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経済・金融に関する論文

ハイリスク環境における安定とは
―― システミック・レジリエンスの確立を

2024年1月号

アンシア・ロバーツ オーストラリア国立大学 教授(グローバル・ガバナンス)

レジリエンスはショックやストレスに耐える能力として理解されている。だがそれは、リスクに効果的に対応するだけでなく、将来的な恩恵を獲得し、変化に対応できるように進化することも意味する。そうした、システミック・レジリエンスを実現するには、政府と企業は「リスクと恩恵の適切なバランス」をとらなければならない。リスクの最小化を目指すと、恩恵が減少するだけでなく、時間の経過とともに新たな脆弱性が生み出される。同様に、短期的な恩恵の最大化を目指せば、既存のリスクを見過ごし、新たなリスクを生み出し、後に大きな犠牲に直面する危険がある。もっとも困難なケースは、経済的相互依存のリスクと恩恵の双方が大きい場合だ。このような場合、システミック・レジリエンスに注目することが極めて有効になる。

AIと経済革命
―― 人間のツールとして生かす政策を

2023年12月号

ジェームズ・マニュイカ グーグル-アルファベット シニアバイスプレジデント
マイケル・スペンス スタンフォード大学 フーバー研究所 シニアフェロー

AIが突きつける危険、それが引き起こす壊滅的なダメージを防ぐための国際的AI規制の必要性を指摘する議論は多い。しかし同様に重要なのは、AIの生産的な利用を促すポジティブな政策の導入だろう。AIが経済に与える最大の影響は、人間の仕事のやり方を変化させることだ。仕事を構成するタスクの一部、全体の30%程度は、AIによってオートメーション化されるが、職業そのものがなくなることはない。但し、能力の高いマシンと協力して仕事をこなすことになるために、新たなスキルが必要になる。現在AIが世界に与える最大のリスクは、文明を破滅させることでも、雇用に大打撃を与えることでもない。それは、現在の経済格差を今後何世代にもわたって拡大するような形で開発され、使われる恐れがあることだ。これを回避する政策が必要になる。

次の経済ショックにいかに備えるか
―― グローバル経済を待ち受ける衝撃

2023年11月号

クリスタリナ・ゲオルギエバ 国際通貨基金専務理事

急速なグローバル化と統合の時代は終わりを告げ、保護主義が台頭し、分断化潮流が生じている。こうして、グローバル経済の脆弱性と不確実性が高まっている。さらに、軍事紛争が食糧不安を深刻にし、エネルギーやコモディティ市場を混乱させ、サプライチェーンを寸断するかもしれない。深刻な干ばつや洪水がさらに発生すれば、何百万人もの人々が気候難民化する恐れがある。一つだけ確かなことは、グローバル経済がショックに直面することだ。国際通貨基金(IMF)を含む国際機関、債権者、債務者は状況に適応し、変化に備えなければならない。ショックの影響を受けやすい世界にあって、一国だけでなく集団として経済のレジリエンスを協調して高める必要がある。

中露に挟まれたモンゴルの選択
―― アメリカは何をオファーできるか

2023年11月号

トゥブシンザヤ・ガンチュルガ 元モンゴル大統領補佐官(外交政策担当)
セルゲイ・ラドチェンコ ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学 特別教授

中国とロシアにほぼ全面的に経済を依存する内陸国のモンゴルは、それでも、二つの隣国の違いを利用し、あるいは欧米との関係を強化することで、中露から距離を置こうと試みてきた。だが、いまや中露はますます接近し、モンゴルが両国の立場の違いを利用する余地は小さくなっている。アメリカは、モンゴルとの貿易・投資関係を促進し、教育・訓練プログラムを通じてモンゴルへの長期的なコミットメントを示すべきだし、モンゴル側は、外国人投資家を安心させ、透明で予測可能な経済環境を整備する試みを強化する必要がある。必要とされているのは、ロシアの高圧路線や中国の執拗な覇権主義に直面しているモンゴルへの手堅い経済関与だろう。

中国は停滞と混乱の時代へ
―― 社会不満と経済停滞が重なれば

2023年10月号

イアン・ジョンソン 米外交問題評議会 シニアフェロー(中国研究担当)

生活レベルの改善に貢献している体制への反政府運動は力を持ち得ないが、経済衰退期には、多くの人が反体制派や批評家に現実の説明を依存するようになる。これまでも、エコノミストたちは、中国経済の成長は鈍化し、停滞期に入りつつあると主張し、その理由として、人口動態の変化、政府債務、生産性の低下、市場志向改革の欠落などを指摘してきた。いまや「ピーク・チャイナ」という言葉さえ使われている。長期停滞に入った中国でも、人々は、反体制派の主張に現実の説明を依存するようになるかもしれない。いまや、北京は体制の安定を追求するあまり、技術的な進歩や民衆の支持さえも犠牲にし始めている。

