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経済・金融に関する論文

金融危機が出現させたGゼロの世界
――主導国なき世界経済は相互依存から
ゼロサムへ

2011年3月号

イアン・ブレマー
ユーラシア・グループ会長
ノリエル・ルービニ
ニューヨーク大学教授

市場経済、自由貿易、資本の移動に適した安全な環境を作りだすことを覇権国が担ってきた時代はすでに終わっている。アメリカの国際的影響力が低下し、先進国と途上国、さらにはアメリカとヨーロッパ間の政策をめぐる対立によって、世界が国際的リーダーシップを必要としているまさにそのときに、リーダーシップの空白が生じている。われわれは、Gゼロの時代に足を踏み入れている。金融危機をきっかけに、さまざまな国際問題が噴出し、経済不安が高まっているにもかかわらず、いかなる国や国家ブロックも、問題解決に向けた国際的アプローチを主導する影響力をもはや失ってしまっている。各国の政策担当者は自国の経済成長と国内雇用の創出を最優先にし、グローバル経済の活性化は、遠く離れた二番目のアジェンダに据えられているにすぎない。軍事領域だけでなく、いまや経済もゼロサムの時代へ突入している。

CFRミーティング グローバルな資金の流れを考える
―― ラリー・サマーズとの対話

2011年1月号

ローレンス・サマーズ 国家経済会議議長
ティム・ファーガソン フォーブス・アジア、エディター

資本管理策に眉をひそめるムードがあるが、私は、流入する資本に課税したほうがいいと特定国が判断するとしても仕方がないと思うし、資本管理策をそれほど大きな問題だとは思っていない。完全なアナロジーにはなり得ないが、資金の流れを人の流れに例えることもできる。人々が外国に移住するのを認めない国は全体主義的で問題があると考えられる。一方で、国家が慎重に移民の流入を規制するのは所与のこととして受け入れられているではないか。・・・妥当な範囲での資本の流入を制限することにそれほど問題があるとは思わない。・・・一方で、通貨の切り上げを拒み資金があふれかえる状況が続けば、バブルが形成されるかもしれない。・・・中国経済が今後どうなるかわからないという見込みが高まっているために、不透明感が増している。(L・サマーズ)

軍事力を例外とすれば、今後、アメリカの文化も経済も21世紀初頭のようなパワーを失い、世界的な優位を保つことはないだろう。そして、今後の国家間政治においてもっとも重要な要因は、アジアが世界舞台への復活を続けていることだ。だが、中国がアメリカをアジアから締め出せるはずはない。アメリカが古代ローマのように内側から朽ち果てていったり、中国を含む国家に取って代わられたりすることはあり得ない。アメリカにとって重要なのは、移民への開放性を維持し、国内の中・高等教育を改革し、債務問題への対策をとり、制度と価値の多くを共有するヨーロッパ、日本との連帯を強化していくことだ。21世紀のスマートパワーのストーリーは、パワーを最大化することでも、覇権を維持することでもない。それは、パワーが拡散し、その他が台頭する環境のなかで、いかに自国のパワーリソースを優れた戦略に結びつけるか、その方法を見いだすことだ。

赤字と債務がアメリカのソフトパワーを脅かす
―― アメリカがギリシャ化するのを避けるには

2010年11月号

ロジャー・アルトマン
元米財務副長官
リチャード・ハース
米外交問題評議会会長

アメリカの対GDP比債務残高は2015年には100%に達する恐れがある。これは、アメリカの債務が現在のギリシャやイタリアと同じ債務レベルになることを意味する。政府が赤字・債務削減プログラムを導入しない限り、金融市場にペナルティを課されるのは避けられなくなる。現状を放置すれば、緊縮財政を余儀なくされ、国防予算も削減対象にされる。アメリカの市場経済資本主義モデルの魅力も廃れ、中国流の権威主義経済モデルがますます大きな注目を集め、世界はますます無極化していく。アメリカ人の生活レベルだけでなく、アメリカの外交、対外路線、今後の国際関係にも非常に深刻な悪影響が出る。こうした甚大な帰結を回避するには、まず、財政上の歳入と支出のバランスをとってプライマリーバランスを図る必要がある。アメリカ市民と人々が選んだ議員たちが、この国の借り入れ中毒問題の解決を先送りし続ければ、アメリカは非常に大きな危険にさらされることになる。

