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経済・金融に関する論文

サウジの歴史的選択
―― 王国は社会・経済改革という嵐に耐えられるか

2016年12月号

ニコラス・クローリー フロントライン・アドバイザリー創設者
ルーク・ベンシー セキュリティ・マネジメント・インターナショナル マネジング・ディレクター

リヤドを経済・社会変革に駆り立てているのは、原油安ではなく、むしろ、ユースバルジに象徴される人口増大問題だ。たとえ原油価格が上昇しても、今後の人口増を考慮すれば、家計収入の80%が公的部門の給与とさまざまな補助金に依存している現在の経済モデルは維持できなくなる。だからこそ、リヤドは行動計画「ビジョン2030」を実行しようと試みている。これは、改革が引き起こす政治・経済・社会的大混乱のなかで、かつてない規模の若者たちが成人していくことを意味する。経済改革の設計者(政府)と社会的安定の擁護者(治安当局)は、緊密に連携しながら、この国の文化的アイデンティティの中核部分を慎重に再調整していかなければならない。激しい抵抗に直面するのは避けられないが、改革に失敗すれば、サウジは、現在のいかなる脅威よりもはるかに危険な、国内の全面的な不安定化という事態に直面することになる。

現実的なブレグジット戦略とは
―― 単一市場へのアクセスを維持し、国内経済改革を進めよ

2016年12月号

スワティ・ディングラ ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス  助教授(経済学)

ロンドンは、イギリスが単一市場に残れるような暫定取り決めを先ずまとめる必要がある。そうすれば、イギリスにとって最大の貿易・投資相手であるEUとの今後の関係を危ぶむ企業の懸念をとり除き、時間をかけて最終的な離脱の形を模索できるようになる。EUにとってもこの方が受け入れやすいはずだ。同時にブレグジットを招き入れた英市民の不満に対処していかなければならない。格差の是正と今後の経済成長の道筋を見据えて、大胆な措置を直ちに実施すべきだ。国内の教育、医療保険、インフラ整備、イノベーションに投資すれば、当面のダメージを抑え、忘れ去られた地域に繁栄と希望をもたらせるだろう。政策決定者が人々の経済的不安の根底にあるこれらの問題に対処して始めて、EU離脱をめぐって分裂した国家の傷を癒やせるようになる。

ヨーロッパを待ち受ける忌まわしい未来
―― もはや衰退は回避できない

2016年12月号

アンドリュー・モラフチーク プリンストン大学教授(政治学・公共政策)

現在の政治状況からみれば、ユーロゾーンからの離脱も起きず、ユーロゾーンを機能させるための大がかりな改革も行われず、おそらくは、泥縄式に生きながらえていくための措置が小出しにされていくだけだろう。長期的に考えると、このやり方は最悪の結果をもたらすかもしれないが、それでもこの路線がとられる可能性がもっとも高い。壊滅的な経済危機が起こらない限り、ヨーロッパは自ら招き入れた緊縮財政のなかで泥縄式に生きていくしかなく、この選択ゆえに将来の見込みも、世界における地位も損なわれていく。「政治同盟やヨーロッパの深化(more Europe)についてのあらゆる議論は、民主的なヨーロッパ連邦への一歩ではなく、むしろ長期的な危機という鉄格子に入り、純然たるヨーロッパの民主的連邦への道を閉ざすことにつながっていく」

自由貿易は安全保障と平和を強化する
―― TPPを捉え直し、実現するには

2016年12月号

ヘザー・ハールバート ニューアメリカ プロジェクトディレクター

アメリカは歴史的に自由貿易と平和を結びつけ、貿易障壁と戦争を結びつけてきた。大恐慌(とその後の長期不況)そしてヨーロッパにおけるファシズムの成功は、1930年代の関税引き上げと保護主義が大きな要因だったと考えられてきたし、冷戦終結後も、貿易は相手国の社会を変貌させ(市場経済と民主主義を定着させるので)国際的平和の基盤を提供すると考えられてきた。しかし、いまや中国を中心とする貿易枠組みが、欧米の貿易枠組みに取って代わっていくとみなされているというのに、アメリカ人は、貿易のことを、国内の雇用保障、民主的な統治、そして世界の労働者の権利、公衆衛生や環境の保全を脅かす脅威と考えている。経済安全保障と国家安全保障が不可分の形で結びついているというコンセンサスを再構築する必要があるし、安全保障面からも貿易を促進する必要があるという議論を、現在の懸念に配慮したものへと刷新する必要がある。

トランプ主義のグローバルなルーツ
―― ネオリベラリズムからネオナショナリズムへ

2016年12月号

マーク・ブリス ブラウン大学教授(政治経済学)

約30年前に欧米ではネオリベラリズム政策が導入され、経済政策の目標はそれまでの完全雇用から物価の安定へと見直された。生産性は上昇したが、収益はすべて資本側へと流れ込むようになった。労働組合は粉砕され、労働者が賃金引き上げを求める力も、それを抑え込む法律と生産のグローバル化によって抑えこまれた。だが、かつて完全雇用をターゲットにしてインフレが起きたように、物価の安定を政策ターゲットに据えたことで、今度はデフレがニューノーマルになってしまった。低金利の融資が提供された結果、危機を経たアメリカの家計債務は12兆2500億ドルにも達した。反インフレの秩序を設計した伝統的な中道左派と右派の政党は政治的に糾弾され、反債権者・親債務者連合が組織された。これを反乱的な左派・右派の政党が取り込んだ。これが現実に起きたことだ。・・・

