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経済・金融に関する論文

インフレの時代へ
―― 金融緩和策と供給ショック

2023年1月号

ケネス・S・ロゴフ ハーバード大学教授(経済学)

脱グローバル化、(貿易や経済への)政治圧力の高まり、(重要鉱物を必要とする)グリーンエネルギーへの移行などが引き起こす供給ショックを含む、数多くの要因によって、世界は、2桁代ではなくても、(かつての目標値である)2%を大きく超えてインフレが持続する時代に突入する危険がきわめて高い。2021―22年の異常な物価上昇の直接的要因の多くはいずれ解消するだろうが、低インフレの時代がすぐに戻ってくることはおそらくない。大恐慌以降、最悪の二つのリセッション(2008年と2020年)を経て、中央銀行が引き起こす深刻な経済停滞の社会的・政治的影響は非常に大きなものになるだろう。

ドル高の悪夢から逃れるには
―― 準備通貨を多様化すべき理由

2022年12月号

バリー・アイケングリーン カリフォルニア大学バークレー校 特別教授(経済学・政治学)

ドル高が進むと、中・低所得国のドル建て債務の重荷が増し、持続可能性が脅かされる。原材料価格もドル建てであるため、対ドルで通貨安になると資源輸入国のコストや物価が上昇し、この流れがインフレを誘発する。こうして、ドル高になると多くの国の中央銀行は為替市場に介入し、外貨準備を用いて自国通貨を買い支えようとする。だが売却された米国債の多くは、米金融市場に流れ込み、結局はドル高になる。長期的には、各国の中央銀行が外貨準備を多様化し、ドルからユーロ圏や中国あるいはより小規模な国の通貨へと取引を多様化することが解決策になる。そうすれば、各国は連邦準備制度理事会(FRB)という一国の中央銀行の決定に左右されにくくなる。

追い込まれた中国経済
―― もはや低成長を受け入れるしかない

2022年11月号

マイケル・ペティス 北京大学 光華管理学院 教授

中国にとって、投資率が高いことは悪いことではなかった。かつて必要とされていたのはまさしく投資主導型の経済開発モデルだった。問題は不動産とインフラ部門での非生産的投資の時代があまりに長く続いたことだ。15年ほど前から、債務が国内総生産(GDP)成長率を上回るペースで増加し始め、肥大化していった。しかもいまや不動産バブルははじけ、新しい経済モデルへ移行するしかない状況にある。中国が消費(内需)主導型の成長へシフトできるとは考えにくい。投資を急速に減らして成長率の大幅な低下を受け入れるか、問題を先送りし、債務の急増によって路線維持が困難になるまで、現在の投資主導型路線を続けるしかないだろう。だが最終的には、経済成長は急激に減速し、その減速の仕方は、中国、中国共産党、そして世界経済に深刻な影響を与えることになるはずだ。・・・

迫り来るグローバル・リセッション?
―― インフレ、為替、中央銀行のジレンマ

2022年11月号

ブラッド・セッツァー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済政策担当)

いまや、中国、アメリカ、ヨーロッパという世界経済の主要エンジンのすべてが減速しつつある。中国経済は実質的にリセッションに陥り、ヨーロッパ経済もエネルギー不足によって冬にはリセションに入ると考えられる。アメリカ経済も停滞に向かいつつある。グローバルな経済停滞が主要国におけるインフレ圧力をどの程度迅速に低下させるかが、今後考えるべき大きなテーマになるだろう。長期的なインフレの定着リスクよりも、インフレ抑制のために採用した措置がうまく機能しすぎて、現在の世界的な引き締め策が中国の不動産不況、エネルギー市場の混乱と重なり合って深刻な景気後退をもたらすリスクが警戒されている。円安ドル高、イギリス経済の混乱という問題もある。金融市場は明らかに神経質になっている。・・・

ロシア経済の行方
―― 戦争、経済制裁、インフレ

2022年10月号

クリス・ミラー タフツ大学フレッチャースクール 准教授(国際史)

戦争と経済制裁のコストは、当初のインパクトが、欧米が期待したほど、そしてロシアが懸念したほど劇的でなかったとしても、今後、大きくなっていく一方だろう。今のところ、ロシアの指導者たちは、半年以上にわたって欧米の制裁を乗り切ったことに満足している。しかし、今後ロシアの産業は、欧米から輸入パーツを調達できない状況にいかに適応していくかに苦しむことになる。原油価格が上昇しない限り、モスクワは社会(財政)支出を続ける一方で、財政赤字や高インフレを受け入れるという、厳しいトレードオフに直面することになるはずだ。モスクワの戦争遂行を停止させるような形でロシア経済が崩壊することはないとしても、急激なリセッションや生活レベルの低下が続き、今後も短期的には経済がリバウンドするとは期待できないだろう。

