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経済・金融に関する論文

CFRディベート
中国とインド、 経済的勝利を手にするのはどっちだ

2007年7月号

マンジート・N・クリパラニ ビジネスウィーク誌インド支局長、アダム・シーガル 米外交問題評議会 中国担当シニア・フェロー

ソフトパワー戦略を巧みに展開する中国は超大国への道を着実に歩みつつあるかにみえる。だが一方では、情報技術産業、ソフトウエア産業のブームをバックに、インドが中国のライバルとして急浮上してきている。国内総生産(GDP)の成長率でもインドは中国と肩を並べつつあるし、中国同様に大規模な労働力も持っている。中国とインドの急速な台頭を前に、最終的に経済大国の地位を手にするのは「民主的なインド」なのか、それとも「権威主義の中国」なのか。民主国家インドは、政治的に大きな発言力を持つ貧困層に短期的な痛みを強いる経済改革を断行しないことには、現在の成長路線を維持できなくなるという難題を抱え、経済的発展を遂げた中国には、政治の自由化という難題が待ち受けている。

いまや、国境を超えた資金の流れは一日あたり2兆ドル規模に達し、その90%程度は、財やサービスの貿易とは関係のない、金融セクターで取引されている。かつての貿易の流れ同様に、こうした巨大資金の流れを司る金融都市の存在はその国の経済的繁栄だけでなく、政治的な影響力を強化し始めており、多くの国がこの点に気づきだしている。こうして金融センター再編の流れが起きている。金融センターの覇者としてのニューヨークの地位は、いまやロンドンに脅かされつつあるし、世界各地で新たな金融センターがプレゼンスを築きつつある。こうした変化は、長期的にはグローバルな経済および地政学的な構図を変化させる可能性を秘めているとみる専門家もいる。

働き口とよりよい生活を求めて、数多くのアフリカの人々が、危険を顧みずに、ヨーロッパを目指して地中海の旅へと繰り出している。アフリカからの移民・難民が殺到しているヨーロッパ諸国は、経済移民および政治・経済難民の受け入れ制度を改革し、域内で調和させる必要性に直面しつつあり、欧州連合(EU)も、これを経済、人道上の緊急課題と捉えだしている。だが、ヨーロッパ各国がこの問題をめぐって、立場を共有しているわけではない。殺到するアフリカからの難民に特に悩まされているのが、地中海沿岸に位置する南ヨーロッパ諸国だ。一方、移民、難民の増大に悩まされる一方で、ヨーロッパ社会の高齢化が進み、出生率が低下するなか、EUは、近い将来に労働力不足に陥ると考えられている。つまり、そこには、アイデンティティーを脅かすアウトサイダーとしての移民、貴重な労働力としての移民という認識上のジレンマがあるだけでなく、その受け入れをめぐって加盟国間に立場の違いがある。

アメリカ政府は人民元は不当に過小評価されており、その結果、中国製品の競争力がますます強化され、グローバル貿易に大きなねじれが生じ、欧米諸国、特にアメリカの貿易収支に(巨額の貿易赤字として)大きなしわ寄せが来ているとみている。ヘンリー・ポールソン米財務長官は最近の米外交問題評議会(CFR)インタビューで次のように語っている。「中国の人民元のレートは中国経済の実態を反映していないし、すでにグローバルな金融システムの主要な一部を担いつつある中国が、経済の実態を反映しないような通貨を持っていることは大いに問題がある。短期的には、われわれは、より大きな柔軟性(変動幅)を導入するように求めていく。中国は人民元の為替レートを切り上げる必要がある」。しかし、人民元レートをいじった程度では、アメリカの巨大な貿易赤字は減少しないし、中国における政治的反動を誘発する恐れがあると指摘する専門家もいる。

ヘッジファンド悪玉説は間違っている

2007年3月号

セバスチャン・マラビー ワシントン・ポスト紙コラムニスト

ある企業や通貨の価格が本来の価値を示していないことを見抜き、さまざまな金融資産の価格の間に論理的には説明できない矛盾があることを突き止める能力を持っているヘッジファンドのアナリストだけが成功を収める。そのような大成功を収めるアナリストは、彼らだけではなく、投資家にも莫大な利益をもたらす。割安となっている資産を買い、割高となっている資産を売ることによって、市場価格の歪みが消失するまで彼らは市場価格を変動させ続ける。こうして最終的には世界の資本の効率的な分配が実現されることになる。ヘッジファンドが生み出すリスクとその活動がリスクを減少させることをバランスよくとらえる必要があるし、ヘッジファンドを金融システムに対する危険な火種とみなすのではなく、金融システムが火に包まれないように配慮する消防士の役割を果たしていると考えるほうが実態に近い。