民主主義の危機にどう対処するか
―― ポピュリズムからファシズムへの道

2016年12月号

シェリ・バーマン バーナードカレッジ教授(政治学)

ファシストが台頭した環境は現在のそれと酷似している。19世紀末から20世紀初頭のグローバル化の時代に、資本主義は西洋社会を劇的に変貌させた。伝統的なコミュニティ、職業、そして文化規範が破壊され、大規模な移住と移民の流れが生じた。現在同様に当時も、こうした変化を前に人々は不安と怒りを感じていた。だが、第一次世界大戦、大恐慌という大きなショックを経験したことを別にしても、根本的な問題は、当時の民主主義が、戦間期の社会が直面していた危機にうまく対処できなかったことだ。要するに、革命運動が脅威になるのは、民主主義が、直面する課題に対処できずに、革命運動がつけ込めるような危機を作り出した場合だ。ポピュリズムの台頭は、民主主義が問題に直面していることを示す現象にすぎない。だが、民主的危機への対応を怠れば、ポピュリズムはファシズムへの道を歩み始めることになるかもしれない。

日本の「長時間労働」と生産性

2016年12月(Web公開論文)

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行 ユーロ圏エコノミスト

経済協力開発機構(OECD)によると、週の労働時間が50時間以上に達する日本の勤労者は全体の13%。イタリア人やドイツ人でこれほど長時間働いているのは労働力人口の約4%にすぎない。こうしたワーカホリック(仕事中毒)ぶりが、日本人の健康と生産性を損なっている。過労死の問題だけではない。経営側は、長時間労働が生産性を低下させるリスクを伴うことを認識すべきだ。少ない人材をできるだけ働かせようとするよりも、社員がもっと効率的に働けるようにし、仕事へのやる気の持たせ方を変化させるべきだ。「社員がもっと効果的に働けるようにし、与えられた目標を、できるだけ少ない残業時間、あるいは残業なしで達成した人に報い、部下に残業させた管理職にはペナルティを課す」。そうした慣習が当たり前になるようにすべきだろう。ワークスタイルを見直せば、女性の労働参加を促し、出生率も上昇し労働力も増大する。この方が金融緩和を何度も繰り返す以上に、国内総生産(GDP)を押し上げる効果は高いはずだ。

米政権の交代で変化する金融政策
―― 金融政策の「政治サイクル」とは何か

2016年11月号

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行 ユーロ圏エコノミスト

政府から独立した機関だとはいえ、連邦準備制度理事会も政治を完全に無視することはできない。実際、理事会は、大統領選挙シーズンには政治に大きな関心を寄せる。大統領が変われば、イデオロギーが変化し、新たに一連の政策がとられ、経済は大きな影響を受け、最終的には金融政策も見直さざるを得なくなるからだ。そこには金融政策の「政治的サイクル」が存在する。民主党から共和党へ政権担当政党が移行すると、長期的な金融緩和政策がとられることが多い。一方、民主党が政権を獲得すると、金融政策は引き締められる傾向がある。「連邦準備制度理事会は議長を任命した政党に利益を与えるように戦略的に行動し、投資を刺激し、停滞する経済を回復させるために金利を引き下げる」のだろうか。それとも、政治的なバイアスではなく、マクロ経済状況が連邦準備制度理事会の意思決定を左右しているのか。・・・

貿易の停滞と海運産業の再編
―― 停止した国際貿易の成長

2016年11月号

マーク・レビンソン
米ジャーナリスト

貿易が大きく拡大する時期には貨物運賃が上昇するため、海運会社はより大きく、より高価な船舶を発注する。しかし3―4年経って船が完成するころには経済状況が様変わりしていることも多く、過剰な積載容量を抱え込んで運賃が低下し、拡大路線をすすめた海運会社が破綻することも多い。現在起きているのはこうした海運業界につきものの景気の波だが、そこに新たな要素が加わっている。2008―2009年に西半球・ヨーロッパならびに一部アジア地域をおそった金融危機の影響で、第二次世界大戦以降初めて、国際貿易の成長がとまってしまったことだ。巨額の損失を計上して経営破綻し、買収・合併され、合弁事業化されるケースが相次いでいる。2015年には、コンテナ取引量はオークランドで5%近く、東京で6%、シンガポール、ハンブルク、香港では約9%と各港で落ち込んだ。コンテナ海運業界の波乱は短期間では終わらないだろう。

アメリカのTPP批准はほぼあり得ない
―― 何をどこで間違えたのか

2016年11月号

リチャード・カッツ オリエンタル・エコノミスト・レポート エディター

米議会がTPPに批准するかどうか、かなり難しい情勢にある。2人の大統領候補たちも、TPPに反対すると明言している。議会共和党の指導者も11月8日の大統領選挙から12月16日までのレームダックセッションでTPP条約案の採決はしないとすでに表明している。オバマ大統領は、彼らを説得することへの自信を示しているが、そうできるとは考えにくい。TPPが2016年に批准されなければ、誰が大統領に選ばれようと、2017年以降に批准される見込みはさらに遠のく。なぜこんなことになったのか。ワシントンの利益団体の抵抗も、合意の欠陥も、「貿易は雇用を輸出し、失業を増やす」と市民が反発していることもその要因だ。それぞれTPPに反対する国内の利益団体を抱えつつも、それを克服して合意をまとめたアメリカの貿易パートナーたちが、大きな怒りを感じているとしても無理はない状況にある。・・・

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