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経済・金融に関する論文

対中幻想に決別した新アプローチを
―― 中国の変化に期待するのは止めよ

2018年4月号

カート・キャンベル 前米国務次官補(東アジア・太平洋担当)
イーライ・ラトナー 前米副大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)

中国を孤立させ、弱体化させようと試みるべきではないし、よりよい方向へと変化させようとすべきでもない。これをアジア戦略の道標とすべきだ。外交や通商面でのエンゲージメントも、軍事力もアジアリバランシング戦略も効果はなかった。リベラルな国際秩序も、期待されたように中国を惹きつけることも、つなぎ止めることもできなかった。中国はむしろ独自の道を歩むことで、アメリカの多方面での期待が間違っていることを示した。さまざまな働きかけで中国が好ましい方向へ進化していくという期待に基づく政策をとるのはもう止めるべきだ。中国を変化させるアメリカの力をもっと謙虚に見据える必要がある。

プーチノミクスの驚くべき成功
―― 成長よりも安定を重視する狙いは何か

2018年4月号

クリス・ミラー フレッチャー法律外交大学院准教授

原油価格の暴落と欧米による経済制裁という大きな圧力にさらされているために、ロシア人を含む、内外の専門家の多くは、経済危機がウラジミール・プーチンの権力を脅かすのではないかと考えてきた。しかし、これまでのところ、そのような兆しはない。ロシア経済は安定しているし、インフレも歴史的な低水準で、予算もほぼ均衡している。プーチノミクスの大きな特徴は、高賃金と経済成長を目指すのではなく、むしろ、失業率を低く保ち、年金を着実に支払うことを重視することで、社会不満の高まりを抑え込んでいることにある。債務とインフレを低く保つことで、マクロ経済の安定を心がける「プーチノミクス」は、ロシアを豊かにすることではなく、国内を安定させ、エリートの権力を維持することを目的にしている。

アメリカのLNG輸出が市場をより柔軟なものへ変化させている。これが、天然ガスの価格、(仕向地制限条項を含む)契約にいたるまでのさまざまな領域で大きな意味合いをもつことになる。今後天然ガスを石油のように取引できる方向に流れは向かっている。多くの国が浮体式の再ガス化設備を作っている。

ガソリンの消費は間違いなく低下していくだろう。電気自動車が普及するだけでなく、車の燃費もさらによくなっていく。しかし一方で、トラック産業、ジェット航空機産業、そして石油化学産業が石油需要を引き上げていく。これら三つの産業の燃料や原材料を石油以外の何かで代替していくのは非常に難しい。

中国は、重工業、石炭型経済から、ゆっくりとだが、それでも着実に、クリーンエネルギーの先進国へと姿を変えつつある。ソーラー、風力、水力、原子力発電、エネルギーの利用効率、電気自動車などの領域で中国はすでに世界の最先端を走っている。

同盟諸国のリスクヘッジ策
―― トランプリスクと同盟諸国の対応

2018年3月号

スチュワート・パトリック 米外交問題評議会シニアフェロー

ナショナリスト的外交政策を展開しようと、トランプ政権が、戦後アメリカが構築してきたシステムに背を向けたために、リベラルな国際秩序はきしみ音をたてている。予想された通り、新政権の路線を前に同盟国やパートナー国はリスクヘッジ策をとっている。現状がアメリカ外交の一時的な逸脱であることを願いつつも、同盟諸国はすでに事態の変化に対応できる計画をまとめつつあるし、アジア諸国のなかには、中国にすり寄ってバランスをとろうとする国もある。経済、軍事領域で各国は自立性を高め、貿易政策や温暖化対策をめぐっても、アメリカ抜きで対策を進めつつある。トランプの大統領就任からたった1年でアメリカのリーダーシップへの国際社会の信頼は劇的に低下している。

ポストアメリカの世界経済
―― リーダーなき秩序の混乱は何を引き起こすか

2018年3月号

アダム・ポーゼン ピーターソン国際経済研究所 所長

ドナルド・トランプは、アメリカが築き上げたグローバルな経済秩序に背を向け、経済と国家安全保障の垣根を取り払い、国際的ルールの順守と履行ではなく、二国間で相手を締め付ける路線への明確なコミットメントを示している。世界貿易機関(WTO)の権威を貶め、いまや、主要同盟諸国でさえ、アメリカ抜きの自由貿易合意や投資協定を模索している。すでに各国は貿易やサプライチェーンの流れ、ビジネス関係を変化させつつある。経済政策の政治化が進み、経済領域の対立が軍事対立にエスカレートする危険も高まっている。アメリカが経済秩序から今後も遠ざかったままであれば、世界経済の成長は鈍化し、その先行きは不透明化する。その結果生じる混乱によって、世界の人々の経済的繁栄は、これまでと比べ、政治略奪や紛争に翻弄されることになるだろう。