先進国だけではない、新興国の少子化で世界経済の成長は減速する

2010年11月号

ニコラス・エバースタット アメリカン・エンタープライズ研究所政治経済学者

20世紀の人口増大が公衆衛生の拡大・向上によってもたらされたとすれば、21世紀を特徴付けるトレンドは出生率の劇的な低下になるだろう。先進国社会が高齢化し、高齢社会の重荷が、縮小する一方の現役労働世代にのしかかっていくことは大きな問題として認識されている。だが、あまり認識されていないのが、今後の世界経済の成長を担っていくと考えられる新興経済諸国の人口問題、特に若年労働力人口の減少だ。バラ色の未来を手にしているかにみえる中国も、今後20年間で若年労働力人口は30%、数で言えば1億人減少すると予測されている。これは少子化に苦しむ日本の若年労働力人口の減少率さえも上回っている。一方、若い労働力人口が目にみえて増えるのはサハラ砂漠以南のアフリカだけだ。今後、世界経済が危機を完全に脱したとしても、今後の成長を担うと考えられている新興国も労働力人口の高齢化問題に足をとられるとすれば、世界は生活レベル向上への期待全般を引き下げざるを得なくなるかもしれない。問題を解く鍵は、教育と公衆衛生を通じて、いかに人的資源の質を高め、知識生産と技術革新を実現していけるかにある。

中国の真意はどこに
――人民元、南シナ海、領有権論争

2010年10月号

S・デュナウェイ CFR(国際経済担当)シニアフェロー
E・フェイゲンバーム CFR(東アジア・中央アジア・南アジア担当)シニアフェロー
E・エコノミー CFRアジア研究部長
J・クランジック CFR(東南アジア担当)フェロー
A・シーガル (国家安全保障・対テロ担当)シニアフェロー

人民元の切り上げを一時的に容認しつつも、中国は、それがまるでルールであるかのように、あるいは、アメリカの決意を試すかのように、7月と8月には人民元価格を再び固定(ドルにペグ)させた。今回についても、中国が為替政策を永続的に変化させるかどうかは今後をみなければ分からない(S・デュナウェイ)

領有権問題に限らず、中国外交は他のいかなるものよりも主権を優先させる。だが国際社会の責任ある利害共有者であれば、主権とそうした主権の主張が関わってくる国際公共財を明確に区別することはできないはずだ。(E・フェイゲンバーム)

二国間関係の上昇局面と下降局面の急激な変化サイクルを永続的に繰り返す。これが新しい関係の形なのかもしれない。少なくとも、アメリカも中国も関係が制御不能に陥っていくことは望んでいない。米中が合意できるのはこれだけかもしれないが、当面は、これで満足するしかないだろう(E・エコノミー)

中国は領有権論争のある南シナ海(のパラセル諸島、スプラトリー諸島)をめぐって東南アジア諸国と対立したのに続いて、今度は東シナ海をめぐって日本とも対立した。この数ヶ月で中国は10年をかけて育んできた近隣諸国における中国への好感情を一気に破壊するような行動をとっている。一体中国は何を考えているのか。(J・クランジック)

現在の流れは2012年の中国に新指導層が誕生することと密接に関連している。将来の指導者たちは、他の世界に対して中国が毅然と接していくことを示すことで、自分たちの立場を示しておきたいと考えている。(A・シーガル)

CFRミーティング
財政赤字へのリスク認識が変化しない限り、資金は動かない
――アラン・グリーンスパンとの対話

2010年10月号

スピーカー
アラン・グリーンスパン 前FRB議長
プレサイダー
モティマー・ザッカーマン U・S・ニュース&ワールドリポート理事長

雇用は伸びていないが、企業収益は大幅に改善している。これは生産性の上昇によって単位あたり生産コストが減少していることで説明できる。だが、それが、固定資産投資へとつながっていない。私の試算では4000億ドルの投資が手控えられている。・・・・中央銀行が大規模な資金を金融システムに注入するが、そこから資金が動こうとしない。ケインズは、1936年にこの現象を「流動性の罠」という言葉で表現した。この現象は、アメリカだけでなく、他の先進国にも共通してみられる。リスクに対する心理や姿勢が変化しない限り、資金は動かないだろう。・・・大規模な財政赤字が資本投資をクラウドアウトしている。財政赤字の規模が、資本投資のレベル、特に、固定投資、非流動性資産への投資を左右している(抑え込んでいる)。・・・・日本問題も考えなければならない。いずれ、経常黒字は赤字へと転じ、日本は国際市場から資金を調達しなければならなくなる。・・・

