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経済・金融に関する論文

自由貿易は安全保障と平和を強化する
―― TPPを捉え直し、実現するには

2016年12月号

ヘザー・ハールバート ニューアメリカ プロジェクトディレクター

アメリカは歴史的に自由貿易と平和を結びつけ、貿易障壁と戦争を結びつけてきた。大恐慌(とその後の長期不況)そしてヨーロッパにおけるファシズムの成功は、1930年代の関税引き上げと保護主義が大きな要因だったと考えられてきたし、冷戦終結後も、貿易は相手国の社会を変貌させ(市場経済と民主主義を定着させるので)国際的平和の基盤を提供すると考えられてきた。しかし、いまや中国を中心とする貿易枠組みが、欧米の貿易枠組みに取って代わっていくとみなされているというのに、アメリカ人は、貿易のことを、国内の雇用保障、民主的な統治、そして世界の労働者の権利、公衆衛生や環境の保全を脅かす脅威と考えている。経済安全保障と国家安全保障が不可分の形で結びついているというコンセンサスを再構築する必要があるし、安全保障面からも貿易を促進する必要があるという議論を、現在の懸念に配慮したものへと刷新する必要がある。

トランプ主義のグローバルなルーツ
―― ネオリベラリズムからネオナショナリズムへ

2016年12月号

マーク・ブリス ブラウン大学教授(政治経済学)

約30年前に欧米ではネオリベラリズム政策が導入され、経済政策の目標はそれまでの完全雇用から物価の安定へと見直された。生産性は上昇したが、収益はすべて資本側へと流れ込むようになった。労働組合は粉砕され、労働者が賃金引き上げを求める力も、それを抑え込む法律と生産のグローバル化によって抑えこまれた。だが、かつて完全雇用をターゲットにしてインフレが起きたように、物価の安定を政策ターゲットに据えたことで、今度はデフレがニューノーマルになってしまった。低金利の融資が提供された結果、危機を経たアメリカの家計債務は12兆2500億ドルにも達した。反インフレの秩序を設計した伝統的な中道左派と右派の政党は政治的に糾弾され、反債権者・親債務者連合が組織された。これを反乱的な左派・右派の政党が取り込んだ。これが現実に起きたことだ。・・・

民主主義の危機にどう対処するか
―― ポピュリズムからファシズムへの道

2016年12月号

シェリ・バーマン バーナードカレッジ教授(政治学)

ファシストが台頭した環境は現在のそれと酷似している。19世紀末から20世紀初頭のグローバル化の時代に、資本主義は西洋社会を劇的に変貌させた。伝統的なコミュニティ、職業、そして文化規範が破壊され、大規模な移住と移民の流れが生じた。現在同様に当時も、こうした変化を前に人々は不安と怒りを感じていた。だが、第一次世界大戦、大恐慌という大きなショックを経験したことを別にしても、根本的な問題は、当時の民主主義が、戦間期の社会が直面していた危機にうまく対処できなかったことだ。要するに、革命運動が脅威になるのは、民主主義が、直面する課題に対処できずに、革命運動がつけ込めるような危機を作り出した場合だ。ポピュリズムの台頭は、民主主義が問題に直面していることを示す現象にすぎない。だが、民主的危機への対応を怠れば、ポピュリズムはファシズムへの道を歩み始めることになるかもしれない。

日本の「長時間労働」と生産性

2016年12月(Web公開論文)

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行 ユーロ圏エコノミスト

経済協力開発機構(OECD)によると、週の労働時間が50時間以上に達する日本の勤労者は全体の13%。イタリア人やドイツ人でこれほど長時間働いているのは労働力人口の約4%にすぎない。こうしたワーカホリック(仕事中毒)ぶりが、日本人の健康と生産性を損なっている。過労死の問題だけではない。経営側は、長時間労働が生産性を低下させるリスクを伴うことを認識すべきだ。少ない人材をできるだけ働かせようとするよりも、社員がもっと効率的に働けるようにし、仕事へのやる気の持たせ方を変化させるべきだ。「社員がもっと効果的に働けるようにし、与えられた目標を、できるだけ少ない残業時間、あるいは残業なしで達成した人に報い、部下に残業させた管理職にはペナルティを課す」。そうした慣習が当たり前になるようにすべきだろう。ワークスタイルを見直せば、女性の労働参加を促し、出生率も上昇し労働力も増大する。この方が金融緩和を何度も繰り返す以上に、国内総生産(GDP)を押し上げる効果は高いはずだ。

米政権の交代で変化する金融政策
―― 金融政策の「政治サイクル」とは何か

2016年11月号

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行 ユーロ圏エコノミスト

政府から独立した機関だとはいえ、連邦準備制度理事会も政治を完全に無視することはできない。実際、理事会は、大統領選挙シーズンには政治に大きな関心を寄せる。大統領が変われば、イデオロギーが変化し、新たに一連の政策がとられ、経済は大きな影響を受け、最終的には金融政策も見直さざるを得なくなるからだ。そこには金融政策の「政治的サイクル」が存在する。民主党から共和党へ政権担当政党が移行すると、長期的な金融緩和政策がとられることが多い。一方、民主党が政権を獲得すると、金融政策は引き締められる傾向がある。「連邦準備制度理事会は議長を任命した政党に利益を与えるように戦略的に行動し、投資を刺激し、停滞する経済を回復させるために金利を引き下げる」のだろうか。それとも、政治的なバイアスではなく、マクロ経済状況が連邦準備制度理事会の意思決定を左右しているのか。・・・

