1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

経済・金融に関する論文

Classic Selection
それでも21世紀は民主主義の時代になる
――民主化に不可欠な信頼と妥協を育む市場経済

2007年12月号

マイケル・マンデルバーム   ジョンズ・ホプキンス大学教授

市場経済を機能させるのに必要な制度、知識、価値観は、民主主義を実現するうえで必要になる制度、知識、価値観と重なりあう。こうして民主主義は市場の働きを通じて広まることになる。市場経済が民主主義を育んでいくのは、市場経済の前提となる財産権の保障が自由の一部を構成しているからだ。もっとも重要なのは、市場経済のもとで、企業、労働組合、専門家協会、有志クラブなど、政府から独立した団体が多数誕生することだ。非民主国家が経済成長を実現するために市場経済体制を導入すれば、民主化圧力は必ず高まっていくし、経済成長は、将来にわたってあらゆる国の政府が追求する目標であり続ける。しかし、アメリカの政策でそれを左右するのは難しいし、アラブ世界、ロシア、中国が今後民主化していくかどうかは、予断を許さない状態にある。

中国の富裕層の上位10%が民間資産の40%以上を保有し、インドにいたっては、富裕層の上位わずか36名が1910億ドルの資産を所有するという、極端な所得格差が両国で生じている。中国とインドは、所得格差に加えて、地域格差、産業間格差という問題も抱えている。経済成長からの恩恵を社会的に再配分するには、政府が、教育、医療、インフラ、開発への投資を増やす必要があるが、インドと中国の場合、こうした領域への投資が進んでいない。貧困に苦しむ農業部門を置き去りにするのではなく、中国とインド政府は、インフラ、医療、教育への投資をさらに強化する必要がある。経済・社会格差の増大は両国における貧困層の削減ペースが鈍化し、経済成長を持続させる基盤が政治的・社会的に脅かされていることを意味するのだから。

CFRインタビュー
パーツメーカーから本格的
航空機メーカーへの脱皮を狙う中国の思惑

2007年10月号

ジョン・W・ブルンズ ボーイング社民間航空機部門 中国担当バイス・プレジデント

「航空機産業の技術開発と研究は経済に広くプラスの波及効果を与える。当然、中国側が航空機産業に参入したいと考えるのも無理はない。だが、現実的にみて、中国の航空機産業が、ユナイテッド・エアライン、ブリティッシュ・エアウェイズ、シンガポール・エアラインなどから生産を受注するような、われわれのライバルになるにはあと数十年はかかるだろう」。中国の航空機産業の今後についてこう指摘するボーイング社のジョン・ブルンズは、中国企業は、市場において重視されるブランドや信頼性をまだ確立できていないし、技術的な問題に対応し、自社の航空機を利用しているすべての国においてサポートインフラを確立していない。それには、長い時間がかかると言う。また、競争力のある航空機を生産するのに必要な技術レベルは、航空機のサイズが大きくなるほど高くなると指摘する同氏は、「国家の威信を重視すれば、中国は独力で航空機を生産し、世界にその成果を示したいと望むだろうが、商業的な成功を考えれば、海外企業と提携するのが得策だ。どちらを選ぶかは、中国がどのような動機で航空機を開発しているかに左右される」と語った。聞き手はリー・ハドソン・テスリク(www.cfr.org のアシスタント・エディター)。

CFRミーティング
サマーズ、ボルカーが語る 世界共通通貨の可能性

2007年8月号

スピーカー
ローレンス・H・サマーズ 元米財務長官
ポール・A・ボルカー 元連邦準備制度理事会議長
司会
ジェームス・D・グラント グラント金利オブザーバー誌編集者兼オーナー

まだまだ世界単一通貨の実現にはほど遠いというのが現実だが、この方向に向けた流れのなかで金融秩序は安定的に機能している。現在のようにドルが広く使われることは、金本位制だった当時は想像もできなかった。何かあれば、太陽(ドル)を離れて、月(金)に逃げ込むことができた。これがドルの限界だった。だが、金本位制からの離脱によってその限界はなくなった。ドルに対する信認さえあれば、世界が基軸通貨を持つことには大きな優位がある。(ポール・ボルカー)

私はドルの独占的な地位が永久に続くとは思っていないし、この点ではポールよりも悲観的な見方をしている。ユーロに関する限られた経験しかないとはいえ、多様な経済が、固定為替レートの共通通貨を持つことには問題があることをわれわれは知っている。世界中の国々のことを考えると、国家間の相違は(欧州連合〈EU〉内の)アイルランドとイタリアよりもはるかに大きい。(ローレンス・サマーズ)

CFRディベート
中国とインド、 経済的勝利を手にするのはどっちだ

2007年7月号

マンジート・N・クリパラニ ビジネスウィーク誌インド支局長、アダム・シーガル 米外交問題評議会 中国担当シニア・フェロー

ソフトパワー戦略を巧みに展開する中国は超大国への道を着実に歩みつつあるかにみえる。だが一方では、情報技術産業、ソフトウエア産業のブームをバックに、インドが中国のライバルとして急浮上してきている。国内総生産(GDP)の成長率でもインドは中国と肩を並べつつあるし、中国同様に大規模な労働力も持っている。中国とインドの急速な台頭を前に、最終的に経済大国の地位を手にするのは「民主的なインド」なのか、それとも「権威主義の中国」なのか。民主国家インドは、政治的に大きな発言力を持つ貧困層に短期的な痛みを強いる経済改革を断行しないことには、現在の成長路線を維持できなくなるという難題を抱え、経済的発展を遂げた中国には、政治の自由化という難題が待ち受けている。