準備通貨、ドルの運命

2023年9月号

アンシュー・シリプラプ 経済担当エディター@www.cfr.org
ノア・バーマン 経済担当エディター@www.cfr.org

ドル覇権に付随する「法外な特権」も、いまやそれほど「法外」ではなさそうだ。ドル需要の高さ故に低利で資金を迅速に入手できるとしても、ドル価値が高く評価されると、アメリカへの輸入品は安くなり、輸出品は高くなる。こうして、国内の製造業は傷つき、失業も増えるために、もはやドル覇権を放棄すべきだと主張するアナリストもいる。経済制裁の乱用故に、他の決済手段を求める世界の動きも刺激され、一方では暗号通貨も台頭している。「ドルという特殊な地位がもたらした低金利がアメリカの浪費を助長し、2008年の金融危機を招いた」と主張し、ユーロ、人民元、SDRの役割を拡大させることを提唱する米エコノミストもいる。・・・

半導体と米中台トライアングル
―― TSMCとサプライチェーン

2023年9月号

ラリー・ダイアモンド フーバー研究所シニアフェロー
ジム・エリス フーバー研究所特別客員フェロー
オーヴィル・シェル アジア・ソサエティ  米中関係センター ディレクター

デジタル経済がますます拡大するなかで、半導体のサプライチェーンを、長期的な混乱や敵対国による意図的な供給遮断リスクに対して無防備なままにしておくのは、どうみても危険だ。北京が台湾攻略に成功すれば、紛争のなかで台湾の半導体生産能力の多くが機能不全に陥るか、破壊されない限り、習近平政権は、世界でもっとも重要な製品の支配権を突然手に入れることになるかもしれない。グローバル・サプライチェーンから中国を完全に締め出すのは現実的ではなく、望ましくもない。むしろ、中国やその他の潜在的な敵対国が半導体サプライチェーンにおける地位を兵器化しないようにすることを目標にする必要があるだろう。・・・

欧米の所得二極化と社会混乱
―― ラテンアメリカ化する欧米社会

2023年9月号

ブランコ・ミラノヴィッチ ニューヨーク市立大学 シニアスカラー

産業革命から20世紀半ばまでは、世界の富は欧米先進国に集中した。このために世界的な不平等が拡大し、冷戦期にそれはピークに達した。その後、中国の経済的台頭のおかげもあって、世界レベルでの格差は低下し始めたが、いまや世界的な平等の進展はもはや必然ではなくなっている。中国はすでにかなり豊かな国になっているし、インドやアフリカにかつての中国の役割を期待するのは無理がある。しかも、世界的な不平等が縮小しても、各国の社会的・政治的混乱が緩和されるわけではない。実際、米英、日独などの世界の富裕層は世界トップレベルの所得を維持しているが、非欧米諸国の所得レベルが上昇し、欧米の貧困層や中間層に取って代われば、豊かな国々における富裕層とそうでない人々との二極化、格差はさらに大きくなる。・・・

「中国経済の奇跡」の終わり
―― アメリカが門戸開放策をとるべき理由

2023年9月号

アダム・S・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所所長

中国では家計貯蓄が急増し、民間の耐久消費財消費が大きく減少している。この現象を「経済領域におけるコロナ後遺症」とみなすこともできる。特定の政策がある日突然拡大され、次の日には撤回される事態を経験した人々は、景気刺激策を含む政府の経済対策に反応しにくくなる。専門家の多くは、現状を説明する上で、不安定化する不動産市場や不良債権の問題などを重視するが、経済成長を持続的に抑え込む「経済領域で長期化するコロナの余波」の方がはるかに深刻な問題だ。すでに、不安定な状況に直面した富裕層は、外への退出を試みており、時とともに、こうした出口戦略はより多くの中国人にとって魅力的になるだろう。アメリカはこのタイミングで、現在の対中政策を全面的に見直し、中国の人と資本への門戸開放政策をとる必要がある。

グローバル化の改善と再設計を
―― 貿易が依然として必要な理由

2023年8月号

オコンジョ・イウェアラ 世界貿易機関事務局長

金融危機そして労働市場の痛ましいほどの回復の遅れが、ポピュリスト的な過激主義に拍車をかけ、貿易(グローバル化)と移民が格好のスケープゴートにされた。だが、積極的な労働市場政策と社会政策を導入すれば、各国は貿易や技術から得られる利益を広く共有しつつ、その破壊的な影響を和らげることができる。グローバル化は終わったわけではない。むしろ、将来に向けてグローバル貿易を改善し、再設計する必要がある。「ポリクライシス(複合危機)」の時代にあって、各国と世界の人々はこれまで以上に貿易と国際協調に依存している。気候変動、不平等、パンデミックなど、グローバル・コモンズを脅かす課題に対処するには、貿易を含む国際協力が必要不可欠だ。・・・

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