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経済・金融に関する論文

中露に挟まれたモンゴルの選択
―― アメリカは何をオファーできるか

2023年11月号

トゥブシンザヤ・ガンチュルガ 元モンゴル大統領補佐官(外交政策担当)
セルゲイ・ラドチェンコ ジョンズ・ホプキンス大学 高等国際問題研究大学 特別教授

中国とロシアにほぼ全面的に経済を依存する内陸国のモンゴルは、それでも、二つの隣国の違いを利用し、あるいは欧米との関係を強化することで、中露から距離を置こうと試みてきた。だが、いまや中露はますます接近し、モンゴルが両国の立場の違いを利用する余地は小さくなっている。アメリカは、モンゴルとの貿易・投資関係を促進し、教育・訓練プログラムを通じてモンゴルへの長期的なコミットメントを示すべきだし、モンゴル側は、外国人投資家を安心させ、透明で予測可能な経済環境を整備する試みを強化する必要がある。必要とされているのは、ロシアの高圧路線や中国の執拗な覇権主義に直面しているモンゴルへの手堅い経済関与だろう。

中国は停滞と混乱の時代へ
―― 社会不満と経済停滞が重なれば

2023年10月号

イアン・ジョンソン 米外交問題評議会 シニアフェロー(中国研究担当)

生活レベルの改善に貢献している体制への反政府運動は力を持ち得ないが、経済衰退期には、多くの人が反体制派や批評家に現実の説明を依存するようになる。これまでも、エコノミストたちは、中国経済の成長は鈍化し、停滞期に入りつつあると主張し、その理由として、人口動態の変化、政府債務、生産性の低下、市場志向改革の欠落などを指摘してきた。いまや「ピーク・チャイナ」という言葉さえ使われている。長期停滞に入った中国でも、人々は、反体制派の主張に現実の説明を依存するようになるかもしれない。いまや、北京は体制の安定を追求するあまり、技術的な進歩や民衆の支持さえも犠牲にし始めている。

準備通貨、ドルの運命

2023年9月号

アンシュー・シリプラプ 経済担当エディター@www.cfr.org
ノア・バーマン 経済担当エディター@www.cfr.org

ドル覇権に付随する「法外な特権」も、いまやそれほど「法外」ではなさそうだ。ドル需要の高さ故に低利で資金を迅速に入手できるとしても、ドル価値が高く評価されると、アメリカへの輸入品は安くなり、輸出品は高くなる。こうして、国内の製造業は傷つき、失業も増えるために、もはやドル覇権を放棄すべきだと主張するアナリストもいる。経済制裁の乱用故に、他の決済手段を求める世界の動きも刺激され、一方では暗号通貨も台頭している。「ドルという特殊な地位がもたらした低金利がアメリカの浪費を助長し、2008年の金融危機を招いた」と主張し、ユーロ、人民元、SDRの役割を拡大させることを提唱する米エコノミストもいる。・・・

半導体と米中台トライアングル
―― TSMCとサプライチェーン

2023年9月号

ラリー・ダイアモンド フーバー研究所シニアフェロー
ジム・エリス フーバー研究所特別客員フェロー
オーヴィル・シェル アジア・ソサエティ  米中関係センター ディレクター

デジタル経済がますます拡大するなかで、半導体のサプライチェーンを、長期的な混乱や敵対国による意図的な供給遮断リスクに対して無防備なままにしておくのは、どうみても危険だ。北京が台湾攻略に成功すれば、紛争のなかで台湾の半導体生産能力の多くが機能不全に陥るか、破壊されない限り、習近平政権は、世界でもっとも重要な製品の支配権を突然手に入れることになるかもしれない。グローバル・サプライチェーンから中国を完全に締め出すのは現実的ではなく、望ましくもない。むしろ、中国やその他の潜在的な敵対国が半導体サプライチェーンにおける地位を兵器化しないようにすることを目標にする必要があるだろう。・・・

欧米の所得二極化と社会混乱
―― ラテンアメリカ化する欧米社会

2023年9月号

ブランコ・ミラノヴィッチ ニューヨーク市立大学 シニアスカラー

産業革命から20世紀半ばまでは、世界の富は欧米先進国に集中した。このために世界的な不平等が拡大し、冷戦期にそれはピークに達した。その後、中国の経済的台頭のおかげもあって、世界レベルでの格差は低下し始めたが、いまや世界的な平等の進展はもはや必然ではなくなっている。中国はすでにかなり豊かな国になっているし、インドやアフリカにかつての中国の役割を期待するのは無理がある。しかも、世界的な不平等が縮小しても、各国の社会的・政治的混乱が緩和されるわけではない。実際、米英、日独などの世界の富裕層は世界トップレベルの所得を維持しているが、非欧米諸国の所得レベルが上昇し、欧米の貧困層や中間層に取って代われば、豊かな国々における富裕層とそうでない人々との二極化、格差はさらに大きくなる。・・・

