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経済・金融に関する論文

中韓の関係修復と米韓関係
―― ミサイルと経済制裁と対米バランス

2017年12月号

ボニー・S・グレーサー 戦略問題国際研究所(CSIS) シニア・アドバイザー(アジア担当)
リサ・コリンズ CSIS コリアチェア担当フェロー

2017年10月末、中国外務省の華春瑩報道官は、中国が韓国に対して求めているのは「アメリカのミサイル防衛システムに参加しない。日米韓の安保協力体制を全面的な軍事同盟に進化させない。THAADの追加配備をしない」という三つの「不」へのコミットメントだとコメントした。それにしても、なぜ韓国政府はこのタイミングで対中和解を模索したのだろうか。THAAD導入によって(中国の経済制裁の対象にされ)大きな経済的損失が出ていることについての批判、そして中国とのより緊密な関係を求める国内圧力に配慮したのかもしれない。トランプの無責任な北朝鮮挑発路線を前に、中国との距離を狭め、アメリカから距離を置こうとしたのかもしれない。だがワシントンにとっては、中国との二国間関係の改善による短期的利益のために、韓国が未来の安全保障上のオプションを閉ざしてしまうとすれば、憂慮すべき事態だろう。・・・

ブロックチェーンと国際貿易の未来
――貿易金融とブロックチェーン

2017年11月号

レベッカ・リャオ スクチェーン 副会長(ビジネス開発・戦略担当)

仮想通貨の多くは投機の対象、技術オタクのオモチャ、あるいは、マネーロンダリングの手段として使われてきた。しかし、仮想通貨の決済に使用されてきた、(取引データを記録するブロックの連なりである)ブロックチェーンは違う。契約を電子化したり、金融取引で中間業者をスキップしたり、台帳を監査しやすくしたりするために、一部の企業や団体はブロックチェーンをすでに利用している。特に国際取引がとかく複雑な貿易金融の領域ではブロックチェーンは大きなポテンシャルを秘めている。契約書などの書類をデジタル化し、商品そのものに安全な識別情報を付与でき、パフォーマンスリスクをなくすか、少なくとも厳密に特定できる。たしかに、ブロックチェーンのポテンシャルが過大評価されている部分はあるが、貿易金融について言えば、ブロックチェーンは、まさに閉鎖的になろうとしているグローバル市場へのよりスムーズなアクセスを可能にするツールなのかもしれない。

中国経済をめぐる欧米の誤解
――債務、貿易、政治腐敗

2017年11月号

ユーコン・ファン カーネギー国際平和基金 シニアフェロー

欧米における経済概念が、開放的で自由な市場における企業間競争を前提としているのに対して、中国経済では、地方政府が経済プレイヤーとして、競争的な経済環境の一翼を担っている。しかも、北京が設定する広範な基準や政策は、伝統的な経済思考に合致するものではない。これらの要因を分析にとり入れなければ、中国で起きていることを誤解することになる。例えば、中国の債務問題が銀行による融資問題であるとともに、地方政府の財政の問題であることを理解できなければ、誤解に基づいた対応を呼び込むことになる。この意味で、貿易と政治腐敗についても、欧米の対中認識には問題がある。

ベネズエラが内戦に陥るのを阻止するには
―― 危機に対するラテンアメリカ流解決策を

2017年10月号

アドリアナ・エルタール・アブデヌール ポンティフィカル・カトリック大学教授
ロバート・マガー イガラッペ研究所 共同設立者

ベネズエラのマドゥロ大統領は権威主義体制をさらに強化し、いまやこの国の民主体制そのものが脅かされている。2017年には、最高裁が、野党が支配する国会の権限を奪い取ろうと試みた。その後、マドゥロは憲法改正を実現するための制憲議会招集のために、その是非を国民投票で問うと表明した。だが、その投票結果は改ざんされていたようだ。いまや数万のベネズエラ市民が、近隣のブラジルやコロンビアへと難を逃れるような危機的な社会状況にある。軍や警察内部の反政府派が、政府に対するクーデターへと向かっていることを示す兆候もある。地域内での緊張状態を自ら解決してきた経験を豊富に持つラテンアメリカにとって、いまや地域内の問題にラテンアメリカ流の解決策を用いるべきタイミングではないか。そうしないことの帰結は、ラテンアメリカにとって非常に大きなものになる。

ドライバーレスカーが経済と社会を変える
―― ユートピアかディストピアか

2017年10月号

ジョナサン・マスターズ CFR.org 副編集長

車に数万ドルもの金をかけて所有し、90%以上の時間は乗らずに置きっぱなしにするよりも、今後、多くの人は、必要な時にモバイルアプリで車を呼ぶやり方を選ぶようになるだろう。勝者となるのは、自律走行車によって時間と金を節約できるようになる普通のドライバーたちだ。特に、公共交通機関へのアクセスがない郊外や地方で暮らす高齢者や障害者は、自由に移動できるようになり、自立性を取り戻せる。交通事故や大気汚染に派生する問題や犠牲も抑え込めるようになる。世界最大でもっとも迅速な成長を遂げる自動車市場をもつ中国は、この側面で最大の恩恵を引き出すことができる。だがドイツ、日本、韓国、アメリカなどの、主要な自動車輸出国、そして産油国は大きなリスクにさらされる。・・・・

