1994年以降に発表された邦訳論文を検索できます。

経済・金融に関する論文

「リベラルな覇権」後の世界
―― 多元主義的混合型秩序へ

2017年1月号

マイケル・マザー ランド・コーポレーション 上席政治学者

リベラルな国際秩序およびそれを支えるさまざまな原則の存続がいまや疑問視されている。中国やロシアなどの不満を募らす国家は「現在の国際システムは公正さに欠ける」とみているし、世界中の人々が、現秩序が支えてきたグローバル化が伴ったコストに怒りを募らせている。大統領に就任するトランプがアメリカの世界における役割についてどのようなビジョンをもっているのか、正確にはわからないが、少なくとも、現在のようなリベラルな秩序は想定していないようだ。現在のリベラルな秩序を立て直そうとすれば、逆にその解体を加速することになる。むしろアメリカは、すでに具体化しつつある、より多様で多元主義的なシステム、つまり、新興パワーがより大きな役割を果たし、現在の秩序よりも他の諸国がこれまでより大きなリーダーシップをとる国際システムへの移行の先導役を担うことを学んでいく必要があるだろう。

欧米の衰退と国際システムの未来
―― バッファーとしての「リベラルな国際経済秩序」

2017年1月号

ロビン・ニブレット 英王立国際問題研究所所長

これまで世界の民主主義空間を拡大させてきたリベラルな国際秩序が、政治的な勢いを取り戻せる見込みはあまりない。格差と失業に悩む現在の欧米諸国は弱体化し、もはやリベラルな政治経済システムの強さを示すシンボルではなくなっているからだ。それでも孤立主義に傾斜したり、代替秩序の封じ込めを試みたりするのは間違っている。そのようなことをすれば、リベラルな国際秩序の擁護派と、それに挑戦する勢力が公然と対立し、偶発的に大掛かりな紛争に発展する恐れもある。希望は、「リベラルな国際政治秩序」は衰退しても、「リベラルな国際経済秩序」が生き残ると考えられることだ。中国やロシアのような統制国家も国の豊かさと社会的安定・治安を確保するには、リベラルな国際経済秩序に依存するしかない。これによって短期的には、民主国家と非自由主義国家が共存する機会が提供され、長期的には、リベラルな民主主義は再び国際秩序における優位を取り戻せるかもしれない。但し、変化に適応できればという条件がつく。

TPP離脱ではなく、留保して再検証を
―― アジアの世紀にアメリカがエンゲージするには

2017年1月号

ダニエル・アイケンソン ケイトー研究所・貿易政策研究センター所長

アメリカは21世紀も国際秩序に非常に大きな影響力を持ち続けるだろう。ただし、それには「アメリカが内向きにならなければ」という条件がつく。TPPからの離脱は、そうした致命的な方向転換のシンボルとみなされてしまう。新大統領は、TPPに背を向けるのではなく、態度を保留して、将来、戦略地政学的な必要性が明らかになったときに批准を再考できるようにしておくべきだろう。世界経済の中心が欧米からアジアに移るなかで、TPPがなければ、不透明で差別的なルールがアジアの標準にされ、既存の秩序が覆され、アメリカの通商利益が傷つけられることになる。アメリカがこの自由貿易合意から離脱すれば、TPP交渉に参加しなかった国だけでなく、合意に参加した国も北京との関係強化に乗り出さざるを得なくなるだろう。

サウジの歴史的選択
―― 王国は社会・経済改革という嵐に耐えられるか

2016年12月号

ニコラス・クローリー フロントライン・アドバイザリー創設者
ルーク・ベンシー セキュリティ・マネジメント・インターナショナル マネジング・ディレクター

リヤドを経済・社会変革に駆り立てているのは、原油安ではなく、むしろ、ユースバルジに象徴される人口増大問題だ。たとえ原油価格が上昇しても、今後の人口増を考慮すれば、家計収入の80%が公的部門の給与とさまざまな補助金に依存している現在の経済モデルは維持できなくなる。だからこそ、リヤドは行動計画「ビジョン2030」を実行しようと試みている。これは、改革が引き起こす政治・経済・社会的大混乱のなかで、かつてない規模の若者たちが成人していくことを意味する。経済改革の設計者(政府)と社会的安定の擁護者(治安当局)は、緊密に連携しながら、この国の文化的アイデンティティの中核部分を慎重に再調整していかなければならない。激しい抵抗に直面するのは避けられないが、改革に失敗すれば、サウジは、現在のいかなる脅威よりもはるかに危険な、国内の全面的な不安定化という事態に直面することになる。

現実的なブレグジット戦略とは
―― 単一市場へのアクセスを維持し、国内経済改革を進めよ

2016年12月号

スワティ・ディングラ ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス  助教授(経済学)

ロンドンは、イギリスが単一市場に残れるような暫定取り決めを先ずまとめる必要がある。そうすれば、イギリスにとって最大の貿易・投資相手であるEUとの今後の関係を危ぶむ企業の懸念をとり除き、時間をかけて最終的な離脱の形を模索できるようになる。EUにとってもこの方が受け入れやすいはずだ。同時にブレグジットを招き入れた英市民の不満に対処していかなければならない。格差の是正と今後の経済成長の道筋を見据えて、大胆な措置を直ちに実施すべきだ。国内の教育、医療保険、インフラ整備、イノベーションに投資すれば、当面のダメージを抑え、忘れ去られた地域に繁栄と希望をもたらせるだろう。政策決定者が人々の経済的不安の根底にあるこれらの問題に対処して始めて、EU離脱をめぐって分裂した国家の傷を癒やせるようになる。