「中国経済の奇跡」の終わり
―― アメリカが門戸開放策をとるべき理由

2023年9月号

アダム・S・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所所長

中国では家計貯蓄が急増し、民間の耐久消費財消費が大きく減少している。この現象を「経済領域におけるコロナ後遺症」とみなすこともできる。特定の政策がある日突然拡大され、次の日には撤回される事態を経験した人々は、景気刺激策を含む政府の経済対策に反応しにくくなる。専門家の多くは、現状を説明する上で、不安定化する不動産市場や不良債権の問題などを重視するが、経済成長を持続的に抑え込む「経済領域で長期化するコロナの余波」の方がはるかに深刻な問題だ。すでに、不安定な状況に直面した富裕層は、外への退出を試みており、時とともに、こうした出口戦略はより多くの中国人にとって魅力的になるだろう。アメリカはこのタイミングで、現在の対中政策を全面的に見直し、中国の人と資本への門戸開放政策をとる必要がある。

グローバル化の改善と再設計を
―― 貿易が依然として必要な理由

2023年8月号

オコンジョ・イウェアラ 世界貿易機関事務局長

金融危機そして労働市場の痛ましいほどの回復の遅れが、ポピュリスト的な過激主義に拍車をかけ、貿易(グローバル化)と移民が格好のスケープゴートにされた。だが、積極的な労働市場政策と社会政策を導入すれば、各国は貿易や技術から得られる利益を広く共有しつつ、その破壊的な影響を和らげることができる。グローバル化は終わったわけではない。むしろ、将来に向けてグローバル貿易を改善し、再設計する必要がある。「ポリクライシス(複合危機)」の時代にあって、各国と世界の人々はこれまで以上に貿易と国際協調に依存している。気候変動、不平等、パンデミックなど、グローバル・コモンズを脅かす課題に対処するには、貿易を含む国際協力が必要不可欠だ。・・・

米中経済関係のリアリティ
―― ディリスキングと変化しない現実

2023年8月号

ジャミ・ミシック 元キッシンジャー・アソシエイツ会長
ピーター・オルザグ ラザード 最高経営責任者(CEO)
セオドアー・ブンゼル ラザード地政学アドバイザリー マネージング・ディレクター

米中経済関係はディカップリングが示唆するような経済関係の断絶ではなく、むしろ、「ディリスキング(リスク排除)」へ向かっている。中国とのあらゆる経済関係を締め付けるのではなく、ワシントンが特定のリスクを低下させようとしていることは、データ上も確認されている。多くの分野では、製造工程の一部が中国から切り離されるとしても、全般的な中国依存の構図は変化しないと考えられる。実際、家庭用製品や高級ブランド商品など、ディリスキングによる変化がほとんど生じないと考えられる部門は多い。だがアメリカは、同盟国やパートナーとディリスキング戦略を調整して、連携して行動する必要がある。そうしない限り、同盟国との間に亀裂が生じ、北京がそれにつけ込んでくるだろう。

欧米世界とグローバルサウス
―― 失った信頼を回復するには

2023年7月号

デービッド・ミリバンド 元イギリス外相

欧米と「その他の世界」のビジョンの間には大きな溝が存在する。非欧米世界で、「ウクライナの自由と民主主義のための闘いは、自分たちの闘いでもある」という欧米の主張を受け入れる国はあまりない。これは冷戦後の欧米によるグローバル化の管理ミスに対する途上国の深いいらだち、実際には怒りの産物に他ならない。グローバルサウスは、欧米のダブルスタンダードに怒りを感じ、国際システムの改革が停滞していることに苛立っている。欧米とその他の世界のビジョンとの間にこうした溝が存在することは、気候変動、パンデミックという巨大なグローバルリスクに直面する今後の世界にとってきわめて危険であり、その根本原因に対処しなければ、溝は広がる一方だろう。

新産業政策の恩恵とリスク
―― 建設的な国際協調か補助金競争か

2023年7月号

デビッド・カミン ニューヨーク大学ロースクール教授
レベッカ・カイザー フォーダム大学ロースクール教授

グローバルミニマム課税の成功は、大企業が利益を最大化しようと、国を競い合わせることに対して、各国が協力して「法人税引き下げによる底辺への競争」を回避できることを示した。問われているのは、国家安全保障や気候変動との闘いに不可欠な産業の生産拠点をどこに移すかをめぐっても、ワシントンが友好国や同盟諸国と協力して、解決策を見出せるかどうかだ。気候変動問題への対応、新サプライチェーンの構築、中国の脅威への対応といったわれわれと友好国が共有する目標を達成するための措置をめぐって協力できなければ、ワシントンは、同盟諸国や信頼できる貿易相手国との間で激しい競争を新たに引き起こすことになる。それを回避するには何が必要なのか。

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