GDPは万能ではない
だが、代替経済指標はあるのか?

2010年10月号

ロヤ・ウォルバーソン
CFR.org Staff Writer

政府は予算を決めるために、中央銀行は金融政策の決定に、金融機関は経済活動を判断するために、そして企業は今後の経済を予測して、生産、投資、雇用の概要を決めるために国内総生産(GDP)を主要な指標として用いてきた。第二次世界大戦後に銀行の取り付け騒ぎ、金融パニック、恐慌が起きる頻度が減少したのは、包括的で正確な経済データがタイミングよくGDPとして提供されるようになったことが一つの理由だ。しかし、GDPでは、経済活動が環境の持続可能性に与える影響などの長期的要因は考慮されないし、所得格差もカウントされない。したがって、GDP成長ばかりを追い求めれば、環境悪化、所得格差の問題が深刻化する可能性があるし、GDPが増大するだけでは、必ずしも人々の幸福感は高まらないとする理論も登場している。GDPは万能ではない。だがGDPをいかに改善すべきか、あるいは、他のアプローチに置き換えるかについて、エコノミストの間にコンセンサスはない。

食糧・穀物供給危機の再来か
― 異常気象と穀物市場の行方

2010年9月号

ローリー・ギャレット 米外交問題評議会シニア・フェロー

記録破りの猛暑の日差しが、世界の穀倉地帯を焦がしている。異常気象による収穫減を前に、ウクライナやウズベキスタンがロシアと同様に穀物の輸出禁止措置に踏み切れば、すでに先細り気味の世界の穀物収穫量はさらに下方修正を余儀なくされる。インド、スイス、フランスその他のヨーロッパ諸国が大量の穀物備蓄を開始しているという噂もある。サウジアラビアや中国などの諸国は、すでに今後の食糧危機に備えて、アフリカやアジアの貧困諸国で耕作可能な土地を確保しつつあるようだ。現在の穀物市場をめぐる世界の不安を抑えようと賢明に試みている世界農業・食糧機関も、最近の価格高騰が始まる前の2010年6月に憂鬱な予測を示している。それによれば、農産品の供給が十分ではなく、エネルギーコストが増大し、拡大する世界の中産階級層の食の多様化が重なり合うことで、今後10年の穀類、穀物、石油、乳製品価格は、2007年の水準と比べて40%上昇する可能性がある。厄介なことに、小麦その他の穀物の取引トレンドは、食糧危機が起きた2007~2008年のそれに似てきている。穀物の先物取引が急増し、いまや価格は2008年以降、最高水準に達している。

21世紀は新興市場国の世紀に
― G20、世銀、IMFの未来

2010年7月号

スピーカー
スチュワート・M・パトリック 米外交問題評議会シニアフェロー国際機関およびグローバル統治プログラム責任者
司会
デビッド・E・サンガー  ニューヨーク・タイムズ ワシントン支局長
パネリスト
ホイットニー・デベボイス 元世界銀行 理事
アルビンド・サブラマニアン ピーター・ピーターソン国際経済研究所 シニアフェロー
アントニー・フォン・アットマール 新興市場マネジメントLLC会長兼チーフ・インベストメントオフィサー

最終的には、アメリカ、ヨーロッパ、日本のような、すでに確立されたパワー、中国、インド、ブラジルのような新興大国、さらには新興のミドルパワーの間でタフな取引と交渉が行われ、その結果、新しい秩序が形成されていくことになる(S・パトリック)

G20は新しいG7に至る通過点にすぎない。新しいG7は、アメリカ、EU、日本、BRICs諸国で構成されることになるだろう(アットマール)

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