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経済・金融に関する論文

世界食糧危機をいかに緩和するか
―― 農業大国アメリカのポテンシャル

2022年8月号

カーライル・フォード・ランゲ ミネソタ大学 栄誉教授(応用経済学、法学)
ロビン・S・ジョンソン 元カーギル社 上席副会長(グローバル担当)

ロシアの黒海封鎖によってウクライナの穀物輸出が妨げられ、ロシアの輸出も経済制裁によって抑え込まれている。こうして、ボスポラス海峡を通過するウクライナやロシアの小麦やトウモロコシの輸出が大きく減少し、エジプトだけでなく、アフガニスタン、エチオピア、ケニア、ナイジェリア、パキスタン、南スーダン、イエメンを含む中東や北アフリカの多くの国々が食糧危機(供給不足、価格高騰)に苦しんでいる。途上国への食糧支援を十分に提供できる立場にある農業大国のアメリカは、飢餓に苦しむ世界に援助を拡大すべきだし、その経験もノウハウももっている。第二次世界大戦期のレンドリースといえば、イギリスへの船舶や軍需品を供給したことが先ず想起されるが、実は食糧援助も含まれていた。・・・

経済制裁とインフレ
―― 経済制裁が引き起こす人道的ダメージ

2022年8月号

イスファンディヤール・ バトマンゲリジ ヨーロッパ外交評議会客員研究員 エリカ・モネット 国際・開発研究大学・グローバル・ ガバナンス・センター シニアリサーチャー

経済制裁対象国で何百万もの人々を悲惨な生活に追い込んでいる高インフレの多くは、まさしく欧米の制裁によって引き起こされている。実際、アメリカや欧州連合(EU)の主要な制裁下にあるすべての国で高インフレが認められる。(インフレによって)無差別に多くの人が経済的苦境に直面すれば、苛立ち、疲れた相手国の民衆は(政府に対応を求めて)街頭に繰り出すかもしれない。だが、問題国の政府がこれで行動を見直すことはない。ワシントンは制裁がどのように相手国のインフレに拍車をかけ、食糧や医薬品などの必需品の価格を上昇させるかを理解する必要がある。アメリカが外交利益のために制裁を実施していると考えても、世界の多くの人は、それを実質的な経済戦争として体験している。

黒海と世界の食糧危機
―― ロシアに対する軍事・外交オプションを

2022年8月号

マーク・カンシアン 戦略国際問題研究所 国際安全保障プログラム上級顧問

これまでのところ、世界で飢餓が起きているという報道はないが、戦争が続けば、穀物の供給はさらに減少し、食糧不足だけでなく、暴動が起き、社会と体制の不安定化が誘発される恐れがある。欧米に行動を求める圧力が高まるのは避けられない。当然、食糧不足が危機として具体化する前に軍事作戦から外交までの計画を準備しておくべきだ。プーチンが示唆するような「ロシアの貨物船1隻が(経済制裁の例外措置として)国際貿易を認められれば、ウクライナの貨物船1隻も(ロシアの海上封鎖の例外として)国際貿易を許される」という合意も可能かもしれない。だが、この方法はロシアにかなりの金銭収入をもたらすとともに、制裁解除の前例を作り出すことになるため、ほとんど支持は得られていない。一方、欧米は衝突のリスクを冒すことには及び腰で、その間にも世界の食糧事情はますます厳しくなっている。・・・

自由貿易でインフレを抑え込め
―― 関税を下げれば、物価も下がる

2022年8月号

ゲリー・ハウバウアー ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー(非常勤) ミーガン・ホーガン 同研究所 リサーチアナリスト エイリン・ワン 同研究所 リサーチアナリスト

関税を引き下げ、輸入割当を撤廃すれば、アメリカの企業や家計が購入する輸入品のコストは下がる。安価な輸入品は、競合する国内製品の価格を押し下げる圧力を作り出す。関税引き下げはアメリカの貧困層にはかなりの恩恵をもたらす。手始めに2%の関税引き下げを実施すれば、今後1年間で約1・3%程度インフレを抑え込める。地政学的利益も期待できる。バイ・アメリカ規則を緩和すれば、貿易パートナーの政府調達市場へのアクセスを拡大できるし、乳製品や衣料品の関税を引き下げれば、パートナー国に具体的な恩恵を提供できる。こうして政治的な好意を示せば、アメリカのイニシアティブへの外国での支持を高めることにもなる。インフレ対策がバイデン政権の最優先課題なのであれば、それに貢献できる貿易保護主義を撤廃していくことの価値は自明だろう。

ウクライナ戦争と食糧危機
―― 小麦粉不足と中東の社会騒乱

2022年6月号

カリ・ロビンソン Writer@cfr.org

世界の穀倉地帯であるロシアとウクライナは、小麦、トウモロコシ、大麦などの穀物の主要輸出国だ。2020年まで、両国は生産した小麦の約半分を中東や北アフリカの国々に輸出してきた。だがウクライナ戦争が、穀物、種子油、食用油、肥料など、中東・北アフリカがもっとも必要とする物資の供給を妨げている。こうして、多くの地域諸国が政策を見直し、代替策を模索している。例えば、エジプトは数カ月分の食糧を備蓄し、アラブ首長国連邦から資金援助を受けて、パン(小麦粉)の価格統制を維持している。各国は特にパンの値上げを何とか回避しようとしている。この地域の多くの国ではパンに対する補助金は社会契約の一部と考えられており、値上げは不安を煽ることになる。一般に「アラブの春」として知られる中東・北アフリカの反乱も、2010年のロシア小麦の不作に派生する値上げの後に起きている。