ヨーロッパを待ち受ける忌まわしい未来
―― もはや衰退は回避できない

2016年12月号

アンドリュー・モラフチーク プリンストン大学教授(政治学・公共政策)

現在の政治状況からみれば、ユーロゾーンからの離脱も起きず、ユーロゾーンを機能させるための大がかりな改革も行われず、おそらくは、泥縄式に生きながらえていくための措置が小出しにされていくだけだろう。長期的に考えると、このやり方は最悪の結果をもたらすかもしれないが、それでもこの路線がとられる可能性がもっとも高い。壊滅的な経済危機が起こらない限り、ヨーロッパは自ら招き入れた緊縮財政のなかで泥縄式に生きていくしかなく、この選択ゆえに将来の見込みも、世界における地位も損なわれていく。「政治同盟やヨーロッパの深化(more Europe)についてのあらゆる議論は、民主的なヨーロッパ連邦への一歩ではなく、むしろ長期的な危機という鉄格子に入り、純然たるヨーロッパの民主的連邦への道を閉ざすことにつながっていく」

自由貿易は安全保障と平和を強化する
―― TPPを捉え直し、実現するには

2016年12月号

ヘザー・ハールバート ニューアメリカ プロジェクトディレクター

アメリカは歴史的に自由貿易と平和を結びつけ、貿易障壁と戦争を結びつけてきた。大恐慌(とその後の長期不況)そしてヨーロッパにおけるファシズムの成功は、1930年代の関税引き上げと保護主義が大きな要因だったと考えられてきたし、冷戦終結後も、貿易は相手国の社会を変貌させ(市場経済と民主主義を定着させるので)国際的平和の基盤を提供すると考えられてきた。しかし、いまや中国を中心とする貿易枠組みが、欧米の貿易枠組みに取って代わっていくとみなされているというのに、アメリカ人は、貿易のことを、国内の雇用保障、民主的な統治、そして世界の労働者の権利、公衆衛生や環境の保全を脅かす脅威と考えている。経済安全保障と国家安全保障が不可分の形で結びついているというコンセンサスを再構築する必要があるし、安全保障面からも貿易を促進する必要があるという議論を、現在の懸念に配慮したものへと刷新する必要がある。

トランプ主義のグローバルなルーツ
―― ネオリベラリズムからネオナショナリズムへ

2016年12月号

マーク・ブリス ブラウン大学教授(政治経済学)

約30年前に欧米ではネオリベラリズム政策が導入され、経済政策の目標はそれまでの完全雇用から物価の安定へと見直された。生産性は上昇したが、収益はすべて資本側へと流れ込むようになった。労働組合は粉砕され、労働者が賃金引き上げを求める力も、それを抑え込む法律と生産のグローバル化によって抑えこまれた。だが、かつて完全雇用をターゲットにしてインフレが起きたように、物価の安定を政策ターゲットに据えたことで、今度はデフレがニューノーマルになってしまった。低金利の融資が提供された結果、危機を経たアメリカの家計債務は12兆2500億ドルにも達した。反インフレの秩序を設計した伝統的な中道左派と右派の政党は政治的に糾弾され、反債権者・親債務者連合が組織された。これを反乱的な左派・右派の政党が取り込んだ。これが現実に起きたことだ。・・・

民主主義の危機にどう対処するか
―― ポピュリズムからファシズムへの道

2016年12月号

シェリ・バーマン バーナードカレッジ教授(政治学)

ファシストが台頭した環境は現在のそれと酷似している。19世紀末から20世紀初頭のグローバル化の時代に、資本主義は西洋社会を劇的に変貌させた。伝統的なコミュニティ、職業、そして文化規範が破壊され、大規模な移住と移民の流れが生じた。現在同様に当時も、こうした変化を前に人々は不安と怒りを感じていた。だが、第一次世界大戦、大恐慌という大きなショックを経験したことを別にしても、根本的な問題は、当時の民主主義が、戦間期の社会が直面していた危機にうまく対処できなかったことだ。要するに、革命運動が脅威になるのは、民主主義が、直面する課題に対処できずに、革命運動がつけ込めるような危機を作り出した場合だ。ポピュリズムの台頭は、民主主義が問題に直面していることを示す現象にすぎない。だが、民主的危機への対応を怠れば、ポピュリズムはファシズムへの道を歩み始めることになるかもしれない。

日本の「長時間労働」と生産性

2016年12月(Web公開論文)

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行 ユーロ圏エコノミスト

経済協力開発機構(OECD)によると、週の労働時間が50時間以上に達する日本の勤労者は全体の13%。イタリア人やドイツ人でこれほど長時間働いているのは労働力人口の約4%にすぎない。こうしたワーカホリック(仕事中毒)ぶりが、日本人の健康と生産性を損なっている。過労死の問題だけではない。経営側は、長時間労働が生産性を低下させるリスクを伴うことを認識すべきだ。少ない人材をできるだけ働かせようとするよりも、社員がもっと効率的に働けるようにし、仕事へのやる気の持たせ方を変化させるべきだ。「社員がもっと効果的に働けるようにし、与えられた目標を、できるだけ少ない残業時間、あるいは残業なしで達成した人に報い、部下に残業させた管理職にはペナルティを課す」。そうした慣習が当たり前になるようにすべきだろう。ワークスタイルを見直せば、女性の労働参加を促し、出生率も上昇し労働力も増大する。この方が金融緩和を何度も繰り返す以上に、国内総生産(GDP)を押し上げる効果は高いはずだ。

Page Top