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経済・金融に関する論文

「中国経済の奇跡」の終わり
―― アメリカが門戸開放策をとるべき理由

2023年9月号

アダム・S・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所所長

中国では家計貯蓄が急増し、民間の耐久消費財消費が大きく減少している。この現象を「経済領域におけるコロナ後遺症」とみなすこともできる。特定の政策がある日突然拡大され、次の日には撤回される事態を経験した人々は、景気刺激策を含む政府の経済対策に反応しにくくなる。専門家の多くは、現状を説明する上で、不安定化する不動産市場や不良債権の問題などを重視するが、経済成長を持続的に抑え込む「経済領域で長期化するコロナの余波」の方がはるかに深刻な問題だ。すでに、不安定な状況に直面した富裕層は、外への退出を試みており、時とともに、こうした出口戦略はより多くの中国人にとって魅力的になるだろう。アメリカはこのタイミングで、現在の対中政策を全面的に見直し、中国の人と資本への門戸開放政策をとる必要がある。

グローバル化の改善と再設計を
―― 貿易が依然として必要な理由

2023年8月号

オコンジョ・イウェアラ 世界貿易機関事務局長

金融危機そして労働市場の痛ましいほどの回復の遅れが、ポピュリスト的な過激主義に拍車をかけ、貿易(グローバル化)と移民が格好のスケープゴートにされた。だが、積極的な労働市場政策と社会政策を導入すれば、各国は貿易や技術から得られる利益を広く共有しつつ、その破壊的な影響を和らげることができる。グローバル化は終わったわけではない。むしろ、将来に向けてグローバル貿易を改善し、再設計する必要がある。「ポリクライシス(複合危機)」の時代にあって、各国と世界の人々はこれまで以上に貿易と国際協調に依存している。気候変動、不平等、パンデミックなど、グローバル・コモンズを脅かす課題に対処するには、貿易を含む国際協力が必要不可欠だ。・・・

米中経済関係のリアリティ
―― ディリスキングと変化しない現実

2023年8月号

ジャミ・ミシック 元キッシンジャー・アソシエイツ会長
ピーター・オルザグ ラザード 最高経営責任者(CEO)
セオドアー・ブンゼル ラザード地政学アドバイザリー マネージング・ディレクター

米中経済関係はディカップリングが示唆するような経済関係の断絶ではなく、むしろ、「ディリスキング(リスク排除)」へ向かっている。中国とのあらゆる経済関係を締め付けるのではなく、ワシントンが特定のリスクを低下させようとしていることは、データ上も確認されている。多くの分野では、製造工程の一部が中国から切り離されるとしても、全般的な中国依存の構図は変化しないと考えられる。実際、家庭用製品や高級ブランド商品など、ディリスキングによる変化がほとんど生じないと考えられる部門は多い。だがアメリカは、同盟国やパートナーとディリスキング戦略を調整して、連携して行動する必要がある。そうしない限り、同盟国との間に亀裂が生じ、北京がそれにつけ込んでくるだろう。

欧米世界とグローバルサウス
―― 失った信頼を回復するには

2023年7月号

デービッド・ミリバンド 元イギリス外相

欧米と「その他の世界」のビジョンの間には大きな溝が存在する。非欧米世界で、「ウクライナの自由と民主主義のための闘いは、自分たちの闘いでもある」という欧米の主張を受け入れる国はあまりない。これは冷戦後の欧米によるグローバル化の管理ミスに対する途上国の深いいらだち、実際には怒りの産物に他ならない。グローバルサウスは、欧米のダブルスタンダードに怒りを感じ、国際システムの改革が停滞していることに苛立っている。欧米とその他の世界のビジョンとの間にこうした溝が存在することは、気候変動、パンデミックという巨大なグローバルリスクに直面する今後の世界にとってきわめて危険であり、その根本原因に対処しなければ、溝は広がる一方だろう。

新産業政策の恩恵とリスク
―― 建設的な国際協調か補助金競争か

2023年7月号

デビッド・カミン ニューヨーク大学ロースクール教授
レベッカ・カイザー フォーダム大学ロースクール教授

グローバルミニマム課税の成功は、大企業が利益を最大化しようと、国を競い合わせることに対して、各国が協力して「法人税引き下げによる底辺への競争」を回避できることを示した。問われているのは、国家安全保障や気候変動との闘いに不可欠な産業の生産拠点をどこに移すかをめぐっても、ワシントンが友好国や同盟諸国と協力して、解決策を見出せるかどうかだ。気候変動問題への対応、新サプライチェーンの構築、中国の脅威への対応といったわれわれと友好国が共有する目標を達成するための措置をめぐって協力できなければ、ワシントンは、同盟諸国や信頼できる貿易相手国との間で激しい競争を新たに引き起こすことになる。それを回避するには何が必要なのか。

