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経済・金融に関する論文

グローバル化の失速と世界経済の未来
―― グローバル経済をポピュリズムから救い出すには

2017年7月号

フレッド・フー プリマベーラ・キャピタル 設立者
マイケル・スペンス ニューヨーク大学ビジネススクール教授

グローバル化は大きな繁栄をもたらす一方で、格差を増大させ、いまや多くの人がグローバル化を特徴づけてきたヒト、モノ、情報の拡散に懐疑的な立場をとるようになった。こうして、反グローバル化とナショナリズムが趨勢となり、イギリスは欧州連合(EU)からの離脱を国民投票で決め、トランプ大統領は「アメリカファースト」ドクトリンに固執している。しかも一方で、雇用懸念を高めるオートメーション化が進んでいる。グローバル化が失速し、急速な技術変化が混乱を引き起こす時代にあって、世界の政治家と政策決定者はこれまでの成果を守るための改革を進め、手遅れになる前に、その欠陥を是正していかなければならない。そうしない限り、保護主義とナショナリズムによって世界の平和と繁栄が脅かされることになる。

スマート化するエネルギー・電力産業
―― 技術革新がもたらす機会とリスク

2017年7月号

デビッド・ビクター カリフォルニア大学サンディエゴ校教授 カッシア・ヤノセック マッキンゼー&カンパニー アソシエートパートナー

水圧破砕、水平掘削という技術革新によってシェール資源の開発が可能になったことは広く知られているし、これらのテクノロジーが、2008年7月の1バレル145ドルというかつてない高値から、いまやその約3分の1へと原油価格を引き下げることに一役買ったのは間違いない。だが、これは始まりに過ぎなかった。現在では、「複雑なシステムのよりスマートな管理」や「データ分析」、そして「オートメーション」によってエネルギー産業は再び変貌し始め、エネルギー企業の生産性と柔軟性はさらに高まっている。しかもこれらの変化は資源開発企業だけでなく、電力を生産・供給するセクターも変貌させ始めている。より分権化され、消費者にフレンドリーで、さまざまな資源で生産した電力をきわめて信頼性の高い送電ネットワークに統合する力をもつ、新しい電力産業が誕生しつつある。・・・

女性と経済活動
―― 有給出産休暇の大いなるポテンシャル

2017年7月号

アレクシス・クロー PwC地政学投資チーム アメリカアドバイザリー・リード

OECD諸国のなかで唯一、アメリカには普遍的な(連邦レベルでの)有給出産休暇制度がない。データが存在する世界170カ国のなかで、出産休暇中の女性に対する金銭的保証をまったく与えていないのは、アメリカとニューギニアの2カ国だけだ。問題の解決策が有給出産休暇制度の導入であることはすでに分かっている。女性たちは、出産休暇をとる段階ではすでにある程度のキャリアを積んでいる可能性が高く、組織の内外で価値ある関係を築き、専門知識を身に付けている。出産休暇中にも報酬を受け取っていれば、その女性が同じ企業に戻ってくる可能性は高くなり、企業パフォーマンスにも好ましい影響を与える。アメリカ女性の労働参加率が、手厚い有給休暇制度や家族にやさしい制度をもつカナダやドイツと同程度の参加率へ上昇すれば、少なくとも500万人の女性が労働力に参加し、アメリカ国内で年間5千億ドル以上の新たな経済活動が生み出されることになる。

ブレグジット後の連合王国
―― 先進小国のケースから何を学べるか

2017年7月号

マイケル・オサリバン クレディスイス チーフ・インベストメントオフィサー、デビッド・スキリング ランドフォール・ストラテジーグループ ディレクター

連合王国を構成するイングランド、北アイルランド、スコットランド、ウェールズそして隣接する独立国家アイルランドが、ブレグジットの混乱に翻弄されるのは避けられないだろう。特に、スコットランドや北アイルランドがイギリスからの独立を目指した場合、さらに大きな混乱に直面する。幸い、ブレグジット後に備える上で、これら連合王国の構成国や近隣国が参考にできるモデルがある。スウェーデンからニュージーランドまでの小規模な先進諸国(先進小国)だ。これらの国は教育を通じた人材育成、良質なインフラへの投資、危機に備えた規律ある財政政策の実施を心がけてきた。独立を目指すスコットランド、北アイルランドだけでなく、ブレグジットの大きな余波にさらされるアイルランドも、これら先進小国の叡知に学ぶべきだろう。

軍隊と経済的技術革新
―― なぜイスラエル軍は経済に貢献できるのか

2017年6月号

エリザベス・ブラー アトランティック・カウンシル 非常勤シニアフェロー

「徴兵された若者たちにとって、イスラエル国防軍・技術諜報部門での経験はハーバード大学で学んでいるようなものだ」。(国防軍でスキルを学び)ネットワークを形作り、いずれ、ともにビジネスをするようになる。徴兵した兵士たちにイスラエル国防軍が与える訓練はイスラエル経済に大きな恩恵をもたらしている。実際、ブームに沸き返るイスラエルのハイテク部門の多くを軍出身者たちが支えている。兵役を経験しているイスラエル人が成人人口の60%なのに対して、ハイテク部門人材に占める兵役経験者の比率は90%に達している。例えば、若年労働者の失業率が高く、持続可能な雇用を創出する方法を模索しているヨーロッパは、イスラエルのやり方に学ぶことができる。イスラエルの実例から適切な教訓を引き出して応用すれば、世界の多くの国が、近い将来に、兵役を終えた若者たちが軍隊で身に付けた人的資本、社会資本、文化資本を生かして、民間部門との絆を形作っていくだろう。