貿易の停滞と海運産業の再編
―― 停止した国際貿易の成長

2016年11月号

マーク・レビンソン
米ジャーナリスト

貿易が大きく拡大する時期には貨物運賃が上昇するため、海運会社はより大きく、より高価な船舶を発注する。しかし3―4年経って船が完成するころには経済状況が様変わりしていることも多く、過剰な積載容量を抱え込んで運賃が低下し、拡大路線をすすめた海運会社が破綻することも多い。現在起きているのはこうした海運業界につきものの景気の波だが、そこに新たな要素が加わっている。2008―2009年に西半球・ヨーロッパならびに一部アジア地域をおそった金融危機の影響で、第二次世界大戦以降初めて、国際貿易の成長がとまってしまったことだ。巨額の損失を計上して経営破綻し、買収・合併され、合弁事業化されるケースが相次いでいる。2015年には、コンテナ取引量はオークランドで5%近く、東京で6%、シンガポール、ハンブルク、香港では約9%と各港で落ち込んだ。コンテナ海運業界の波乱は短期間では終わらないだろう。

アメリカのTPP批准はほぼあり得ない
―― 何をどこで間違えたのか

2016年11月号

リチャード・カッツ オリエンタル・エコノミスト・レポート エディター

米議会がTPPに批准するかどうか、かなり難しい情勢にある。2人の大統領候補たちも、TPPに反対すると明言している。議会共和党の指導者も11月8日の大統領選挙から12月16日までのレームダックセッションでTPP条約案の採決はしないとすでに表明している。オバマ大統領は、彼らを説得することへの自信を示しているが、そうできるとは考えにくい。TPPが2016年に批准されなければ、誰が大統領に選ばれようと、2017年以降に批准される見込みはさらに遠のく。なぜこんなことになったのか。ワシントンの利益団体の抵抗も、合意の欠陥も、「貿易は雇用を輸出し、失業を増やす」と市民が反発していることもその要因だ。それぞれTPPに反対する国内の利益団体を抱えつつも、それを克服して合意をまとめたアメリカの貿易パートナーたちが、大きな怒りを感じているとしても無理はない状況にある。・・・

インフラプロジェクトと政治腐敗
―― 新開発銀行は大きな混乱に直面する

2016年10月号

クリストファー・サバティーニ
コロンビア大学国際公共政策大学院 講師(国際関係論)

BRICS諸国の台頭を象徴するかのように、この10年間にわたって中国、ブラジル、インド、南アフリカでは数多くのインフラプロジェクトが進められ、工業団地、高速道路、橋梁、パイプライン、ダム、スポーツ競技場の建設ラッシュが続いた。しかし、彼らはインフラプロジェクトに時間をかけず、これ見よがしの結果ばかりを追い求めた。要するに、クオリティ(品質)に配慮せず、必要なコストを過小評価してきた。しかも、政府契約の受注をめぐる不透明なプロセスが政治腐敗の温床を作り出した。いまや、経済成長ではなく、政治腐敗スキャンダルという別の共通現象がBRICS諸国を集団として束ねている。国内のインフラプロジェクトがこのような状況にある以上、新開発銀行の融資によるプロジェクトも同様の運命を辿ることになるかもしれない。BRICS諸国政府がインフラプロジェクトに関わる説明責任を果たしていないことからみても、新開発銀行は今後大きなコストを伴う失敗を繰り返すことになるだろう。

中国の壮大なインフラプロジェクトにどう関わるか
―― 一帯一路への選択的関与を

2016年10月号

ガル・ルフト  
グローバル安全保障分析研究所(IAGS) 共同所長

アジア諸国がその開発目標を達成するには、今後4年間で年約8000億ドルを交通網、電力網、通信網のインフラ整備に投資する必要がある。しかし既存の開発銀行からは、その10%の資金も調達できない。たとえAIIB(アジアインフラ投資銀行)など中国を中心とする融資機関が約束を果たしても、必要とされる資金規模には達しない。米中のライバル関係を懸念するあまり、ワシントンはこの資金不足が世界の経済的繁栄にいかなる悪影響を与えるかを見過ごしてはならない。世界の経済成長の半分は、アメリカと中国の2カ国が牽引している。世界経済が長期停滞の可能性に直面する今、米中はいがみ合うよりも、互いの開発アジェンダを調和させるほうが豊かになれる。アメリカがグローバルな地位を守ることと、アジアの経済成長を支援することが相反するわけではない。一帯一路を「選択的に支持すれば」双方を達成できる。・・・

テリーザ・メイのブレグジット戦略
―― 交渉パートナーとの妥協点をいかに見出すか

2016年10月号

ティム・キュレン オックスフォード大学ビジネススクール アソシエートフェロー

テリーザ・メイはすでに、イギリスの全般的離脱アプローチをまとめるまでは、リスボン条約の50条を発動して離脱をEUに通知することはないと明言し、今後の交渉を踏まえて、イギリスにいるヨーロッパ人が離脱後もイギリスで暮らせるかどうかについても確約を与えるのを避けている。一方、当初は強硬だったメルケルやオランドを始めとするヨーロッパの指導者たちも、自国の政治状況に配慮して、交渉時期の先送り容認に向けて態度を軟化させている。しかし、困難なタスクが待ち受けていることに変わりはない。交渉を担当できる人材が不足しているだけでなく、スコットランドなどの分離独立問題も抱えている。重要なポイントは交渉相手となる諸国が、「ヨーロッパ・プロジェクト」へのコミットメントよりも、自国の政治利益を重視していることだ。そこから交渉の見取り図を描かなければならない。

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