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経済・金融に関する論文

トランプの貿易政策は何を引きおこす
―― 保護主義の連鎖と自由貿易の危機

2017年6月号

ダグラス・A・アーウィン ダートマス大学教授(経済学)

「アメリカファースト」の貿易政策が、製造業に新たな雇用をもたらすことも、貿易赤字を縮小することもあり得ない。トランプの貿易政策の最大のリスクは、WTO(世界貿易機関)を含む、アメリカが第二次大戦以降推進してきたオープンな国際貿易体制に、取り返しのつかないダメージを与えてしまう恐れがあることだ。1930年代に象徴される過去の貿易政策の失敗の教訓は、保護主義が(他国の)保護主義を呼び込んでしまうことだ。実際、カナダの世論調査によると、アメリカがカナダ製品に関税をかければ、貿易戦争に応じるべきだと答えた人が58%に達している。歴史は、貿易障壁は作るのは簡単だが、取り除くのが難しいことを教えている。そのダメージを修復するには、数十年単位の時間が必要になる。

経済成長への期待と憂鬱な現実
―― 「奇跡の世界後」の経済に備えよ

2017年6月号

ルチル・シャルマ モルガン・スタンレー  チーフ・グローバルストラテジスト

人口減少、レバレッジの解消、脱グローバル化が成長を阻む大きな障害となっている以上、各国の政策決定者たちは経済的成功の定義を見直し、力強い経済成長の指標を1―2%引き下げるべきだろう。この基準でみれば、中国の場合、成長率4%で比較的力強い成長とみなせるし、アメリカのような先進国の場合、1・5%を上回る成長率なら健全な状態にあると考えるべきだ。問題は、こうした経済的成功の新しい定義を理解するか、受け入れている政治指導者がほとんどいないことだ。中国は6%の経済成長を維持しようと試み、アメリカの政治指導者も4―6%の経済成長を目指すと発言している。こうしたレトリックは期待と現実の間のギャップを作り出してしまう。世界のいかなる地域も2008年前のような急速な経済成長を遂げることはあり得ないし、そう期待すべきでもない。われわれは「奇跡の世界後」に備えるべきタイミングにある。

EUのもう一つの移民問題
―― 東中欧の人口流出危機

2017年5月号

テジ・パリク ノバヨーロッパ・アナリスト

優れた人材が欧州連合(EU)内のより裕福な加盟国に定住しようと西ヨーロッパに吸い寄せられた結果、東ヨーロッパは経済停滞と人口減そして高齢化という問題に直面している。1990年代初頭以降、約2000万人の優秀な労働者が中央・東ヨーロッパから流出している。人口が流出している大きな理由はEU内部に大きな賃金格差が存在するからだ。現状でも東ヨーロッパの労働者の平均月給は、フランスやドイツ、イギリスの半分に満たないレベルにある。そして、国外移住者の殆どは母国に戻ることはない。問題は、EUが拡大を続け、そして西ヨーロッパの暮らし向きの方が東ヨーロッパのそれよりもよく思える限り、移民の流出を阻止するのが難しいことだ。

TPPをRCEPで代替せよ
―― アジアの自由貿易をいかに実現するか

2017年5月号

シロー・アームストロング オーストラリア国立大学フェロー

アメリカの離脱によって、環太平洋パートナーシップ(TPP)構想は実質的に消滅しつつあり、いまやアジアの優先課題は「市場開放路線を維持し、リベラルな秩序を強化していく他の方法を見つけ出すこと」にある。日米間の二国間貿易協定は有益だが、これだけでは、アジア全域の自由貿易を保証することにはならない。地域的自由貿易を実現するには、中国、インド、インドネシアなど、他の主要なアジアの経済大国が市場開放へのコミットメントを示すことが不可欠だからだ。当然、アジアにおいてルールに基づく経済秩序を強化する上でもっとも有望なのは、東アジア地域包括経済連携(RCEP)構想だろう。RCEPは中国主導の構想と思われがちだが、現実にはRCEPを支えているのは東南アジア諸国連合(ASEAN)だ。今後の合意にTPPの一部条項を取り込んでいくこともできる。世界で保護主義とナショナリズムが台頭するなか、アジアにとっても、これまでのやり方を続けるだけでは十分ではないのだから。

トランプから国際秩序を守るには
―― リベラルな国際主義と日独の役割

2017年5月号

G・ジョン・アイケンベリー プリンストン大学教授(国際関係論)

古代より近代まで、大国が作り上げた秩序が生まれては消えていった。秩序は外部勢力に粉砕されることでその役目を終えるものだ。自死を選ぶことはない。だが、ドナルド・トランプのあらゆる直感は、戦後の国際システムを支えてきた理念と相反するようだ。国内でもトランプはメディアを攻撃し、憲法と法の支配さえほとんど気に懸けていない。欧米の大衆も、リベラルな国際秩序のことを、豊かでパワフルな特権層のグローバルな活動の場と次第にみなすようになった。すでに権力ポストにある以上、トランプがそのアジェンダに取り組んでいくにつれて、リベラルな民主主義はさらに衰退していく。リベラルな国際秩序を存続させるには、この秩序をいまも支持する世界の指導者と有権者たちが、その試みを強化する必要があり、その多くは、日本の安倍晋三とドイツのアンゲラ・メルケルという、リベラルな戦後秩序を支持する2人の指導者の肩にかかっている。・・・

