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経済・金融に関する論文

CFRミーティング
レッディ準備銀行総裁が語る インドの経済成長と今後の課題
 ――経済の全体バランスに配慮した改革・成長を目指す

2006年5月号

スピーカー インド準備銀行(中央銀行)総裁 Y・V・レッディ
司会 AIGグループ副理事長 フランク・ウィズナー

インド経済が急成長を遂げているのは、規制緩和によって民間部門が成長できるようになり、政府の介入を減らすとともに、外資を受け入れたからだ。1980年代における規制緩和を経て90年代に資本の自由化を行ったことで、われわれは6%強の経済成長を実現した。そして、90年代末までには、経済をめぐる官民のパートナーシップ、新しい経済体制の制度化が進み、政策決定者も経済全般への認識を新たにし、年8%の持続的経済成長への布石が打たれた。今後の課題は、非農業部門での成功を追い風にして、農業部門を改革することだ。これが、インドの経済、政治、社会的な安定を持続させるための最大の試金石、ナンバーワンの課題だ。次に教育・医療・公衆衛生への投資と一方での財政赤字の削減、そしてインフラ整備が必要だ。また、その名に値するような保険制度を最近まで持っていなかったことからみても、保険部門を整備することも重要だ。これは、外資の専門知識とインド国内の必要性がうまく重なり合う領域だろう。

政治的サイバー攻撃の次なるターゲット
―― 「コンプロマート」からヨーロッパを守るには

2017年2月号

ソーステン・ベナー 独グローバル公共政策研究所 共同設立者
ミルコ・ホーマン 同研究所プロジェクトマネジャー

2016年の米大統領選挙へのロシアの介入は、明らかにドナルド・トランプを利することを目的にしていた。2017年、ともに選挙を控えている独仏は、アメリカのケースを検証し、周到な対策をとってロシアのデジタル攻撃に備えるべきだ。現状ではフランスもドイツもそうした攻撃への備えができていない。ロシアの「コンプロマート(不名誉な情報)」オペレーションは必ずしも特定候補に有利な環境を作り出すことが目的ではない。むしろ、選挙プロセスを混乱させ、民主的政府の名声を汚すことで、民主的な規範や制度への信頼を失墜させ、(欧米が批判してきた)ロシアの道徳的基準と欧米のそれが大差ないことを示すことが狙いだ。欧米は長期にわたってロシアを包囲し、その基盤を揺るがそうとしてきたとモスクワは考えており、彼らにしてみれば、欧米の民主的制度に対する攻撃はその報復なのだ。・・・

中国とアジアの新しい現実
―― アジアを求めるアジア

2017年2月号

エバン・A・ファイゲンバーム シカゴ大学ポールソン研究所副所長

世界でもっとも急速に成長している国々を取り込まなければ、国際システムは機能しない。中国やインドといった新興国をきちんと仲間に入れなければ、これらの国はよそに目を向けるだけだ。逆に言えば、今後ほとんどの国際機関で、新興国の発言力が強化されるにつれて、自由主義的な価値をもつヨーロッパ諸国の発言力は低下していく。但し、中国に現在の国際システムを全面的に覆すつもりはない。むしろ、現在のシステムの不備を補完しようと試みている。AIIB(アジア・インフラ投資銀行)はその具体例だ。ワシントンはAIIBや一帯一路構想を、アメリカの試みにダメージを与える策略とみなすべきではない。むしろこの構想は、アジア諸国が投資や経済協力に関して、欧米に頼るのではなく、お互いを頼り始めた証拠だろう。その結果、アジアは2030年までに、アメリカが台頭する前に存在した統合された大陸、つまり「アジア太平洋」ではなく「アジア」になっていく可能性が高い。

トランプの保護主義路線に中国が報復すれば
―― 勝者なき重商主義と貿易戦争

2017年2月号

エドアルド・カンパネッラ ウニクレディト銀行ユーロ圏エコノミスト

「中国を為替操作国のリストに入れ、世界貿易機関(WTO)に提訴し、中国製品の輸入関税を引き上げる」とトランプはこれまで何度も繰り返してきた。彼は中国からの輸入を抑えることで公正な競争基盤を取り戻せば、アメリカ国内の製造業は復活すると主張しているが、それは妄想にすぎない。アメリカの製造業雇用はかつてなく減少しているが、一方で工業生産量が歴史的な高水準に達していることの意味合いを考える必要がある。アメリカのブルーカラー雇用の減少は、生産性を高めるテクノロジーの進歩によるものだ。しかも大統領の貿易上の権限は150日間にわたって上限15%の関税を課すことだけで、それ以上を望むのなら、議会の承認を得なければならない。しかも、議会の同意を確保しても、彼のやり方はWTOルールに抵触するだろう。結局、アメリカの労働者階級の雇用の改善はほとんど見込めないばかりか、世界経済に取り返しのつかないダメージを与える恐れがある。

グローバリズム・イデオロギーの終焉
―― 米中は何処へ向かうのか

2017年2月号

エリック・X・リ 上海在住ベンチャーキャピタリスト、政治学者

世界をグローバルスタンダードで統一しようとする「グローバリズム」のビジョンは、アメリカの中間層の多くにダメージを与えた。冷戦の勝利からわずか一世代のうちにアメリカの工業基盤は空洞化し、インフラは荒廃し、教育制度は崩壊し、社会契約は引き裂かれた。トランプ大統領の誕生は偶然ではない。これは、エリートたちが長期にわたって無視してきた米社会内部の構造的な変化が蓄積されてきたことの帰結に他ならない。中国の指導者たちはこの現実を適切にとらえ、対応する必要がある。対応を誤れば、貿易戦争、地政学的な対立、軍事衝突さえ起きるかもしれない。幸い、中国の考えは、主権国家を重視し、多国間ルールよりも二国間合意を重視するトランプのビジョンに基本的にうまく重なり合う。協調できるだけの叡知とプラグマティズムを米中がもっていれば、おそらくいまよりも安定した世界を保証するグローバル統治に関する新しいコンセンサスを形作れるはずだ。