オートメーション時代の失業と社会保障

2017年6月号

ジョディ・グリーンストーン・ミラー ビジネス・タレントグループCEO
エデュアルド・ポーター ニューヨーク・タイムズ紙 コラムニスト
ハイジ・シアーホルズ 前米労働省 チーフエコノミスト プレサイダー
スーザン・ルンド マッキンゼー・グローバル・インスティチュート パートナー

ロボットの導入による失業が現実に起きれば、その一方で、膨大な富が作り出され、それがかつてなく一部へ富を集中させることはすでに分かっている。雇用喪失の一方で、巨大な富が集積されていくことのバランスをどうとるか、広く富を共有していくにはどうすればよいかを考えなければならない。(J・ミラー)

今後10年間でより多くの雇用を創出する産業は何かに関する予測のトップ10のうちの四つは看護・介護に関係した職業で、介護、看護師、在宅介護、看護師補助(ヘルパー)などだ。問題はこれらの雇用の質(と賃金)がとても低いことだ。(E・ポーター)

私はオートメーションによって大量失業時代が引きおこされるとは考えていないが、経済的に困難な状況に直面する個人が出てくるのは避けられないだろう。これは対処すべきとても重要な問題だ。だが(その対応策としては)、普遍的な最低所得保障ではなく、雇用保障の方がよいと思う。この場合、政府がすべての人の「最後の雇用主」ということになる。(H・シアーホルズ)

トランプの貿易政策は何を引きおこす
―― 保護主義の連鎖と自由貿易の危機

2017年6月号

ダグラス・A・アーウィン ダートマス大学教授(経済学)

「アメリカファースト」の貿易政策が、製造業に新たな雇用をもたらすことも、貿易赤字を縮小することもあり得ない。トランプの貿易政策の最大のリスクは、WTO(世界貿易機関)を含む、アメリカが第二次大戦以降推進してきたオープンな国際貿易体制に、取り返しのつかないダメージを与えてしまう恐れがあることだ。1930年代に象徴される過去の貿易政策の失敗の教訓は、保護主義が(他国の)保護主義を呼び込んでしまうことだ。実際、カナダの世論調査によると、アメリカがカナダ製品に関税をかければ、貿易戦争に応じるべきだと答えた人が58%に達している。歴史は、貿易障壁は作るのは簡単だが、取り除くのが難しいことを教えている。そのダメージを修復するには、数十年単位の時間が必要になる。

経済成長への期待と憂鬱な現実
―― 「奇跡の世界後」の経済に備えよ

2017年6月号

ルチル・シャルマ モルガン・スタンレー  チーフ・グローバルストラテジスト

人口減少、レバレッジの解消、脱グローバル化が成長を阻む大きな障害となっている以上、各国の政策決定者たちは経済的成功の定義を見直し、力強い経済成長の指標を1―2%引き下げるべきだろう。この基準でみれば、中国の場合、成長率4%で比較的力強い成長とみなせるし、アメリカのような先進国の場合、1・5%を上回る成長率なら健全な状態にあると考えるべきだ。問題は、こうした経済的成功の新しい定義を理解するか、受け入れている政治指導者がほとんどいないことだ。中国は6%の経済成長を維持しようと試み、アメリカの政治指導者も4―6%の経済成長を目指すと発言している。こうしたレトリックは期待と現実の間のギャップを作り出してしまう。世界のいかなる地域も2008年前のような急速な経済成長を遂げることはあり得ないし、そう期待すべきでもない。われわれは「奇跡の世界後」に備えるべきタイミングにある。

EUのもう一つの移民問題
―― 東中欧の人口流出危機

2017年5月号

テジ・パリク ノバヨーロッパ・アナリスト

優れた人材が欧州連合(EU)内のより裕福な加盟国に定住しようと西ヨーロッパに吸い寄せられた結果、東ヨーロッパは経済停滞と人口減そして高齢化という問題に直面している。1990年代初頭以降、約2000万人の優秀な労働者が中央・東ヨーロッパから流出している。人口が流出している大きな理由はEU内部に大きな賃金格差が存在するからだ。現状でも東ヨーロッパの労働者の平均月給は、フランスやドイツ、イギリスの半分に満たないレベルにある。そして、国外移住者の殆どは母国に戻ることはない。問題は、EUが拡大を続け、そして西ヨーロッパの暮らし向きの方が東ヨーロッパのそれよりもよく思える限り、移民の流出を阻止するのが難しいことだ。

TPPをRCEPで代替せよ
―― アジアの自由貿易をいかに実現するか

2017年5月号

シロー・アームストロング オーストラリア国立大学フェロー

アメリカの離脱によって、環太平洋パートナーシップ(TPP)構想は実質的に消滅しつつあり、いまやアジアの優先課題は「市場開放路線を維持し、リベラルな秩序を強化していく他の方法を見つけ出すこと」にある。日米間の二国間貿易協定は有益だが、これだけでは、アジア全域の自由貿易を保証することにはならない。地域的自由貿易を実現するには、中国、インド、インドネシアなど、他の主要なアジアの経済大国が市場開放へのコミットメントを示すことが不可欠だからだ。当然、アジアにおいてルールに基づく経済秩序を強化する上でもっとも有望なのは、東アジア地域包括経済連携(RCEP)構想だろう。RCEPは中国主導の構想と思われがちだが、現実にはRCEPを支えているのは東南アジア諸国連合(ASEAN)だ。今後の合意にTPPの一部条項を取り込んでいくこともできる。世界で保護主義とナショナリズムが台頭するなか、アジアにとっても、これまでのやり方を続けるだけでは十分ではないのだから。

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