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経済・金融に関する論文

Classic Selection 2009
脅かされる基軸準備通貨、ドルのジレンマ
―― ユーロ、SDR、人民元の台頭

2010年9月号

バリー・エイケングリーン カリフォルニア大学バークレー校 経済学教授

基軸準備通貨は1通貨でなければならないという考え方は、歴史を見れば間違っていることが分かる。歴史的にみても、複数準備通貨制の下では、準備資産を求める新興市場国から唯一の準備通貨供給国へと膨大な資金が流入し、これによって資産バブルが起きるという、最近、アメリカで見られたような混乱は起きていない。第二次世界大戦後のドルの地位は、アメリカ経済のグローバル市場における圧倒的なプレゼンスに支えられていたが、もはやこの例外的な状況は存在しない。短期的には、ユーロがヨーロッパ域内と近隣地域において準備通貨としてのシェアを伸ばしていくだろうし、長期的には、人民元が特にアジアにおいて影響力を拡大していくと考えられる。しかし、予見できる将来について言えば、ドルが他よりも一頭抜きんでた準備通貨であり続けるだろう。

原油価格の安定がもたらす
地政学的チャンスに目を向けよ
―― 原油生産能力は増強され、
需要の伸びは低下する

2009年9月号

エドワード・モース ルイス・キャピタル・マーケッツ マネージング・ディレクター

石油産業の専門家の多くは、世界経済が回復に向かえば、原油の高価格時代がすぐにでもやってくると考えているが、おそらくこの見方は間違っている。より可能性が高いのは、石油その他の資源価格が一定の枠内で変動する時代へと向かうことだ。・・・今後数年は、過去5年間に比べて、原油価格は低い水準で推移すると言っても問題はないだろう。なぜ原油の相対的低価格時代が到来するのか。それは、サウジが余剰生産能力(生産調整能力)を回復し、世界の需要の伸びが長期的に鈍化し、横ばいをたどると考えられるからだ。価格安定期に、産油国に対する建設的な外交を試み、産油国と消費国間のよりバランスのとれた関係を形作るべきだろう。

Classic Selection 2008
グローバル化のたそがれ?
―― アジアからアメリカへの貿易の流れは停滞する

2009年8月号

マーク・レビンソン
エコノミスト 元ニューズウィーク誌経済担当ライター

グローバル化の後退を促している要因は二つある。運輸コストの上昇と国際物流への信頼性の低下だ。原油価格の高騰に加えて、これまでグローバル化を支えてきたコンテナ輸送を受け入れる港湾インフラ、国内輸送インフラが逼迫し、テロ対策、環境対策もとらざるを得ない状況にある。これらのすべてがグローバルなサプライチェーンの流通・輸送コストを引き上げている。その結果、世界の反対側にある工場から部品を調達し続けることが賢明なのかどうか、企業も疑問に感じるようになり、グローバル規模でのアウトソーシングもかつてのような魅力を失いだしている。すでに先進国市場のための製品や部品を作ってきたアジアに進出している企業はこれまでのビジネスモデルを見直し、工場から商店の棚に並ぶまでのサプライチェーンの距離を短くしようと試みている。実際、アメリカのメーカーは国内、そして、メキシコ、中央アメリカなど、米市場に近い地域へと生産拠点を移そうとするかもしれない。いまや「グローバル化の黄金時代」は終わりつつある。

輸出主導型経済成長モデルの終わり?
―― アジア経済が苦境に陥っている本当の理由

2009年8月号

ブライアン・P・クライン/外交問題評議会国際関係(日立)フェロー
ケネス・ニール・クキエル/英エコノミスト・ビジネス・金融担当東京駐在特派員

輸出依存型のアジアの経済成長モデルはこれまでうまく機能したし、20世紀最後の25年間にグローバル貿易が世界のGDP成長率の2倍のペースで拡大するという幸運にも恵まれた。しかし、輸出主導型経済成長の時代はすでに終わっている。・・・「アジア経済は欧米経済からほぼ独立した経済圏になった」という見方が一時は浮上したが、実際には、アジアの地域内輸出の約60%は中間財で、中国を経由して最終的には欧米諸国へと輸出されるグローバル・サプライ・チェーンの一部だった。その結果、アメリカの消費需要の激減という事態を前に、アジアの製造業も崖から突き落とされてしまった。アジア諸国が、貿易不均衡を是正し、国内消費を増大させ、社会のセーフティーネットを整備するといった必要不可欠な経済改革を実施しなければ、アジア地域は、長期にわたる低成長から抜け出せなくなる恐れがある。