欧州はエネルギー危機に屈するのか
―― 短期的危機を長期的機会に

2022年10月号

スーシ・デニソン ヨーロッパ外交評議会 上級政策研究員

イタリアではロシアエネルギーからの離脱を唱える政権が倒れ、その後、フランスのマリーヌ・ルペンは、ロシアに対する「無意味な制裁」に終止符を打つように訴えた。経済的・政治的な圧力の下、これまでウクライナ戦争に対するヨーロッパの反応の特徴だった連帯が脅かされている。重要なのは集団的な対応を維持していくことだ。例えば、(共同債の発行などによって)大規模な資金を調達して、よりクリーンで信頼性の高いエネルギー源を迅速に強化し、この冬以降のエネルギー需要にも応えられる共同リソースを構築することを検討すべきだ。足並みの揃った行動をとらなければ、ヨーロッパはいつまでたっても、自由主義的価値観と市民の基本的必要性の間で揺れ動くことになり、このままでは欧州統合そのものが打撃を受けることになりかねない。

低成長と中国経済の課題
―― 内需主導型成長への転換は実現するか

2022年10月号

ブラッド・セッツァー 米外交問題評議会シニアフェロー

高い貯蓄率は借金頼みの経済成長を促すことで、中国の金融システムが現在抱える問題を生み出してきた。貯蓄が多いということは、消費が弱い(消費に回す資金が乏しい)ことを意味するからだ。このため過去20年間、中国経済の成長は内需ではなく、輸出または定期的な投資拡大によって支えられてきた。だが不動産デベロッパーもいまや債務問題に苦しんでいる。しかも、地方政府の歳入は、デベロッパーへの土地売却に大きく依存してきたために、現在の不動産不況で大きく圧迫されている。地方政府が誘導する投資ではなく、個人消費に牽引された、より健全な経済を築くには、政府の財政措置を拡大しなければならない。北京は、国内債務が拡大して投資主導型経済成長の時代が終焉し、歴史的な高度成長は過去のものになったという困難な現実を受け入れる必要がある。

グローバルサウスと米中競争
―― 途上国の立場

2022年9月号

マリア・レプニコバ ジョージア州立大学州立大学 准教授(政治学)

ワシントンがソフトパワー促進策の中核に民主主義の価値と理念を据えているのに対して、中国はより実利的側面に焦点を合わせ、文化とビジネスの魅力を統合しようとしている。一方、グローバルサウスの途上国では、アメリカと中国のソフトパワーは競合するのではなく、相互補完的とみなされていることが多い。要するに、世界の多くの人々は、米中がそれぞれのビジョンと価値によって、自分たちを誘惑しようとする状態に完全に満足している。ワシントンと北京はソフトパワー競争をゼロサムゲームだと思っているが、世界の多くの地域は、それをウィンウィンとみなしている。アメリカモデルと中国モデルのどちらがより魅力的かよりも、それぞれが何をオファーしてくれるかに関心をもっている。

グローバル化からリージョナル化へ
―― 地域内貿易の時代へ

2022年9月号

シャノン・K・オニール 米外交問題評議会 シニアフェロー(ラテンアメリカ担当)

モノ、カネ、情報、ヒトの国際的移動の半分以上は、三つの主要な地域ハブ、つまり、アジア、ヨーロッパ、北米の内部で起きている。中国、韓国、台湾、ベトナムの経済成長は、アジア地域内部からの投資と投入によって始まった。東欧の急成長は西ヨーロッパとのリンクが発端だった。1993年から2007年にかけて、メキシコの経済規模は2倍以上になったが、その多くは93年にカナダ、アメリカと合意した北米自由貿易協定(NAFTA)の効果で説明できる。一般に理解されているグローバル化はほとんど神話であり、実際に起きているのは貿易のリージョナル化(地域化)に近い。いまやアジア諸国はともに生産し、相互から購入し、最終製品の3分の1近くがアジア域内の消費者に販売されている。アメリカも北米地域ネットワークを強化し、活用する必要がある。・・・

マジックマネー時代の終焉
―― 大規模緩和策の未来

2022年9月号

セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー (国際経済担当)

経済対策としての大規模緩和策(マジックマネー)は今後どうなるのか。当面、それは選択肢から外される。優先すべきはインフレの抑制であり、これはFRBの信頼性を維持するための必要条件だ。それなくして経済の安定はあり得ない。今回のインフレとの闘いには時間がかかるかもしれない。1992年から2022年までの30年間、低インフレ・低金利の時代が続いたのは、グローバリゼーションが物価を抑え込んだ結果だった。しかし、グローバル化は行き詰まり、戦略物資の備蓄やサプライチェーンの再編が進められているために、インフレはさらに加速するだろう。だがFRBはなぜ判断を間違えたのか、その本当の教訓とは何なのか。

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