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経済・金融に関する論文

近代化と格差を考える
―― 再び格差問題を政治課題の中枢に据えるには

2016年3月号

ロナルド・イングルハート ミシガン大学教授(政治学)

19世紀末から20世紀初頭にかけての産業革命期に、左派政党は労働者階級を動員して、累進課税制度、社会保険、福祉国家システムなど、様々な再分配政策を成立させた。しかし脱工業化社会の到来とともに、社会の争点は、経済格差ではなく、環境保護、男女平等、移民などの非経済領域の問題へと変化していった。環境保護主義が富裕層有権者の一部を左派へ、文化(や社会価値)に派生する問題が労働者階級の多くを右派へ向かわせた。そしてグローバル化と脱工業化が労働組合の力を弱め、情報革命が「勝者がすべてをとる経済」の確立を後押しした。こうして再分配政策の政治的支持基盤は形骸化し、経済的格差が再び拡大し始めた。いまや対立の構図は労働者階級と中産階級ではない。「一握りの超エリート層とその他」の対立だ。

中国経済のメルトダウンは近い
―― 中国経済はまったく成長していない

2016年3月号

サルバトーレ・バボネス シドニー大学准教授(社会学)

中国の経済成長が減速しているのは誰もが認めるところだが、北京が言うように本当に中国経済は依然として成長しているのだろうか。中国政府は2016年の成長率を6・5%と予測しているが、コンファレンス・ボードは3・7%という数値をあげている。だが、実体経済の動きを示すさまざまな指標をみると、3・7%という数字さえ、楽観的かもしれない。2015年に電力、鉄鋼、石炭の消費はいずれも低下している。購買担当者指数(PMI)もこの10カ月にわたって50を下回っており、これは製造業部門の生産が長期的な収縮トレンドにあることを意味する。中国経済の成長率は3%かそれを下回っているかもしれない。そして政府の赤字財政支出は、実際には間違いなくGDPの3%を超えている。つまり、中国の実体経済はおそらくまったく成長していないかもしれないし・・・いまや中国経済を動かしているのは政府支出だけだと考えてもおかしくない。

生産年齢人口の減少と経済の停滞
―― グローバル経済の低成長化は避けられない

2016年3月号

ルチール・シャルマ モルガン・スタンレー インベストメント・マネジメント 新興市場・グローバルマクロ担当ディレクター

労働人口、特に15―64歳の生産年齢人口の増加ペースが世界的に鈍化していることは否定しようのない事実だ。生産年齢人口の伸びが年2%を下回ると、その国で10年以上にわたって高度成長が起きる可能性は低くなる。生産年齢人口の減少というトレンドで、なぜ金融危機後の景気回復がスムーズに進まないか、そのかなりの部分を説明できる。出生率を上げたり、労働人口に加わる成人を増やしたりするため、各国政府はさまざまな優遇策をとれるし、実際多くの国がそうしている。しかしそれらが中途半端な施策であるために、労働人口の増大を抑え込む大きなトレンドを、ごく部分的にしか相殺できていない。結局世界は、経済成長が鈍化し、高度成長を遂げる国が少ない未来の到来を覚悟する必要がある。

長期停滞にどう向き合うか
―― 金融政策の限界と財政政策の役割

2016年3月号

ローレンス・サマーズ 元米財務長官

今後10年にわたって、先進国のインフレ率は1%程度で、実質金利はゼロに近い状態が続くと市場は読んでいる。アメリカ経済についても同様だ。回復基調に転じて7年が経つとはいえ、市場は、経済がノーマルな復活を遂げるとは考えていない。この見方を理解するには、エコノミストのアルヴィン・ハンセンが1930年に示した長期停滞論に目を向ける必要がある。長期停滞論の見方に従えば、先進国経済は、貯蓄性向が増大し、投資性向が低下していることに派生する不均衡に苦しんでいる。その結果、過剰な貯蓄が需要を抑え込み、経済成長率とインフレ率を低下させ、貯蓄と投資のインバランスが実質金利を抑え込んでいる。この数年にわたって先進国を悩ませている、こうした日本型の経済停滞が、今後、当面続くことになるかもしれない。だが、打開策はある。・・・

長期停滞を恐れるな
―― 重要なのはGDPではなく、
生活レベルだ

2016年3月号

ザチャリー・カラベル エンベスネット グローバル戦略統括者

先進国は依然としてデフレから抜け出せずにいる。中国は(投資主導型経済から)消費主導型経済への先の見えない不安定な移行プロセスのさなかにある。しかも、所得格差の危険を警告する声がますます大きくなり、経済の先行きが各国で悲観されている。だが、この見立ては基本的に間違っている。GDP(国内総生産)はデジタルの時代の経済を判断する適切な指標ではないからだ。GDPに議論を依存するあまり、世界的に生活コストが低下していることが無視されている。生活に不可欠な財やサービスの価格が低下すれば、賃金レベルが停滞しても、生活レベルを維持するか、向上させることができる。デフレと低需要は成長を抑え込むかもしれないが、それが必ずしも繁栄を損なうとは限らない。これを、身をもって理解しているのが日本だ。世界は「成長の限界」に達しつつあるかもしれないが、依然として繁栄の限界は視野に入ってきていない。