現在と1930年代は似ているか
―― 反グローバル化、経済保護主義、ポピュリズム

2023年7月号

マーク・マゾワー コロンビア大学教授(歴史学)

第一次世界大戦後、自由貿易と国際主義的政治が批判され、関税障壁と移民規制が強化されるなか、ヨーロッパは独裁政治へ転落していった。当時の状況と現状の間には重なり合う部分も多い。実際、ポピュリストやナショナリストのさまざまな不満を背景とするトランプの台頭は、民主主義の危機を分析するために、グローバル化に反対する人々に注意を払う必要があることを初めて明らかにした。グローバル化支持派は、自由貿易と経済の自由化が民主主義拡散の基盤を提供すると主張している。だが歴史が示す因果関係はもっと曖昧だ。戦間期の混乱から当時導き出された真の教訓は、レッセフェール型経済が命取りになりかねないこと、そして政治家が、戦略的な国家リーダーシップの必要性を理解しなければならないということだ。

アフリカ経済に注目せよ
―― アフリカが左右するグローバル経済の未来

2023年7月号

ジャック・A・ゴールドストーン ジョージ・メイソン大学 教授(公共政策)
ジョン・F・メイ ジョージ・メイソン大学 リサーチプロフェッサー(公共政策)

今後20年間で、世界の大半の諸国は、若年人口や労働力の減少に直面するだけでなく、爆発的に増加する高齢者の介護を余儀なくされる。この近未来において、中国経済がこの40年にわたって世界経済で果たしてきた役割を今後担っていくのはどの国や地域なのか。意外にも、それがインドになる可能性は低い。世界が目を向けるべきは、むしろ、アフリカ大陸だ。国連の最新統計では、アフリカの人口は、死亡率の低下と出生率の上昇を背景に、現在の14億から2050年には25億に増加すると予測されている。中国、日本、韓国、ヨーロッパで若年労働力が激減していくなか、今後、グローバル経済の未来を左右するのは、豊かな労働力をもつアフリカ大陸になるだろう。

リベラルな国際主義の再生を
―― 貿易の自由化と経済安全保障

2023年6月号

ピーター・トルボウィッツ ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 教授(国際関係論)
ブライアン・ブルグーン アムステルダム大学教授(国際政治経済)

冷戦が終わると、共産主義の膨張主義や核戦争に対する懸念が後退し、欧米の有権者は、かつては論外とされてきた政党や候補、政策に賭けることも厭わなくなった。反グローバリズム感情が台頭し、貿易自由化や多国間協調を支持する政党への欧米有権者の支持率は50%近くも低下した。その結果が、ブレグジットであり、ドナルド・トランプだった。しかも冷戦後には、極右、極左勢力が、反グローバリズムと社会的保護政策を支持し、労働者階級の有権者を取り込もうと試み、これに成功した。欧米社会の反グローバリズム感情を抑えるには、国際政策が国内における労働者階級の家庭に恩恵をもたらすことを実感できるようにしなければならない。世界に国を開くことと国内の経済安全保障を守ることの間のバランスを取り戻す必要がある。

大国間競争とインドの立場
―― 対話促進者としてのポテンシャル

2023年6月号

ニルパマ・ラオ 元駐米インド大使

他の国家と同様に、自国の利益に即して行動するインドにとって、ロシアとのパートナーシップを断ち切れば、国益を損なうことになる。当然、ロシアを孤立させることを求める欧米の要請には応じない。インドはすべての国々と協調する権利をもっている。北京に対するワシントンの対抗バランス形成の一翼を担うこともない。米中対立では中立の立場を維持している。インドは14億人以上の人口を抱え、急速に経済成長を遂げている国であり、ほとんどすべての国と貿易を行い、良好な関係を維持している。世界の緊張が高まるなかでも、インドは世界に成長を広げ、対話を促進していくポテンシャルをもっている。

大国間競争とドルの命運
―― 制裁と地政学とドル秩序の未来

2023年4月号

カーラ・ノーロフ トロント大学教授(政治学)

中ロは、アメリカによる経済制裁の痛みから逃れようと、自国通貨での決済を増やして、ドルシステムへの対抗バランスを形成しようと試みている。一方、安全保障の視点からドル支配体制の強化を望む国もある。不安定な国際環境のなか、各国は「友好国との地政学的経済関係」を重視しており、これが、世界最大の安全保障ネットワークの中枢に位置するアメリカとその通貨であるドルに新たな優位をもたらしている。もちろん、ワシントンが経済制裁を乱用すれば、ドルに代わる通貨を模索する各国の動機が強化される。アメリカはリベラルな国際秩序の公共財を強化する形で経済外交を展開しなければならない。主要な同盟国や国際社会の多くを離反させれば、アメリカはドル支配体制を維持できなくなる。

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