人口減少に苦しむ中国
―― 一人っ子政策は放棄したが・・・

2022年6月号

カール・ミンズナー 米外交問題評議会 シニアフェロー(中国研究)

長年にわたる産児制限策を撤廃すれば、出生率は上昇し、人口は増えると北京は考えていた。2013年、夫婦のどちらかが一人っ子の場合、二人の子どもを持つことを認めると発表し、2016年には一人っ子政策は正式に廃止され、二人っ子政策となった。そして2021年には三人っ子政策が導入された。だが、どれも十分な効果はなかった。共産党が「伝統的なジェンダー規範」を復活させたことも、出生率低下の根本原因を悪化させるだろう。北京は、女性を苦しめるイデオロギー的な政策転換をやめ、人口の高齢化を受け入れるべきだ。定年退職年齢を引き上げて、持続不可能な年金額を引き下げ、高齢者、特に貧しい農村の高齢者のための介護制度を改善して少子高齢化の余波に対処する必要がある。そうしない限り、中国の人口動態はさらに悪化し、最終的には、一段と過激で痛みを伴う政策転換が必要になる。・・・

中国経済は低成長期へ
―― 世界経済への意味合い

2022年6月号

ダニエル・H・ローゼン ロジウム・グループ パートナー

企業投資、家計や政府の支出、貿易黒字からみても、中国の国内総生産(GDP)がこれまでのような成長を持続できるとは考えにくい。現実には、2022年に2%の成長を維持することさえ難しく、正確に計測すれば、2022年はゼロ成長、あるいは景気後退に陥る危険もある。基本的な財政・金融・その他の改革を遂行せずに、政治的に決定された高い成長目標を永続的に達成できると信じる理由はどこにもない。ワシントンは「中国経済が問題に直面している」という現実への関心を責任ある形で喚起すべきだろう。中国の経済成長の鈍化は、14億の中国人だけでなく、世界の多くの人の経済的繁栄を損なうことになるのだから。・・・

新しいアラブ・イスラエル関係
―― アブラハム合意のポテンシャル

2022年5月号

マイケル・シン ワシントン近東政策研究所 マネージング・ディレクター

2020年、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン王国はアメリカの仲介で国交を正常化した。アブラハム合意として知られるこのアレンジメントは、これまで経済統合がなかなか実現しなかった中東地域での奥深い経済統合を促すだろうし、世界の投資家を魅了し、この地域全体の成長に貢献すると考えられる。すでにモロッコとスーダンが、UAEに続いてイスラエルと国交正常化合意を結んでいる。一連の和平合意は、かつては望みようもなかったイスラエルとアラブ諸国との政治・安全保障協力に道を開き、地域紛争を抑え、イランを抑止できる地域国家連合の形成へとつながっていくポテンシャルを秘めている。・・・

秩序の崩壊と再生
―― 生き残るのは米中どちらの秩序か

2022年5月号

マイケル・ベックリー タフツ大学准教授(政治学)

ストレスの多い仕事をし、太った喫煙者の習近平は2030年代初頭には、生きていたとしても80代だ。中国の人口危機が本格化し、現在から2030年にかけて生産年齢人口は7000万程度減少し、高齢者人口が1億3000万増えると予測されている。これほど多くの課題に直面している国が、世界の富裕国からの断固とした反対を前にしても、独自の国際秩序を長く維持できるとは考えにくい。だがアメリカが主導する民主的秩序が維持されるという保証もない。2024年の米大統領選挙で憲政危機が起き、アメリカが国内闘争に陥る危険さえある。そうならないとしても、アメリカとその同盟国は立場の違いによって分断されていくかもしれない。よくも悪くも、明らかなことが一つある。それは、中国との競争が新しい国際秩序を形成しつつあることだ。

ロシアの侵略は欧米秩序を再生するか
―― 権威主義との闘いは続く

2022年5月号

アレクサンダー・クーリー コロンビア大学バーナードカレッジ教授(政治学) ダニエル・H・ネクソン ジョージタウン大学外交大学院教授(政治学)

ウクライナを侵略することで、プーチンは「つい最近まで崩壊に向かうとみられていた国際秩序を再建するための歴史的な機会をアメリカと同盟国に与えた」とみる専門家もいる。だが本当にそうだろうか。ロシアの侵略を非難する国連決議に141カ国が賛成したのは事実だ。しかし、5カ国が反対し、35カ国が棄権し、12カ国は無投票を選んでいる。棄権した国のなかには、中国、インド、パキスタン、バングラデシュ、南アフリカの5カ国が含まれ、これらの国の人口を合わせると世界の2分の1近くに達する。欧米の政策決定者がロシアの侵攻が作り出したこの瞬間を、「リベラルな秩序の危機の終わり」や「欧米のグローバルな優位の復活」と読み違えれば、厄介な問題が作り出されることになる。

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