トランプが日本に突きつけた課題
―― トランプ制御策を超えて

2017年10月号

彦谷貴子 コロンビア大学准教授(日本政治・外交)

これまで日本政府は「ドナルド・トランプを制御すること」に努め、市民もそうした政府のやり方を現実主義的な視点から支持してきた。だが、そのアプローチにも限界がみえ始めている。トランプが日本に突きつけているもっとも根本的な課題は、日本のこれまでの成長に大きな役割を果たしてきた「リベラルな民主的秩序がどうなっていくか」という側面にある。当然、日本は自由貿易体制を含む、リベラルな民主的秩序を維持していくための試みを強化していく必要がある。今後の日本は、アメリカが主導するリベラルな秩序の受益者としてではなく、むしろ、秩序を守るために全力を尽くし、アメリカをこの秩序につなぎとめる必要がある。

メルケルのトランプジレンマ
―― 自立への道をいかに切り開くか

2017年10月号

ステファン・ティール ハンデルスブラット・グローバルマガジン エグゼクティブ・エディター

ユーロゾーンの救済策だけでなく、難民の流入ペースの緩和に向けたトルコとの合意をまとめるなど、ここにきて、より積極的な行動をとるようになったものの、ドイツは基本的に世界でリーダーシップをとるのを嫌がってきた。しかしいまや、繁栄の基盤であるリベラルな秩序の維持を望むのなら、行動を起こす以外に道はない。ドイツは、自由貿易体制を支えるためにより多くを試み、自国の安全保障へのより大きな責任を引き受け、ヨーロッパがより踏み込んだ経済改革を行うようにリーダーシップを発揮しなければならない。メルケルは、反トランプ感情が支配的なドイツで、アメリカとの実務的関係を維持しつつ、この難題をこなしていかなければならない。

自由なデータフローを守るには
――国際的データフロールールの確立を

2017年9月号

スーザン・ランド マッキンゼー パートナー
ジェームズ・マニュイカ マッキンゼー シニア・パートナー

世界が(第二次世界大戦後に)財とサービスに関する世界貿易の条件に関する合意をまとめてきたように、いまや各国は、トランスナショナルな電子商取引とデータフローを管理するための詳細な枠組みを定め、デジタル保護主義に対抗していく必要がある。データの自由な移動を保証する国際的な規範とプロトコル、そして紛争が発生した場合にその紛争を解決するフォーラムが必要とされている。すでに、デジタル部門でもオンライン検閲、デジタルコンテンツ・プロバイダーに対する規制、プライバシーとデータ保護に関する(各国間の)重複し、矛盾したルールなど、数多くの障壁と保護主義的措置が出現している。

縁故資本主義と中国の政治腐敗
――共産党は危機を克服できるか

2017年9月号

楊大利(ヤン・ダリ) シカゴ大学教授(政治学)

90年代以降、中国共産党が行政の分権化を進めた結果、地方政府のトップはかなりの自己裁定権をもつようになった。こうして地方官僚が個人的利得のために、国の資産と資源を用いる政治腐敗の無限大の機会が誕生した。安月給の役人が上司に賄賂を渡して、「おいしい」ポジションにつけてもらう巨大な売官市場も存在する。これには賄賂の「元手」が必要になるために、その影響は多岐に及び、しかもスキームに関わる誰もが、最終的に、自分の投資に対する見返りを期待する。この政治腐敗のネットワークが軍、司法、さらには中央の規制当局にまで及んでいる。共産党時代を超えて縁故資本主義が続き、中国の未来を不安定化させることになるのか。それとも、共産党はいつもの柔軟性と復元力を発揮するのか。見方は分かれている。・・・

資本主義と縁故主義
――縁故主義が先進国の制度を脅かす

2017年9月号

サミ・J・カラム Populyst.netエディター

資本主義と社会主義の間で変性したシステムと定義できる縁故主義が世界に蔓延している。冷戦後に勝利を収めた経済システムがあるとすれば、それは欧米が世界へと広げようとした資本主義ではない。縁故主義だ。世界的な広がりをみせた縁故主義は、途上国、新興国だけでなく、アメリカやヨーロッパにも根を下ろした。(1)政治家への政治献金、(2)議会や規制を設定する当局へのロビイング、そして(3)政府でのポジションと民間での仕事を何度も繰り返すリボルビングドアシステムという、縁故主義を助長するメカニズムによってアメリカの民主的制度が損なわれている。一見すると開放的なアメリカの経済システムも、長期にわたって維持されてきたレッセフェールの原則からますます離れ、純然たる縁故主義へと近づきつつある。

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