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経済・金融に関する論文

変貌したサウジ経済
―― 脱石油の経済モデルと財政規律

2022年3月号

カレン・ヤング 中東研究所ディレクター(経済・エネルギー担当)

石油を財源とする福祉国家モデルはもはや維持できないことを理解したサウジの指導者たちは、社会的支出の拡大を求める圧力が高まっているにもかかわらず、規律あるオーソドックスな財政政策を模索している。消費によって牽引される経済を促し、支出を削減し、世界的な石油需要の低下を乗り切ることを重視し、無駄をそぎ落とした政府を構築しようとしている。新たな歳入源を探るとともに、原油価格の変動に応じた歳出をなくすことで、サウジ政府は湾岸諸国における財政保守の新たなモデル基盤を築こうとしている。

インド経済の復活はあるか
―― 成長を抑え込む政策的矛盾

2022年3月号

アルビン・サブラマニアン 前インド政府 チーフエコノミックアドバイザー
ジョシュ・フェルマン 元国際通貨基金 駐インド事務所代表

かつてはその経済的台頭が世界に注目されたインドも、パンデミックが広がるまでには、まるで、世界の経済地図から消え去ったかのように忘れ去られていた。だが2021年に流れは変わる。デジタルテクノロジー系スタートアップがブームに沸き返り、ユニコーンが毎月のように誕生した。こうして「インドは復活した」と考える人も出てきた。だが、そのポテンシャルを開花するには、政府はインドのビジネス・投資環境(ソフトウエア)を改革しなければならない。貿易障壁を引き下げ、世界のサプライチェーンへの統合拡大も目指すべきだ。安定した経済環境を構築・維持するために、政策立案過程そのものも改善する必要があるだろう。問題は、そのいずれも現実になる気配がないことだ。・・・

サプライチェーンの混乱と再編は続く
―― 産業政策と保護主義の長期的弊害

2022年2月号

シャノン・K・オニール  米外交問題評議会副会長

各国で産業政策が復活するにつれて、世界でいかにモノが作られ、提供されるかをめぐって構造的な変化が起きるかもしれない。グローバルな生産と流通を永久に変える可能性があるのは、パンデミックの一時的な余波ではなく、むしろこのような国の政策だ。市場や産業そして企業の活動に各国政府は直接的に影響を与えようと試みるようになった。理由は、グリーン経済への移行、公衆衛生対策、人権保護、国家安全保障など多岐にわたる。もちろん、保護主義や地政学的思惑もある。実際、経済・技術・国家安全保障上の思惑を基盤とする政策上のアメとムチの世界的な拡散とエスカレーションは、世界の半導体産業の再編にとってパンデミックによる供給不足以上に重要な意味合いを持っている。半導体だけではない。電気自動車などに使われる大容量バッテリー、重要鉱物(クリティカル・ミネラル)、重要な医薬品などへの政府の関与も高まりつつある。

国際最低税率合意の意味合い
―― 合意は改革への序章にすぎない

2022年1月号

ラス・メイソン バージニア大学法科大学院 栄誉教授(法律と課税)

多国籍企業の世界最低税率に関する国際合意の狙いは、課税逃れへの防波堤を築き、(底辺への競争とも呼ばれる)法人税率の世界的な引き下げ競争を抑えることにある。コロナ対策への財源確保や格差是正に向けた各国の思惑もある。これまで、税率を設定する権限は、国が手放してはならない主権の中核要素だと長く考えられてきた。しかし、世界の国内総生産(GDP)の90%以上、人口のおよそ75%を占める136の国・地域による1年近くにわたる交渉の末、国際法人税制における前提としての物理的プレゼンスの重要性を抑え、グローバルな法人最低税率を導入することが合意された。国際最低税率合意は画期的なものと評価されているが、その価値はすべて今後の展開にかかっている。真っ先に直面する障害が各国の国内政治だ。・・・

インフレは今後も続くのか
―― マジックマネーの時代の終わり?

2022年1月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー

短期的には半導体、住宅スペース、エネルギーなどのファンダメンタルズが世界的に不足しているため、物価上昇圧力はしばらく続くかもしれない。パンデミックの影響であらゆるものがデジタル化されているだけに、半導体チップの不足は特に深刻だ。それでも、いずれ落ち着いてくる。中期的に考えれば、価格を押し上げる供給不足は、永続的なものではなく、一時的なものに終わると考えられる。供給が安定し、需要が落ち着けば、適度な引き締め策で十分に対処できるようになる。2023年初頭までには、インフレ率は目標の2%を少し上回る程度で安定しているだろう。・・・