日本のプラグマティズム外交の代償
―― 安倍外交の成果を問う

2017年5月号

トム・リ ポモナカレッジ助教授

フィリピンのドゥテルテ大統領、ロシアのプーチン大統領、アメリカのトランプ大統領のようなとかく論争のある指導者たちと進んで接触する安倍首相は、長期的な経済・安全保障上のアジェンダのためなら、自らの信条を傍らに置き、短期的に政治リスクの高い動きをとることも辞さないつもりのようだ。確かに、世界的にネオリベラルな規範が衰退するなか、反リベラル主義を掲げる指導者たちと関わりを持つことの政治リスクが少なくなっているのは事実だろう。しかし、こうした権威主義的指導者と付き合うことで、果たして結果を出せただろうか。さらに、民主国家としての日本の名声を危機にさらしてはいないだろうか。権威主義的な指導者たちと付き合うことに派生するリスクからみれば、安倍首相にとっては世界の民主主義のリーダーという日本の名声を守ることがよりプラグマティックな路線ではないだろうか。そうしない限り、いずれ彼は歴史の間違った側にいる自分を見出すことになるだろう。・・・

依存人口比率と経済成長
―― 流れは中国からインド、アフリカへ

2017年4月号

サミ・J・カラム  Populyst.net エディター

「人口の配当」として知られる現象は経済に大きな影響を与える。この現象は合計特殊出生率が低下し、その後、女性が労働力に参加して人口に占める労働力の規模が拡大し(依存人口比率が低下することで)、経済成長が刺激されることを言う。本質的に、人口の配当が生じるのは、生産年齢人口が増大する一方で、依存人口比率が減少したときだ。実際、出生率の低下と労働力規模の拡大、そして依存人口比率の減少というトレンドが重なり合ったことで、1983年から2007年までのアメリカの経済ブーム、そして中国の経済ブームの多くを説明できる。問題は、先進国だけでなく、これまでグローバル経済を牽引してきた中国における人口動態上の追い風が、逆風へと変わりつつあることだ。人口動態トレンドからみれば、今後におけるグローバル経済のエンジンの役目を果たすのはインド、そしてサハラ砂漠以南のアフリカになるだろう。

石油戦略の挫折とサウジの経済改革
―― サウジによる石油市場支配の終わり

2017年4月号

ニコラス・ボロッズ 戦略情報コンサルタント
ブレンダン・メイガン マクロ経済分析者

サウジ政府が「経済の石油資源依存からの脱却が必要なこと」を明確に認識しているのは明らかだが、この認識は、2014―16年の石油増産戦略が失敗に終わった結果、サウジが石油市場を支配できた時代が終わったことを事実として受け入れざるを得なくなったことにも関係している。市場シェアの低下を前に、リヤドは(原油安に振れていたにもかかわらず)減産を拒否してかつてない増産に踏み切り、その結果、原油価格はさらに下落した。サウジは「潤沢な外貨準備がある以上、原油安にも何とか耐えられるが、アメリカとイランのライバル企業は競争を断念するだろう」と先行きを読んで、賭けに出た。しかし、これは失敗に終わった。ごく最近まで、改革は無気力なペースでしか進んでいなかったが、原油戦略が挫折した以上、もはやゆっくりとした改革程度ではリヤドが先を切り開けないことは明らかだろう。・・・

トランプと日本
―― 潜在的紛争の火種としての認識ギャップ

2017年4月号

リチャード・カッツ オリエンタル・エコノミスト・リポート エディター

2月の日米首脳会談は成功だったとみなされている。日本は、安全保障面の要望についてはほぼ満額回答を得たし、トランプは日本防衛へのコミットメントを再確認した。為替操作や安全保障のタダ乗りといった、かねてトランプが主張してきた対日批判に安倍首相がさらされることもなかった。共同声明でも為替問題への言及はなく、共同記者会見でもトランプは、為替を含むいかなる貿易問題への注文もつけなかった。ただし、共同声明の中には「二国間の枠組み」という曖昧な表現があり、この点で認識にずれがあれば、将来的に対立の火種となりかねない。しかも、トランプにとって厄介なのは、公約どおり貿易赤字を解消して、日本などの外国に奪われたと主張してきた雇用を「取り戻すこと」など、とうてい不可能なことだ。トランプ支持基盤の多くが反日感情を抱いていることも、今後の日米関係における不安材料だろう。・・・

「アングロスフィア」の未来
―― アングロサクソン・コミュニティとグローバル秩序の再編

2017年4月号

エドゥアルド・カンパネッラ 金融エコノミスト
マルタ・ダッス アスペン研究所 ヨーロッパ問題担当ディレクター

いまや世界はノスタルジックなナショナリズムに覆われている。紛争が起きやすい環境だ。しかし一方で、過去への郷愁が国家間協調を促すこともある。この文脈で、プライドを捨てきれないイギリス人の多くにとっての積年の夢、「アングロスフィア(英語圏諸国)」の再形成が次第に現実味を帯び始めている。メンバーとなり得るのはオーストラリア、カナダ、ニュージーランド、アメリカ、イギリスといったアングロサクソン文化を共有する国々だ。これをきっかけに、世界は文化を共有するコミュニティへ分かれていくかもしれない。ノスタルジックなナショナリズムは文化的に距離のある地域間の緊張や摩擦を高める一方で、文化的に近い国家を強く結びつける。すでにこの流れがグローバル秩序を変化させているが、これが必ずしも孤立主義や紛争につながっていくと決まっているわけではない。新たな協調モデルが生まれる可能性も残されている。

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