女性を経済活動に参加させよ
―― 女性が経済成長を支える

2018年2月号

レイチェル・ボーゲルシュタイン 米外交問題評議会シニアフェロー

女性の権利向上を目指す活動家たちは、長年にわたって、男女平等を道徳的な問題として訴えてきた。しかし現在のグローバル経済において、女性の経済参加を妨げる障壁を取り除くことは、経済戦略からみても合理性がある。実際、女性の労働力への参加と経済成長の間に相関関係があると指摘する研究の数は増えている。2013年に経済協力開発機構(OECD)は、少なくとも先進諸国で労働力人口上の男女間バランスが形成されれば、国内総生産(GDP)は12%上昇するとの予測を示した。しかし、世界銀行によると、世界155カ国で女性の経済活動は依然として何らかの形で制限されている。例えば、財産権の制限、就業への同意を配偶者から得る義務、契約や融資契約の締結禁止などだ。この現状を変えていくことが、社会と経済を変える大きなきっかけとなる。

最低賃金の真実
―― 雇用破壊効果も格差是正効果も小さい

2018年2月号

アラン・マニング ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス 経済学教授

かつて最低賃金の導入に批判的だった国際通貨基金(IMF)と経済協力開発機構(OECD)も、いまやそれが適正なレベルの引き上げなら、最低賃金をうまく考案された労働政策の一部として位置づけるべきだと提言している。だが妥当なレベルをどのように決められるだろうか。穏当なレベルの引き上げなら、最低賃金レベルの就労者の所得は増える。だが、過度に最低賃金を引き上げれば、雇用は少なくなっていく。仮にシングルマザーがまともな生活を送るには20ドルの時給が必要だとされ、それが実現しても、かなりの確率で失業率は上昇する。さらに、最低賃金を引き上げても、その効果は平均的労働者に近づいていくにつれてほとんどなくなっていく。最低賃金の引き上げでは、格差を是正し、世界で政治を覆している経済の流れを覆すことにはならない。

中国型シェアリングエコノミーの落とし穴
―― バブルの崩壊は近い

2018年1月号

ジェームズ・ヤン NAOCジュニア・リサーチ・フェロー

他国では考えられないことだが、中国には、企業価値が10億ドルを超える未上場のユニコーン企業が、シェアリングエコノミー部門だけで12社も存在する。伝統的なシェアリングエコノミーの最大の特徴は、既存資産の利用効率を向上させることにある。しかし、何百万もの新型の自転車や傘を大量に貸し出す中国企業は、過剰供給を作り出しているだけだ。要するに、欧米経済においてシェアリングエコノミーをイノベーティブでディスラプティブにした要因の多くが中国では欠落している。さらに、(携帯電話充電器や傘のような)安価な製品を相対的に高い利用料で貸し出すビジネスモデルは本質的な欠陥を抱えている。これが魅力的であり続けるはずはない。今後、持続不可能なモデルを採用したスタートアップ企業の破綻と統廃合が進むだろう。

経済戦争時代と制裁
―― 抑止力としての経済制裁に目を向けよ

2018年1月号

エドワード・フィッシュマン 前国務省政策企画本部 経済制裁担当リードエキスパート

一部の諸国は、大国間戦争を引き起こさないように配慮しつつも、リベラルな世界秩序への挑戦を試みるようになり、もはや経済領域での抗争は避けられなくなっている。ワシントンがより多くの制裁措置を発動する政治的動機も高まっている。制裁措置は、イランの核開発など、「すでに存在する問題行動」を見直させる上で一定の成功を収めているが、いまや制裁を通じて「未来の問題行動」を抑止することを考えるべきだ。ここにおける課題は、危機が起きる前に、ワシントンの官僚たちが制裁システムを設計したことはなく、同盟諸国と制裁について事前に交渉したこともないことだ。しかし、いまや国際的軋轢の多くが生じているのは「戦争と平和の間のグレイゾーン」であり、この領域におけるもっともパワフルな「抑止力としての制裁システム」を確立する必要がある。

サウジアラビアとイラン
―― ビン・サルマンへの権力集中の意味合い

2017年12月号

トビー・マティーセン オックスフォード大学 シニアリサーチフェロー(中東外交)

最近の政治的パージによって、ビン・サルマン皇太子は政治的ライバルを追い落としただけでなく、これまでアブドラ一族が支配してきた国家警備隊を含む、サウジの軍事組織の全てをいまや直接・間接に支配している。彼は、周辺地域が抱える問題の多くはテヘランが背後で操っているとみなし、イランに対してより強硬な路線をとっている。この現状は危険に満ちている。イラン脅威論を利用して国内のナショナリズムを煽りたてるビン・サルマンが、いまやサウジの権力を一手に担おうとしているからだ。テヘランに対する強硬路線をとるビン・サルマンをイスラエルが支持し、彼がサウジにおける自らの権力基盤を固めるなか、ワシントンからテルアビブ、リヤド、そしてアブダビをつなぐ、対イランの新たな枢軸が形成されつつある。

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