より公平な新経済システムへ
―― 増税と政府による経済管理

2021年12月号

フェリシア・ウォン  ルーズベルト研究所会長

パンデミックはフリードマノミクスをたたきのめす最後の一撃だったのかもしれない。しかし、サミュエルソンがおそらくは認識し、受け入れていたかもしれない「増税と政府による経済管理」という世界もまだ完全には出現していない。この新しいパラダイムが、1940年代のケインズ主義や1980年代のフリードマン的市場経済原理主義のように定着するかどうかは、依然として多くの要因に左右される。新たに形成されつつあるこの枠組みでは、経済と社会の健全性を促進するために、政府にさまざまな役割を担わせることが前提にされている。グリーンエネルギーに投資し、医療、育児、教育などの公共財にもっと多くのコストをかけ、賃金、富、住宅、教育、健康などの分野における人種間の格差を是正していくことが期待されている。

環太平洋パートナーシップへの復帰を
―― CPTPPのアメリカにとっての価値

2021年10月号

ウェンディ・カトラー  元米通商代表部(USTR)次席代表代行

ワシントンでは「アメリカ抜きではTPPは静かに死を迎える」と考えられてきた。しかし、そうはならなかった。日本率いる残されたメンバーはCPTPPと名称を変更し、2018年に合意をまとめた。アメリカがCPTPPに参加すべき理由は数多くあるが、もっとも重要な要因はやはり中国だ。北京は(すでに正式加盟を申請し)CPTPPに参加する態勢を整えているかもしれない。中国がCPTPPのルールを守るのは難しいとしても、それで協定に参加できないということにはならない。市場が拡大することの魅力だけでなく、中国の参加を、重要な改革を先送りする機会とみなすメンバーも出てくるだろう。中国との競争を展開しているだけに、この協定はアメリカ経済にとってだけでなく、ワシントンの世界的影響力にとっても大きな価値をもつ。

法人最低税率とタックスヘイブン
―― 「どこかで必ず課税される」

2021年9月号

アンシュウ・シリプラプ  エディター(経済担当)CFR.org

多国籍企業の利益の40%が毎年タックスヘイブン(租税回避地)に移転されることで、世界の法人税収2000億ドル相当が失われている。しかも、アマゾン、フェイスブック、グーグルなどのハイテク巨大企業の台頭が、「(工場などの)国内における物理的なプレゼンスを前提に課税権を認める伝統的なモデル」を揺るがしている。ハイテク企業は、ユーザーはいるが工場や店舗をもたない国で、広告その他から数十億ドルを稼ぎつつも、現在のルール下で税金を払っていないからだ。一方、提案されている世界共通の最低法人税率(15%)が導入されれば、例えばバミューダのドイツ企業子会社が税金をほとんど支払っていない場合、ドイツ政府は差額を最大15%まで課税できるようになる。そうなれば、「タックスヘイブンを含む低税率の地域に利益を移転しようとする企業のインセンティブ」は小さくなるかもしれない。・・・

(世界共通の)法人税率を「最低でも」15%以上とすることが7月のG20財務相・中央銀行総裁会議で大枠合意された。多国籍企業がどこかの国で15%を下回る税率での負担しかしていない場合、その企業の本社がある国の政府は最低税率に達するまで上乗せして課税できる。これによって、今後、タックスヘイブンの出番はなくなり、「底辺への競争」も回避されるかもしれない。だが、米議会共和党はこの合意に「反競争的で反アメリカ的、しかも有害だ」と反発し、アイルランドやルクセンブルグなどのタックスヘイブンも合意を嫌悪している。だが、流れを止めるのはほぼ不可能だろう。多国籍企業は、あまりにも長い間、あまりにも少ない支出で他の人々が負担する公共財にただ乗りしてきた。いずれにしても今後数年のうちに、多国籍企業はより多くの公共財への貢献をすることになるだろう。

生産性向上と繁栄の新時代へ
―― パンデミック後の経済ポテンシャル

2021年8月号

ジェームズ・マニュイカ  マッキンゼー・グローバル・インスティテュート 理事長 マイケル・スペンス  スタンフォード大学経営大学院教授(経済学) 2001年ノーベル経済学賞受賞者

パンデミックが引き起こした第二次世界大戦以降最大の経済危機は、驚くべきことに、「生産性の向上と繁栄の新時代」を招き入れるかもしれない。現実にそうなるかは、今後、対パンデミック体制からの離脱を準備していく政府や企業がどのような決定を下すかに左右される。各国が経済回復に多くの資金を投入し、企業がデジタル化から恩恵を引き出せば、少なくとも短・中期的には、生産性の向上と繁栄の見通しは高まる。一方、長期的にはあまり楽観的になれない。無期限に支出(救済措置や財政出動)はできないし、個人消費と民間投資ではそのギャップを埋められないかもしれないからだ。それだけに、テクノロジーや組織構造領域でのイノベーションの拡散を促進し、個人消費を喚起することで、持続的な生産性向上と繁栄のための環境作りを試みる必要がある。

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