日米自由貿易協定の交渉を
―― 日米関係の戦略基盤を強化するには

2017年2月号

マイケル・オースリン  アメリカン・エンタープライズ研究所 日本研究担当ディレクター

トランプは、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)という複雑な多国間貿易協定を批判しつつも、「私なら必要になれば再交渉できるような、透明性があり、よりシンプルで合理化されたアメリカの労働者にダメージを与えない二国間合意をまとめる」と約束している。(多国間貿易合意であるTPPへの反対をもって)トランプのことを「自由貿易に反対する重商主義者だ」と考える評論家は、彼が現実には自由貿易政策を模索するかもしれないことを無視している。(多国間貿易合意は拒絶しても)自由貿易体制を維持していくことに本気なのであれば、トランプはまず日本と自由貿易合意を交渉すべきだろう。日米二国間自由貿易合意の原型はすでにTPPによって描かれているからだ。日米の安全保障面での協調はすでに深化しており、二国間自由貿易協定交渉を通じて関係をさらに固めていけば、日米関係の戦略基盤をさらに強化できるだろう。

デジタル経済とアナログ経済の未来
―― 政府と企業は新しいモデルを導入せよ

2017年1月号

サミュエル・パルミサーノ 前IBM・CEO(最高経営責任者)

企業にとって基本的な課題は、(アナログ世界とデジタル世界という)二つの世界の双方で活動する際に、(アナログ世界の)政治や社会が作り出す障害を迂回するか、克服する一方で、(デジタル世界の)つながりと統合が提供する機会をうまく生かし、その適切なバランスをいかに見出すかにある。経済開発を促進し、経済成長軌道へと立ち返ることに配慮するビジネスの指導者と政府官僚も、アナログ世界とデジタル世界という拡大する二つの領域のバランスに目配りをしなければならない。二つの領域が交差する領域をいかに最適化するかで、グローバルなビジネスの構造が左右され、この構造が将来における成功を左右する。現状において重要なのは、啓蒙的な指導者たちが企業と政府の新しいモデルを考案し、これを常に近代化していくことだ。そうしない限り、われわれは不寛容と緊張に支配される世界に直面することになる。

「リベラルな覇権」後の世界
―― 多元主義的混合型秩序へ

2017年1月号

マイケル・マザー ランド・コーポレーション 上席政治学者

リベラルな国際秩序およびそれを支えるさまざまな原則の存続がいまや疑問視されている。中国やロシアなどの不満を募らす国家は「現在の国際システムは公正さに欠ける」とみているし、世界中の人々が、現秩序が支えてきたグローバル化が伴ったコストに怒りを募らせている。大統領に就任するトランプがアメリカの世界における役割についてどのようなビジョンをもっているのか、正確にはわからないが、少なくとも、現在のようなリベラルな秩序は想定していないようだ。現在のリベラルな秩序を立て直そうとすれば、逆にその解体を加速することになる。むしろアメリカは、すでに具体化しつつある、より多様で多元主義的なシステム、つまり、新興パワーがより大きな役割を果たし、現在の秩序よりも他の諸国がこれまでより大きなリーダーシップをとる国際システムへの移行の先導役を担うことを学んでいく必要があるだろう。

欧米の衰退と国際システムの未来
―― バッファーとしての「リベラルな国際経済秩序」

2017年1月号

ロビン・ニブレット 英王立国際問題研究所所長

これまで世界の民主主義空間を拡大させてきたリベラルな国際秩序が、政治的な勢いを取り戻せる見込みはあまりない。格差と失業に悩む現在の欧米諸国は弱体化し、もはやリベラルな政治経済システムの強さを示すシンボルではなくなっているからだ。それでも孤立主義に傾斜したり、代替秩序の封じ込めを試みたりするのは間違っている。そのようなことをすれば、リベラルな国際秩序の擁護派と、それに挑戦する勢力が公然と対立し、偶発的に大掛かりな紛争に発展する恐れもある。希望は、「リベラルな国際政治秩序」は衰退しても、「リベラルな国際経済秩序」が生き残ると考えられることだ。中国やロシアのような統制国家も国の豊かさと社会的安定・治安を確保するには、リベラルな国際経済秩序に依存するしかない。これによって短期的には、民主国家と非自由主義国家が共存する機会が提供され、長期的には、リベラルな民主主義は再び国際秩序における優位を取り戻せるかもしれない。但し、変化に適応できればという条件がつく。

TPP離脱ではなく、留保して再検証を
―― アジアの世紀にアメリカがエンゲージするには

2017年1月号

ダニエル・アイケンソン ケイトー研究所・貿易政策研究センター所長

アメリカは21世紀も国際秩序に非常に大きな影響力を持ち続けるだろう。ただし、それには「アメリカが内向きにならなければ」という条件がつく。TPPからの離脱は、そうした致命的な方向転換のシンボルとみなされてしまう。新大統領は、TPPに背を向けるのではなく、態度を保留して、将来、戦略地政学的な必要性が明らかになったときに批准を再考できるようにしておくべきだろう。世界経済の中心が欧米からアジアに移るなかで、TPPがなければ、不透明で差別的なルールがアジアの標準にされ、既存の秩序が覆され、アメリカの通商利益が傷つけられることになる。アメリカがこの自由貿易合意から離脱すれば、TPP交渉に参加しなかった国だけでなく、合意に参加した国も北京との関係強化に乗り出さざるを得なくなるだろう。

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