論争 グローバル経済危機は
いつまで続くのか
― 日米、二つの経済バブルを検証する

2009年7月号

ロバート・マッドセン……マサチューセッツ工科大学国際研究センター シニア・フェロー
リチャード・カッツ………オリエンタル・エコノミスト・レポート誌編集長

今回の金融危機の原因はアメリカででたらめな住宅ローンが組まれた結果なのか、それとも、中国その他の過剰貯蓄が米市場に流れこんでバブルを発生させたのか。犯人は行き過ぎた規制緩和なのか、それとも「グローバル・インバランス」なのか。今後のグローバル経済の中期予測、そして規制強化をめぐるグローバル金融改革の方向性は、危機を引き起こした原因を何とみなすかで大きく違ってくる。以下は、フォーリン・アフェアーズ・リポート4月号に掲載したリチャード・カッツの論文『アメリカは「日本の失われた10年」と同じ道をたどるのか』に対するロバート・マッドセンのコメントとカッツの再反論。

経済危機の長期化は避けられない
――市場経済モデルの衰退は地政学秩序をどう変えるか

2009年7月号

ロジャー・アルトマン 元米財務副長官(1993~1994)

「現在の経済危機は秩序を揺るがすグローバルな事件だ。世界経済の今後は全般的にきわめて憂鬱な状況にあり、状況を不安定化させるような深刻なリセッションが世界中を覆い尽くしている。しかも、この30年にわたって地球を席巻してきた市場経済資本主義、グローバル化、規制緩和というアングロ・サクソンモデルの時代が終わりつつある。・・・(今後を考える上で)重要なのは「深刻なグローバル・リセッションが長期化する」と考えられ、金融危機によって受けた大きなダメージゆえに世界の3大経済であるアメリカ、EU、日本が循環的な回復を遂げることはおそらくあり得ないこと、そして中国が明らかな勝者として台頭しつつあることだ」

国家資本主義の台頭と市場経済の終わり?

2009年6月号

イアン・ブレマー ユーラシア・グループ会長

グローバルな金融危機にもかかわらず、国営石油企業が依然として世界でもっとも戦略性の高い資源の75%を支配し、国有企業そして政府の後ろ盾を持つ民間の覇権企業が、民間のライバル企業に対する競争上の優位を持っている。しかも、政府系ファンドは依然として潤沢な資金を持っている。本当に大きすぎて潰せないのはこれらの企業や組織のほうだろう。いまや市場経済の勢いは弱まり、国と政府が主要な経済アクターとして、主に政治的利益のために市場を利用しようとする「国家資本主義」が台頭し始めている。(冷戦期のような)政治的イデオロギーではなく、「市場経済」と「国家資本主義」という2つの経済モデルをめぐるグローバルな抗争という構図が生まれつつある。しかも、グローバルな金融危機とリセッションによって、「国が管理する資本主義」という強力なブランドが突きつける問題と課題はますます大きくなってきている。

中国は市場改革路線をすでに放棄している
―― GDP成長に取り憑かれ、改革を忘れた中国

2009年6月号

デレク・シザーズ ヘリテージ財団アジア経済担当リサーチ・フェロー

胡錦涛と温家宝は2002~2008年に、経済が停滞していなかったにも関わらず、国の経済への介入路線を強めていった。……市場改革の要である価格の自由化は部分的に覆されているし、当初から緩慢なペースでしか実行されていなかった民営化はすでに放棄されている。企業間の競争を促す構想も帳消しにされている。中国政府は、外国からの投資を制限し、輸出に課税することで、比較的開かれていた貿易部門への介入さえも強めつつある。中国で市場改革路線が放棄されたのは、一つには、指導層が他の全てを犠牲にしてでもGDPの成長を実現しようと試みているからだ。

金融制裁と銀行の役割
―金融でならず者国家を孤立させるには

2009年5月号

レイチェル・L・ロフラー 前米財務省グローバルアフェアーズ担当 副ディレクター

北朝鮮やイランを標的とするアメリカの最近の金融外交は、各国の政府だけでなく、民間の金融機関にも協力を求めるようになり、その結果、金融制裁はかなりの成果を挙げるようになった。ワシントンは要注意のブラックリストを公表し、各国の銀行はこのリストから疑わしい資産を突き止め、怪しげな取引を阻止し、問題のある個人や組織が世界の金融システムを悪用するのを食い止めようと試みている。銀行がこうした制裁措置に協力するのには訳がある。意図的ではなくても、「テロや核兵器の拡散に手を貸している」と新聞で報道されれば、そのブランドが大きく傷つき、ビジネス上の大きな痛手となるからだ。金融制裁は今後も問題国家に対する大きなツールになる。だが、脅威と金融システムが交錯するポイントを明確にせずに、安易に制裁措置を乱発すれば、金融措置を実施する主体である銀行側の協力を得られなくなる恐れがある。

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