2007年2月、ダイムラークライスラーは、クライスラーの北米部門の売却も視野に入れた再建策、リストラクチャリングを実施していくつもりだと発表し、その一環として、1万3千人のレイオフを行い、生産能力を削減し、さらには、クライスラーの売却も検討していることを挙げた。2月の表明は、9年に及んだダイムラーベンツとクライスラーの不幸な結婚の終わりの始まりとみる専門家は多い。ゼネラル・モーターズ(GM)がクライスラー、あるいはその一部を買収するかもしれないという噂もあれば、そうした噂はたんなる憶測にすぎないという見方もある。クライスラーにどのような運命が待ち受けていようと、ダイムラークライスラーの窮状は、グローバル・オート・インダストリー(世界の自動車産業)の大きな変化を映し出している。デトロイトの自動車メーカーが悪戦苦闘するなか、日本のトヨタが市場への影響力をますます高めているからだ。中国の一部の自動車メーカーもパーツ部門を中心にグローバル市場での足場を強化しつつある。

グローバル化に対する 反動にどう対処する

2007年3月号

ラウイ・アブデラル ハーバード大学ビジネススクール助教授
アダム・シーガル 米外交問題評議会(CFR)シニア・フェロー

いまや、資本、商品、労働力の国境を超えた自由な移動を意味するグローバル化の流れが今後も続いていくと楽観できる状況ではなくなってきた。最大の懸念材料は、市民のグローバル化への猜疑心が高まり、グローバル化が国家間、国内の双方で格差を助長していることへの人々の不満が増大し、状況への反発として各国で保護主義が台頭しつつあることだ。技術革新領域についてはグローバル化の流れがよどむことは今後もあり得ないが、ドーハ・ラウンドの決裂からも明らかなように市場開放の流れはよどみ始めているし、2国間合意の増大によって国際的な貿易ルールも損なわれ、グローバル化を支える制度そのものが形骸化しつつある。各国が状況にどのように対応するかで、グローバル化の今後は左右される。

2006年7月、世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンドは再開の目処が立たぬままに凍結され、もはや今回のドーハ・ラウンドが目的に掲げた、踏み込んだ貿易自由化は永遠に陳腐化したとする見方もあった。しかし、ダボスで2007年1月に開かれた世界経済フォーラムに集った30カ国の閣僚たちは、数カ月以内に交渉を再開することに合意し、2月9日には、農業自由化交渉が再開された。だが、交渉の今後を楽観できる情勢にはない。ドーハが失敗に終われば、貿易自由化の進展が望めなくなるだけでなく、グローバル化は停滞し、世界は保護主義の時代に突入する危険もある。無論、WTOの力は損なわれ、富裕国市場へのアクセスを求める貧困国の願いも絶たれることになる。とはいえ、これまでのすべての貿易ラウンドも膠着状態を経て、土壇場で合意形成にいたっていることも事実だ。今後を考えるうえでの懸念材料は、保護主義が高まりをみせるなか、各国が「多角的貿易ラウンドに代わる選択肢として」2国間貿易合意路線へと傾斜しつつあることだ。

中国のパワーを検証する
――軍事、経済、ソフトパワーの実態と課題

2007年1月号

デビッド・M・ランプトン 米中関係全米委員会前会長

アメリカを含む世界各国は、中国の軍事パワーを過大評価し、経済面でも、売り手、輸出業者としての中国の役割を過大評価し、買い手、輸入業者、投資家としての中国の活動を過小評価している。そして、中国のソフトパワーの拡大はおおむね無視されている。一方の中国は、経済成長を持続させることこそ、現在の共産党政府の政治的正統性を維持していくうえでの不可欠の要因とみている。そのために、(技術、投資、戦略物資などの)資源を可能な限り国際社会から調達し、対外的脅威を緩和させようと心がけている。だが、国内での政治的緊張に直面すると対外的ナショナリズムのカードを切ろうとする傾向があるし、経済パフォーマンスが低下すれば、政府の正統性も、中国のソフトパワーも損なわれていく。状況が流動的であるがゆえに、中国のパワーの実態を明確に把握しておく必要がある。

議会の多数派となった民主党が、2国間貿易協定の批准を拒絶し、保護貿易路線を強化していくのではないかとの懸念が浮上している。事実、民主党議員のなかには、自由貿易合意に否定的な公約を掲げて当選した者もいるし、アメリカの労働者を守るために、途上国との自由貿易合意に労働基準、環境基準を盛り込むように圧力をかけることを示唆する有力者もいる。過小評価されたままの人民元レートをバックに、中国がアメリカに対する貿易上の優位を高めつつあるとみなす危機感も米議会では高まっている。山積する貿易問題に民主党議会はどう対処していくのか。

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