いまや、国境を超えた資金の流れは一日あたり2兆ドル規模に達し、その90%程度は、財やサービスの貿易とは関係のない、金融セクターで取引されている。かつての貿易の流れ同様に、こうした巨大資金の流れを司る金融都市の存在はその国の経済的繁栄だけでなく、政治的な影響力を強化し始めており、多くの国がこの点に気づきだしている。こうして金融センター再編の流れが起きている。金融センターの覇者としてのニューヨークの地位は、いまやロンドンに脅かされつつあるし、世界各地で新たな金融センターがプレゼンスを築きつつある。こうした変化は、長期的にはグローバルな経済および地政学的な構図を変化させる可能性を秘めているとみる専門家もいる。

働き口とよりよい生活を求めて、数多くのアフリカの人々が、危険を顧みずに、ヨーロッパを目指して地中海の旅へと繰り出している。アフリカからの移民・難民が殺到しているヨーロッパ諸国は、経済移民および政治・経済難民の受け入れ制度を改革し、域内で調和させる必要性に直面しつつあり、欧州連合(EU)も、これを経済、人道上の緊急課題と捉えだしている。だが、ヨーロッパ各国がこの問題をめぐって、立場を共有しているわけではない。殺到するアフリカからの難民に特に悩まされているのが、地中海沿岸に位置する南ヨーロッパ諸国だ。一方、移民、難民の増大に悩まされる一方で、ヨーロッパ社会の高齢化が進み、出生率が低下するなか、EUは、近い将来に労働力不足に陥ると考えられている。つまり、そこには、アイデンティティーを脅かすアウトサイダーとしての移民、貴重な労働力としての移民という認識上のジレンマがあるだけでなく、その受け入れをめぐって加盟国間に立場の違いがある。

アメリカ政府は人民元は不当に過小評価されており、その結果、中国製品の競争力がますます強化され、グローバル貿易に大きなねじれが生じ、欧米諸国、特にアメリカの貿易収支に(巨額の貿易赤字として)大きなしわ寄せが来ているとみている。ヘンリー・ポールソン米財務長官は最近の米外交問題評議会(CFR)インタビューで次のように語っている。「中国の人民元のレートは中国経済の実態を反映していないし、すでにグローバルな金融システムの主要な一部を担いつつある中国が、経済の実態を反映しないような通貨を持っていることは大いに問題がある。短期的には、われわれは、より大きな柔軟性(変動幅)を導入するように求めていく。中国は人民元の為替レートを切り上げる必要がある」。しかし、人民元レートをいじった程度では、アメリカの巨大な貿易赤字は減少しないし、中国における政治的反動を誘発する恐れがあると指摘する専門家もいる。

ヘッジファンド悪玉説は間違っている

2007年3月号

セバスチャン・マラビー ワシントン・ポスト紙コラムニスト

ある企業や通貨の価格が本来の価値を示していないことを見抜き、さまざまな金融資産の価格の間に論理的には説明できない矛盾があることを突き止める能力を持っているヘッジファンドのアナリストだけが成功を収める。そのような大成功を収めるアナリストは、彼らだけではなく、投資家にも莫大な利益をもたらす。割安となっている資産を買い、割高となっている資産を売ることによって、市場価格の歪みが消失するまで彼らは市場価格を変動させ続ける。こうして最終的には世界の資本の効率的な分配が実現されることになる。ヘッジファンドが生み出すリスクとその活動がリスクを減少させることをバランスよくとらえる必要があるし、ヘッジファンドを金融システムに対する危険な火種とみなすのではなく、金融システムが火に包まれないように配慮する消防士の役割を果たしていると考えるほうが実態に近い。

2007年2月、ダイムラークライスラーは、クライスラーの北米部門の売却も視野に入れた再建策、リストラクチャリングを実施していくつもりだと発表し、その一環として、1万3千人のレイオフを行い、生産能力を削減し、さらには、クライスラーの売却も検討していることを挙げた。2月の表明は、9年に及んだダイムラーベンツとクライスラーの不幸な結婚の終わりの始まりとみる専門家は多い。ゼネラル・モーターズ(GM)がクライスラー、あるいはその一部を買収するかもしれないという噂もあれば、そうした噂はたんなる憶測にすぎないという見方もある。クライスラーにどのような運命が待ち受けていようと、ダイムラークライスラーの窮状は、グローバル・オート・インダストリー(世界の自動車産業)の大きな変化を映し出している。デトロイトの自動車メーカーが悪戦苦闘するなか、日本のトヨタが市場への影響力をますます高めているからだ。中国の一部の自動車メーカーもパーツ部門を中心にグローバル市場での足場を強化しつつある。

Page Top