「中国の台頭」の終わり
―― 投資主導型モデルの崩壊と中国の未来

2016年2月号

ダニエル・C・リンチ 南カリフォルニア大学国際関係大学院准教授 (国際関係論)

いまや中国はリセッションに直面し、中国共産党の幹部たちはパニックに陥っている。今後、この厄介な経済トレンドは労働人口の減少と高齢化によってさらに悪化していく。しかも、中国は投資主導型経済モデルから消費主導型モデルへの移行を試みている。中国の台頭が終わらないように手を打つべきタイミングで、そうした経済モデルの戦略的移行がスムーズに進むはずはない。でたらめな投資が債務を膨らませているだけでなく、財政出動の効果さえも低下させている。近い将来に中国共産党は政治的正統性の危機に直面し、この流れは、経済的台頭の終わりによって間違いなく加速する。抗議行動、ストライキ、暴動などの大衆騒乱の発生件数はすでに2000年代に3倍に増え、その後も増え続けている。経済の現実を理解しているとは思えない習近平や軍高官たちも、いずれ、中国経済が大きく不安定化し、その台頭が終わりつつあるという現実に向き合わざるを得なくなる。・・・

解禁へ向かうアメリカの原油輸出
―― クリーンエネルギーと石油企業の利益

2015年12月号

ジェフ・コルガン ブラウン大学助教授

原油輸出の解禁を求める米石油企業と輸出禁止の継続を求める石油精製企業の利益が対立するなか、米議会は原油輸出禁止の解除へと明確に舵を取っている。共和党の大統領候補たちが解禁を支持する一方で、クリーンエネルギーへシフトしていくことを重視するオバマ政権とヒラリー・クリントンは輸出禁止の継続を求めている。石油企業は水圧破砕産業、石油精製企業は環境保護団体とそれぞれ政治的連帯を組織している。ここで必要なのは政治的妥協だろう。輸出解禁に歩み寄りつつも、石油企業から「環境汚染の低いグリーン経済に向けたシフト」へのコミットメントを引き出す必要がある。

水素エネルギーへの大きな期待
―― 水素型燃料電池とエネルギーの未来

2015年12月号

マシュー・M・メンチ テネシー大学ノックスビル校教授

水素型燃料電池が魅力ある選択肢であることはかねて明らかだった。水素と酸素の化学反応を利用して電気をつくるため、その過程で排出されるのは熱と水だけだ。そしていまや水素を用いた燃料電池技術は競争力のある選択肢となりつつある。世界における燃料電池の売り上げは年々伸びており、容量も2009年からの4年間で2倍以上に増えている。韓国の現代自動車は、多目的スポーツ車(SUV)「ツーソン」の燃料電池モデルを発売し、トヨタ自動車も水素型燃料電池車「ミライ」を5万7500ドルで発売している。燃料電池が進化すれば、貯蔵能力がないという配電網の最大の問題の一つも解決できるし、再生可能エネルギーの利用も促進される。水素型燃料電池の市場化は、もはや未来のものではなくなっている。但し、幅広い応用にはまだ長い道のりが待ち受けている。

中国の市場自由化が引き起こす混乱
―― 政府による管理から市場メカニズムへの段階的移行

2015年10月号

ウィリアム・アダムス NC金融サービスグループ 上席国際エコノミスト

2015年夏の中国の株式市場、為替市場の混乱は、北京が市場の自由化を進めていることが引き起こした変動だった。株式市場の自由化を目指して、「上海・香港株式市場の相互乗り入れ」を認めたものの、主要なグローバル株式指数であるMSCIが上海で取引される中国株式の指標への組み入れを見送ったことをきっかけに、混乱が作り出された。同様に、人民元の唐突な切り下げも、北京が人民元のグローバルな役割を拡大しようとしたことが原因だ。今後も、自由化を進めれば、北京は経済と金融システムに対するトップダウンの管理手法を維持できなくなり、市場による調整と金融市場の変動と余波はこれまで以上に大きくなる。新たな経済モデルを目指した自由化プロセスが維持される限り、世界は、新しい金融アイデンティティを模索する中国の試みが引き起こすグローバルな混乱への対応を今後も余儀なくされるだろう。

中国市場の異変とグローバル経済
―― 中国経済はリセッションに陥りつつある

2015年10月号

シブ・チェン イェール大学教授
ウィレム・ブイター シティグループ、チーフエコノミスト
ロバート・カーン 米外交問題評議会シニアフェロー
マイケル・レビ 米外交問題評議会地政経済学センター  ディレクター

GDPの50%に相当する投資をして、それでも中国経済の成長率は7%だ。本当の成長率は4・5%かそれ未満だと考えられる。要するに、中国経済はリセッションに陥りつつある。 (W・ブイター)
今後、さらに人民元が切り下げられる可能性は十分にある。他の諸国が中国の通貨切り下げに追随すれば、これらの影響は総体的にかなり大きなものになる。(R・カーン)

危機に直面すると中国政府はマネーサプライを増大させる。だがいまや優れた投資機会は限られている。こうして流動性を増やしても、多くの資金は中国から外へ向かい、アメリカがその恩恵を多く受けるようになるだろう。中国の株式市場や不動産市場、そして経済が問題に直面すればするほど、資金が中国から(アメリカを含む)外国へと向かうようになる。(シブ・チェン)

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