ではなく、再生可能エネルギーで経済成長を遂げる最初の大陸になると考えることもできる。彼らは再生可能エネルギー資源に恵まれているし、再生可能エネルギーによる電力生産コストは大幅に減少している。・・・・

ヨーロッパの政治的混乱とイスラム主義
―― 代替策なきヨーロッパに苦悶する若者たち

2016年1月号

ケナン・マリク インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙 コラムニスト

イスラム教徒の若者だけではない。ヨーロッパの若者の多くがその政治プロセスに幻滅し、自分の声を届けられないことへの政治的無力感、メインストリームの政党も、教会や労働組合のような社会的集団も自分たちの懸念や必要性を理解していないことへの絶望が社会に蔓延している。これまでなら、そうしたメインストリームに対する不満を抱く若者の多くは政治的変化を求める運動に身を投じたが、いまやそうした政治運動も現実との関連性を失っている。そして移民の社会的統合を目指したヨーロッパの社会政策が、より分裂した社会を作り出し、帰属とアイデンティティに関する視野の狭いビジョンを台頭させてしまった。皮肉にも、こうした欧州の社会政策が、不満をジハード主義に転化させる空間の形成に手を貸してしまっている。・・・・

ロシアの介入で変化したシリア紛争の構図
―― 内戦からグレートゲームへ

2016年1月号

アンドリュー・タブラー ワシントン近東政策研究所 シニアフェロー

バッシャール・アサド政権を支援することが、ロシアのシリア介入の目的だと当初は考えられていたが、それだけではないこともわかってきた。イランの影響下にある地上部隊と連携してアレッポ近郊をロシア軍が空爆した証拠が出てきているからだ。ロシアとイランが支援する地上部隊の連携作戦は、シリア北部におけるトルコや湾岸諸国の実質的勢力圏と正面から衝突している。実際、ロシア軍は度重なるトルコ領空の侵犯を通じて、シリア北部に関与する意図をトルコにみせつけている。ロシアがもっとも重視するターゲットには、アメリカが支援してきた穏健派反体制グループ、トルコが支援してきたイスラム主義勢力も含まれている。こう考えると、今やシリアではグレートゲームが展開されている。ロシアが介入する前は、シリアはボスニアかソマリアへの道を歩みつつあるかにみえたが、今やグレートゲームの舞台となった19世紀のアフガニスタンへの道を歩みつつある。・・

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